表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Re:Maria Rose  作者: 以星 大悟(旧・咖喱家 )
第4章Ⅱ ヴィクトワール家の幸福な日常
130/227

3話 ここから始まる物語Ⅲ【こうして一日が過ぎて行った】

「ふえ……」


 お風呂…最高だなぁ…とっても体から力が抜けて温まる。

 シャトノワ領は東北部だから4月でもまだまだ肌寒くて、ああ…気持ちいい。

 ああ…ソルフィア王国にお風呂文化があって良かった。

 セイラム領はバウマンの馬鹿がお風呂税なんて導入していたからシャワーしか仕えなかったけどセイラム領を離れる頃には街のあちらこちらに銭湯が開業して、王都でも各地区に幾つも銭湯があった。


 とは言ってもボクは諸事情でお屋敷のお風呂を使っていたけど…うん、やっぱり日本人にはお風呂!でも、もう少し熱い方が好みかな。

 一人用のお風呂ならそれも出来るけどここは大浴場!使用人用の大きなお風呂だ。

 銭湯や温泉に行った事が無いから大きなお風呂ってとても新鮮だ。


「おや、マリアがふやけたパンのようになっていますね」

「そうね、とっても気持ちよさそう」


 はい、とっても脱力してますアグネスさん。

 そしてとっても極楽ですお母さん。


「さて気分が良い時に仕事の話をするのはどうかと思いますが、今日一日、メルセデスお嬢様はどうでしたか?」

「メルセデスお嬢様ですか……」


 あの後、空き部屋の掃除をしていると帰って来たシャーリーさんに抱きしめられ、メイド長さんやリーリエさんに撫でまわされた後、ボクはシャーリーさんと旦那様からメルセデスお嬢様の側仕えをして欲しいと頼まれた。

 理由は少しはぐらかされたけど王都にいる時にメルセデスお嬢様に何があったのか、その大まかな事は聞いていたから何となくだけど、確信は無いけどボクにしか出来ない事があるみたいだった。

 だからお二人がボクにメルセデスお嬢様の側仕えを頼んだんだと思う。


 それと昨日、帰って来たシャーリーさんも何故か旦那様と同じようにメルセデスお嬢様を嫌わないで欲しいと言って来た。

 会ったばかりの人を最初の印象だけで決めつけて嫌う、それはボクが嫌いな事の一つだから絶対とは言い切れないけど出来るだけしないのが信条のボクとしては二人に理由を聞いたら……。

『だってマリアちゃん、その…エドゥアルド殿下を締め上げった話だから……』

 とシャーリーさんは言い。

『いやその…僕も同じ様に聞いていて、メルの態度に腹を立てるんじゃないかと……』


 旦那様は件の馬鹿王子との一件を聞いてメルセデスお嬢様に手を上げるんじゃないのかと心配していたらしい……失敬な!ボクが馬鹿王子を叩いたのは馬鹿だったからでメルセデスお嬢様は…会ったばかりだからはっきりとは言えないけど兎に角!手を上げるなんて絶対にしない、何より相手は女の子だよ?男が女の子に手を上げるなんて最低だ!


 …………………ボクも、今は女の子だった。

 だけど!生前は男だった訳で女性には手を上げない。

 これもボクの信条だ。


 なのでメルセデスお嬢様にボクが側仕えになった事を伝えに行くと……。

『冗談ではありませんわ!私は一人で十分ですの、世話係を雇う資金があるのなら借金返済に回してくださる?』

 と拒絶されてしまった。

 それでも負けじと「メルセデスお嬢様」と近付いてみたけど「結構ですわ!!」と拒絶に次ぐ拒絶。断固拒否されてしまった。


「そうですか…マリアでも無理でしたか」

「ボクでも?という事は」

「そうです。ベティーとリーリエの両名も拒絶されました。シェリーは家庭教師として勉強に限定して受け入れられていますがそれ以上は無理です」

「それって……」


 打つ手なしだ。

 お母さんの持つ温かみもリーリエさんの持つ親しみやすさも駄目。

 シェリーさんの話術でも駄目。

 そして同年代のボクも駄目。

 お風呂から上がって体を拭きながらながら旦那様が言われた事を思い出す。


『素直に子供らしく生きられない子なんだ』


 それは一体どういう意味なのか。

 ボクは今日、メルセデスお嬢様と出会ったばかりだ。

 何かが出来るのか。

 まだボクには分からない。


「服は着ましたね。それではマリアの部屋を案内します」

「ボクの部屋?お母さんと一緒じゃないんですか?」


 それともお母さんと一緒なのが当たり前だからボクの部屋=お母さんと一緒で省略されてたのかな?と疑問に思っていたら後ろにいたお母さんがボクを後ろから抱きしめる。


「アグネスさん、マリアもこう言っている事ですから一緒の……」

「駄目です。マリアは今月で8歳になります。一人で寝る事に馴れてもらいます、納得しなさい」

「だけど…やっぱり心配で……」

「気持ちは分かりますが」


 お母さんはボクが一人部屋になる事に反対のようでアグネスさんも本音では反対のようだった……そう言えばボクは今まで3度も命を狙われているんだった。

 そんな時だった。

 どうやってなのかお風呂場の扉を開けてアストルフォが入って来た。

 もうツッコまないと誓う度に驚くような事を彼女は平然とやって見せる。

 お風呂場に入って来たアストルフォはお母さんの前に歩み出ると大きく「クエ!」と鳴いた。

 まるで「任せろ!」と言っているようだった。


「そう…アストルフォちゃんがマリアと一緒に居てくれるのね」

「クエ」


 お母さんに強く決意を篭めた声でアストルフォは鳴いた。

 一人部屋に移動になるだけで何でこんなドラマが…まあ、何度も命を狙われているボクが悪いのだから何も言わないでおこう。

 そんな感じに話は進んでボクが寝起きする部屋はメルセデスお嬢様の隣の部屋に決まった。


 側仕えだから何があってもちゃんと対応が出来る様にという事と、アストルフォが出入りするベランダのある部屋がメルセデスお嬢様の隣の部屋だったからだ。

 寝具は事前に運び込まれていてボクの私物は必要な物以外は後日、ジュラ公爵と面会して一段落着いた後に荷解きをする事になった。


 そう言えば、ボクの私物の大半は調理器具で一般的な女の子らしい装飾品や雑貨の類は殆ど無い。

 生まれて初めての誕生日にロドさん達から貰った簪とアレックスに買って貰った友情の証であるペンダント。それ以外は…そう言えばボクはそういった類の物を全く持っていない。

 別に問題は無いと思うけど、必要になった時の為に機会があれば買っておこう。

 

 調理器具は…オーブントースターはリンドブルム邸に置いて来た。

 鉄道公社が全ての食堂車に導入する事を決めた事が切欠でオーブントースターは大人気となり一年待ち。新聞の広告欄に載っているオーブントースターを物欲しそうに見つめていたニックさんの為に置いて来たのだ。

 親方さんに作って貰った愛用の調理器具はもう厨房に置いてあるから、今すぐに必要な調理器具は無い。

 衝動的に欲しくなって試作品だけ作って貰ったシフォンケーキ用の焼き型やドーナッツメーカー、中華鍋とかはまだ使う予定は無いからそのままで大丈夫だ。

 ジューサーはどうしようかな?朝一番のフルーツジュース、まあ必要になった時に出せばいいかな。

 

 あとアストルフォ用の寝床も早く準備しないといけない。

 昔と違って今のアストルフォは本当に大きくなった。

 ボクと同じ子供なのにセントバーナードよりも大きい。

 お母さんとボクを一緒に乗せて歩けるくらいだ。


 だから今は毛布を床に引いてさらに体に毛布を掛けている。

 もう少ししたら春らしく温かくなって来る筈だ。

 なので次の秋と冬に備えて出来るだけ早い段階でアストルフォの寝床を用意しないといけない…そうだ!廃材とかを貰って日曜大工をしよう!


 ボクは今後の事を色々と考えながら寝る準備を終わらせる。

 明日はジュラ公爵が屋敷を訪ねて来る。

 そこで旦那様とボクの今後について説明が行われる。

 

 


♦♦♦♦



 わたくしは何度も拒絶しましたわ。


 だのに!何故、マリアさんの私に向ける眼差しは優しいんですの!?

 そして今は私の自室の右隣、ベランダのある部屋にいますわ。

 ペット。

 マリアさんがおっしゃるには友達のアストルフォさんと一緒に、ですわ。


 本当に不可解な方ですわ。

 王家の守護聖獣であるヒポグリフが友達だなんて……。


 そうヒポグリフは魔獣、などと無教養な方たちは言いますがヒポグリフは聖獣で誇り高き戦士の種族で王家の守護聖獣。

 普通の、庶子の子供と一緒に暮らしているなんて常識ではありえませんわ。


 あとこれも不可解なな事にヒポグリフは魔獣だと勘違いされている。

 健国王の絵本でもヒポグリフは聖獣として描かれているのに…そんなに似ているのでしょうか?グリフォンという魔獣に?実物を私は見た事はありませんがアストルフォさんのように綺麗な翼や艶のある毛並みをしているとは思えませんわ。

 絵本だともっと邪悪に、魔獣と魔獣を掛け合わせた合成魔獣として描かれていますし。

 


 私はそう思いながら静かに夜が明けるのを待つ。

 最近、私は嫌な夢ばかり見てしまう。


 絶対にそんな事が起こる筈ないという確信は私にあるのに、どうしてもあの女が、かつてこのヴィクトワール家に仕えてくれた人達が私に向けたあの憎しみに満ちた目を、お父様とシャーロットさんが私に向けて来る夢。

 悪夢を……。


 だから私は眠るのが怖い。

 悪夢から冷めないかもしれない恐怖と。

 目を覚ましたても悪夢が続いているかもしれないという恐怖が。


 とても…。

 とても……。

 恐ろしくて………。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ