外伝 ストッキング
今から中島さんの家に行く。
部屋着から外出着に着替えなくてはならない。
そこで問題が発生した。
外出着がことごとくミニスカートなのだ。
もうスカートは履き慣れた。履くこと自体は問題ない。
「スカートを履くことに問題ない自分に問題があるだろう」とは思うが仕事では履かなくてはいけないし、異世界では女性用の作業服ですらスカートだ、履かないで出掛けるという事は「パンイチで出掛ける」という事だ、男でもパンイチで外に出るという事はあまりない、というかない。女がパンイチで外に出たならば、きっと心の病を疑われるだろう。
グレースの本人格が「パンイチとは何か?」と聞いてくる。異世界では「パンツ一丁の姿」の事を「パンイチ」とは言わないらしい。日本でも限定的なシチュエーションでなければ「パンイチ」という言葉は使わないが。
問題は寒いのである。
異世界と違い、日本には春夏秋冬が存在する。マフラーをつける季節に足を出して歩く、というのが信じられないのである。
別にミニスカートは履いても良い。恥ずかしくない、と言ったら嘘になるが履くしかないなら別に履くのはかまわない、下にズボン下を履いて良いなら。
日本に来て実感した事がある。
女性にとって「オシャレは気合い」なのだ。寒い季節に足を出して外に行くのも、踵が高くバランスが悪い靴を履くのも、見た目重視で着心地の悪い服を着るのも、みんな気合いなのだ。
そりゃゲームで男がデートに気合いの抜けた変な格好してきたら怒って女の子が帰るはずだ。
最初俺はジーパンを着ようとした。会社で「ジーパンって言うのはオッサンなんですよ、若い子は『デニム』って言うんです」と言われたのを思い出した。「デニムは生地の名前だろう?流行りっていうのはアホを曝す事なのか?」と俺が言うと「やれやれこのオッサンは・・・デニムって言う事に抵抗があるなら『ジーンズ』って言えば良いじゃないですか」みたいな態度をされた思い出がある。オッサンはなあ若者文化を受け入れられないからオッサンなんだ、受け入れられるヤツの事をオッサンとは言わねーんだよ!覚えとけ!
そんな事を思い出していると、グレースの本人格がジーパンを履く事に強い抵抗感を示した。
異世界では女性が外出着のズボンを履く事はない。履くのは「男装の麗人」だけだ。
俺に女の格好をさせていると思っている本人格は渋々、ジーパンを履こうとした、がジーパンを持ってみて「こんな重くて固いズボンは履いた事がない。履けない」と態度を硬化させたようだ。
ちなみにズボンと言うのもオッサンらしい。若者は『パンツ』と言うらしい。
しょうがなくミニスカートを履く事になった。
ただ妥協案を一つ提示した。
その妥協案とは「下にストッキングを履く事」だ。
普段の美咲は気合いで生足にミニスカートを履いているかもしれない。ただそんな気合いを俺は持ち合わせていないのだ、寒いのだ。
本当であればミニスカートの下にズボン下を履きたい。だがそれは多分ナシなのだろう。
グレースの本人格が「ストッキングとは何か?」と聞いてくる。
異世界にはないのか、そういやストッキングって化学繊維だもんな。
「ストッキングというのは男にとっては頭からかぶるものだ。『ストッキング相撲』と言って頭にストッキングをかぶって引っ張り会うスポーツがあるんだ。ストッキングを使わない『相撲』ってスポーツもあるけど似たようなモンで両方ともアホがやるスポーツだ。女はこれを下半身に寒い時に履くんだ。ストッキングは伸び縮みして軽くて暖かいだけじゃなく、身体のラインが綺麗に見えるんだ。『男には二種類がいる、ストッキングが好きな男と生足が好きな男だ』という名言があるくらいストッキングはメジャーなんだぜ?」何とかストッキングを履こう、と必死で説明する。
説明の甲斐あり、ストッキングにグレースの本人格は興味を示したようだ。
こうして外出の格好が決まった。