友達
歩いて王宮へ向かう。
普段二度見されるほどの美少女であったが、普段と違う服を着て化粧をしている今日のグレースは三度見されていた。
「王宮の正面から入る」という事は「王城の正面の跳ね橋から入る」という事である。平民であるグレースには未体験の事だ。
王城の近くでモジモジしていると門番に声をかけられた。
「イシスさんの娘さんだね?話は聞いてるよ。しかし面影あるなぁ新人の頃、君のお父さんにお世話になったんだよ。」思わぬところで父親の話が出た。どうやらグレースは父親似らしい。チッイケメンかよ!
正面扉から王宮に入る。
イシスは「娘が正面扉から来る」と周囲に伝えていたらしい。呼び止められ詰問される事はなかったが、通りがかりの人達から微笑ましく見つめられ、少し居心地が悪かった。
差し入れのパンを侍女の食堂に置き「自由に食べてください」と書置きをした。
予定していた用事も終わり、王女の居室を目指す。私服で王女の部屋へ行くのは何となく心許ない感じだ。イシスはどうして私服で来るように指示したんだろう?
王女の居室をノックして入室の許可を待つ。
イシスが中からドアを開けグレースを見て少しビックリした顔をする。グレースが来る事はわかっていた。だがこんな可愛らしい格好をしているのも、可愛らしい化粧をしているのも予想外だったのだ。
イシスは自分のお洒落や化粧に興味がなかった独身時代と、興味を持つきっかけとなった父親との出会いを思い出し「グレースが好ましい変化をした」と勘違いしたようだ。
イシスに続き王女の居室に入る。イシスはグレースの来訪を王女に教えていなかったらしい。王女は「イシス、どなたがいらっしゃったの?」などと言っている。
グレースを見た王女は一瞬目を見開いた後「ふぇぇぇぇぇぇん」とイシスに抱き着き泣き出した。
グレースはオロオロしながら「私は帰ったほうが良いですか?」とイシスに聞いた。
「違うの!友達が部屋に来てくれるのなんて、生まれて初めてだから・・・うれしくて・・・ふぇぇぇぇぇん!」王女はイシスに抱き着きながらそう言った。
ようやく「正面入り口から私服で来い」と言われた訳がわかった。
今日ここには「王女の友達として来い」という意味なのだ。
裏口から侍女の服装で入って来て、侍女として王女の部屋を訪れていたら、王女は嬉し泣きをしただろうか?王女をあやしながら頭をなでているイシスを見ながら、我が母親ながらどこまで見透かしているのか恐ろしいと思った。
泣き止んだ王女はグレースのことを「可愛い」と言い始めた。「でも素材が良いからもっと可愛くできる。」とイシスと二人で着せ替え人形にした。
「その服あげるから今度遊びに来る時はその服着て来てね、約束よ?」こんなヒラヒラした女の子っぽい服着た事ないし、この服を着て帰らなきゃいけない。グレースの主人格は叫びたかった。
「着替えないと・・・パンを焼かなくちゃいけないし・・・」グレースは言い訳がましく言った。
「今日はパンは焼けないわね。来た時の恰好でも今の恰好でもパンを焼く服装じゃないし。パンを焼く時は着替えを準備した時でないとダメね。姫様それで良いですか?」どうやらイシスは可愛らしい格好のグレースが良いらしい。口を挟んでまでグレースが着替える阻止をした。