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勧善懲悪

「ねぇねぇウェヌス」

「何でございますか?魔王樣」

「お話してよ、昔話が良いなぁ」

「そう申されましても、私は魔族の昔話を知りません」

「ウェヌスが知ってる昔話で良いからさぁ」

「では私が生まれ育ったところで一番有名な昔話を・・・『桃太郎』という話をしましょう」

『「桃太郎様、桃太郎様、お腰につけたきびだんご、一つ私に下さいな」

「一つはやらん、半分やろう」』

「ねぇウェヌス、桃太郎様ってケチだね」

「内容はこのあと修正されます。『桃太郎様』は『桃太郎さん』になり『一つはやらん、半分やろう』とは言ってない事になります。『家来の動物達』は『お供の動物達』と呼ばれるようになります。鬼ヶ島は実在する島で鬼は航海中に漂着した外国人で暴れていなかった、という説もあります。」

「もしかして桃太郎って悪い人なの?」

「今となってはわかりません。しかしわかっている事が一つ、鬼から略奪した金銀財宝で桃太郎は一緒に住んでるおじいさん、おばあさんと一緒に贅沢な暮しをした・・・という事です。昔話には必ず教訓が語られています。魔王様わかりますか?」

「うーん、わかんない」

「この物語から学ぶべきは『勝てば官軍、負ければ賊軍』です。桃太郎がどんな下衆な男だったとしても、勝った桃太郎は後世まで語り継がれる正義の味方になり、略奪された鬼は悪として語り継がれます」

「うーん、むずかしい」

「魔王様にはまだ早かったかも知れませんね。でも覚えておいて下さい。亡くなった先代の魔王様・・・魔王様のお父様は決して悪い事をした訳じゃありません。亡くなる前に私に『どうかアガレスを・・・息子をよろしく頼む』と言った顔は息子を思う父親の顔でした。魔王様にもそのうちわかる日が来るでしょう」

「そうだよね!『わからなくても良い。忘れなければ』だよね!お父様がよく言ってた!」

「そうです。悪い事は何一つしていません。・・・ただ取り返しのつかない過ちを犯しました。『悪い事をしていないのだから堂々と迎え撃つ。正義は我にあり』という考え方が間違ってたんです。勝った方が正義なんです『勝てば官軍、負ければ賊軍』なんです」ウェヌスは幼い魔王に聞こえないようにつぶやいた。


ウェヌスはフレイアが一番最初に生まれ変わらせた転生者だ。

だが魔王領を覆う闇は天界から覗き込めない。

ウェヌスが転生した時、人間と魔族は血で血を洗う戦争の最中であった。

魔王領に人間が住んでいない訳ではない。先代の魔王は差別を嫌う男で侍女として積極的に人間を採用した。その中にウェヌスはいたのだ。

ウェヌスは天界で「戦争で失踪したもの」として扱われ、「そのうち死んで生まれ変わらせなくちゃいけない」と思われていたが、存在そのものがそのうち忘れ去られていた。


御者をしているアストレアをグレースは見る。

グレースはアストレアが『家事能力全般』を持っている事を知った。

だが、アストレアの中にオッサンがいる事も、そのオッサンが日本から来た転生者である事も知らない。

逆にアストレアもグレースの事を何も知らない。


王国から学園国家へ向かい、学園国家の許しが出たら魔王領に向かおうと思っていた。許しが出なければ二度手間になり一度王国まで引き返さなくてはならないだけではなく、学園国家領を横切れないので遠回りしなくてはならない。

学園国家は一行に領土を横切る許可を出した。

これはかなり異例の事だ。もしかしたら自国の過激派が一行を襲った事を引け目に感じているのかもしれない。


勇者は自分が殺した先代の魔王の事を思い出していた。

負けるのをわかっていながら「自分が力に屈して降参したら、国民が酷い目にあってしまう」と立ち向かってきたり「国民は争いに関係ないのだ。どうか酷い目にあわせないでくれ」と血反吐を吐きながらも懇願する魔王はある意味滑稽で、ある意味気高かった。

「今から会う現魔王にとって俺は『父親の仇』なんだよな・・・」勇者は馬の手綱を操りながらボソっと呟いた。

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