外伝 奇妙な三角関係
アストレアの中には日本から来た体育教師のオッサンがいる。
個人のステータスには多少の上下があり
・アストレアの元々の身体能力が低くない事。
・アストレアの中のオッサンが体育教師であり、極めて身体能力が高かった事。
・アストレアは大成しなかったが元冒険者であり、身体を鍛えていた事。
・・・などなどの条件が重なり、アストレアのステータスは一般人と比べて中の下くらいであった。
「一般人の中でも低いのかよ!」と思うかもしれないが、『家事能力全般』を持つ人間の中でアストレアは段違いに高い身体能力を有していた。
パーティで戦士をしていたオッサンがトイレで死体として発見された。
悲しみに暮れるメンバーの中で武道家の少女は「パーティメンバーを補充した方が良い」と主張した。
「少し冷たいんじゃないか?オッサンが死んだばかりなんだぞ!」と勇者は言った。
だが「このパーティで他のパーティを経験しているのは私だけだ。他のパーティにいた時、しょっちゅうパーティメンバーがモンスターに殺され命を落とした。だが死んだヤツらは『自分が死んだら自分の事は忘れて、すぐにパーティメンバーを補充して欲しい』と言っていたし、戦士のオッサンもそれは同じだろう。私も同じ気持ちだ。死んだ仲間に囚われ仲間を補充せず、それでパーティが全滅するのを戦士のオッサンが望んでいるとは思わない」と考えを曲げなかった。
勇者は納得はしなかったが武道家の少女の意見を尊重し、パーティメンバーを募集した。
勇者と戦士は腐れ縁であり、昔は決して仲は良くなかった。
魔法使い志望であった勇者に剣の扱い方を教えたのが戦士だったが、それは「剣の扱い方を教えている」というより「殺しあっている」という雰囲気だった。
その殺伐とした雰囲気は次のメンバーである僧侶の少女が入るまで続く。
冒険者ギルドを介し、『勇者パーティ、メンバー募集』は全ての冒険者に伝えられた。
「勇者パーティに入れるかも知れない」と一名の募集に対し数百名の希望者が殺到した。
その中に「頑張ってみたけどどうやら冒険者には向いていないみたいだ、何回死にかけたかわからないし・・・勇者パーティがメンバーを募集しているらしい。目指していたところではあるし、冒険者を辞めて新しい仕事を始める前に最後に記念受験しよう!」というアストレアがいた。
これまでのメンバーは全て勇者が「メンバーにならないか?」と自ら勧誘をしてきた。
こういったオーディションの形を取るのは初めての事だ。
勇者はため息をついた、記念受験とダメでもともと受験が多すぎて、ロクな人材がいないのである。
勇者から見ると「有望な冒険者」も「一般人に毛が生えた程度」に見え、アストレアと大差なく見える。
個人のステータスを見る事が出来る勇者はアストレアがグレースと同じスキル『家事能力全般』を持っている事に気付く。
「このクズだらけの応募者の中で、一撃でドラゴンを倒す可能性を秘めている少女が存在する。しかもどことなく雰囲気がグレースに似ている」とアストレアは選ばれ「実は記念受験なんです。もう冒険者はやめて、メイドをやるつもりなんです」と正直に答えると勇者に「じゃあ俺のパーティの専属メイドにならないか?冒険をしながらメイドをやらないか?」と誘われ冒険メイドになったのだ。
アストレアの中のオッサンは魔法使いの少女に一目惚れする。魔法使いの少女は昔から一途に勇者に懸想している。そして勇者はグレースに雰囲気が似ているアストレアを少し意識している。
こうしておかしな三角関係が出来上がったのだ。