6 言葉はない(隊長さん視点)
確かに時間的には腹も減る頃合いだ
解呪が出来ないのなら今はまず現実的な問題から手をつけるしかない
魔法遣い達に食事の用意を頼み、私とハリーで少年に対応することになった
辺境伯の砦から南軍砦は街道沿いにまっすぐだがこの廃村からはどちらの砦も夜に移動するのは考えものだ
今夜はここに泊まるしかないが
崩れそうな壁の前で膝を抱えた少年が俯いて鼻水をすすっている、音はしないがまだしゃくりあげている様子でビクビク肩が震えている
「どう思う?」
「どうと言われましても…私の知る限りですが
どなたとも一致しませんし、そういう方面はレイリー公爵家のほうが詳しいのでは?」
「オヤジからは何も聞いてないしな~兄貴なら知らされているかもな、まぁ言えない事情がある場合もある。マクマートリーの長男の方が何か聞いてないか?」
「跡継ぎは弟ですから。ペンタスを牛耳っている公なら色々と裏事情に精通されていても家族には教えませんよね…」
「どの系統だと思う?」
「勝手な想像は控えてください…しかし隠すことは不可能でしょう?それこそレイリー公のお力添えでも無ければ」
イヤな事を言うヤツだ
少年の肩の震えが少し弱くなった、落ち着いてきたのかもと視線を合わせようと膝をついた
俯いた顔をゆっくりと上げた少年と視線が合う
思わずのけぞった…私の態度に少年を伺ったハリーも硬直した
「黒い…」
壁から現れた時は確かに碧かった瞳が黒くなっていた
これはマズいかなりマズい
「食事にしませんか?」
2人でビクついた…言葉を失う私達の後ろから空気の読めない声がかかる
ヨーク、またか…でも今はその無神経に救われた
気持ちを落ち着けよう、切り替えよう
ハリーはいきなりかけられたら声にヨークを睨んでいるがヨークはなぜ睨まれるのかわかってない
どう扱ってよいのかわからない、ここまで混乱したのは久しぶりだ
疎かにはできない
親の名前、どこに居たのか、なぜどうやってこんな場合に現れたのか、聞きたい事が山のようにあるのにヨークの魔導具は全く声を伝えない
仕方ない、敷物を敷き裸足の脚を拭う布を渡し
座るように促す
食事と飲み物を敷物の端に用意し少し距離を取る
日が沈み焚き火とランプの光では少年の瞳の色は判別し難いから他の者は気付いていない
こちらの空気を読んだのかそれなりの知識があるのか若い2人は何も言わないし余計な接触も控えている
ヨークは自身の魔導具のせいで事態が膠着状態になっている事は認識しているから近寄ってもこない
少年の漆黒を知るのは私とハリーだけだが、今は2人に交わす言葉はない
さてどうする?考えろ
このロータス帝国に於いて漆黒の瞳を持つのは帝ただ1人のはずだから
名字しかでなかった