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中章


 「……この世界は、滅んだわ。」


 車を運転しながら、姉ちゃんはそう言った。


 「……人類はウイルスによってもう殆ど生き残ってない。」



 『……父さん、達は?』


 僕は姉ちゃんにそう聞いた、すると姉ちゃんは、


 「……殺された、RU、……にね。」


 そう哀しそうな顔で言った。




 ――それから暫くして……、



 「……今日は、ここで寝ましょうか。」



 姉ちゃんはそう僕に言いながら、車を止めた。


 ……そこは、誰かの家であった。


 僕は車の上から降りると、



 『……ここ、人の家だけど、良いの?』



 と聞く、姉ちゃんは笑って、



 「……こんな世界じゃ、気にする人なんて誰も居ないわよ。」



 と言った。



… … … … … … … … … …


 ――姉ちゃんは、あるグループに居て、生き残ったらしい。


 僕がそのグループについて聞くと、姉ちゃんはこう言った。



 ――「反ルインウイルス及びRU殲滅を目的としたグループよ……。」



 ……と。



 「……私ね。RUが憎くて憎くて堪らなかった。


 弟を奪ったルインウイルスを、許さないと思った。



 ……沢山のRUを殺した。



 ……でも、あなたがRUになって生きてる事を知ったの。


 それで、ボスに弟を助けさせてくれって言ったら―――姉ちゃん、脱退させられちゃった。」



 姉ちゃんはそう言って笑った。



 『……ゴメン。』



 僕はそう姉ちゃんに言う。



 ……多分、この世界だったら僕と二人きりなんかよりも、そう言うグループに居た方が姉ちゃんはきっと生き残れるのだ。


 ……僕のせいで。



 「……な~にバカな事言ってるのよ。」



 姉ちゃんはそう言いながら突然僕の頭を撫でてきた。それから、



 「私の意思で脱退したのよ。


 カイトと、一緒に居たいからね。」



 そう言って姉ちゃんは微笑んだ。


 その顔を見ると、急にドキッとしてしまう。



 姉ちゃんは僕の頭から手を離し、



 「……さーて、姉ちゃん特製非常食ディナー、作ってあげるから、ちょっと待ってなさい!」



 と言って、キッチンの方へ行ってしまった。








 「――ゲボッ!、ガハッ、ウゲェェェェッ!」




 ――ビヂャビヂャビヂャッ!




 僕は激しく嘔吐した。


 ――……胃酸の苦くて、痛い味。目の前にはさっき食べた非常食と僕の胃酸が混じりあった物が散乱していた。


 ――肉体が人間の食事を拒絶するんだ。


 ――……やっぱり、僕はもう人間じゃ、無いのかな?



 「……ゴ、ゴメンね。」



 彼女はそう俺に謝ってきた。


 ――姉ちゃんは悪くないのに……。



 僕は涙目でそう思ったが……、吐き気が強く、その事を言うことは、出来なかった……。






… … … … … … … … … …





 ――……空腹は、嫌いだ。



 ――……空腹になった僕の肉体は、僕の心を一度殺す。




 そして、僕が死んでいる間に、獲物を殺し、その屍肉を貪り食うのだ。



 僕の心が生き返ると、僕はだいたい血まみれで四つん這いになって獲物を貪り食っている。



 ――まるで、本物の獣の様に。



 鼻腔を刺激する血液の匂い、血の滴る肉の味……。僕の肉体にとってそれは、とてつもなく旨い物だ。


 ――……でも、人間としての僕は、激しい吐き気を覚える。




 

――気持ち悪い……。


 吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい……。





 でも、いくら心でそう望んでも、僕の肉体は吐く事を拒否する。



 ――……それは、肉体が生きる為に、必要な物だから。




 『ウォォォォォォォォォォォンッ!』




 僕は―――吠えた。



 ……もはや人では無いこの肉体。


 ……こうして辛い思いをする肉体。


 ……醜く、気持ちの悪いこの肉体。


 ……まるで、狼の様な頭の肉体。



 死にたい、そう強く願う。


 ……だから―――、























 ――ガァンッ



 僕は人ではない頭を近くにあった固い岩に打ち付けた。




 ――何度も何度も……、打ち付けた。

















 ……まだ、死ねない。




 ――ガァンッ!




 ……まだ、シねない。




 ――ガァンッ!




 ……マだ、シネない。




 ――グァンッ!




 ……まダ、死ネなイ。




 ――ガァンッ!



 ……マダ、シネなイ。



 ――ガァンッ!



 ……まダ、死ネナい。



 ――ガァンッ!



 ……まダ、シ――――。






















 ――「……やめなさいッ!」


 姉ちゃんは僕に向かって、そう叫んだ。





 僕は姉ちゃんの方を見る。


 ……紅色に霞んでよく見えないのは、血が目の中に入ったからだ。


 僕の頭は皮膚が裂け、皮膚の下の肉が覗く。

 頭の獣毛は紅色に染まっている。

 地面には僕の血が流れていた。

 口からは長い舌が垂れ、涎が滴っている。




 ――獣の本能での、行動。






 こんなのを姉ちゃんには見られたくない……。





 「……どうして、こんな事をしたのよ?」



 ……彼女は、怒った顔でそう僕に聞いた。



 「……僕は、人間じゃない。」



 僕は、声を絞り出す。



 「……僕は、人間じゃない。……姉ちゃんに、迷惑をかけるし、君は僕の今の姿じゃ……、気持ち悪いでしょ?。


 それに、姉ちゃんは僕と一緒じゃない方が良いんだ……。


 だから――死にた……。」





 「バカじゃないのッ!」



 姉ちゃんは、叫んだ。



 「私はっ、カイトが例え誰からも人間じゃないって思われても、私はカイトが人間だと思ってるのよッ!

 

 理由はカイトがそんな姿になっても、昔と……、何も変わってない……。


  カイトの事が、ずっと大好きだったからよッ!」




 ――と。彼女は泣きながら、そう叫んだ。



 「……でも、僕はもう人間じゃない。


 ……姉ちゃんの事は――僕も好きだよ。


 けど、僕は姉ちゃんの事を抱き締めてあげることも出来ないんだよ……?


 ……この肉体じゃ、姉ちゃんの身体なんか、潰しちゃうかも知れないから……。」



 ――彼女の事を抱き締めたい、好きだから。


 ……でも、抱き締めてはいけないんだ。



 「……ねぇ、しゃがんでくれない?」


 彼女は、そう言った。


 ――僕は、言われた通りにしゃがむ。






















 すると彼女は、僕の頬を優しく撫で―――僕のもはや人ではない唇に、キスをした。

 




















 「……大人のキスよ。初めてでしょ?」



 そう言って彼女は、笑った。


















 「……な、何で……!?」



 僕は毛皮の中の顔を真っ赤にしながら彼女に聞く。


 すると彼女は、



 「……好きな人じゃなきゃ、キスなんてしないわよ。」



 と言て、微笑んだ。



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