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百年遅れの英雄譚  作者: すっとこどっこい
第一章 VRMMO編
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最終ボス討伐

 ライデンは前回同様、念のため扉の罠をチェックする。当然ながら罠はなく、手振りで合図しながら扉を押し開けた。

 そしてリッチが振り向き、イベントが始まる。以前と違って負けが前提ではないためか、軽口を言い合うこともなく、黙って動き出す瞬間を待つ。


「かかってくるがよいわ」


 リッチが宣言して雷が落ちた瞬間、サクヤが全力で走り出す。そして走りながら宣言型のスキルを使い、リッチの前に立つと同時に殴り始める。防御も何も不要とばかりに、攻撃しか考えていない動きだ。

 そして他のメンバーも能力上昇系のスキルを使った上で攻撃をし始める。ゾイルの弓矢攻撃に加えて、ライデンもスリングでの攻撃を開始した。

 スリングでの攻撃は接近するより威力は低いものの、プリーストが近距離の味方に使えるスキル『ホーリーバリア』の対象にしてもらえる。

 ほぼ間違いなく死なないだろうが、事故死が怖いため念を入れてダメージの軽減を試みている。ライデン以外のメンバーも、サクヤを除いてゼロの周りに集まっている。


「来るぞ」


 攻撃しながらもリッチの挙動を確認していたライデンは、魔法が発動する直前に声をかける。

 それに合わせてゼロの『ホーリーバリア』の他、防御スキルを発動させる。


「ダイヤモンド・クラッシュ」


 前回と同じ挙動、同じ時間で、リッチは別の魔法を発動させた。部屋全体が光に包まれ、視力を奪われる。


「きゃあっ」


 リラーが悲鳴を上げる。ライデンは自らにダメージがないのを確認して、視力が回復する前に悲鳴を上げたリラーへと声をかけた。


「リラー、大丈夫か?」

「んっ、かなりHPを持っていかれたけど、一応死んでない。単発魔法だったのね、私で良かったわ」


 単体を狙った物理属性の魔法。リラーでなければ、即死していた可能性が高い。そういった意味では、リラーが狙われたのは運が良かったのだろう。

 防御に特化しているにも関わらず、抵抗できなかったことを差し引いても七割近く減っている。


「運っていうか、序盤は攻撃こないから『サラマンダーの槍』を雷属性でぶち込んだからね。ヘイトが溜まっていたんだろう」


 ゾイルが攻撃に転じながらつぶやく。ライデンも武器を持ち替えて、前に出てサクヤの隣に並んだ。

 しばらくリラーとゼロが回復ばかりになってしまったが、リッチの攻撃を最小限のダメージで切り抜けていく。

 そして何度か攻撃を続けるうちに、リッチがグールを召喚した。それも、前回より多い六体。


「こっちの人数に応じた数なんだろうね」


 ゾイルが考察しながら、後衛の周りに出現したグールに矢を撃ち続ける。グールの爪には麻痺毒があり、アイテムによる回復は手間がかかるため、回復できるリラーとゼロを守る必要がある。

 にも関わらず、リラーが三匹が固まっているところに向かう。


「自由な一匹を先に狩って。しばらく持たせるから」


 リラーはディバインのスキルの『セイントフォース』を使用する。『セイントバリア』や『リフレクション』、物理攻撃の回避に有効だったり反撃手段だったり、ディバインのスキルを使う際に前提となるスキルだ。

 その上でグールの群れと向き合う。『セイントバリア』は使用者の右手に展開される、見えない盾のようなものだ。リラーは慣れた動作で引っ掻いてきたグールの爪に動きを合わせる。そして攻撃を避けつつ、左手に発動させた『リフレクション』で反撃する。


「あれもう魔術師のキャラじゃないよな」

「前にドワーフの回避キャラやっていただけあって、リラさんの身のこなしは凄いよね」


 ライデンとサクヤもリッチのそばに現れたグールを対処しながら、後衛の様子を見ながらため息交じりに言い合う。

 以前にリラーは、回避キャラが防御力高いと無敵だなと言いながらドワーフをプレイしていた。今回のエルフでも、結果として似た性能に仕上げている。むしろ、回避自体はエルフの方がやりやすいだろう。

 問題はMPの消費が激しい点だが、勝つつもりの最終戦、アイテムの大量消費でごまかしている。

 リラーが盾として立ち回るうちに、ゾイルとブラックがグールを狩る。

 その後もリッチの魔法を食らっては回復しつつ、順調にリッチのHPを削っていく。

 残り半分を切っても動きが変わらなかったが、三割を切った時、溜めの動作もなく全体攻撃の『ブラッディ・スクイーズ』を使用してきた。


「全員立ってるか?」


 ゾイルが確認して、それぞれ返事をする。一番危険な状態になったのは、防御スキルが間に合わなかったサクヤと、防御スキルがないライデンだ。さらに、盾として貢献してきたシキガミも消滅してしまう。

 ゼロがあわてて全体を回復していると、さらにリッチが『ダイヤモンド・クラッシュ』を重ねる。

 サクヤが攻撃を受けて、元々残りのHPが少なかったため、なす術もなく死んでしまった。


「サクちゃん!」


 どうしようもないと解っていてもライデンは叫んでしまう。すると、ゾイルがアイテムを取り出し、使用した。


「サクヤ君が一番のダメージ源だからね」


 ゾイルが使用したのは、イベント限定の蘇生アイテム。パーティ一つにつき一つしか入手できず、トレードもできない。二度目の入手もできないと、ないないずくめのアイテムである。

 しかしサクヤが抜けると与えるダメージが大きく下がり、勝てる見込みも薄くなる。


「追加の暴走があると面倒だけどね」


 大技二連発の後は攻撃手段が元に戻ったものの、攻撃間隔が短くなっている。そのため回復が追いつかず、徐々にHPの残量が減っていく。それでもライデンたちは、リッチにダメージを積み重ねていく。

 そして残り一割を切ると、再び『ブラッディ・スクイーズ』からの『ダイヤモンド・クラッシュ』を二連発してきた。

 『ブラッディ・スクイーズ』で回復が追いついていなかったゾイルが死亡し、続く『ダイヤモンド・クラッシュ』が、砕けたダイヤモンドがエフェクトとなって、ゼロとリラーに降り注ぐ。

 内心で終わったと思ったライデンだったが、驚くことにリラーが生き残った。


「あと一割! 回復追いつかないから、全火力投入!」


 リラーが叫びながら、全力でリッチに近付く。合わせて、ブラックがソーサラーの最大火力である『ブラッディサン』を、増幅魔法の『エクステンドプラス』を追加しながら撃ち込む。

 サクヤも一回の戦闘に一度のみ、さらにその後はグラップラーのスキルが使えなくなる『奥義乱舞』を発動する。脳への情報量を増やし、体感速度を一秒につき二十分の一秒も速める。数字にすると非常に細かいが、それだけ周りと流れるが変われば通常は不可能な攻撃も可能となる。しかも与えるダメージが大きくなるため、瞬間的な火力としてはゲーム内でもトップクラスだ。

 ライデンも全力でサムライのスキル『一刀両断』を使用する。命中すれば自動でクリティカルとなり、通常の倍に近いダメージが出る。さらにライデンはデュエリストのスキル『セカンドストローク』を重ねる。攻撃の動作を影が行い、ダメージ量は本体に比べて減るものの、『一刀両断』で上がったダメージを元に計算するため、非常に大きなダメージを与える。


 そこでリッチの硬直が解けて、攻撃魔法を唱えた。さすがに大技ではなかったが、狙われたサクヤとブラックがともに死亡する。


 ライデンが斬り続ける中、残ったリラーがリッチにたどり着いた。

 リラーが使ったのはディバインのスキル『エクスカリバー』で、イビルのモンスターに無属性ダメージを与える魔法だ。使用条件が限定的な上、接触魔法のため、使いどころが非常に難しい。

 これでほとんどHPは削れたが、まだ僅かに残っている。


「もう少し!」


 ライデンが叫び、そしてライデンの攻撃よりも素早く、リッチの魔法が完成する。


「おら、こっち来い!」


 敵と狙った対象、さらにスキルの使用者が近距離で接敵しており、相手の攻撃が発動直前で効果を発揮するスキル『挑発』。無理矢理、ライデンが攻撃の対象となった結果、攻撃を受けてライデンが死亡する。そして一人生き残ったリラーが、リッチよりも先に魔法を発動させた。


「終わりよ」


 エルフの専用スキル『大自然の怒り』。効果はとても単純で、地面が盛り上がって目の前の敵を攻撃するというものだ。

 物理の殴属性で、これも至近限定のスキルである。


「馬鹿な、この私が、人間などに……」

「お生憎様。私、エルフなのよ」


 エンディングに繋がるであろうリッチの言葉に、無粋な突っ込みを入れるリラー。しかし、答える者はいない。見ている者は、五人ほどいるのだが。


「これ、一人でエンディング見ろっていうの?」


 リラーが愚痴を言うのと同時に、ライデンたち五人が生き返った。


「あ、戻った」


 ライデンがつぶやき、それぞれ思い思いに声をかけ合う。

 リラーは独り言を聞かれていたと知って、赤い顔になる。


「そういえば、死んでもその場に残るんだったわね」


 リラーは前回も最後まで生き残っていたため、死亡して他のメンバー待ちにならなかったのだ。そのため、話は聞いていても実感がなかったのだろう。

 前のゲームでは死亡すると即座にログアウトだったため、その癖が残っていたのかもしれない。


「何にせよ、これで転生条件クリアだな!」


 ライデンが叫び、皆がおうと叫びあう。

 後ろではエンディングイベントが流れているが、誰も見ていない。

 そうしているうちにイベントが終わる。それと同時に周りが光に包まれて、コンピュータルームのような場所に移動した。


「ようこそ、転生の間へ」


 どこからともなく聞こえてきた声に、ライデンたちは静まり返る。


「私はゲームの開発者、ソキウスと申します」

「どうも。えっと、これから説明ですか?」

「ええ。クリアをしたら転生とだけ流れていましたが、あらためて条件や問題点、注意点やお願いなど、様々にございますので」


 ライデンたちは顔を見合わせ、代表してゾイルが質問を行う。


「転生って、これから一度も戻らずにやるんですか?」

「いえいえ、とんでもない。それぞれご自宅からプレイしているでしょう? そんな状態から転生できるほどの技術力はございませんよ」

「じゃあ、説明っていうのは……」

「はい、私どもの研究室へお越しいただき、そこから転生をさせていただきます」

「なるほどね。じゃあ、説明よろしくお願いします」


 そしてソキウスからの説明は、こちらの世界では死亡扱いとなること、遺書をきちんと残すことなどが中心だった。


「注意点やお願いっていうのは?」

「それは、転生後の生き方や向こうの世界の情報ですので、研究所でお話をさせていただきます」


 話はそこで終わり、ゲーム内外でクリア者が出たことを告知して、ライデンたちはログアウトした。


 それからライデンは数日を使って、色々と身辺整理を行う。

 そして言われた通りに遺書を書き、知人に説明をして研究所へと向かった。

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