彼氏(かのじょ)が風呂に入ったら
仕事が終わると侍女たちは使用人専用の大浴場に入る、というか入らなくてはいけない。
宮廷で働いている者は街を歩く時、「宮廷で働いている」という看板を背負っているので宮廷から街まで歩いて帰る時身を清めなくてはいけない。
昼勤務が約20人、夜勤務が約5人、中間勤務が昼勤から夜勤、夜勤から昼勤の各5人で一日に35人の侍女が働いている。
侍女はシフト制の勤務をしているので、休みの者も合わせて50人いるが、夜勤務は基本的に見回りが主になっており、洗濯や掃除などの作業をしないので人数が少ない。中間勤務も昼勤と夜勤の継ぎ目を無くす事と、円滑な引継ぎを目的に置かれているので人数が少ない。
新人は基本的に昼勤務になる。人数が少なく教育に人数を割けないので、一人立ちしないと中間勤務と夜勤務を任される事はないのだ。
という訳でしばらくは毎日20人の美女と風呂に入る事になった。
脱衣所で服を脱ぐ。特に気にせず周りに女性が服を脱いで裸になっている。
いや、男の前で年頃の娘さんが肌をさらしてはいけません!とか思ったがここに男はいないし、自分も女の子だった。
でも侍女たちの裸を見ていると思うね。宮廷で働くという事は看板を背負って働くという事で、だらしない体つきしてる女の人いないね。自分を律してるというのかな?勉強になるね。
周りを見渡していると、
「周りを見ても女しかいないわよ?もしかしてそういう趣味なの?」とノーマが冗談交じりに聞いてきた、当然一糸まとわぬ姿だ。
言われて気付いた。「何で美人の裸を客観的に見ているのだろう?何で興奮しないのだろう?何で恥ずかしくないのだろう?自分の見慣れた裸を見て興奮しないのはわかる。いちいち興奮してたら生きていけない。
だけど初めて見る女性の裸を『勉強になる』とか『こうなりたい』と思っている。俺は本格的にインポになってしまったのだろうか?」
考え事をしていると、いつの間にか周りに人だかりが出来ていた。
「流石イシス主任の娘、プロポーション良いわね」
「今日作った賄いの料理の作り方を教えて」
「仕事が完璧だったけど、やっぱりお母さんに仕込まれたの?」
「好きな男の子のタイプ教えて!アンタと競合したら勝てる気がしないわ」
「えっと…あの…」圧倒されてしまって言葉が出てこない。「女が三人寄れば姦しい」などと言うけど、三人どころではないのだ。
それに「綺麗な肌ね」とか「枝毛が一本もないけど本当に髪の毛ケアしてないの?」とか「すごいプロポーションね、維持するために何かやってるの?」とボディタッチしてきた。
もしかして男の性的興奮って局部が要素の大部分なのかもしれない、だって局部がなくなったら裸の美女たちに体中を触られても全く興奮しないから。
「みんなに囲まれて一気に質問されて困ってるよ、この子。質問は追々すれば良いじゃない。今はゆっくりさせてあげましょう?」
ノーマはかばうようにグレースに抱き寄せた。
本格的に俺はどうかしてしまったようだ。裸の美女に抱き着かれて安心感を得ていたのだ。
風呂から出て、遠巻きに見ていたイシスと一緒に歩いて家に帰る。
よく考えたら「異世界で〇〇をする」という目標が一切ない。
何をしようか?まあ考えるのは明日で良いか。今日は慣れない環境で少し疲れた、早めに休もう。