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Re:Maria Rose  作者: 以星 大悟(旧・咖喱家 )
第4章Ⅱ ヴィクトワール家の幸福な日常
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23話 仄暗き幕間Ⅰ【不安なる曇り空】

 ヴァレリーが父親のヴォロディーヌ男爵に謹慎を言い渡されてから季節は動き、冬が目前に迫った頃、シャトノワ領を季節外れの長雨が襲い普段なら洗濯物が乾かないと姉様達は不機嫌になりますが、今のシャトノワ領を覆う不穏な空気でそれ所ではありませんでした。


「ねえ聞いた?またらしいよ」

「うん、もう六件目になるよね、早く見つかると良いな」

「なあ確かお前の家って遠いよな?父さんが車で送ってやるって言ったけどどうする?」

「いいの?ありがとう」


 失踪事件。

 シャトノワ領領都オージェを中心とした地域一帯で連続失踪事件が起こっていますの。

 最初は隣町の基礎学校に通う女子生徒が下校中に姿を消し、一週間後にはまた別の街で同じ様に男子生徒が行方不明になり、それから間を開けて立て続けに三件、警察も動き大規模な捜索活動を行っていますが手掛かりは見つかっていませんわ。

 そして事態を重く見た領議会は近隣の領に応援を要請し、警察による大規模な見回りが行われ登下校も集団で行う事になりました。

 それでもまた新たに失踪者が出てしましたの、今度はわが校から隣のクラスにいる元ヴァレリーの取り巻きだった女子生徒の方が行方不明になりましたわ。

 途中まで集団で下校し自宅付近で一人になったらしく、その隙に何かあったのだろうと新聞には書いてありました。

 

「嫌な空気ですわね……」

「うん、今日は曇りだけどやっぱり天気が悪いと余計にね、皆不安なんだよ」


 しかし何度考えても異常ですわ。

 何の証拠も残さず六件も犯行を行うなんて、この長雨で地面には泥濘が出来て容易に足跡が残ると言うのに…いいえ、確か現場は舗装された場所や古い無人の建物、史跡の近くで起こっているらしいですわ。

 それなら証拠が残らないのは分かりますが、ですが誰にも見られずにと言うのは普通ではありませんの。 

 

「ねえメル、アルベール君、今朝の新聞読んだ?」

「いえ、まだ読んでいませんわ」

「ボクもまだ読んでないけど、何か気になる事でもあったの?レティシアさん」

「うん、院長先生に頼んで切り取ってもらったんだけど、この新聞に掲載された写真」


 レティシアさんはそう言ってポケットから一枚の紙を取り出しました。

 これは…確か三件目の被害者の方が失踪直前に写っていた写真ですわ、この方が失踪された時に一面に載ったと記憶しますの、ただこれがどうしたのでしょうか?


「私の見間違いじゃなかったら、ここ、この生垣の隣にある古い社の近くに人影みたいなのが映ってるの」

「人影に…見えなくもありませんが、印刷の関係ではないんですの?」

「私もそう思って図書室で調べてみたけど、それにもはっきりと写ってたの」

「生垣の高さから推測すると…ボク達と背丈は変わらないね」

「うん、でねこの失踪した人なんだけど前にヴァレリーの取り巻きだった子なの」


 ヴァレリーの取り巻きだった子?昨日失踪した子もヴァレリーの元取り巻き…今までの悪行から嫌われ一人だけになっていたから狙われたという事でしょうか?確か四件目の方も隣の街の基礎学校に転校した元ヴァレリーの取り巻きでしたの。

 六件中三件は元ヴァレリーの取り巻き、これは偶然の一致ですの?


「それでね、とても嫌な考えかもしれないけど、ヴァレリーが関わってるんじゃないのかなって……」

「そうですわね、そうかもしれませんが…この事はわたくしたち以外には?」

「してないよ、その…やっぱり勝手な憶測で言うべきじゃないから」

「そうだね、もしも違ったら良くないから…でも仕方が無いよこんな不気味な事に気が付いちゃったら誰だって不安になる」


 姉様はそう言うとレティシアさんは笑って自分の席に戻って行く。

 ですが…いいえ、やはり考えづらい事ですわ。

 例えば取り巻き達の失踪にヴァレリーが関わっていたとしたら理由は言うまでも無く報復、ですがヴォロディーヌ男爵は支持基盤を失い新たな基盤作りに躍起になってい最中にその様な行いを見過ごすでしょうか?

 答えはいいえですの。

 それでもこの人影のようなもの、背丈は私達と同じくらいでヴァレリーの住む屋敷か全ての事件現場に近い位置にあり、被害者は半分はヴァレリーの関係のある人……。


「言われてしまうと、そう思ってしまいますわ」

「だけどそれを理由に乗り込む訳にも、先生達に言う訳にも行かない、ましてや警察に言うなんて以ての外だ」

「ええ、訴訟を起こされたら勝ち目はありませんの」


 重いですわ。

 クラスの空気が恐ろしく重い、ですがしかたありませんわ。

 手掛かりが無ければ手段も分からない、まるで神隠しにあったかのように忽然と消える、連日新聞は不安を掻き立てるような記事を掲載し、大人達の不安は私達子供へと伝染して行く。

 お父様もお母様も事件が解決するまで休学にした方が良いのではないかと言っていますし、ベティーさんに至っては姉様とわたくしを強引に引き留めようとしてベルベットさんに叱られ、ララさんは趣味で愛用している猟銃を片手に見回りを始めていますわ。

 誰も彼もが不安で仕方がない。

 今のシャトノワ領を包む空気はとても重くて暗いですの。


「皆さん、席に着いてください!連絡する事があります」


 ペイネ先生がそう言いながら教室に入って来ましたわ、連絡する事とは一体何でしょう?また失踪事件が起こったのでしょうか?いえ、そういう不安を煽る事を言う筈はありませんわ。


「本日より登下校の際、私達教員と警察の方が見回りと家が離れていて道中一人になってしまう子を自宅まで送り迎えをする事になりました、また学校内にも警察の方が一時的に常駐してくださるので、不審人物を見たらすぐに警察の方に連絡してください」


 その言葉に教室の雰囲気は少しだけ明るくなりました。

 どうしても道中、一人になってしまう方はいますのでそう言った方にはこれ程までに心強い事はありませんわ。ですがそれでも犯人の正体が分からないという不安は、払拭する事が出来ず空気も一時的ですぐに空気は暗くなりました。

 いくら人通りの少ない場所、普段からあまり人が寄り付かない場所、日暮れが近付けば暗くなる場所、そういった場所を中心に警察の方が見回りをしてくださるとしても、正体が分からないという恐怖は確実に私達わたくしたちの心を苛む。


 ですがそれだからと言って何か出来る事があるのかと言えば、一人だけで行動しない事だけで身を守るすべが殆ど無い事もより一層不安になってしまう。わたくしのように姉様やアストルフォさんが普段から一緒にいてくださるので、他の人達よりも不安は小さいのですがやはり怖いですわ。


「皆さん、行方不明になった人達は全員一人で居る所を狙われました、ですので常に誰かと一緒に行動する事を心掛ければ大丈夫です。襲われても大声を上げればすぐに周囲の大人が駆け付けるので安心してください」


 こうして何時もより早く下校する事となりわたくしと姉様は途中まで集団で下校しました。

 前と後ろに警察の方と先生達で固め、二列になって黙々と周囲を警戒しながらの帰り道……普段なら笑い声の絶えない筈が今は重く沈み、誰も言葉を発しようとされませんわ。

 当たり前ですの、何時襲われるかも分からない恐怖と隣り合わせなんですから。

 ただ黙っていると余計に気分が沈みますので、個人的には明るいお話をしたいのですが前後を固める警察の方と先生達の雰囲気はとてもピリピリしていて、隣を歩く姉様もわたくしの手を強く握り、険しい表情で周囲を警戒されていますので、とても言える様な雰囲気ではありませんの。

 そして分かれ道に到着しアストルフォさんと合流してわたくしと姉様は集団から外れて、家へと向う。


「大丈夫、これだけ警察の人達が警戒して見回りをしているんだ、きっとすぐに解決するよ」

「……姉様、本音ではどう思っていますの?」

「警察だって対策を取って広範囲に網を張っているのにそれを平然と潜り抜けて見せる犯人、正直に言うと家の中だからと安心は出来ないと思う、少なくとも家の外には絶対に一人で出ちゃ駄目だ」

「肝に銘じておきますわ…って!?雨が降って来ましたわ!」

「これは強くなるね、転ばないように走ろう!」


 姉様の言った通り雨は少しずつ勢いを増して行き、家に到着する頃には叩きつける様に轟音を響かせながら降り注ぎ、着ていた服はびしょ濡れになってしまいましたわ。

 アストルフォさんも羽が濡れて不機嫌になられていました。

 そしてこの急な雨に潜む様に犯行が行われましたわ。

 警察の捜査網を掻い潜り複数の個所で、三人の生徒が行方不明になりました。

 そして後日、4人目もいた事が判明しましたの。

 ルイージ・デルモンテが学校内で失踪しましたわ。

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