39話 さあ、戦おうⅡ
苦悶の表情を浮かべて、フォートナム二号店に集まっていたピッツァ職人さんの一人が、運ばれて来た三種類のピザを見るなり絶叫してしまった。
そこまで絶叫する事なのだろうか?
ちなみに今日作ったのはレオの大好物の深皿ピザ。
もう一品はこれまたレオの要望で再現したアメリカ風の、生地が厚くて具材は山盛りのアメリカ式、ただアメリカとは言えないから、ダンテスさんの命名で暫定的にメイド風ピザ、という事になっている。
深皿ピザはシンプルにたっぷりのスカムッザータチーズと数種類のチーズを敷き詰めて、その上にハンバーガーのパティのように成型したお肉を置いて、そこからさらにキノコと玉ねぎを盛りに盛って、さらにさらに飽き足らずのダメ押しとばかりにトマトソース!
と、追加で今度は軽く〆に上から粉チーズ。
メイド風ピザはたっぷりのチーズとレオの舌を頼りに再現したピザソース、それとペパロニの代わりに柔らかいサラミを惜しみもなく載せて焼いた、メイド風ピザ。
それとレオも病みつきにあると絶賛するボク特製のテリヤキチキンピザ………………うん、今更ながらこれって、日本人が海外の人達が見様見真似で、流行で売れるからという理由で作った、本物とかけ離れた日本食を目にした時と同じ戸惑いだ。
「確かに、キッチンカー?というのはやってみたい!だがな、これは…これは違う。使うのはピッツァ窯じゃなくて薪や魔石のオーブン、生地は事典のように分厚く、挙句に…こんな具材だらけ……生地の味が死んじまう」
「ああ、こっちの…深皿はまあ…キッシュだと思えば割り切れなくもないがさすがにメイド風は…これはもうピッツァじゃあない、だからピザだって言われても納得が出来ない」
「あんな~言いたいことは分かるで?でもな、せやかてここにおる人全員がピッツァだけ売ってもーたら共食いやで?深皿ピザはキッチンカーで売るんは無理やけど、メイド風なら出来るやろ?」
そうレオに指摘されて「しかし……」と呟いて、ピッツァ職人さんたちは押し黙る。
「そもそもな、キッチンカーの台数も限られてるんや。全員に一台ずつは無理やし、せやから一台はピッツァ、もう一台はピザ。後は皆で手を取り合って、どっちにしろ商店通りに店を構える時に、下手な競合せーへんように住み分けが必要なんや。その予行演習やと思えばええんと違う?」
続けざまにレオは厳しい口調で説得を試みたけど、一様に割り切れないという表情でテーブルに置かれたピザ達を怪訝そうに見つめる。ううん……分かってはいたけど、やっぱりこうなるよね。
当初の予定だったらピッツァ職人さんたちの出番はずっと先だった。
だけどセドリック殿下の復学で状況は一変した。
セドリック殿下のカリスマ性が、学園側に対する不平不満の受け皿になってしまい、せっかく高まり始めた一致団結しようという機運に水を差し、何より旗振り役の帰還によって貴族派の勢いが戻り、再び学生同士の対立が激化している。
中等部全体を覆うドロドロとした空気は、今はまだ優勢だから、放っておいても自滅しそうだから、という楽観を許さない状況だと思う。
なので現状を打開する為にキッチンカーの投入を早めると同時に、本当だったら学生区の商店通りからラグサ商会を追い出してから、という予定だったメイド風ピザの導入も早める事にした…訳なんだけど、さっきからずっとこの調子なのだ。
そしてついに苛立ち業を煮やしたレオは、ピッツァ職人さん達に向かって、
「ええ加減にせーや!四の五のいうくらいなら実際にくーてみーや!美味いで!そんで美味い!アルベールの作ったピザは絶品やから食ってみ!美味いは正義なんよ!!」
と怒鳴ってしまい、
「話に納得が出来ない内に実物を出されたこっちの身にもなってくれよお嬢さん!そもそも今日初めて聞かされたんだぞ!!」
「だあああ!!こっちもプロだ!みりゃあ熟練仕事だってのは分かる!んで美味いのもみりゃあ分かる!言いたいのは、こっちはピッツァを作って五十年百年の集まりだって言ってるんだ!!」
「うっさいわ!食えや!そんで諦め!!」
「やかましい!?事前に説明されていたなら、いやそもそも責任者はどこだ?ここには君達、子供しかいないではないか!ギルガメッシュ商会のアンリはどこだ!それと企画書を送りつけて来たメルセデスとかいうお嬢さんもだ!」
「どっちも不在や!!そんでうちらがおんねん!何か問題あっか!!」
「「「大ありだ!?」」」
ピッツァ職人さん達も釣られて怒鳴り返してしまった。
どうしよう、仲裁に入ろうにも作った張本人が割って入ると余計にややっこしくなってしまう、だけどこのままだと怒鳴り合って終わりそうだし…困った。仲裁すべきなのだけどボクもボクで感情的だから……
「レオ、少し落ち着け。喧嘩腰ではどんな簡単な話もまとまらない、そちらもせめて一口でも食べて欲しい。友人が丹精を込めて作った料理が冷めてしまう。そしてどうかお互いに矛を収めて欲しい」
ボクが二の足を踏んでいるとグリンダがさっと間に入り仲裁する。
レオは「……せやな、ちょっち頭冷やしてくるわ」と言ってお店の外へ、ピッツァ職人さんたちは「すまない、こちらも熱くなり過ぎた……」と年下の女の子が一歩引いた事で冷静になり、そしてグリンダに諭されて、意を決してテーブルに置かれた深皿ピザとメイド風ピザの試食を始める。
良かったグリンダが居てくれて……メルもアンリさんも、追加のキッチンカーを用立てる為に方々を走り回っていて不在だったから、流石は政治家志望!ボクだったら……強引に口の中に押し込んでいたと―――
「まあ…美味い、が…生地がな…拙い」
「っ!?」
グサリと、心に何か刺さった。
「チーズの配合が荒い、濃いソースと上手く合わさっていないな。何よりオーブンで焼くことを上手く計算できていないな、生地の厚さに救われているが全体的に焼き上がりに水分が少な過ぎる」
「鶏肉は…味付けは悪くないがちーと水分が飛び過ぎてパサパサだな」
グサ、グサ、とどんどんボクの心に刺さるお言葉の数々が……その道の超一流の人達には粗が良く見えるみたいだ。他にも深皿はチーズから出る水分の計算が甘くて、トマトソースの味が薄くなってるとか、全体的に生地の作りが甘いとか……
「大丈夫かアルベール?その…あの人達は超一流だからな!決してアルベールの腕が低いとかそういうのじゃないから!私は好きだぞ!」
「ありがとうグリンダ。うん、これも良い機会だ!超一流の職人さんたちの助言を得るチャンスだと思えば……」
「全体的に素人仕事だな」
ガクンと、ボクは膝から崩れてしまった。
そりゃもう本当にガクンと…まさか、まさか素人仕事と言われるとは……流石に予想以上にダメージが大きい。レオから美味しいと大好評だったから、それですごく自信があったから、それにボクだって一応、かつてはお店の看板娘だったから…本当に大ダメージだ。
「だがまあ…このメイド風ピザか?俺が請け負う」
「「本当ですか!?」」
その言葉にボクは思わず立ち上がり、グリンダも前のめりでその言葉を口にした職人さんを凝視する。
「ああ、まあ元から俺の店は歴史も浅いし、何より俺は生粋の南部人でもないからな。そして純粋に興味が出た、興味が出たならやる一択だ!男に二言は無い!」
職人さんの一人で確か名前はロドルフ・シュラールさんだ。
シュラールさんがそう言うと、他の職人さんたちも納得してくれたのか頷いて、話し合いを始める。
「ロドルフが言うなら仕方が無い、取りあえずどこから改善していく?」
「一番は生地だな、オーブンだから水分が良く飛ぶ。そこを踏まえて生地を改善しよう」
良かった、当初はどうなる事かと思っていたけどこれなら冬休み明け前には動ける。
ボクがそう安堵していると、レオが「なんや?もうまとまったんか?」と言いながら戻って来た。
さて、取りあえず一段落がついた。
まだまだ難題は残っているけれど、本番に向けて頑張ろう!




