弱点
全てが予想外であった。
主戦派の中には戦争の継続を望むものも多い。
もちろんそういった者たちが理由もなく戦争の継続を主張したわけではない。
長年のわだかまりが解消し、このあとすぐ学園国家と王国の和平条約が結ばれるらしい、という情報はすでに入ってきている。
王国と学園国家は険悪であり、もう一度手を結ぶという事はあり得ない状況であったはずだ。
魔王軍と王国軍が戦った場合、王国軍が学園国家と共同戦線を組む事はあり得ず、高確率で魔王軍と学園国家軍は共同戦線を組み王国軍を追い詰めるだろう、と思っていたのである。
それともう一つ、魔族の中では「魔族は負けていない。勇者さえいなければ勝っていたのは魔王軍だ」という意見が根強い。
それは真実だろう。しかし現実には勇者は現れ魔王を撃ち取った。「たら」「れば」を言ってもしょうがないのだ。
何も裏でグチグチと文句を言っている者ばかりではない。
「勇者さえいなければ、もう一度戦争になっても負けることはない」と徹底的に勇者の弱点が研究された。
敵の主力の弱点を研究するのは当たり前らしい。学園国家の過激派も勇者の弱点を研究していた。勇者の弱点の研究をしていたのは何も敵だけではない。王国は勇者をサポートする僧侶大隊を編成し、勇者の弱点を補おうとしていたのだ。王国が生み出した「戦闘僧侶」は後に「モンク」と呼ばれ一般化する。
だが実際はどうだろう?勇者は僧侶が居ない状態にもかかわらず七つの大罪、暴食の罪ベルゼブブを撃ち破った・・・事になっている。事前情報で「勇者にアンデッドは効かない」という情報は入っていた。主戦派はベルゼブブと同じ属性のモンスターを集めて勇者にけしかける予定だった。「事前情報以上に勇者が規格外の化け物であった」という情報は主戦派の中に衝撃を与えた。
「ベルゼブブ様が通用しないのに、こんなクズ共が通用するわけないじゃないか!この役立たずの無駄飯喰い共め!」
主戦派はせっかく集めたモンスター達を逃がしてしまった。
こうして勇者にとってのピンチは勇者が居ないところで勝手に防がれた。
だが学園国家の過激派が見抜いていなかった「もう一つの勇者の弱点」が存在する。
勇者は昔深い傷を負い、生死の境い目をさまよった。
子育て中の古代龍の前で剣の構えをといたのである。
「勇者は子供には攻撃出来ない」
魔王は子供である。子供とは言え魔王、勇者に傷をつける力を持っている。
問題は魔王を守っている人間の侍女がその作戦に賛同しない、という事だ。
「あの邪魔な女を殺せ。さすれば我々の長年の悲願、人間への完全勝利も見えてくる。猶予はないぞ!王女が我々に接触し、不平等な条約をつきつける前にあの女と勇者を亡き者にするのだ」