親子②
親子での話し合いの後、憑き物が落ちたような顔のネメシスが言う。
「私が必要とした答えはすでに得ております。これ以上何も望む物はありません。それに私が女王になって納得する人がいるとは思えません。何より『自分は女王になるべきではない』と自分が思っております。私は王位継承権を放棄しようと思います。・・・とは言いましても、お父様と和解した今は私を利用しようと人が私に群がるでしょう、そういった人々が私に王位継承権を放棄させるとは思えません。そういった動きが収まるまで私は見分を広げるため、諸国を旅しようと思っております」
国王は複雑な顔をすると心底残念そうに言った。
「ネメシスがそう望むのであれば止めはせんが・・・。せっかく親子のわだかまりがなくなったのに、接点がなくなってしまうのは父親として寂しい気もするな。・・・我は何を言っているのであろうな、今までネメシスを遠ざけていたのは我であるというのに。よかったら今後どの国に行く予定か聞かせてもらっても良いか?」
ネメシスは少し考えるように、だが迷いのない口調で言った。
「今決まった事ですので、そこまで細かい予定は組んでおりませんが・・・ただ昔から『対立意見、少数意見が誤った意見ではない。必ず言い分や正義がある』と自分の経験から確信しています。私に王族としての責務があるのならそういった、世間では『悪』と呼ばれてしまう意見を汲み取らなくてはならない・・・そう思っています。なので今回の旅では積極的に王国と対立している国々を回ろうと思っています。さしあたっては・・・そうですね、学園国家を目指そうと思っております。『王国と学園国家との長年の確執をなくしたい』などと大それた事を考えているわけではないですが、対話の道を私が作るだけでも私の存在意義がある、と思っております。その後の事は・・・是非魔族とも対話してみたいですね、一度は死を覚悟した身です、危険は承知の上で魔王城を目指して旅をするのも良いかも知れません」
国王は険しい顔つきをしてネメシスを戒めた、がその顔は国王としての厳しい顔ではなく、娘を心配する父親としての険しい顔つきではあったが。
「『行ってみるのも良い』くらいの覚悟で魔王城へは行かない方が良い。『好奇心、ゴブリンを殺す』ということわざにある通り危険が伴う行動は慎重にな、『一度は死を覚悟した身』と言ったが、心配している身内がいる事も忘れてはならぬぞ。」
国王は向き直り言った。
「聞いての通りだ。ヘラ、我はお前に家督を譲ろうと思う。異存はないな?」
ヘラは真っ直ぐ国王を見つめ答えた。
「つつしんで家督を継がさせていただきます。」