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しめじ三郎 幻想奇談シリーズ

しめじ三郎 幻想奇談〜彼女が泊まらない理由〜(888文字小説)

作者: しめじ三郎

 俺には付き合い始めて一年以上になる彼女がいる。贔屓目ではなく可愛いし、料理もうまいし、性格もいい。まさに非の打ちどころがない子だが、ひとつだけ気になる事があった。俺のアパートに来てどんなに遅くなっても、必ず帰ってしまうのだ。

「明日早いから」

「親戚が来るから」

 さまざまな理由をつけて、決して泊まろうとしない。最初は慎ましく思えてそれはそれで好印象だったのだが、交際一年目のお祝いをした日もやっぱり帰ると言い出した。もしかして俺は嫌われているのだろうか? そんな風にも思えてしまう。

「どうしていつも帰っちゃうのさ? 俺の事、本当は好きじゃないのか?」

 内心ビクビクしながら思い切って尋ねた。すると彼女は目を見開いて、

「何言ってるの! そんな訳ないでしょ!」

「だったらどうして今日も帰っちまうんだよ」

 俺は振り向いた彼女を抱きしめて言った。すると彼女は、

「泊まれない理由があるの」

 俺の身体を押し戻した。

「泊まれない理由?」

 俺は眉をひそめて彼女を見つめた。何故か彼女は俯き加減になり、

「絶対に笑わない?」

 唐突な問いかけに俺はポカンとしてしまったが、

「ああ、絶対に笑わないよ」

 真顔で応じた。彼女はますます顔を俯かせて、

「私、よその家に泊まるとおねしょしちゃうの」

「はあ?」

 あまりにも予想外の理由に俺は彼女が嘘を吐いていると思った。他に好きな奴ができて、そいつのところに行くために帰るのでは、と勘繰った。

「嘘だろ? そんなに俺の事が嫌いになったのか? 悲しいよ」

 つい怒気を含んだ声が出てしまう。彼女は顔を上げて、

「嘘じゃないの! ホントにおねしょしちゃうのよ!」

 涙まで流して縋りついてきた。あまりにも真剣な表情の彼女を見ていたら、無性におかしくなってきた。

「おいおい、二十歳過ぎた大人がおねしょ? 腹痛え!」

 我慢できずに噴き出して、挙句笑い転げてしまった。

「笑わないって言ったのに!」

 しまったと思って彼女を見ると、空になった土鍋を両手で振り上げていた。

「ぐわ!」

 手で庇う暇もなく、俺は土鍋で額を強かに殴られた。

「笑わないって言ったのに!」

 薄れゆく意識の中で、血塗れになった土鍋を再び振り上げる彼女が見えた。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] すべての長編は厳しいですが幾つか拝読しました。 こういう短編はすきです。読み手に押しつけがましくない、さらりとした真のある暴力です。 昔、富江というホラー短編で、「男共が女のどの部位を食べる…
[一言] なぜそういうプレイにしなかったのかと小一時間問いたい。問い詰めたい。 もう死んじゃってるけど。 そいではまた
[一言] 一歩間違えるとコメディという絶妙のバランスですネ^^ じつはオティンティンがついてて最後おカマで殴り殺すというオチだと狙いすぎでしょうか (^m^ )
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