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催眠

その日の晩プルソンが魔王を訪れた。

魔王の部屋の前でプルソンとウェヌスが揉み合っている。

「魔王と私、二人で話がしたいのだが」プルソンはウェヌスを睨み付け言った。

「魔王様はこの国の最高権力者のはずです。家臣を信用して人払いして二人きりで話すかどうかを決めるのは魔王様のはずです。あなた様ではありません!」ウェヌスは必死で食い下がる。

普段は魔王に挨拶すらせず見下しているプルソンが魔王を訪ねてきているのだ、何かを企んでいるに決まっている。

「下がれ!身の程を弁えろ!侍女風情、人間風情が!」プルソンはウェヌスを振り払いながら部屋へ入って行こうとしたが、扉は開かなかった。

ウェヌスが魔王に「誰が来ても決して扉の鍵を開けてはいけません」と言ったのを忠実に守っているのだ。

だが部屋の中には幼い魔王がいるだけだ。心細くなってしまえば部屋の鍵を開け出てきてしまうだろう。しかしジャンプしてどうにか扉の鍵は閉めたが果たして開ける事は出来るのだろうか?まあ開けるのはウェヌスが鍵を持っているのでそれで開ければ問題ないが。

「ではプルソン様が魔王様と会談されている間、私もその場に同席させていただきます」魔王が泣きながら「部屋を開けてくれ」と言うのはもう時間の問題だろう、扉の向こうで大人が何か揉めているのに一人ぼっちなのだ。イヤでも不安な気持ちになる、というものだろう。ウェヌスは譲歩案を提示した。

「ウェヌス、良いよ。プルソンと二人で話をするから。部屋の鍵を開けて」中から魔王は言った。人一倍力がないウェヌスがプルソンと揉み合っているのだ「ウェヌスを助けなくちゃ」と魔王は思ったに違いない。

だが子供である魔王は知らない。ウェヌスが「何を企んでいるかわからないプルソンと魔王様だけは二人っきりで話をさせてはいけない」と命がけで揉み合っていた事を。


魔王が「二人っきりでプルソンと話をする」と言ったのだ。侍女であるウェヌスにそれを取り消す力はない。

ウェヌスは下唇を噛み悔しがったが「ホラ、魔王様が『開けろ』と言っていらっしゃるぞ?」と言うプルソンに従い、部屋の鍵を開けた。

ウェヌスには部屋へ入って行くプルソンを見送る事しか出来なかった。男爵の宰相と元奴隷の侍女では身分が違いすぎるのである。プルソンに楯突くには「魔王様の立場に立って」という大前提が必要だが、魔王本人がそれを否定してしまった場合、ウェヌスには出る幕がない。部屋の前にウェヌスは取り残された。


ウェヌスは壁に耳をつけ中で何が話されているか聞耳を立てたが何も聞こえてこなかった。どうやらプルソンは消音魔法を使ったようだ。


その頃プルソンは部屋へ入り、消音魔法を使うとすぐに座っている魔王に催眠をかけた。

虚ろな瞳をした魔王はプルソンの言いなりになる。


「いいか、明日、勇者に斬りかかれ。アイツは先代魔王を殺した男だ。お前にとっては父親の仇だ。勇者が死ぬか深手を負えば、その間に王国を滅ぼせるぞ?そうだ、勇者を殺したらその場でお前も死ね。そうすれば『魔王の弔い合戦』と戦争が正当化される。王国は勇者を失って、魔族は魔王を失うのだ。そして私はさらに権力を手に入れるのだ。ワハハハハハ!」


「明日、勇者と刺し違える。勇者はお父様の仇・・・」

部屋には催眠にかけられた魔王の声とプルソンの笑い声だけがこだましていた。

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