宿命
城の者が来客を刺した・・・それだけでも充分問題になる。
刺したのが魔王で刺されたのが勇者だった場合、それは戦争の引き金になってもおかしくないほどの大事件である。
とりあえず王国は「犯人を差し出せ」と魔王の身柄の差し出しを求めるだろう・・・とウェヌスは思っている。
実は勇者にとって腹部を刺されるくらいは日常茶飯事なのだ。それくらいでこの不死身と言われる男は死なない。
なので「また刺されちゃったね」って一般人が蚊に刺されたくらいの感覚で勇者パーティは考えている。
まして今回はグレースのスキルがかけられているので勇者は痛みを口にしていない。今回くらいの話は笑い話にすらならないのだ。
だがウェヌスはそんな事情は知らない。戦争をしたいプルソンにハメられ今回の事は大問題になる、と思っている。
とりあえず「勇者を殺そうとしたのだ、魔王の命で償え」と言われると思って、気絶している魔王をかばうように立った。
ウェヌスは「戦争したいプルソンにハメられた」と思っているが、プルソンにとってはこんな早朝の厨房で魔王が勇者を襲ったのは計算外であった。
プルソンの計画では、魔王は玉座で来賓の勇者に皆が見ている前で襲いかかる予定だったのだ。
勇者は皆の前で先代魔王の仇を討たれて命を落とし、魔王はその場で命を落とす。
それが戦争の引き金になり、魔王軍が完全勝利を収め、血脈が途絶えてしまった魔王にかわり、プルソンが魔王になる・・・そんなシナリオだったのだ。
だが現実には勇者も魔王も生きているし、戦争の引き金になるはずなのに、証人が全て王国側の者ばかりだ。そして何より「その場にプルソンがいない」その場を収めて、どさくさに紛れて実権を握ろうにも「プルソンは当事者ではない」のだ。
ウェヌスは魔王を守ろうと勇者パーティと戦うつもりのよう
だ。ウェヌスに闘争本能は全くない。母性本能だけで草食動物が子供を守ろうと肉食動物に立ち向かう事があるが、今回のウェヌスの行動はそれに近い。
勇者は他人のステータスを見る事が出来る。
勇者はウェヌスのステータスを見て、思わずズッこけた。
こんな弱い者は見た事がない。いや、一度だけある。
グレースのステータスを見た時、同じようにズッこけたのだ。
勇者パーティはアストレアですら、ウェヌスを瞬殺してしまう。
ウェヌスのステータスで見るべき部分は「家事能力全般」を持っている事だけだ。
ウェヌスは戦う気満々で、戦わないとおさまらないようだ。
勇者はグレースに「戦ってくれない?俺らじゃ彼女を手加減しても殺しちゃうんだわ。形だけで良いからさ」と頼んだ。
グレースは頷くと指の関節を鳴らすように拳を握った。一度だけコキンと関節が鳴ったが、初めて関節を鳴らしたのだろう、痛みに顔をしかめた。
光あるところに影あり。
北斗現れる所に南斗あり・・・星的な意味で。(←こう言わないと著作権的に問題が出てくる)
料理現れるところに育児あり
この戦いは偶然か必然か。




