外伝 変化
「え、もう掃除終わったの?じゃああっちの掃除もやろっか。うっそ!もうあっちの掃除終わったの?じゃあ洗濯でもやろっか?マジで洗濯物干し終わっちゃったの!?洗濯物が乾くまでヒマだね~。じゃあ賄いでも作っちゃおうっか!」初日に何をして良いかわからないグレースに次々に的確に指示をしたのがノーマだ。
いくら手が早かったとしても、何をして良いかわからずボーっとしている新人に「仕事が出来る侍女」という評価は下されない。グレースとヘラを引き合わせたのは間接的にはノーマだし、グレースの最初の評価の90%以上が実はノーマの有能さによるものだったりする。グレースはそれがわかっていてノーマを高く評価している。「ウチら最強コンビだね!」と言っているノーマは実は自分をそれほど高く評価していない。
グレースの本人格は陽菜を見ながら、そんな事を考えていた。それを見ながら俺は思う、やっぱり考える事は異世界の事なんだな、日本は俺の故郷ではあるけどグレースの故郷ではないもんな。異世界に帰りたいんだろうな。・・・俺はどうなんだろう?日本に帰ってきて文明社会に触れて正直ホっとしてる。酵母から手作りしなきゃいけない異世界と違い、店に入れば白いパンが売っている。食材も調理器具も簡単に手に入る。料理で生きていくのも簡単だ、アルバイトですら料理をしながら金銭を得る事が出来る。でも日本に俺の居場所はない。「日本に帰って来た」という感じではなく「日本に来た」って感じなんだよ。俺が帰るべきは異世界になってしまったみたいだ。かなり感性がグレースに近づいている・・・というか、人格が混ざっているのを感じる。どちらかの人格が消えるのではなく、混じって最終的には一つになるのだ。
以前であれば頭の中でグレースの主人格に話しかけるか、向こうから話しかけてこないとグレースの主人格が考えている事がわからなかったが、今は意識すれば主人格の考えている事がわかる。今だって「あ、今ノーマの事考えてるな」と意識したからわかるし。
「意識が混じっているな」と強く感じるのは「好みの変化」かな?
以前グレースはレーズンが食べられなかった。食べ物の好き嫌いがない俺と混ざって好き嫌いが無くなったみたいだ。プライベートで着る服でも以前はどうでも良かったけど、最近は「あーでもないこーでもない」とグレースの本人格と議論する事が増えた。仕事終わりに風呂に入っている時にノーマの裸を見て「胸大きくてうらやましいな」と思う。グレースもスレンダーな割りには胸はまあまあ大きいほうだが、巨乳とは言えない。
王女の髪形を「可愛いな。真似してみようかな?でも髪の色が違うからおかしいかな?」と思う。
はっと我にかえって「今、何を考えていたのか!?」と思う。
俺は「ああなりたい、うらやましい」と思ったのか?
よく考えたら、グレースとの共存生活はまだ一週間くらいしか経過していない。これからもどんどん変化していくだろう。
人格が混ざるのは「お互いを理解する」という感覚でイヤじゃない、どちらかといえばうれしい。
ただ一つだけ言わせてくれ。
「俺は男は恋愛対象にはならん!」
これも人格が混じったら、「好みの変化」と共に男が好きになるのかな?それだけはイヤだ!
グレースの本人格が「別に自分は『男好き』ではない。人聞きの悪い事を言わないで欲しい」と不満そうだ。




