勇者
勇者は国王に頼まれ時々王女のボディガードをする。
魔王軍と和平の条約が結ばれているこの平和な世界では勇者は基本的に己を鍛えるために迷宮に挑む以外やる事がない。
有事に備え勇者を囲うのは大国の責務ではあるが、勇者は時々パトロンである国王の役に立たなくてはいけない。
王女企画のハイキングに参加する事になった勇者レオンはパーティーメンバーに休みを取らせ、自分一人がボディーガードとして参加した。
城から湖までの道には大したモンスターはおらず、ボディーガードは自分一人で充分だ、と思っていたのだ。
勇者には勇者しか持てないスキルがある。
そのスキルの一つが『千里眼』であり、他人のステータスを見る事が出来るのだ。
勇者であるレオンがグレースのステータスを見た時、いくつかの信じられない数字が並んでおり、驚かされた。
ちから 1
戦闘力 1
防御力 1
魔力 1
すばやさ 80
かしこさ 120
魅力 427
器用さ 123(473)
特殊スキル『家事能力全般』
「すばやさ」と「かしこさ」と「器用さ」は普通だが、それ以外はアホの子が決めたようなステータスだ。あと器用さの後に括弧で囲われた数字がある。括弧の中は家事に関する器用さだが、そんな事をレオンがわかるはずがない。
ステータスは「0」からではなく「1」から始まる。例えば「ちから」が「0」なんて事は有り得ないからだ。赤ん坊だって、ガラガラみたいなおもちゃを持つ事は出来る。
つまり「魔法の才能がない」場合、魔力は「1」になる。
魔法はしょうがない。もって生まれた物がある。でも「ちから」と「戦闘力」と「防御力」は多少の数値の違いはあっても「誰でもある程度ある物だ、でないと生きていけない」とレオンは思っていた。しかしグレースはちからが「1」だったのだ。例え話をすると「この子力強いな」という新生児がだいたい「ちから 3」で、「鍛えていないから力が弱いのはしょうがない」と言われている王女が「ちから 27」だ。
簡単に言えば「グレースは戦えない」と言う事だ。
ただステータスが低いのか、と思いきや「魅力」は255でカウンターストップのはずが、限界突破している。まあ、王女やイシスも魅力は限界突破していたので、「王女の周りの人は魅力が限界突破する何かがあるんだろうな」とレオンは漠然と思っていただけだったが。
グレースは非戦闘員のための護身用の短剣を装備出来ない。過去にこんなケースはなかった。湖に行くまでは自分で自分を守る、というのが常識だと思っていた。多分この侍女は雑魚モンスターに負ける。しかも子供にペットとして飼われる事が多いウサギ型モンスターに。
王女がやたら張り切っている「大丈夫だよ!グレースは私が守るから!」と。本当に王女に侍女を守らせるわけにはいかない。
とりあえず果物ナイフを装備させる。いや、装備できると思わなかった。だって「ちから1」だし・・・。
あとで「家事に関わるものならどんなに重くても普通に持てる」という事が判明する。
「筋肉美」「肉体美」というくらいだ、筋肉にも美しさはある。筋骨隆々のレオンがそこそこ魅力が高い事でもそれは明らかだ。じゃあなぜグレースは筋肉がないのか?
女神フレイアの趣味だ。フレイアは「女性らしさ」「女の子らしさ」を好む。美の究極形態がグレースだ・・・とフレイアは思っている。えらい迷惑な話だ。
レオンが言う。
「それじゃあボチボチ出発しましょうか?」