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序章

 ――ヒュオォォォォォォォ……。


 とある荒野、所々に朽ち果てた家屋の残骸は残って居るが、それは最早原型は留めておらず、やがては自然へと飲み込まれて行くのであろう……。


 そこに、一頭の成牛が居た。


 牛は、地面に生える草をゆっくりと咀嚼していた。



 ――ガサリ。



 ふと、そんな音がした――――次の瞬間。


 ――牛の首から大量の血が噴き出した。


 それは、牛の肉体と地面、そして牛の首に噛みついた''もの''を、紅く濡らす。


 その''もの''を確認する事も無く――――牛は何が起こったのか分からないまま、その生涯を終え、肉体は巨大な肉の塊となった……。




 ――''もの''は、茶色の毛皮に覆われた牛の二倍ほどの大きさのある狼に見える。

 しかし、狼は人間に近い骨格をしており、前足で物を掴むことも、後ろ足のみで地面を駆けることも可能……、そんな姿をしていた。


 狼は血を飲む、とても美味な味が狼の舌を、脳を、全身を刺激する。

 


 『ヘッヘッヘッ……。』



 舌から涎を垂らし、荒く呼吸をしながら、肉を咀嚼する。


 ――旨い。


 狼はそう思うが、同時に嫌悪感に苛まれていた。



 ――……何故なら、元は狼は人間だったからである。


 ふと、狼が顔を上げると、背後には一人の女が立っていた。


 女は軍用のズボンを身に付け、肩にはサブマシンガン、腰のベルトにはサバイバルナイフと拳銃を差し込んでいる。



 『……見てほしく無いって、言ったじゃん。……こんな姿じゃ、僕は人じゃ無いって、なっちゃうし……。』



 狼は血だらけの長いマズルを開き、その中の長い舌を器用に操り人語を話した。


 すると女は微笑み、


 「別に、どんな事があっても、あなたは人だから……、それだけは、変わらないわよ。」


 そう言って彼女は微笑み、狼に抱き付いた。


 狼の表情に、余り変化は見られなかったが、その瞳はとても嬉しそうに彼女を見ていたし、何より尻尾がはち切れんばかりに振られていた。


 「……まったく、カイトは解りやすいんだから!」



 と言って彼女は笑う、狼は顔を照れ臭そうに顔を背けると、



 『……姉ちゃんは、昔から変わらないなぁ……。そういうとこ。』


 と言った。



・・・・・・・・・・



 ――……世界は、滅んだ。


 きっかけは、海上に造られていたバイオテクノロジーの会社の研究施設でのウイルス漏洩。


 ――……バイオハザード(生物災害)


 その小さな事故によって漏れたウイルスは、その施設でたまたま精製され、その毒性があまりにも強すぎる為に、封印されていた物だった。


 結果として研究施設は自爆した。


 ……しかし、その結果として海へと撒き散らされたウイルスは爆発的に増殖、ウイルスは海を越え、世界へと瞬く間に拡がった。




 ――予防法、治療法は完全に不明。




 感染すると1時間以内に全身の細胞が急速に変質していき、それに耐えられず細胞はズタズタにされその結果による内臓溶解、呼吸困難により死亡。


 ――しかし、稀に全身の細胞が完全に変化し、生き残るものも居た。



 ……それらは、ウイルスの名前であるルインウイルスから名前を取って、『RU』と呼ばれ、隔離された。


 ルインウイルスによって変化した生物、『RU』は、ほとんど人間の理性を一切残しておらず、正に理性の欠片も無い、獣だったから……。



 ――僕は、そのルインウイルスに感染し、肉体はRUと化した。


 ……そして僕は、『RU-No.0000231』と言う番号を付けられ、当時は隔離されていた。




 ――……僕は、人間なのに……。




 そう考えられる理由、それは僕が人間として理性を完全に保持した特殊な事例のRUだったからで――――僕は、何度も何度も腹を切り開かれたり、様々な実験を繰り返され、その後は隔離室に閉じ込められた。


 出される食事は一日一回の腐りかけた肉。 


 ――……そんな生活が続いた。



 そして僕が16歳になった時、僕がRUになって8年経った時だった。



 「……。」



 突然、隔離室のドアが開かれた。


 実は、一週間前から電気が止まっていた。


 ……でも、誰も僕の所には来なかった。



 僕はもはや人間には見えない顔を手で隠す。


 ――何時もの癖。……もう痛いのは嫌だし、誰も……、見たくないんだよ。



 「……久しぶり。」



 僕の人間とは違う耳に、そんな懐かしい声がハッキリと聴こえてきた。


 ――少し顔を上げ、ドアの所を見る。


 ……そこには、僕より一歳年上の――、僕が大好きな、ルミ、と言う名前のお姉さんが立っていた。


 ……でも、あの頃とは違う。大分大人びたし、腰に巻いたベルトにはナイフと拳銃が挟まれていて、肩から機関銃を提げていた。



 ――……でも、笑顔は、変わってないんだ。



 「……助けに、来たから。


 ……まぁ、王子様をお姫様が助けるって、お笑いね。」



 そう言って彼女は、笑った。

 僕は、



 『……どうして、僕だって分かるの?』



 と聞く、すると彼女は微笑み、



 「……カイトだったら、どんな姿になってもわかるわよ。」



 と言った。





 ――街は、酷い有り様だった。


 まず鋭くなった嗅覚を血と煙の臭いが刺激する。


 そして街は――、誰も居なかった。


 ――横転し、激しく炎上する車、大量の血液、燃え尽きたビル……。



 『……この世の、終わり。』



 正にその通りの光景であった。



 「……乗って。この都市からは――、出るわ。」



 彼女はそう言って、近くに停められていた自衛隊の軽装甲車に乗り込んだ。


 僕はその車の中に入らないのでその上に座る。


 ……そうして僕らを乗せた装甲車は、ゆっくりと走り出した。





終わりの先には何がある?

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