そして転生
ライデンが研究所へと到着すると、待合室に通される。そこには、すでにゾイルとリラー、ゼロとブラックが集まっていた。
四人とも適当にくつろぎながら、お菓子や飲み物に手を伸ばしている。
「よう。リアルでは初めましてだな」
「初めまして。ゲームやチャットで見慣れた顔だから、今さらだけどね」
リラーが肩をすくめてライデンの後ろを見る。
「サクヤちゃんは一緒じゃないのね」
「ん? ああ、別に約束してないからな。サクちゃん、ちゃんと来るかな」
サクヤはあれで育ちが良いらしいので、実家の反対があっただろう。もしかすると来ないかもしれない。
そんな話をしながら何となくしんみりしていると、待合室の扉が開いた。
「お待たせ! って、何か空気が重い?」
「あ、サクちゃん。大丈夫だったんだ」
入ってきたのはサクヤで、いつも通り元気な様子だ。ライデンの言葉に首を傾げるサクヤに、リラーが説明を入れる。
「ああ、うん。親は考え方が古いから。最後に言ったのが勘当だ! だからね。転生するんだから、勘当も何もないのにね」
えっと、それは。言葉に困ったライデンに代わり、ゾイルが口を開いた。
「サクヤ君。それは間違っても賛成できない頑固な親が、転生する際の問題をなくそうとしてくれたように聞こえるぞ」
「え? そうかな。そうだったらいいな」
サクヤが少し泣きそうな顔になる。だが、それも一瞬で、元の笑顔に戻る。
「お待たせしました。準備が整いましたので、こちらへお願いします」
部屋をノックして入ってきたのは、白衣を着た女性。案内役とのことだ。
案内役に連れられて、ライデンたちは研究室へと足を運んだ。
「ああ、来たね。いらっしゃい」
ゲーム内でソキウスと名乗った男の声だ。ゾイルが代表して挨拶をする。そして、他の研究者たちも紹介してもらい、本題に入った。
「さて、早速だけど転生の諸注意をしておくね」
妙に気軽な態度でソキウスが話しかけてくる。応対に困りながらも、ライデンたちは聞く姿勢になった。周りには、他の研究者が待機している。
「まず、異世界と言ってもまったく異なる世界じゃなくて、最近見つかった太陽の裏側に存在する、干渉できなかった惑星だ。当然、特殊な検査機器でないと普段は見えない。このあたりは、飛ばしても大丈夫かな?」
「ええ、構いません」
「じゃあ次に、異世界について説明するね。当然、異世界と言ってもそれなりの物理法則が働き、その世界としての常識は存在している。ああ、そうそう。地球の裏側だから、一日の長さも一年の長さも今とまったく変わらない」
ここまでの説明でソキウスがいったん区切り、ライデンたちが問題なく聞いているのを見て、話を続ける。
「多分、これまでも転生自体は発生していると考えられる。異世界側にもこちらの文化が入っていたり、逆に向こうの文化も入ってきている。転生の後に全部の記憶は残らないだろうけど、一部残っている人もいたんだろうね」
「じゃあ、今回の転生も記憶は消えるんですか?」
「うん、いったん消えるよ。記憶を持ったままだと、幼児期の成長を阻害する危険があるからね。現地の言葉を話せず、他の人には意味が分からない地球の言葉しか話せなかったら大変だろう?」
それはそうだとライデンたちが頷く。
「それで、そこそこの年齢になった時まで記憶が戻らないように細工したいんだけど、ちょうど良いきっかけを考えていたら、一つ良いのを思いついたんだ。大人になってから記憶が戻っても、身体を鍛えるにも魔法を学ぶにも遅い。だから早ければ六才くらい、性的興奮を覚えた時に記憶が戻るようにするんだ」
ライデンたちはどことなく気まずい顔になる。
「それは他の条件にならないんですか?」
「うん。もう装置に組み込まれてるから。向こうはこちらより生きるのに大変な世界でね。十五才で成人扱いだし」
そこでリラーが手を上げて質問を行う。
「あの、私たちが転生した後、地球側から識別できて監視されるとかあるんですか?」
「いや、記憶が戻った後、目立つ行動を取れば見つけられるかもしれないけど、そうじゃない限りは解らないね。それと、性別については基本的に現状のままになると思う」
リラーは安心した様子で、手を降ろす。
ソキウスはさらに、記憶が戻る前に死んでしまった場合は次の人生で条件を満たせば転生できるはずだと説明をする。その場合は他より数年遅れになるが、許容範囲だろう。
「プレイしてもらったゲーム、色々とクラスがあったでしょう? あれ、実際に向こうにあるんだ。と言っても当然クラスなんかがあるわけじゃないけどね。向こうで流派とでもいうか、剣技にしろ魔法にしろ、ほとんど同じ動きは再現できると思う。魔法がどういった理屈で発動するのかは、全然研究が進んでないんだけどね。君たちも、ゲーム内で使ったように色々と試してみたり、誰かに教えてもらったりすればいい」
さらに、ゲーム中に設定したマークフォースについても、異世界で全員が持っているわけではないが、持って生まれてくる者がいるらしい。転生した後、持っているかどうかは調べる手段は実際の行動で試すしかないそうだ。
「それで、君たちには転生第一陣になってもらうわけだけど、もし可能ならお願いがあるんだ」
「何でしょうか」
「数十年ごとになるだろうけど、定期的に転生者を送りたいんだよ。だから、転生者の拠点となる組織を作って欲しいんだ」
「なるほど。でも、今後の転生者に解るような方法って何かありますかね?」
「組織の名前を決めておけばいいんじゃないかな」
ライデンたちは時間をもらって、どういった名前にするかを考える。花の名前、ゲームタイトル、無駄に格好良い言葉の羅列。
色々と案が出た中で、ある程度無難な言葉に落ち着いた。
「では傭兵団『六歌仙』で行こうと思います』
「六歌仙? 昔の日本でそんな名前があったね」
「ええ。俺たちも六人だし、それを組み込みたかったので」
傭兵団の名前が決まった後、ゾイルはソキウスに質問をする。
「今後も転生者を送るってことは、何か目的があるんですか?」
「うん、まあ。魔物なんかがいて魔法もあるし、そもそも世界を構成する物質自体も違うんだけど、同じ宇宙に存在してるのは間違いないからね。向こうで使っている魔法を地球で再現できないか、という計画なんだ。気の長い話だけどね」
ソキウスは再現できた場合の利点も語るが、ライデンは地球側の今後には興味がなく、話半分で聞き流す。
他にも異世界に関する細かな諸注意を聞き、いよいよ転生のために、それぞれ一人に一つ用意されたカプセル状のケースに入った。
「じゃあ転生した後は、十五才以降にメイアーヌ王国の王都で合流しよう。そこで傭兵団の立ち上げ。抜かりのないように」
「おう。じゃあ、向こうでもよろしくな」
カプセルの中で声をかけあううちに、ライデンは徐々に意識が遠のいていった。