魔導書
馬を休ませるため一旦止まり、馬車の周りに勇者パーティ達は集まった。
「あなたがグレースさんなの?」シーフの少女がチョコンと馬車の座席に座る小柄な少女を見て、驚きながら確認する。少女はシーフという職業柄、素早さとしなやかさを鍛え上げているが、体の大きさや筋力ではグレースに負ける・・・と思っていたのだ、
グレースの名前は勇者から「グレースという少女が一撃でドラゴンを倒した」と聞いている。
勇者に惚れている少女たちは勇者が知らない女の子の事を楽しそうに語っているのが面白くない。
「ドラゴンを一人で一撃で倒すような女なんて熊のような大女に決まっているじゃない」と魔法使いは言っていたし、他人の悪口は言わない僧侶の少女も魔法使いの少女の言う事にうなずいていた。
だが実際会ってみると想像と全く違う。
目の前の少女がグレースだという。王女のヘラよりも明らかに華奢な体で、大女という容貌とはかけ離れている・・・というか「儚げな美少女」という形容がピッタリくる。
グレースは「何でこんな敵意を向けられるんだろう?」と焦っていた。
勇者パーティが少女ばかりなのは事前の情報で知っていた。
最近グレースの緊張が伝わってしまうせいだろうか?若い男性と一緒にいる事が苦手になったが、若い女性に囲まれても緊張しなくなってきたし何とも思わなくなった。勇者パーティの少女たちと一緒にサンドウィッチを食べ仲良くなろうと思っていたのだ。
事前にヘラに「パーティの中にもライバルは多いけど負けちゃダメだよ?」と言われていたが、何のライバルかもわからないし、何で敵視されているかも見当がつかない。
グレースはオロオロとしているし、勇者パーティのメンバーは唖然としているしで気まずい沈黙が場を支配していた。
学園国家は軍事力では王国には適わない。
だが魔法力では王国を凌ぐ事が出来たし、諸国から集めた古文書の量は遥かに王国を凌いでいた。
学園国家の一部は元王国であり、王国に対する恨みが根強い。
学園国家の中には王国と戦おうという思想を持った組織が存在する。
だが軍事力で王国と戦うのではない。狙うはゲリラ戦法と内部転覆である。
具体的にどう内部転覆させるかと言うと、古文書に書かれていた悪魔召喚を行い、王国の王族に呪いをかけるのだ。
呪いの効果が遠くに及ぶのであれば、王国にいる王族に遠くから呪いをかければ良い。
しかし実際には呪いは物理的に近くにいる相手にしかかけられない。
王国の王族、しかも次期女王が学園国家に来る。
このチャンスを逃したら王国の王族に呪いをかける機会はない。
王国の王族が来たら悪魔を憑りつかせ呪いをかける。
学園国家の図書館の奥に眠っていた大悪魔ベルゼブブを召喚する魔導書により・・・。