ネメシス
「面倒くさいな、お前もう死んでも良いよ」
従姉はそう言われたと言っていた3日後に謎の変死体として発見された。
「死にやがった。まったく誰が掃除すると思ってるんだよ」
首を吊った母親を見つめるネメシスの前で下男がかまわず言った。
ネメシスが生きているのは「利用価値があるから」「生きていた方が都合が良いから」だ。
利用価値がないネメシスに生きている資格はない。
三巴で誰が王になるかまだわからなかった頃、ネメシスの陣営にも沢山人がいた。
王子が勝負から降り、王子の陣営にいた人達がヘラの陣営についた事でパワーバランスが崩れた。元から毒婦と同じ血が流れているネメシスに味方などいないのだ。
負けが確実になり、利用価値のなくなったネメシスの陣営に残ったのは老婆の魔術師、一人だけだった。
老婆はお産の時、ネメシスを取り上げてくれた産婆でもあり、昔からのネメシスの唯一の味方だ。
「姫様、希望は捨てちゃなりませんぞ、何せ姫様はまだ生きているんですからな?」老婆は言う。
「えぇ、もちろんよ。それに王位は多数決で決まるんじゃない。私は王が愛した女の子供よ?必ず指名を勝ち取ってみせるわ!」ネメシスは力強く言った。
しかしネメシスの本音は別にあった。「殺される前に母親の名誉を回復したい。国王に母親の墓前で守れなかった事を謝罪させたい。そして何より国王に自分を認識させたい、自分が殺された時に国王に涙の一つも流させたい」老婆はネメシスに「死んでほしくない」と思いつつも「自分が味方しないと姫様は独りぼっちになってしまう」と味方をしていた。
確かに次代の王の選考は多数決ではない。女王にネメシスが指名される可能性が僅かながら存在する。だからネメシスは「ネメシスが女王になると都合が悪い存在」に、いつ暗殺されてもおかしくないのだ。
だからネメシスは死ぬ前に自分の存在を国王に認めさせたい、自分の活動を国王に見せたい。
その時にグレースが、グレースを通じてヘラが目立つのは好ましくない。だからグレースに退席してもらおう、という訳だ。本当に「グレースがいなくなれば一発逆転できる」などとは思っていない・・・というか、この後に及んで「女王になろう」などとは毛先ほども考えていなかった。
作戦はこうだ。
まずグレースをネメシスの部屋へ呼び出す。
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グレースを部屋で準備されている魔法陣に乗せる。
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老婆の転移魔法で半年前にいた場所へグレースを飛ばす。
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半年前、グレースが寄宿していた学園国家とは、魔王軍と和平条約を巡り見解の相違があり、現在国交がない。
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帰ってくるのに複雑な手続きが必要で半年はかかる。
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その間にすべき事をする。
作戦は完璧に成功した、転移先以外は。