帰還②
何故かはわからないが異世界へ帰ってきた。
帰ってきたは良いが、目の前に王女の前で短剣を抜いたイシスがいる。これって結構マズいんじゃないの?王族侮辱罪どころの騒ぎじゃない。何を置いてもこの現状を収めなくてはいけない。まずは現状を把握しなくては・・・、と思っていると
「グレース!私のグレース!無事だったのね!?どこか痛くない?お腹すいてない?」とイシスが短剣を投げ捨て、泣きながら抱きついて来た。
こんな取り乱したイシスを見るのは初めてだ。
「何が起きているのか?」と、イシスに確認しなくてはならなかったが圧倒されてしまいそれどころではない。
あと抱きつかれイシスの胸が押し当てられていたがもっとそれどころではない。
イシスは「命と引き換えに『娘を返してくれ』という願いが目の前の魔術師に聞き入れられた」と思っている。
イシスは迷いのない瞳で
「私の願いを聞き入れていただきありがとうございます。私も王族に刃を向けて無事でいようとは思っておりません。私の願いは私一人の願いです。娘や部下は関係ありません。責任は私一人にあります。私の命を天へとお返しいたします。娘は関係ありませんのでくれぐれもよろしくお願いいたします!」と言い、短剣を拾い上げ首に押し当てようとした。
グレースはイシスに抱きついた。グレースにイシスを引き止める力はない。イシスを止めようとするには刃の前に自分が立ち塞がらなくてはならないのだ。
イシスの行動を唖然としながら老婆は見ていた。
たしかに老婆は魔術を詠唱した。だがそれは王女を守ろうと防御結界を展開しようとしただけだ。
イシスが本気で王女を殺そうとしていたとは思わなかったし、「イシスをちょっと脅かしてやろう」くらいのつもりでイシスに警告をし、魔術を詠唱したのだ。
結果として魔術は発動していない、というか詠唱はまだ終わっていなかった。詠唱の途中に光につつまれたグレースが現れたのだ。ネメシスもイシスもグレースの登場を老婆による仕業だと思っているが、老婆は送り出す転位魔術は習得していたが、引き戻す転位魔術は習得していなかった、というかそんな魔術はこの世に存在しないのだ。
この状況を正確に把握している人間はいないらしい。
これはチャンスだ。この状況を上手く利用すればイシスの罪を有耶無耶に出来る。
この状況がどんな状況かはわからない。だけど俺だけが知っている事がある。
陽菜とノーマが根の部分が同じだったように、ネメシスと中島さんは根の部分がもしかしたら同じかも知れない。
だとしたらネメシスがやろうとしている事は一つ。
「お騒がせしたお詫びとして、私とイシスはネメシス様に協力いたします。その代わり、今回の事は不問とはしていただけないでしょうか?必ずやネメシス様と国王が話す機会を作るとお約束いたします。」グレースはネメシスに頭を下げた。