家事スキルvs家事スキル
「すごい戦いだ・・・すごい・・・くだらない・・・」勇者は呟いた。
ボクサーがパンチを避けれない場合どうするか?クリンチといって殴られないように相手に抱き着くのだ。
ではお互いに「殴りたくない。殴られたくない」と思った時どうなるか?
グレースとウェヌスはお互いに激しく狂おしく抱きしめ合った。
この百合百合しい光景をアストレアは「高田延彦vsヒクソングレイシー以来の世紀の凡戦」と評したが、異世界の人達には伝わらなかった。
「家事に先手なく、家事に後手なし」勇者パーティにいた武道家はそう言った。
つまり「先手だろうが後手だろうが家事に攻撃手段なんてねーんだよ」という当たり前の事を言っているのだ。
「この勝負、先に動いたほうが負ける!」僧侶の女の子が言った。言っただけである。というか言いたかっただけで特に意味はない。
最初に動いたのはグレースであった。いざというところで女性歴の短さが出た。
女性と喧嘩する事に慣れておらず、その罪悪感に耐えきれなくなったのだ。
グレースがウェヌスに攻撃を仕掛ける。といっても子供にありがちなポカポカパンチだ。
ウェヌスはスキルを発動させる。
「ダメだ。グレース気を付けろ!」勇者がグレースに声をかける。
ウェヌスが発動させたスキルはかつてグレースが発動させドラゴンを倒したスキル『母は強し』だ。
『母は強し』は相手が強いほど効果を発揮し、相手の攻撃の威力を10倍にして相手に返すスキルだ。
だがウェヌスはグレースの弱さを甘くみていた。
相手が強ければ強いほどスキルの効果があがる・・・では相手が弱かった場合どうなるか?
『母は強し』は壮絶な自爆技になるのだ。
グレースの攻撃力は1。本気で女性に攻撃は出来ない。つまり手加減攻撃でのダメージは0。つまり「0×10=0」である。0には何をかけても0なのだ。
相手には全くダメージを与えず、自分の体力は0になり倒れる。
グレースは何もしていないがウェヌスとの闘いに勝利した事になってしまった。
この女性同士の戦いは『家事能力全般所持者同士のキャットファイト』と呼ばれていたが「キャットファイトなんて呼んだら猫に失礼だ」という事で「ボウフラファイト」と呼ばれる事になる。
この後「家事能力全般を持つ者同士を戦わせてはいけない」といわれるようになるが、理由が「つまんないから」だと知る者はほとんどいない。
家事スキル「愛のムチ」で全ての催眠術は無効になった。
つまり「プルソンに命令された事は忘れるように」という命令も無効になったのだ。
なのでプルソンが魔王に「勇者を殺してお前も死ね」と言っていた事も明るみに出た。
プルソンが魔王に「お前」と言っていた事、魔王を殺して自分が魔王になろうとしていた事を「許すべきではない。極刑に処すべきだ」という意見が議会の大半を占めたが、魔王が極刑に反対したため、プルソンは生涯を監獄で過ごす事になる。
この後ウェヌスの行方は知れず、歴史上から忽然とその姿を消す。
だが次代の魔王が和平のため王国を訪れた時、次代の魔王が魔族と人間のハーフである事、魔王の妻が一回り上の姉さん女房である事、次代の魔王を育てる時に母親が育児スキルをよく使っていた事、次代の魔王がウェヌスを「母上」と呼んでいる事がわかっている。




