ドラゴン
普段であれば勇者はパーティを連れ迷宮に潜っている。
今日は勇者は王女のボディガード、パーティメンバーは休暇を満喫している。このタイミングを待っていた連中がいる。迷宮を探索している冒険者たちだ。今日は迷宮を探索し尽くしてしまう勇者パーティがいないのだ。宝箱も自分達の物だし、最深部到達パーティの栄誉も自分達の物だ。だが彼らは知らない、勇者パーティは危険な強いモンスターを狩りながら探索をしている。勇者パーティが通った道に危険なモンスターはいない。
冒険者たちは気付かずに、自分達には手に負えない階層に到達していた。勇者パーティが危険なモンスターを狩り尽くしていない階層でドラゴンに会った冒険者達は一目散に地上へ向かって逃げた。逃げ遅れた冒険者が7人ほど犠牲になったが、5人の冒険者は地上へ逃げる事に成功した。ただ、地上にドラゴンを連れて来てしまったが。
王女はガタガタ震えながらグレースに抱きつく。
「私はお姉さんなんだから。妹は守らなきゃいけないんだから・・・」小声で何かを念仏のように繰り返している。
「まずったぞ・・・」レオンは弱音を吐いた。パーティーでドラゴンを倒した事はある。自分一人でも無傷ではないにしろドラゴンを倒せるだろう。しかしドラゴンの一撃で死んでしまう二人を守りながら、一人で戦ったら・・・どちらか一人を犠牲にしたとしても正直分が悪い。
ドラゴンを吹き飛ばし、二人がいないところで戦えばドラゴンは倒せる。だが、ライオンが狩りをしているそばにはハイエナの群れがいるように、ドラゴンのそばには他のモンスター達がおこぼれをもらおうと控えている。レオンがドラゴンを倒している間に他のモンスターにあの二人は殺されてしまうだろう。
「こりゃ詰んだかな?」レオンは弱音を含んだ雑念を頭に思い浮かべた。
それを見透かしたように隙をみせたレオンをドラゴンは尻尾で吹き飛ばした。
「しまった!!!」レオンは空中で態勢を整え、二人の元へ急いだ・・・が、すでに手遅れだった。レオンを吹き飛ばした瞬間、ドラゴンは王女とグレースの目前に迫っていたのだ。
王女はグレースを強く抱きしめていた。死を目前にして、それでなお王女はグレースを守ろうとしていたのだ。グレースの胸に、いとおしさと決心がこみ上げてきた。「自分はどうなっても構わない。目の前の少女だけは何があっても助けよう」
二人を呑込もうと、ドラゴンの頭が迫る。
『家事能力全般』に戦闘スキルはない、たった一つを除いては。
その名も家事スキル『母は強し』。体力全てと引き換えに目の前の対称を守り、敵を殲滅する。
レオンの目には突然青白く光輝いたグレースが、果物ナイフでドラゴンの首を切り落としたように見えた。
目をつぶっていた王女はドラゴンはレオンが倒した、と思っている。体力が尽きたグレースは立ち上がるどころか、喋ることもできない。
真実を知るのはレオン一人であるが、「ドラゴンを倒したのは自分じゃない」という言葉は人々に謙遜と受け取られた。
ちなみに、ドラゴンを倒したグレースは今までレベル1だった事もあり、鬼のようにレベルアップする。ちからは「1」のままだが料理の腕が上がり、魅力が上がりさらに美少女になったという。