転機
「どうしたらあなたのようなオムレツを作れるんですか!?」
俺はホテルのビュッフェバイキングでオムレツを焼いている料理人に教えを乞う。
「やめなよ、恥ずかしい」
初デートの女の子に止められた。
何が恥ずかしいんだろう?わからない事は聞くべきだ。百年の恋も醒める、ってこういう事か。
笑いながら料理人が答える。
「もしかしてオムレツを大きなフライパンや鍋で作ろうとはしていないかい?それじゃプロでも作れない。良いかい?作ろうとしてるオムレツやオムライスの大きさより少し大きいのがフライパンの半径だ。オムライスはある程度大きなフライパンを使うけどね、オムレツ用のフライパンなんてこんな小さいんだよ。『名人道具を選ばず』も大事だけど『名人じゃないからこそ道具や環境を整える』っていうのはもっと大事だ。まぁ、だいたい名人って呼ばれてる人は包丁や道具にこだわるんだけどね。あとは練習あるのみだ、頑張れよ少年!料理人になりたいのかい?」
「わかりません。わかりませんけど料理は一生したいと思っています!生き甲斐なんで!ありがとうございました!」
というところで目が覚めた。
久々にこの夢を見た。占い師は「この夢はあなたに転機をもたらす前兆です」と言っていたな。確かにオムレツ作りに苦戦してた時に転機になったエピソードではあるけど。何が起きるのやら・・・と思いながら、モゾモゾとベッドから起き出した。
老婆の魔術師が水晶玉に手を翳している。
水晶玉にはグレースが映し出されている。
「この少女が現れてから、王位継承争いの風向きが変わったようですな。王子の王位継承権返上もこの少女が原因、と水晶は答えております」老婆はノロノロと言う。
「この少女・・・ヘラが『たった一人の友達』と言っていたという侍女じゃない?」国王の長女、ネメシスは答えた。
ネメシスの母親は側室だ。だが、国王と唯一恋愛関係にあった女性で正妻になる予定であった。親戚筋に「毒婦」と呼ばれる王妃が現れるまでは。
国王とネメシスの母親は一転、結婚を周囲に反対された。結局二人の駆け落ちを怖れた周囲により、ネメシスの母親は側室としてネメシスを産む事となった。
しかし「あの毒婦と同じ血が流れている」と王宮内で、ネメシスの母親は酷い扱いを受け、自ら身を投げる。毒婦の血が流れている、という事は王国では呪いを受けたと同義で、毒婦の息子は王族の位を剥奪され飛ばされ、その遠戚の少女は家族とともに「毒婦と同じ血が流れている」というだけの理由で地方の塔に幽閉された。
ネメシスは女王候補ではあったが可能性はかなり低かった。
国王が母親を守っている間はそこそこの女王候補であったが、母親が身を投げてからは国王自体がネメシスの事を忘れてしまったのではないか?と言われるくらい後楯がなかったのである。派閥に属していた貴族達も日に日に減っていく。
ネメシスに出来る事は人畜無害さのアピールだけである。
いつしかネメシスは「毒にも薬にもならない人形姫」と呼ばれるようになっていた。
「王位継承争いの一騎打ちはヘラが断然有利」
周囲ではそう言われていた。
ネメシスは起死回生の策を魔術師の老婆と共に考えていた。
「突然現れたこの少女を元の場所へ返してしまいましょう。この少女がいなくなれば可能性は見えて来ます」
ネメシス、復讐の女神の名をつけられた少女は不敵に囁いた。