カツレツ
王女を伴いグレースを背負ってレオンが帰ってきた。
傍から見ればグレースはハイキングの最中にのびてしまった情けない侍女だ。
事情を聞いても、ドラゴンを見て腰を抜かしてしまった情けない侍女だが。
「ちがう。ドラゴンと戦ったのはグレースだ」とレオンが言ってもグレースをかばっているようにしか周りには受け取られなかった。
城に戻ってきた一行に治療が施された。
といっても王女は無傷、勇者はかすり傷治療、グレースには体力回復の呪文がかけられただけだったが。
レオンの証言を元にドラゴンの死骸が城へ運び込まれる。
ここで問題が発生した。「倒したドラゴンは伝統的に王族の食卓に並ぶ」これは別にかまわない。
問題は「城の料理人たちがドラゴンをさばけない」という事だ。
レオンはグレースがドラゴンの首を果物ナイフで切り落とすのを見ていた。
レオンはグレースに「ドラゴンをさばいてみないか?」と聞いた。
それに対しグレースは「やってみたい」と答えた。
ドラゴンは皮をはがすのが大変で料理人たちは戸惑っていた。その時グレースはどうやって皮をはがすか、より「どうやって料理しようか?やはり同じ爬虫類のワニのようにカツレツにしようか?」と考えていた。
ノコギリで何とかドラゴンを解体しようと、城の若い男の使用人達が集まるも苦戦していた。
そこに現れたグレースが、ドラゴン一匹まるごとを包丁一本で解体してしまったのだ。
呆気にとられる周囲をよそに、ドラゴンの肉を叩き柔らかくすると今朝大量にサンドイッチを作った時に切り落とした大量のパンの耳をころもにし、ドラゴンのカツレツを揚げはじめた。
カツレツと言えば中濃ソースだが、自家製中濃ソースを作るには少し時間が足りない。
今回は自家製ケッチャップと自家製マヨネーズを混ぜオーロラソースを作り、カツレツのソースにしようと思う。
あとグレースはドラゴンのタンのローストを作った。
暗殺される危険がある王族の料理は決まった料理人が決まった料理をする。王族に生まれたからには仕方ない事ではあるが、食べたい物を食べたい時に食べる事は出来ない。前回グレースが王族の料理を作ったのは特例中の特例であり、イシスの力であった。今回、グレースが手伝ったのはドラゴンの解体まで、という事になっている。でもグレースは何とか自分を命を懸けて守ろうとしてくれた王女に感謝を込めた料理を食べて欲しい、と思っていた。
通常ドラゴンは解体出来ない。王族の食卓に並ぶといっても、ひとかけら焼いた身が食事に出るだけだ。
しかし今回は二皿、ドラゴン肉のメニューが食卓に並んだ。しかもそれは絶品であった。
「実はドラゴンを料理したのはグレースだ」という噂が数日後には国王の耳に届く。