キャラクターメイキング! 後編
その他注意事項やメニューの使い方も学び、チュートリアルも佳境に入ってきた。
「ではマーブさん、ステータスと念じてみてください」
「おっ、遂にか……ステータス!」
なるべく格好つけて唱えてみると、目の前にスクリーンがてできた。
−マーブ−
種族 未設定
スキル
未設定 未設定 未設定 未設定 未設定 未設定
「未設定がゲシュタルト崩壊……」
「お、出ましたね。それでマーブさんはどんなプレイスタイルを考えていますか? あと容姿はどうしますかね」
容姿は心理学やらなんやらかんやらの観点から髪型ぐらいしか変えられないらしい。
でも種族には獣人とか龍人があるんだからその理屈はよくわからん。
リアルの顔よりは読み取りの際、自然と整った顔になるらしいのでリアルバレとかは心配しなくていいと公式サイトでは言っていた。
「このままでお願いします」
髪型や色はゲーム内で変えられると聞いたので何か不都合があればこのどこにでもいそうな髪型は後で変えればいいと思ったのだが……。
「なんだか名前といい、髪型といい、モブみたいな感じですね。そういうプレイなんですか? マーブさん。もうモーブさんでいいんじゃないんですか! さっきも言いましたがもっと自分をさらけ出しましょうよ、モーブさん!」
「なんかそういう事言うと本当に可愛い妖精が台無しだよね。人は見た目だけじゃないんだよ? 」
どうやらこのチュートリアルAI (これからはチューちゃんとでも思おう。)は見た目は妖精の癖に小言が好きらしい。
小うるさい姑……いや、お節介やきなタイプだけど素直じゃないというそんな面……性格だ。
チュートリアルを受けているうちにだんだんとそう思ってきた。
だがそこもかわいいかもしれない。
「モブの癖に生意気です。 さて実は、どんなプレイスタイルがしたいかでオススメ種族とスキルを紹介するのがこのチュートリアルの役目なんですが。開発者は習うより慣れろでこのだだっ広い草原で戦うとかアイテム探すとか説明するとかそんなチュートリアルは許可されてないんですよ! というわけで長々と私のストレス発散を手伝ってくれてありがとうございます、ここからが本番ですよ!」
チューちゃんは長いチュートリアルで疲れてきたのかだんだんと本性があらわになっていた。
AIなんだから疲れもストレスもないだろうに。
喜怒哀楽の表現がすごい。
「それはきっと製作者の思い通りなんじゃ……。いや、まぁ実はそのプレイスタイルなんだけどね」
「聞こえませんね。おぉ…考えてあるんですね! ぜひ聞かせてください! あなたにピッタリのスキル、紹介しますよ!」
ありがたい。
しかしなぁ、キラキラとした顔で顔の周りをブンブン飛ばれるのは非常に気になるんだよなぁ。
短い時間とはいえ慣れとは恐ろしい。
出会った時の感動が……まぁそんなことより俺のプレイスタイルだ。
「ええっと、俺が目指すプレイヤーは魔法盗賊だ!」
「魔法盗賊ですか!?」
ふっふっふ、そうなのだ。
魔法戦士がダメなら魔法盗賊ならどうだと昨日思いついたのだ。
俺は昨日の妹とのやり取りをチューちゃんに話した。
「なるほど! 目指すは魔法剣士のようなハイブリットですか……魔法職と戦士職と盗賊職、それらのパズル的発想ですね」
なにやら深くうなずくと、チューちゃんは水を得た魚のように俺のプレイスタイルについて問い詰めてきた、
「うんうん。かっこよく言えばマジックシーフですか。英語にすればなんでもかっこいいですね! 具体的にはどんな感じで? ははぁ、なるほど。まぁつまり忍者ですか? 違う? 忍術ですか……え、火遁とか水遁とかですか? いや、それは忍術スキルだとすぐには使えませんね。それなら精霊魔法とかですかね。でも変わり身の術や瞬身の術は使えなくなっちゃうな……あ、後は基本的に解鍵とか罠探知とかですか? うん、 魔法も使って隠密もしてという感じですね。短剣もって接近戦もできるし忍術もどきという名目で魔法スキルで戦う事もできるハイブリットですね!」
まくし立てるチューちゃん、その熱意に満ちた表情は自らの存在理由を証明するように生命力に満ち満ちていた。
チューちゃん曰く、このゲームのスキルは似たような効果でも名前が違う多種多様なスキルがあるらしく困ったら町の図書館に行けと言われた。
「そうなんだよ。 ロマンあふれているだろう!?」
何故か強く忍者は否定したい気持ちになったがチューちゃんと俺は二人で目指すプレイヤー像を確かめていった。
魔法盗賊…いや、マジックシーフ。忍者(盗賊)スタイルだと妹への言い訳ができるし…素晴らしい!
ちなみにチューちゃんからはなんども、「それって忍者ですよねぇー。」と言われ続けた…。
少しイラッと来た。おぼえてろよ。
「では、オススメ種族とスキルを提示します!」
そして俺は、チューちゃんのオススメ種族とスキルの中からスキルを選んだ。
ちなみに鑑定系スキルは全プレイヤーが持っていて、隠しステータスのINT値とプレイヤーの行動によって見えるものが変わるらしい。
プレイヤーの行動というのは生産による目利きの上昇や読書とからしい。
図書館で勉強、リアルである……。
「それではこれでキャラクターメイキングは終わりです! ベータテストでは初期国の選択はできません。アーク王国、始まりの街のセーブポイントまで自動で転移します。名称はまだ決まっていませんので始まりの町です! まぁそれでは思う存分、楽しんでくださいね! 自分の心に素直になるんですよ!」
気づくと視界の左上に秒数がカウントされていた。
だんだんと俺の体が光に包まれる。
あと10秒か…頭の周りをブンブン飛びながら非常に明るく俺を送り出してくれるチューちゃん。
自分の心に素直になって感謝しておこう。
「親切にありがとう、このゲームは最高にロマンが詰まってる! すごく楽しめそうだ。 チューちゃん本当にありがとう!」
「チュ……って私の名前は……!」
途中でカウントがゼロになってしまった。
アーク王国の始まりの街に転移されるのだろう。
チューちゃんの本当の名前を聞きそびれてしまった……いかんいかん、これからはNPCに対してもプレイヤーと話すようにしよう!
こうして俺は『VRMMO・オンライン』の地に降り立つ事になったのだった。