member 1
――――リリリリリリリリッ!
唐突に甲高い音が耳をつんざく。
アラームの音とはわかってはいるけれど、ひどい不快感を覚える。
うーん、うるさいな……。
少しの怒りと共に、目覚ましのスヌーズを止めるスイッチを手のひらでひっぱたく。
すると目覚まし時計はポーンとどこかに飛んでいき、どこかにぶつかったのかさっきまでの音よりも大きな音をたてた。
目覚ましからしたら、せっかく起こしたのに叩かれるなんて、理不尽にもほどがあるかも。
ま、機械に意識があるわけないし、どうでもいいかな。
それにしても、おかげさまで少し頭は動いたものの、眠気は全く離れる気配を見せないまま。
体、腕足、指、目、何も動きたくないと訴えかけてくるまま。
いいや、二度寝しよう。
目をつむっていても伝わるカーテン越しの太陽光から逃れるべく、もぞもぞと亀のように布団にもぐる。
なんて心地がいいんだ……。このまま、ずっと寝ていたいな。
と、そんな安らぎを邪魔する母の大きな声。
「里美、6時!朝練あるんでしょ!」
もう、いつもいつもうるさいな。
わかってるよそんなこと。
布団のなかでむくれてみる。けれど、その声のおかげで意識の覚醒が加速してきた。
同時に思い浮かぶ、靄のかかった一人の少女。
少女は頭の中で声をあげた。
『弱いのに朝練出ないとか、やる気ないの?里美が怠けてる間に私はもっともっと強くなるから。100年かかっても負けないくらいに』
相変わらず脳内でも腹が立つことを言うな。
私はやる気に満ち溢れてるっての。
もう今すぐ溢れんばかりに。
ふんっ、鼻から息をはいて、布団から起き上がる。
左を向くと、鏡が目に入った。
何年か前から肩までの長さになったストレートの髪の毛に、悪くはないであろう顔立ち。
少し幼めに見える顔立ちなのは、気には食わないけれども、伸長は156cmと普通くらいなのでよしとしよう。
今日は寝癖がついてないみたい、さっさとご飯食べに行こう。
まだ少し眠い目をこすって、カーテンも開けずに部屋から出て一回にある食卓へと向かう。
近づいていくごとに少しずつ、食欲を掻き立てられる匂いが強くなる。
そうして手探り気味に階段を下り、一番においの強い部屋の扉にまでたどり着く。
ガチャリと扉を開けると、テーブルにはもうすでに少し焦げ気味のパンと私の好物のピーナッツクリームが用意されていた。
「朝練、6:40からでしょ?早くしないと遅れちゃうわよ」
「ん」
キッチンにいる母に相槌だけの返事をしつつ、椅子に座る。
そうして乱雑にクリームを塗って、まだら模様になった食パンを口へと運んでかじる。その瞬間口に広がるひどい苦み。
予想以上の香ばしさに飲み込むのに必死になってしまう。
苦戦しつつも無理矢理にパンを飲み込むと、覚醒した意識から、口から、文句が吐き出された。
「お母さん、何このパン!どんだけ焦がしたのよ!表面だけうまく削ってさ!」
そういって、黒く染まった裏面を母のいるをキッチンに向ける。
けれどその声は調理の音にかき消されたようで、母へまでは届いてないようだった。
………仕方ない、か。
はぁ、とため息が漏れつつも、クリームを大量に塗ることで少しばかり緩和して食パンをたいらげていく。
食事がこんなに長く感じたのは久しぶりだ。
そうして食事を済ますと、歯磨き、洗顔、服の着替え、持ち物の確認を手短にすまして、日の当たる玄関へと向かった。
なんてあたたかな日差しなんだろう。
らしくないことを思いつつ靴を履いていたら、寝惚け眼を擦っている妹と、お弁当を持ってきてくれている母がこちらによって来た。
そうしてお弁当を受け取ると、母とうつろな目をさする妹にいつも通りの一言。
「そんじゃ、行ってきます!」
さぁ、今日も卓球だ!
外へ出て、スカートなのもお構いなしに全力で走り出す。
スマホで時間を確認。
6:33。
学校はもう見えているし、下にユニフォームを着てるから着替えの時間も短縮できる。この抑え気味なペースでも十分余裕がある。
しばらくペースを維持し、学校まで後半分あたりまでたどり着く。
すると唐突に後ろから何者かが私を追い抜いた。
でも微妙に甘い香りがするあたり、きっと彼女。
「おっそ!思わず追い抜いちゃった」
少女はわざとらしく声を張り上げ、こちらに振り向く。
その姿は悔しくも容姿端麗……。
綺麗に伸びた腰までの金髪、そして152㎝の伸長と幼い顔立ち。
本当にまるで作り物のようだ。
成瀬 彩月、同級生の卓球部員。
「む、全力なら私のが速いよ」
少し悔しいので、ペースを思いっきりあげる。
疲れなんて知ったことじゃない。全力で追い抜くんだ。
するとそんな心意気をよそに、私に追い付かれそうなのをみてむきになってか、彩月もペースを上げてくる。
結果として、互いにほとんど拮抗する形となってしまった。
「それで、本気なの?私は、もっと、速くできる、けど」
「私だって、速くできる……!」
ほんの少しでも、彩月より先に行きたい。
だから限界の限界までペースを上げる。足が痛くなろうが知ったことじゃない。
……負けられない!
そんな気持ちが先行しつつ、何とか追い抜こうと努力しつつ、私達は全力で卓球場へと向かった。
キャラクター紹介(水代高校部員編) その一
風音 里美
…… 中ペン 赤ラバー:裏ラバー(高弾性) 黒ラバー:表ラバー 前陣中心
成瀬 彩月
…… シェイク 赤ラバー:裏ラバー(粘着性) 黒ラバー:裏ラバー(テンション) 前陣中心