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Re:Maria Rose  作者: 以星 大悟(旧・咖喱家 )
第4章Ⅱ ヴィクトワール家の幸福な日常
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19話 基礎学校に行こうⅠ【悪役令嬢現る】

 時というのはとても不思議だとわたくしは思いますわ。

 吹き抜ける風の様に過ぎて行くと思えれば、陽だまりの中で静かに過ごす様にゆったりと流れて行くも思える。あの幸せと愛を理会する事が出来た幸福な誕生日から時は経ち私は10歳を迎え、イリアンソス学園への受験を視野に入れる年齢となりました。

 姉様は基本的に努力家で怠る事を知らない方、そこに天性の素質も加わって合格するのは間違いないのですが、わたくしは物覚えが悪いので基礎学校に復帰する事が決まった事への不安より、無事に合格が出来るのか?という不安の方が大きいですわ。


 ですが今は目の前の姉様と一緒に同じ学園に通う為の、最初の試練である基礎学校への復帰ですわ!

 耐えられず逃げ出した場所に再び挑む、今度は逃げず立ち向かい、迫り来る誹謗中傷にはお母様のように権謀術数と腕力でねじ伏せる!そして堂々と構え高笑い…いえ最後の方は違いますわね。


 これは最近読んだ恋愛小説の登場人物がライバルの令嬢を出し抜いた時に、決まって「おーほっほっほーっ!」と高笑いをするのでつい……その高笑いを上げる女性はどことなく私に似ているので、特に髪型に関する描写がとても……。


「ここまで伸ばすつもりは無かったのですわ、最近ではこっちが本体と言われる方まで現れる始末……」


 お母様にやってみたいと言ったのはわたくしですが、腰を越えるまで伸ばしたのはお母様のぼ―――趣味ですわ!えええ!えええ!さすがに伸ばし過ぎですわと言わなかった私にも非はありますが、この腰を超えるまで伸びた縦巻きロールはお母様が趣味ですわ。

 さてそろそろ姉様がわたくしの部屋に来られる時間。

 今は寝起きでほどけ、まるで木の根の様に床へ広がっている髪を綺麗にとかして、それから縦巻きにするのは言うまでも無く自分では出来ませんわ。

 姉様にしてもらうのが私の日課ですわ、あとお風呂を一緒に入るのも日課。

 この量の髪を自分で洗うのは到底無理ですわ。


「メル、おはよう」

「おはようですわ姉様」


 軽くノックして姉様は日に日に愛くるしく、さらにベティーさんのように艶やかになって行く素敵な笑顔を今朝も私に向ける。何度も見ていて、何度見ても眼福ですわ。

 わたくしと同じように10歳となった姉様は以前にも増して艶やかに成長し、最近ではベティーさんにも劣らぬ色香を発するようになれた、ただ残念なことは……。


「メル、もしかしてボクの身長の事考えた?」

「いえ考えていませんわ、ただ今日も姉様は素敵だと思っただけですわ」


 そう姉様は身長があまり伸びなかった。

 以前はわたくしより少し低い程度だったのが、今では頭一つ分も低く一緒に歩いていると姉と弟と勘違いされる有様、姉様はそれを酷く気にして牛乳をたくさん飲まれていますが成果には繋がらず。


「いいさ、イリアンソスに通う頃には今よりもずっと大きくなってる筈」


 そう言って姉様は少し拗ねた様な態度を取りますがこれも朝の日課。

 わたくしが謝って、姉様が良いよと言って朝の支度が始まる。

 丁寧に慣れた手つきで姉様はわたくしの髪を櫛でとかし、そしてお母様が取り寄せえた最新式のヘアーアイロンでこれも慣れた手つきで次々と、ものの数分で床に垂れてしまう程の長さだったわたくしの髪は誰もが「そっちが本体」と言ってしまう見事な縦巻きロールとなる。

 そして最後に姉様とお揃いの髪飾りを付けて完成ですわ。


「ではわたくしは私の番ですわ」

「うんお願い」


 今度はわたくしが姉様の後ろに回って背中まで伸ばした絹のような髪を櫛でとかしてから、三つ編みにして行き、最後に髪留めでまとめ魔道具の髪飾りをつけて完成。

 髪色を変える魔道具を付けると姉様の髪は、綺麗な白銀のような白色から、真っ黒の黒髪へと変わる。

 これで朝の支度は終わりですわ。

 



♦♦♦♦



「それでは行ってきますわ」「行ってきます」

「気を付けて行って来るんだよ、何かあったらすぐに帰って来るんだ」

「嫌がらせを受けてたら、私達に遠慮せずに反撃するのよ!」


 ボクはメルと一緒に旦那様とシャーリーさんにいってきますと言って門を出る。

 今日からボクとメルは基礎学校に復帰するのだ。

 クラスはメルト同じ。

 通学に関しては車での送り迎えをする予定だったけど、以前よりもずっと改善されたとはいえ今でもヴィクトワール家に恨みを持つ人は多く、そんな所に車や使用人が送り迎えなんてしたら、反感を抱く人達によって関係の無い他の子供達に危害が及ぶと学校側が拒否。

 それだからとボクやメルの二人だけ通学するのは危ないからどうしたらいいか?となり特別にアストルフォと一緒に通学して良い事になった。


「グエ!!グエ!!」

「アストルフォさん、そんなに威嚇しなくても大丈夫ですわ」


 そんなアストルフォは気合が入り過ぎてまるで昔の仁侠映画に出て来る、極道の人みたいにボクとメルに近付く人達を片っ端から威嚇してはメルに宥められ、そしてまた不用意に近付いた人を威嚇するの繰り返しだ。

 ちなみにボクはメルの分のお弁当と筆記用具や教科書の入った鞄を両手に握っている。

 メルは自分で持つと言ったけど、これでもボクはメルの側仕えで外では男性使用人の下男なのだから、か弱いお嬢様に重い物を持たせる訳にはいかない、何より妹に荷物を持たせるのは姉のプライドが許さないのだ。


「見えてきましたわ、あれがリヨン基礎学校ですわ」

「あれが…思っていたよりもずっと大きいんだね」

「ええ、この周辺だけでなく領都から通われる生徒もいますので、私が通っていた頃は一学年で六つのクラスがありましたわ」

「そんなに!?」

 

 アーカムの基礎学校と比べて倍以上の差だ。

 学校もここから見える限り範囲だけでアーカムの基礎学校よりも遥かに広くて大きい。

 

わたくしは復帰初日、ね…アルベールは転入初日、お互いに頑張りましょう」


 メルはそう言って腕を組み校舎を睨みつける。

 正門に居る教師達は何事かと戸惑っているけど…。



♦♦♦♦



「それでは今日から皆さんと一緒に学ぶヴィクトワールさんとトマ君です」


 クラス担任の女性で算数を教えるペイネ先生がクラスメイト達にボクとメルの簡単な紹介をし終えるとメルが一歩前へ出て、クラスメイト達を一瞥して自己紹介を始める。


「初めまして、そしてお久しぶりですわ、メルセデス・ヴィクトワール、本日より同じ学び舎で皆様と共に勉学に励める事に喜ばしく思いますわ」


 メル、少し喧嘩腰だよ。

 可愛いんだからそんな好戦的な笑みを浮かべずに、もっとニコヤカに笑わないと余計な反感を買っちゃうよ、とボクは思うけど最近のメルはますますシャーリーさんに似て来て前よりもずっと良い意味で自分の意志をはっきりと告げる子に成長したから別にいいのかもしれない。

 さてそれじゃあ次はボクの番だ。


「初めましてボクはアルベール・トマと申します、ヴィクトワール家に仕える使用人の一人でお嬢様の側仕えをしています。ですがここでは一生徒として、皆さんと共に勉学に励みたいと思いっていますので、どうぞよろしくお願いします」

 

 一応、使用人でメルの側仕えである事と、それを理由にメルを特別扱いはせず周りに迷惑を掛けないと宣言をしておく、絶対に何か言ってくる子が現れるに違いないから何事も先手を打てるのなら打っておくに限るのだ。


「ですのでアルベールはわたくしをメルと呼びますので、皆様も気軽に親しみを込めてメルと呼んでくださってかまいませんわ」


 最後にメルがそう閉めペイネ先生が拍手をして、自己紹介は特に問題も起こる事なく終わったけど…うん、やっぱり予想通りいた。メルに対して敵意を抱く子が、ただ予想していたよりもずっと露骨だ。

 これから行う嫌がらせに心を躍らせている、そんな意地悪な笑顔を浮かべる女の子、確か事前にロバートさんが教えてくれた情報だとヴォロディーヌ男爵家の令嬢でメルが基礎学校に通っていた時に行われていた、虐めの主犯のヴァレリー・ヴォロディーヌ。

 その周囲には同じ様に浮いた服装をしたガラの悪そうな少年少女が、席を固めて集団を作っている。さながら軍団の様相を呈していてヴァレリーが咳ばらいをすると拍手は一瞬の内に止まった。


 成程、徒党を組んで力で子供達を支配して教師は親の権力で従わせている。

 彼女がこのクラスの支配者、という事みたいだ。

 まあメルに直接的に手を出さない限りは、ボクも念を押されているから手を出すつもりは無い、そうあちらから手を出さない限りは……。



♦♦♦♦



 これはあまりよろしくありませんわ。

 初日から波乱万丈でした、それは予想通りだったので問題はありませんでしたわ。

 ヴォロディーヌ家の令嬢ヴァレリーが私にちょっかいをかけて来るのは、当初から予想出来た事で姉様も、ロバートさんに厳しくこちらから手を出してはいけないと念押しをされていました。

 

 ですが席に着こうと歩いている最中、ヴァレリーのグループから離れた席に座っていた子が、わたくしに足を引っかけて転ばせようとして来たのは予想外でしたわ。以前は主にヴァレリーの手下がわたくしに嫌がらせをして他の子達は見てみふりをしていた。

 今回もそうだと思っていたら、グループの外にいる子までヴァレリーに加担した。

 つまりクラスはヴァレリーに支配されている。

 ですから先生がいても好き勝手に出来る為か今日一日で数えるのも、された事を覚えるのも馬鹿馬鹿しい程の嫌がらせを受けました。

 その事で姉様は絶賛苛立っています。


「あの姉様……」

「どうしたのメル?」

「いえその…裁縫の練習は程々にされた方が……」

「そうだね…いや、やっぱりもう少し続けるよ、リーリエさんから合格点を貰わないと」


 その作業を見ているアストルフォさんが驚きと恐怖に顔が歪まれてますわ。

 きっと手元では愛らしい顔立ちからは想像出来ない、世にも恐ろしい不定形な何かが作られているのですわ…とこのように苛立ちを抑える為に姉様は、落第点を出されている裁縫の練習をして気を落ち着かせています。

 

 そうわたくしの心配事は姉様。

 普段は温厚で思いやりのある優しい方ですが、姉様はある一定の事に対して怒りの沸点がとても低い。

 自分が何かされる事は我慢する事が出来ても、大切に思う人に危害を加えられる事には我慢する事が出来ない、そして今日一日で姉様は自身の持つ忍耐力を限界まで酷使された。


 今日のような嫌がらせを、明日も行われるかもしれない。

 いえヴァレリーなら絶対にしますわ。

 それどころか直接的な行動を取るかもしれない。

 これはお母様とした打ち合わせをした計画を前倒しにして、機会があれば即座に実行に移す必要がありますわ。

 わたくしはそう結論付けて、真っ白な灰になり掛けたアストルフォさんを救い出すべく、姉様に裁縫の練習を止めさせる口実を考える。

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