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アポロン

イシスは王子のところへついて来る気だ。

「たとえ命令違反で処罰されようと、娘だけは守りたい」と思っているようだ。仕事に私情を挟み感情的になるイシスは珍しい。それだけグレースの事が大切で、それだけ王子が危険な存在なのだろう。

グレースの本人格が「イシスだけは巻き込みたくない」と俺に懇願する。美しい親子愛じゃねーか、ここで何とかしなくちゃ男が廃る、今は男じゃないけど。

何とか「一人で大丈夫だから」とイシスを説得し、王子の部屋へ向かう。


「失礼します」ノックして王子の部屋へ入る。

「よく来たね、子猫ちゃん。僕が王子のアポロンだ」

そこには薔薇をくわえ、メイクをした(アホ)がいた。

いかんいかん、無言でドアを閉めて出て行こうとしてしまった。

「子猫ちゃん」てリアルで言ってるヤツ初めて見た、薔薇くわえてるヤツも。コイツ感性がいちいち「昭和」なんだな。グレースの本人格が「昭和」の説明を求めてくるが、説明のしようがない。

そんな事より、初めて会った王子にグレースの主人格はノーリアクションだ。おかしいだろ?こんなイケメンなかなかいないぞ?グレースの男の趣味ってどうなってるんだよ?言っちゃ悪いけどグレースが惚れてた隣の兄ちゃんってブサイクだよね?サル顔が好き?いや、あれはどう考えてもブタ顔だろう。

グレースの本人格が言うにはどうやら「男が思う良い男」と「女が思う良い男」は違うらしい。女が合コンに連れてくる「可愛い女の子」に男が思う可愛い女の子がいないのと同じ理屈か?いやあれは「自分を可愛くみせるためにブサイクを連れてくる」という高等テクニックだ。それを差し引いてもグレースの男の趣味はマニアックだと思うが。好みどうこう以前に「自分の魅力に酔ってる男が苦手」らしい。あと「自分の魅力に気付いてて、女を食い物にしてる男に吐き気がするほど拒絶反応が出る」そうだ。俺も良い男はどちらかと言うと嫌いだ。何で嫌いかは知らない、僻みかもしれない。でも嫌いなモノはしょうがない。とにかく二人とも目の前のイケメンを生理的に受け付けないらしい。二人の意見が完全に合致するのは珍しい。


アポロンは自分の容姿に絶対の自信を持っていて「自分の笑顔で落とせなかった女はいない」「グレースは篭絡寸前だ」と思っている。実際にはアポロンの容姿で女達は落ちていた訳ではなく「王子に逆らえば後が怖い」と泣く泣くアポロンの言う通りにしていただけなのだが。

アポロンを「生理的に無理」と思っているグレースにとって、ポーズを決めながら流し目を送ってきているアポロンを見ても「アホがタコのようにクネクネしながらこちらを見ている。気色悪い」としか思わない。

完全に勘違いしたアポロンは「最後のひと押しだ」とばかりにグレースを押し倒した。アポロンを擁護するつもりはないが、アポロンはそんな強く押し倒した訳ではない。「イヤなら拒絶すればいい」くらいの軽い押し倒しだ。だがそれに対してグレースは全く抵抗が出来なかった。筋力が無さ過ぎたのである。

「君の瞳に乾杯!」アポロンはグレースの耳元で囁いた。アホだ、昭和のセンスだ。グレースの本人格が「昭和」についての説明をしつこく求めてきたが今はそれどころではない。

冗談ではない!何が悲しくて色んな意味での「初めて」をこのタコ男に捧げなくてはならないのか!?

グレースは焦りながらゲンコツを握り、アポロンのおでこをコツンと叩いた。

グレースが王子に攻撃してもダメージを与える事は出来ない。まして王族に対する手加減したゲンコツなど王子には蚊が刺したほどにも感じるはずがない。

しかし一平民が、一侍女が王族に手を上げたのだ、『不敬罪だ』と言われ処刑されてもおかしくはない、というか王子の性格であれば間違いなくグレースを処刑するだろう。

だがそのゲンコツには「家事能力全般」の中の『子育て最終奥義』と言われているしつけスキル『愛のムチ』が発動していた。

『愛のムチ』は戦闘スキルでも攻撃手段でもない。『愛のムチ』をうけた者は大して痛くなくても、「この人に暴力を振るわせてしまった」と心が痛くなる。いままで猛り狂っていた感情が冷静でおだやかになる・・・つまり、ステータスの状態異常が全て正常になるのだ。

王子がずっとかかっていた状態異常、『発狂』『色情』『混乱』『増長』が解けた。

「こんな穏やかな気持ちは生まれてはじめてだ・・・」王子は憑き物が落ちたような顔をしている。


その後王子は「自分の器ではない」と王位継承権を返上し、王宮の住まいを引き払い地方へ引っ込む。王子は元来の才能の無さを努力で補い、評判の良い名君として辺境を治める。また王都の城下町から母親を呼び寄せ一緒に仲良く暮らしたという。


王子は娘に「グレース」という名をつける。

「いいかい?お前に名前をくれた人はね、お父さんの目を醒まさせてくれた人なんだ」

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