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Re:Maria Rose  作者: 以星 大悟(旧・咖喱家 )
第4章Ⅰ 王都ルインなどでの賑やかな事件録
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12話 アストルフォの里帰り

「久しぶりだな、古き風を詠う乙女」

「ああ、そちらは変わらないな猛き風の翼」


 里帰り、本音を言うと主殿の傍を離れるのは不本意だ。

 屋敷の修繕が始まってから里帰りをすると偽って玄関の前の堀で夜を過ごしていたが、貸し家の家主がペット不可と言い出し、主殿はワタシはペットではなく家族だと根気強く交渉してくれたが頭の固い家主は首を縦に振らず、このままでは主殿が野宿するなどと言い出しそうだったので主殿に暇を貰い、今こうして避けて来た里帰りをしている。

 しかし主殿はなぜ、ここまでワタシの考えている事が理解できるのだろうか?

 確かに身振り手振りで伝えてはいるがそれでも普通は「はい」か「いいえ」しか伝わらない、だというのに主殿はワタシの目を見て何を考えているのか察する事が出来る。


 まあ、考えても仕方は無い。

 今はこれから会う父の事に専念しよう。

 正直に言って面倒臭い人なのだ。

 会わずに済むなら会いたくない、が里帰りをする以上は父に会い旅での出来事を話さねばならない、それが我々戦士の一族が守らねばならない掟だ。

 世界樹の枝の上を主殿が見たら興奮しそうな、ワタシは見慣れた大木の様に太い枝を歩きながらワタシは憂鬱な気分になる、ううん…主殿が心配だ……。


「過保護が過ぎるのではないか?あれだけの強者が揃っているのだ、早々に不覚はとらんだろう」

「分かっている、主殿自身も年の割には修練を積まれている、だが年相応の子供なのだ、前世の記憶はあくまで知識でしか無い事を全く自覚されていない、それどころか自分が大人だと勘違いをされている」

「……」

「何故黙る?」


 ワタシの話を聞いた途端、猛き風の翼は何故か黙ってしまう。

 顔もどこか間抜けな思わぬ言葉を聞いて呆然としているようなそんな顔をしている。

 少し呆然とした後、猛き風の翼は我に返り口を開く。


「驚いた…人嫌いのお前がそこまで人を案ずるなど、何か術でも掛けられているのか?」

「馬鹿を言うな!まあ確かに昔のワタシは人嫌いだったが今はそこまで嫌っていない、青かったのだ昔のワタシは……」


 猛き風の翼に人嫌いだった事を指摘されてワタシはばつが悪くなり、速足で父のいる集会場へと向かう。

 世界樹の上層、多くの古老が集い様々な事を話し合ったりワタシのような若輩者に昔語りを聞かせたり、戦士の試練の結果を協議したりする人で言う所の公共の場に父はいる。

 父は戦士長に名を連ねるお方で若くして古老と対等に渡り合う、歴代最強の戦士でありワタシがこの世で最も苦手とするお方だ。


「そう言えば、名前を貰ったらしいな」

「耳が早いな、ああそうだぞ主殿から良い名を賜った」

「へえ、それで何て言うんだ?」

「主殿の世界で有名な騎士から取った名でアストルフォだ」

「それって男の名前だよな?もしかして、お前の主って―――」

「黙れ、それ以上先は許さんぞ?」


 言いたい事は分かる。

 主殿は聡明ではあるが何と言うか…少し抜けているのだ。

 幼さが故なのか生来の気質なのか、判別は付かないがたぶん生来の気質だと思う。


「それじゃあ俺はあかえ枝の戦士長に呼ばれているから、また後でな!」

「ああ、また後で」


 何が赤枝あかえの戦士長に呼ばれているだ、ワタシと歳の変わらないあいつが未だに戦士の試練すら受けられない男が、女傑で知られる赤枝あかえの戦士長に呼ばれるなんてある筈がない、どうせこの先にいる古老や戦士長達が恐ろしくて逃げ出したのだろう。

 昔から変わらないなあいつは、素質は同世代の中で頭一つ分飛び出しているのに生来の気弱さが原因で二の足を踏んでいる、まあ腰抜けではないのが救いか。

 いざという時には立ち上がる強さを持っている、いずれは呼び名に恥じぬ男に成長するだろう。


「さて、ワタシも覚悟を決めるか」


 苦手でも、父にはちゃんと会わねばならない。



♦♦♦♦



「久しいな我が娘、古き風を詠う乙女」

「お久しぶりでございます父上」


 よし、今日は真面目に話をするつもりだ。

 これなら苛立つ事なく話が終えられる。


「さて早速だが旅の話をしてもらおう、この旅でお前が得た物を教えてくれ」

「はい、では―――」


 旅立ちの最初の頃はこれといって特別な事は無かったの省略した。

 やはり主殿との日々だな。

 この日々がワタシを大きく成長させた。

 賑やかで忙しない楽しい日々の事や主殿が背負わされた苦しみに葛藤を覚えた事、守る事が出来ず悔やんだ事、急に現れて主殿の心を攫って行ったと思っていら実際は異性として見られていなかった王孫の事、他にも…料理の話が多いな。

 主殿は食べるのも作るのも好むお方だから、主殿に関する思い出は料理に関する物が多い。


「面白い主を得たのだな、人嫌いだたお前からそこまで慕われるとは実に興味深いが、ここから見るお前の主は少々、侮辱するつもりはないが作り物の様な奇妙な雰囲気をまとっている、それは何故だ?」


 その質問が来たか…まあ、仕方が無いから説明するしかない。

 生前の主殿は勉学にのみ生きた、勉学に必要な全てを身に着けそれはきっとこの国で最も位の高い学園でも通用する物の筈だ、しかしそれに反して主殿はとても幼い。

 きっと心を殺し続け、心を育む事が出来ずに生きたのだと思う。

 高い知性を持ち社会に生きる者としての人としての規範を理解しそれを守るという大人の考えを持ちながら、年相応の幼さと子供が抱く将来の憧れやなりたい自分を持っている。

 言葉に言い表せないこの矛盾が、主殿を作り物だと誤解させている。

 主殿は年相応の幼子なのだ、決して作り物ではない。


「成程な、分かった…なら王都にいる間は我らもお前の主を守ろう」

「ありがとうございます、父上」


 真面目な父上は話が分かるから助かる、これが何時ものあの父上だったら話がここまで滞りなく進む事は無い、さあさっさと終わらせて主殿へのお土産探しを……。


「でだ、アストルフォという名を貰ったらしいな」

「え、ええ、御存じだったのですね、たしか――――」

「男の名前だよなそれ?だからあれ程言っただろ、もっと女の子らしい喋り方をしろって」

「……」


 くぅぅぅうう、やっぱりおちょくりに来たか!

 この人は戦士としては恐ろしく有能なのに、父親としては三流だ!すぐに娘の揚げ足をとってはそこからのガキと同じ様な反応をする、つまり中身がガキなのだ!


「父上、何度も言いますがあの時は誰も古老達の言葉に耳を傾けていなかったので、戦士長の娘として耳を傾けねばと思い―――」

「だからと言って古老と同じ喋り方はないだろう?母親似の美形なのに喋り方があれだから、妙に女の子にもて―――」

「その話は止めてください!話は終わりましたよね?ワタシはこれにて!」


 クソ!絶対に主殿には父を合わせない、絶対にワタシの知られなくない過去をこれでもかと主殿に語って聞かせるに違いない!人の言葉を話し人の姿になれるお方だ、絶対に面白半分でワタシの過去を脚色して言いふらすに決まっている!


「まあまて、話は終わっていないぞ」

「まだ何か?」

「どうするつもりだ?一人で背負うつもりか?」

「……」


 知られていた、まあ父上なら千里眼の使える父上ならワタシが抱えている問題を知っていても何の不思議でもないか。

 そう忘れていたが父上はかつてこの世界に外の世界から神を嘯く化け物が訪れた時、それを予見して迎え撃った人だ、あの昔語りで何度も聞かされた風を汚して歩む者を打ち取った人だ。

 下手な隠し事など通じる訳が無い。


「答えよ、我が娘アストルフォよ、お前はどうするつもりだ?」

「身命を賭して主殿をお守りする、必ず最良の形で終わらせてみせる…この命に代えても!」

「……馬鹿者が、それでは誰も救われん、お前の主はそれで喜ぶのか?」


 喜ばない、それでも最悪それ以外の方法は無い。

 今はまだその時ではない、下手にあの事を知らせれば誰かが早まった行動をとってしまう、そうなれば主殿の命は無い。

 時が来るまで秘匿し続ける、幸いにも主殿は全く自覚していない。

 もし上手く行かなければこの命を代償として捧げる、それ以外の方法は道は無いのだ。

 きっと主殿は怒ると思う。


「救いたいと思うのなら軽々しく命を捨てるな、自分を救った相手が隣にいなければ救われた者は笑うことが出来ないのだぞ」

 父上の言葉を聞いた時、何故だか分からないが主殿が習っているメイド道が頭の中をよぎった、何となくだがメイド道の教えに似ているな。

 主殿が前に楽しそうに語ってくれたメイド道の教え、そうか…主殿の事を言えないな。

 ワタシもまだまだ子供だった。


「はい父上…言い改めます必ず主殿を守り抜き共に笑って明日を向かて見せます」

「よく言った」


 さてと、話は変わるが主殿へのお土産は何がいいだろうか?

 この時期の世界樹の葉はとても綺麗で宝石の様だが王都土産で主殿もカサンドラ殿から貰っていた、となると何か珍しい、それこそ人が知らぬ我々ヒポグリフの中でのみ知られている物がお土産に適しているかもしれない。

 と、ワタシが悩んでいると父上が自らの姿を変じる。

 先程までの威風堂々とした姿から少し細身の偉丈夫の人の姿に変わった父上はワタシにこっちに来いと手招きをする。


「何ですか父上、急に人に変じて……」

「ふむ、この服を見てどう思う?」

「どう思うと言われても、大人達が来ているヒポグリフの伝統的な―――」


 違う、何か違う。

 定期的に行われる世界樹の剪定で出る枝から採取した繊維に加工して作る、大人達が着る伝統の服と意匠が違う、王都に住む人達が来ている服にどことなく近い。

 何と言うか伝統的な服に最近の意匠を加えた様な服に…そう言えば王都に暮らす者の中に妙に見た事がある服を着ている者がいた、これは一体どういうことだ?


「気にならんか、アストレアが不在の理由が?」

「そう言えば母上は?確か王太子妃殿下に仕えていると聞いていましたがそれに関係するのですか?」

「ふむ、実はな王太子妃殿下は若い頃…今も見た目は若いが、まあ若い頃は服を作る職人に憧れておられたが王太子殿下に出会われてからその夢を諦め、王太子妃として生きる道を選ばれた」

「その話は以前、母上から聞いた事があります」

「それでな―――」


 しかしある時、一枚の写真を見た王太子妃殿下の心の中で諦めていた夢に再び火が付いてしまい母上や他のヒポグリフの女性達と一緒にデザイナーとして秘密裏に活動を始め、今では女性を中心に人気を得ていて、母上は王太子妃殿下と一緒に今日も新しい服のデザインを考えている。


「何をされているんですか母上は……」

「いいじゃないか、我々は今まで内にこもり過ぎた、これを機に積極的に人と関わっていけばいいのだ、ワシも定期的に王都に下りている」

「はぁ……それで人の姿に変じられたのはその服を自慢する為だけですか?」

「いや、アストレアがなお前の主に渡してくれと、何でも王太子妃殿下が見た写真というのがなお前の主の写真らしいのだ、これはそのお礼だ」

「写真?」


 何故、主殿の写真を……そう言えば祭の時にセドリック王孫殿下と遊びに出掛ける前にアンリ殿が王都で流行しているドレスを着た主殿の写真を撮られていた、見本の写真だと言っていたが…まあ、幼さに反して恐ろしく艶っぽい人だからな主殿は……。


「成程、しかし父上」

「なんだ?」

「これを渡したらワタシが人に変じれる事がバレてしまいます、そうなれば……」

「困ったな…どうするか、アストレアに相談しておこう」

「頼みます」


 その後、父上が口走った事を聞いてワタシの中でここ最近、気になっていた事の謎が解けた、そして何をしているんだセドリック王孫殿下!偽名を使って主殿に自分の正体を知られない様にした癖にそんな事をしてしまったら主殿にバレてしまうではないか!?

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