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百年遅れの英雄譚  作者: すっとこどっこい
第一章 VRMMO編
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二周目開始

 ライデンたちはデスペナルティ期間を終えて、すぐにゲームにログインした。


「さて、行こうか」


 ゾイルの言葉に頷き、ゲーム開始時の町に戻る。

 それぞれの町で移動用のテレポーターがあり、一度行った町には戻れる仕組みになっている。わざわざ移動に時間がかかると、歩くだけで数時間かかってしまいかねないからだ。

 町に着き転職を司っている神殿へと向かう。

 町の中はゲーム開始直後のプレイヤーがほとんどで、明らかに上位と解る装備を着込んでいるライデンたちのパーティは周囲から浮いている。


「装備、変えておいた方が良かったかしら」


 リラーが周りの目を気にしていると、ゾイルが気にするなと首を振る。


「どうせ転職して、異種族がいるとすさまじく目立つからな」


 ライデンたちがトップを走っているのは知られていても、顔を知られているわけでもなく、実際に今が何レベルなのかは把握されていない。

 他の追いかけてきているパーティのレベルも、狩り場などから考えてこのくらいだろうと推測が立つのみだ。


「ようこそ、地母神メイア教の神殿へ。転職をお望みですか?」


 女性の司祭が出迎えてくれて、転職の説明をし始める。

 ちなみに地母神メイアというのは、ゲームでは転職を司っている神だ。ゲーム中はあまり関連するイベントは存在しないが、主神ゾディアックの神殿もあるらしい。


「はい」

「転職は、レベルが二十までリセットされます。レベル二十までなら元のレベルを維持できます」

「レベル百なので、三クラス目を取得できるはずなのですが……」


 ゾイルが告げると、司祭は目を見開いて驚く。


「あら、大変失礼いたしました。では、奥のお部屋へどうぞ。司教が対応いたします」


 深々と一礼をして、奥の部屋へ向かうよう促す。ライデンたちは礼を言いつつ、奥の部屋に向かった。


「いよいよね。楽しみ」


 サクヤがワクワクと好奇心を抑えきれない弾むような声でつぶやく。転職などのイベントとなると誰しも興奮気味で、わいわいと話をしながら部屋に入った。


「おや、賑やかな参拝者ですな。何かご用ですかな?」


 部屋には年老いた老人が座っており、穏やかな声で問いかけてきた。


「これは失礼しました。入り口でレベル百からの転職を告げると、こちらに入るようご案内くださいました。転職をお願いしたいのですが、よろしいですか?」


 ライデンたちパーティの癖として、NPCにも丁寧に接するというものがある。相手が誰だろうがNPCであれば敬語は使わないプレイヤーも多いのだが、ライデンたちはロールプレイを楽しみたいので、相手に合わせて対応を変えている。

 それによるNPCの変化は特にないが、気分の問題だ。


「ほほう。それは素晴らしいですな。では、お一人ずつお伺いしましょう。すでに転職のご希望はお決まりですかな?」

「いえ、異種族については情報が少なく、存じておりません。だから異種族の説明をお願いしたいのです」

「ほう。では、こちらの書物をご覧ください」


 書物と言いつつ、開いた本からはホログラフィで各種族の姿が表示される。

 全員で各種族の特長を確認をしながら、候補になりそうな種族やクラスを選ぶ。


「私、猫やってみたい」


 サクヤがストレイキャットに目をつける。MFがダブルストライクと固定されるが、元々そのつもりだから問題ない。ワイルドウルフやストレイキャットは牙、爪での攻撃が格闘属性なので、グラップラーとの相性が良い。しかも鎧の効果に加えて、自前の毛皮で魔法防御も若干上がる。抵抗力の面でも、ウルフは低いがキャットはダブルストライクを基準とする異種族では最も高い。


「いいんじゃないか。相性良いし、爪での攻撃は、慣れるまで大変かもしれないがね」

「初期から持ってるのが楽ね。リッチに挑む頃には違和感なく使えるようにするわ」


 満場一致でサクヤのクラスがストレイキャット・ファイター・グラップラーと決まる。ゾイルはファイター・レンジャー・ベルセルク、ブラックがメイジ・ソーサラー・ウィザードと宣言していたとおりのクラスに落ち着く。ライデンも元々のスカウト・デュエリストにサムライを加えた延長型だ。

 そんな中、ゼロがまったく違う選択を提示する。


「僕はルーミアを選択するよ」

「ルーミア?」


 ライデンが聞き返し、種族特長を確認する。

 ルーミア。額の宝石により力を生み出す種族。基本は回復職だが、宝石の色で属性を選択して、その属性の攻撃を防いだり味方の攻撃をその属性に切り替えられるものだ。


「これで雷を選択しておけば、僕のリーちゃんが『サラマンダーの槍』で大ダメージを与えられるよ。『属性変換』のMP次第だけれど、効率は良くなるんじゃないかな」

「え、でもそれはゼロくんに悪いわ」


 リラーが遠慮して断ろうとするが、ライデンとゾイルが賛成する。


「良いじゃないか。回復優先の時はむしろリラーも補助に回るだろうし、攻撃優先の時は属性変えてもらえば、理にかなってるぜ」

「そうだな。道中も『サラマンダーの槍』は役に立つし、ボス戦でも手の空いたプリーストと合わせて雷属性で撃ったら、ホーリーライトを撃つよりは格段に効率が良いな」

「でも、私は今回、補助特化で行こうと思っていたの。異種族を確認していたら、エルフに『リーフバリア』っていうのがあるし、さらにディバインのサブクラスを取れば『セイントバリア』ってのもあるし。リッチの魔法には有効かなって思うから」


 リラーの案に、ライデンが言葉に困る。昨日チャットで補助特化でも良いんじゃないかと賛成した手前、前言撤回するのはリラーの意見をないがしろにしすぎている気がしたのだ。


「じゃあ、エルフ・エレメンタラー・ディバインにしたら良いんじゃないの? エレメンタラーの補助もありがたかったよ」

「ああ、三つ目を決めていないなら、それが良いな」


 サクヤの援護にゾイルが乗る。それでも少し悩んでいたが、リラーは頷いてサクヤの提案したクラスに決定した。

 ゼロは、残りの二つをプリーストとシキガミマスターにする。シキガミは呼び出すのに時間がかかる上、呼んでいる間は移動や攻撃ができないという欠点はあるが、リッチ戦では役に立ちそうだという判断だ。


 そして全員のクラスが決定して、転職を実行した。



 装備品が初期装備の服に戻り、姿が変わった異種族の三人に注目が集まる。


「は、恥ずかしいからあまり見ないでちょうだい」


 リラーが少し赤くなりながら耳を顔ごと隠す。サクヤは気にした様子もなく、頭の上に付いた耳を触って楽しんでいる。

 ゼロは額に宝石が埋め込まれただけなので、さほど注目されていない。


「隠すと余計に見たくなるのが人情なんだけど、まあいいか。サクちゃん、どういう感覚なの?」

「全然、触った感じがしない。完全に飾り物の耳を触ってるだけ」

「ふうん。でも、聞こえるのは問題ないんだ?」

「ライくん、これゲームの中だよ。見た目に普通の耳がなくても聞こえるくらい、どうってことないじゃん」


 そりゃそうだとライデンが納得して、うーと小さく唸っているリラーにこっそり目を向けた。

 金髪碧眼にエルフの長い耳は良く映える。似合っているのにもったいないと思っていると、サクヤがこっそりと手をひねる。


「こら、ライくん。そんなに見ないの。リラさん困ってるじゃん」

「そうだな、ごめん。リラーの金髪に似合ってたから」

「ん? 私には何もなし?」

「いや、サクちゃんも似合ってるよ」

「ああ、俺もサクヤ君の耳は似合っていると思うぞ」


 ライデンがリラーの容姿を褒めると、サクヤがむっとした顔になる。

 ライデンがしまったと思い言い訳を口にすると、ゾイルが合わせて取りなしてくれる。

 まあいいけど、と若干ふてくされながらサクヤがリラーと話を始める。

 ため息をついたライデンの肩をゾイルが軽く叩きながら、さっさとレベルを上げようと促した。



「レベル差三十以上ある相手にPKされてもその場で復活できるから、とりあえず六十くらいまでは安全だな。その後だが、もし今の上位パーティが居座っているようなら、追いかけてくる奴らがいないんだから焦らずゆっくりとPKされながら上げたらいいさ」


 PKの危険性は考慮されているのだろう、レベル百からの転職において、ある程度の対策がされている。


「問題は手分けして狙われた場合だが、高レベル連中は高レベルで抑えたらいい」


 ライデンたちは手伝ってくれる検証組に、途中からレベル上げを依頼している。そのため、高レベルが狙ってくるようなら、護衛してもらいながらやればいい。

 わざわざこちらから挑んで挑発するつもりはないが、対策はしておかなければ、抜かれてから悔やんでも遅いのだ。



 そしてライデンたちは時々PKに狙われては返り討ちにしつつ、順調にレベルを上げていく。追いかける連中も邪魔をしようと作戦を練ったようだが、横の繋がりが薄く、たいした妨害ではない。

 検証組が妨害工作を阻止してくれたこともあり、他のパーティに追いつかれる心配もなく、レベル百二十に到達した。


「案外あっさりだったな」

「でも、それも検証組が手伝ってくれたからだけどね」


 いいように使っている検証組だが、元のゲームで報酬を渡しているためか、気分転換になると情報収集や隠密行動を楽しんでやっている。


「後衛の回復役が固くなって、安定度が桁違いに上がったね」

「ああ、リラーとゼロな。弱点もあるけど、今のところはそれほど問題じゃないからな」


 リラーはエルフとディバイン両方の防御スキルが役に立ち、物理攻撃にも魔法攻撃にも強い。代わりに攻撃手段が精霊による攻撃とディバインの相手を選ぶスキルのみで、極めて不自由になってしまっている。一方のゼロは、ルーミアのスキル『光の盾』により魔法にこそ強いものの、物理攻撃には何もスキルを持っておらず、狙われるとかなり死にやすい。


「リッチ戦では召喚するシキガミを前に出すのではなく、後ろでゼロ君自身の防御に使う方がいいね」

「ああ、そういえばグールを召喚していたね。でも僕のサクヤちゃんを守る方が優先だよ」

「いや、どう考えても自分の身を守る方が優先でしょうが」

「それはともかく、一回挑んでみる?」


 格好をつけたゼロにリラーが突っ込みをいれる。守ると宣言されたサクヤは発言そのものを無視しながらリッチに挑もうと提案する。

 ゾイルが悩ましげに首を傾げた。


「百二十というのは、開幕に全体攻撃で生き残れるという最低ラインなだけだからね」

「まだ二周目の百に到達したパーティもなさそうだし、もう少しレベル上げた方がいいと思う」


 黙って誰かとメールをしてたブラックが声を上げる。どうやら、検証組に確認を取っていたらしい。

 サクヤも普段あまり提案をしないブラックからの保留案だったためか、無理強いせず案を取り下げた。


「じゃあ、サクッとレベルを上げよう。と言っても、経験値効率が良いのは、現状ラスダンなんだけどね」

「そうだな、目標は百三十で、そこに到達したら挑むとしよう」


 ゾイルが決定事項としてレベル目標を打ち立てる。おぼろげな状態よりも、きっちりと数字で出す方がやる気につながると考えての判断だ。


「では行きましょう。道中もモンスターを狩りながらね」


 リラーが補足して、ダンジョンへと向かった。

 そして数日レベル上げに励み、百三十に到達してからリッチとの再戦へと向かった。


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