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2 またですかじっちゃん

なかなか本題に入れないのです

敷物の端に用意された飲み物のカップを手にしてみれば少しヒンヤリしている

食料品などを保存する魔法具のおかげで程よく冷えてる

柑橘系の爽やかな香りのスポーツドリンクのような飲み物

初めての時はおっかなびっくりチビチビ舐めた

彼等は普通に飲んでいるから変な物ではないと解ってても私のお腹はデリケートなんだから

父は医師をしている、その関係上手洗いや衛生面は常日頃気をつける習慣が身にしみていて

水道らしい物など絶対なさそうな場所で、このカップいつ洗った?と煮沸したくなる現代っ子

潔癖症ではないけど得体の知れない所でお腹を壊すのは怖い

でも何も持たない私は彼等の配給に頼るしかない散々泣きわめいた後だから水分補給は必要だった


彼等とは言葉が通じない

コレが最初にかけられたら魔法だった

いやいや、普通なら逆だよね、言葉はだいじなコミュニケーションツールです


2日前私は父の故郷に到着し、ひと休みした後しぶしぶ捜索を開始した、約束した花火大会までには戻らないと

しぶしぶなのはしょうがない

じっちゃんの雲隠れはコレが初めてではないから

過去に何度かやらかしてくれてる

そのたび大なり小なり周りを騒がすが大事に至ったことはない

家捜しすればおおよそどこそこの地図だとかメモだとかがでてきて行き先は判明する

通常なら一週間以内にだいたい帰ってきて妙な土産を披露してお終いのパターンなので仕事や用事の無い夏休み突入したての私にじっちゃん捜索の命令が下った

夏休みのちょっと早めの帰省くらいに思ってた、父も母も兄弟ももちろん私も


じっちゃんは携帯を持たない、普通の電波の届かない所にお住まいだから、昔は台風とかで電線が切れる度にじっちゃんとは音信不通になった

心配した父がばっちゃんの亡くなった10年くらい前にでっかいアンテナ塔を建てたので今では衛星通信はできる、なのに携帯は持たない

持っててくれれば少しはこっちも安心なのに



大阪駅から環状線、天王寺から阪和線、和歌山から紀勢線と乗り継ぎ最寄り駅からバスに乗り

バス停から登り坂を小一時間、普段はじっちゃんの軽トラックで行く道をひたすら歩く

早朝に家を出たのに一番辛い坂道で一番暑い時間帯になった

海外旅行並みの時間をかけて到着したじっちゃんの家は主不在でもちゃんと私を迎えてくれた

一応「じっちゃ~ん、ただいまぁ~」玄関開けて声をかける「………」当たり前か

返事があるなら私はここに来てないよね

汗だくなので、先ずシャワーだね

あせを流しTシャツにヒンヤリデニムにお着替えして水分補給しながら台所やダイニング、リビング、寝室をめぐるが生活感の何も無いモデルルームのごとき美しさ

これは今までとはちょっと違うぞと思案し始めた

今までは思い付きで行動するからか台所に洗い物が置かれたまま、寝室もパジャマ出したまま、リビングも郵便物や雑誌、妙な機械やガラクタが置かれたまま、洗濯物が洗濯機に入ったまま、なんて感じでじっちゃんだけが居ない状態だった

近所のコンビニに行ってくる感覚で行方知れずになり苦笑いで帰ってきてを繰り返してたのに


しぶしぶの探索から本気モードにシフトチェンジ

父にもメールを入れておく

『今回は様子がおかしい、全部きれいに片付けられてる』


母屋にはまるで手がかりが無く、ゴミ箱の中まで空っぽだった、冷蔵庫には水やビールくらいしかない


となると、後はじっちゃんの秘密基地しかない

じっちゃん家の奥、渡り廊下の先にある古い蔵の扉はかなり重い、蝶番の軋む音が背中をゾワゾワさせる

この音が嫌いなわたしが文句を言うとこの音は警報機替わりだと教えられた

普通に警報機付けてくれればいいじゃないか

ギリギリ体が入る隙間を開けて中に入って2、3歩歩き手探りで電球のスイッチを探す

蔵の照明は頭上の梁からぶら下がった裸電球の根元のスイッチをオンにしないと点かない

じっちゃんなら一声なのに

薄い闇にまだ目が慣れないまま手を伸ばした先に細い縦線が見えた

蔵の奥の壁のあたり、私が入って来た扉からの光の反射には角度が合わない

好奇心は猫を殺す、英語の先生あなたは偉い

でもじっちゃんの探索の使命をしぶしぶから本気モードに持ちかえた私は先生の教えを生かせなかった


導かれるように奥の壁にたどり着き手をついた、違和感はんぱない

蔵のうち壁はスベスベした漆喰のはずなのにざらついている、じっちゃん、またリフォームした?

改造改築はじっちゃんの特技だ

何でも自分で作ってしまう、それもプロ顔負けの出来映えまるで魔法みたいに

じっちゃん家は昔話に登場しそうな古民家の外観なのに中は素敵な住宅雑誌に掲載したい感じの仕上がりになっている


恐る恐る両の手のひらに力を入れて押してみると顔のあたりの壁にボンヤリと白っぽい手のひら大の円陣が浮かんだ

じっちゃんの手のひら認証システムだ

玄関にも付いてる、家族の手のひらにしか反応しない優れもので鍵を無くす心配も要らない

古民家に住むハイテクじじいは最新の物が大好きで私の物心つく頃には家中の照明は全てLED、音声認証で照明は点灯しカーテンは開閉し風呂も沸く、天井に埋め込まれたプロジェクターが壁面に映像を写し出しお掃除ロボが床を滑る

じっちゃんの一声で魔法みたいに

私の一声ではダメ、じっちゃんだけズルいと言うと誤作動が怖いから大きくなったら私の声でも動くようにしてくれる約束をした

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