はじまりの森
「はぁ! くらえなのじゃ! 」
ビュン!
「はぁ! てやぁ! こなくそぉ!」
ブン! ブン!
スキルアシストに興奮して剣と盾を振り回すユーカ。俺も短剣を振り回していた。
5分間くらい振り回していたらスタミナバーがすこし縮んだ上に黄色から黒に、つまりゼロになって息切れを経験した。
「はぁ…はぁ…」
「なんじゃ、お兄は弱いのう」
俺はエルフだからか体力がないらしい。
ユーカはドラゴニュートだからか全然へっちゃらだ。
しかしこの感覚は面白い。
剣を振ろうとすると自然と腰が入るというか、全身を使って剣を振れる。
楽しい。
まぁそれ以上に気になっていることがある。
実はさっきから視界に物騒な文章が表示されていた。
〜この森は危険な気がする〜
〜森には行かないほうがいいだろう〜
〜ここから先に神はいない〜
「なぁ……ユーカ、気のせいかな、俺の直感スキルがバシバシっと、ログを伝えてくるんだが……」
スキルが有効化されてから俺の視界下側には文章が現れては消えていた。
突然現れた時は驚いたが、これが直感スキルの効果らしい。随分と使えそうだ。だと言うのにユーカは
「気のせいじゃ。お兄の勘はあてにならんのじゃ」
と一蹴されてしまった。スキルなんですけどー………
「いや、それでもあとすこし…そう、連携の確認とか魔法の練習でもしとこうぜ」
「妾の忍よ。戦闘は妾に任せ、薬草を探すといいかのう!」
聞く耳持たず。
そう言いながら盾を背中に担ぎ、兜を装備したユーカ。
早く戦いたいらしい。
仕方なく俺も装備を確認し、短剣を構えて森に入っていく。
「盾は背中に担ぐんだな」
「うむ、後方からの奇襲を防ぐためなのじゃよ。いざとなれば持てばよいのじゃ」
「ふーん、でもその重装鎧だけで十分な気がするぞ。それに奇襲されるとしたら軽装な俺だし。持っておいた方がいいんじゃないか?」
「ふん、小童なのじゃな。素人は黙っておるのじゃ」
ユーカは完全に自分のキャラになりきっていた。
「あー、はいはい……」
そんなこんなで俺たちは森の中に入っていった。
自然と、ユーカは周辺警戒という名の敵探し、俺は森に入ってすぐ手当たり次第に草を鑑定という役回りだった。
そしてすぐに薬草は見つかった。
「お、薬草みっけ!」
念のためもう一度鑑定してみる。
〜薬草〜
???
「おお、これも、これもだ! やったぞ。 ユーカ、こっちだー‼︎ 薬草の群生地だぞ!」
案外近くにあったもんだなーこれだけあれば十分だろう。
あたりを見渡すと雑草に紛れつつも30束以上はありそうだ。
ひゃっほう!
「本当かの⁉︎ って、お兄……それ茶草じゃな」
近づいてきたユーカが呆れ顔で言う。
いやいや、何度も草を鑑定してみるが薬草だ。
「なんだって? でも薬草と……」
ユーカが可視化させた表示を空中に浮かせ、鑑定結果を見せてくる。
〜茶草〜
お茶にすると美味しい雑草。薬草とよく間違えられる。
「流石賢さ半分……。まぁ、しかたないかのう。それじゃ、お兄は索敵よろしくなのじゃ」
「ち、ちくしょう……。茶葉が雑草なんて絶対おかしいよ……」
というやり取りを経て、俺が周辺警戒、妹が手当たり次第に草を鑑定になった。流石ステータス2倍のドラゴニュート。どうやら俺のINT値は妹の3分の2ぐらいみたいだ。
「断じて半分だとは認めないぞ? 俺の種族はエルフだから少しはINTに加算されてるはずたしな!」
「まあ半分近くという事にはかわりないのじゃな。はっはっは! エルフが聞いてあきれるのう!」
兄を超えた事がそこまで嬉しいのか。
兄はいつか魔法盗賊としてお前を超えるぞ。
覚えてやがれ!
それとデスペナの返済はトイチだからな。
そう心に誓った。
「くぅ……。それで薬草は見つかったのか?」
「うーん、全然見つからないのじゃ!」
「そうか。それじゃ、奥に進むしかないのな」
「うむ、全速前進じゃ‼︎ 」
こうして森をまっすぐ進む事10分ほどが経った。
遂にユーカが本当の薬草を1束見つけた。
「おっ、薬草じゃ!」
その時だった。俺の直感スキルが反応したのは。
〜 後ろだ 〜
すぐさま振り返り、がさがさと揺れる茂みに指をさしながらユーカに声をかける。
「ユーカ! あっちから敵だ」
「な、なんじゃと‼︎ 」
俺の掛け声に合わせて、ユーカは鑑定中の薬草を放り投げ、俺の前方に駆け寄った。
戦闘は任せたぞ。俺は後ろに下がりつつ、薬草を拾っておく。
ちぎっているが品質とかって大丈夫なのだろうか……。
いや今はそれどころじゃないな。
ユーカの方を見ると茂みが揺れて段々と何かが近づいてくるのがわかる。
「気をつけろよ、ユーカ」
小さな声で注意しておく。
「もちろんじゃ。」
剣を構えしばし待つとそいつは現れた。
「キュイキュイーー!」
ピンクの毛をまとったそいつは、
「って、 兎なのじゃ!」
茂みから現れたのは兎だった。
ユーカが俺に振り返り、怒る。
はぁ…これが直感スキルの力だったのか。
俺の勘は外れる。
気を取り直して兎を鑑定してみる。
〜フォレストラビット〜
ノンアクティブモンスター
???
「まったく、お兄! 驚かせないでよね! こんな可愛いノンアクティブじゃなくて、私はアクティブなグヘヘなモンスターと戦いたいのに!」
「すまん。まあまあ……剣を振り回すと危ないからさ。おちつけおちつけ」
ユーカは半ばロールを忘れるほどに戦闘がしたいらしい。
剣道の試合なんかよりモンスターと切った張ったのほうが楽しいのはわかるが……豹変しすぎやで。
「おちつけるかーーーー!!!! 戦いたいんじゃーーー!」
そこに俺の直感スキルが反応した。
〜目の前から何かが近づいている気がする〜
うさちゃんが出てきたところの茂みがまたも揺れる。
どうやらユーカは気づいていないようだ。
「ねぇ、聞いているの⁉︎ 」
「グギギ……」
茂みからゴブリンが剣を振りかぶりながら現れた! そのあまりのリアルさに俺は声が出ず、とっさに行動をとっていた。
「ユーカ危ない! 」
とっさに背中に倒れつつユーカの手をこちら側に引っ張る…………が、ユーカはびくともしなかった。
なんだか男女が逆転したダンスのようだ…
「敵きたーーーーーー! って、なにしてんのお兄…。 背中に盾あるし、手を掴まれると取れない、んん! だがのう!」
ユーカはそんな事を言いながら背後に剣を構えゴブリンとつばぜり合いをしていた。
俺は驚いた。
背後からの攻撃を防いだとは。
情けない俺が手を離すとユーカは両手で剣を持ち直した。
「いぇぇぇ!」
ユーカは雄叫びをあげ、剣を弾く。
そして向き直ると何度かゴブリンと剣戟を繰り広げ、そして
「はっ! メェェェーン!!」
ゴブリンの胴を叩き切った。
切断面は細かい粒子しか見えない。
基礎ステータス2倍のドラゴニュートと互角に戦うゴブリン。
今の俺では勝つ事ができないだろう。
「グギギィ‼︎ 」
叫び、光の粒子に包まれて消えていくゴブリン。
経験値がこちらにも来たようでレベルアップの音がした。
俺はホッとした。
ユーカがいてよかった。
ってこの状況に連れ込んだのはユーカか。
「最高じゃ! ドラゴニュートは正解だったのじゃ。序盤からこんなに戦えるとは僥倖なのじゃ! まだ少し体はなれんがのう……楽しい!!」
ユーカは興奮したようにそんな事を言っていた。
あれでまだ本調子じゃないのか…。
「確かに、中学生の動きじゃないんだよな。すごかったぞ…。さすが剣道の天才」
「うれしいのじゃ! 流石に力では負けていたけどなん… 」
〜嫌な予感がする〜
「ユーカ、嫌な予感がするぞ!」
「って……突然どうしたの? さっきから唐突すぎるんだけど」
突然叫んだ俺の言動に眉を顰められていると、矢が飛んできた。
甲高い金属と金属が当たる音がしたと思うと、ユーカの鎧が矢を弾いていた。
「あ、そういえば直感スキル! って矢⁉︎ 騎士の私が守るのじゃ‼︎ 」
矢が飛んできた方を見ると弓を持った3匹のゴブリンがこちらを狙っていた。
ユーカはすぐさま盾を左手に装備し、俺の前に立つ。ユーカは嬉々として俺を守ってくれている。
ありがとうユーカ。
「むむ、これはちと厳しいのじゃ」
ユーカの鎧と盾が弓矢を弾く音が聞こえる。
どうやらこのままじゃジリ貧のようだ。
これは名誉挽回のチャンスかもしれない。
考えろ、ゲーム始めてから不甲斐ない俺!どうすれば……敵は3匹、俺じゃユーカを動かす事さえ出来なかったんだ。
どうすれば……。
「逃げるかのう。お兄! 退散じゃ」
「退散じゃ……ってお前の足が遅いだろ! フルメイルだろ!」
すると、ユーカは意味深に顔をこちらに向ける。
そして今思い出したかのように言った。
「あ、そうじゃ…………妾の忍よ! 今こそお主の魔法忍術を使う時じゃ‼︎ 」