表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百年遅れの英雄譚  作者: すっとこどっこい
第一章 VRMMO編
5/49

エリアボス討伐

 レベル五十を超えた頃、ゾイルが新しい情報を持ってきた。町でNPCの衛兵と話をしたらしい。これまでは延々と封鎖されているとだけ言われていた洞窟が、アンデッド化したミノタウロスによって占拠されているという情報だ。


「どうやら、洞窟を越えた先は新しいエリアになっているらしい。まだどこにも情報が出ていないから、きっとクリアした者だけが先に進めるのだろう」


 ライデンたちはレベル五十に達するまでに、他の強豪を全て返り討ちにしてトップレベルを維持している。他はようやく四十五に到達するかという時点で、五十になっているのだ。

 そしてどうやら、レベル五十がイベント発生の条件らしい。


「これを一発でクリアしたら、随分有利になるな。新しいエリアでPKに狙われる危険を気にせずモンスターを狩れるんだから」

「モンスターが、どれくらい強くなるかは解らないけれどね」


 リラーが釘を刺すも、どこか声は弾んでいる。レベル五十の状態で、全員がクラスレベルの割り振りを片方十五、片方三十五にしている。

 レベル三十五の時点で新しいスキルを取得しているので、各々試してくてしょうがないのだ。


「準備はいいか? 問題なければさっそく行くぞ」



 道中、なるべく戦闘を避けながら目的地の洞窟にたどり着いた。

 前衛にライデンとサクヤ、最後衛にゾイルという布陣で洞窟に入っていく。中は土が硬く固まっており、崩れる心配は少なそうだ。リラーがたいまつに火をつけて、ブラックが『ライト』の魔法で杖先に明かりを灯す。


「このゲーム、匂いは再現できてなくてよかったね。きっとモンスターの住む洞窟なんて、凄く臭いだろうし」

「転生して似たようなことをやると、嫌でも嗅ぐだろうけどな」


 ライデンが茶化すとサクヤが怒り出す。


「もう、ライくんって時々酷いよね。デリカシーがないっていうか」


 サクヤが軽く肩を叩き、ライデンは大げさに痛がる。サクヤはぶつぶつ言いながら、怒ってずんずんと先に進み出した。


「罠はないみたいだが、離れると危ないぞ」

「誰のせいよ」


 俺が悪いの? と言いかけたライデンだったが、気配を感じて手振りで立ち止まるよう指示する。

 サクヤも心得たもので、ライデンより一歩下がり、後方に手振りで敵の存在を知らせる。

 合図に反応して、リラーは火の精霊を呼び、ゾイルは弓に矢を番えた。


「ぶぉぉ!」


 曲がり角の先に直立した牛、ミノタウロスの姿が多数見える。どうやら言葉は話せず、単なるモンスターと設定されているようだ。


「ミノタウロスは元々火に強いけど、アンデッド化していたらダメージが上がるはずよね」


 ブラックとリラーが示し合わせて、対象を範囲化させた上で『スペルスティング』や『精霊陣』といった攻撃魔法を打ち込む。さらにゾイルが『乱れ撃ち』で矢を飛ばすが、十体ほどいるミノタウロスは減った様子もない。

 ちょっと数が多すぎるものの、通路の幅はそれほどでもないので、同時に相手するのは三匹程度だろう。

 覚悟を決めたライデンとサクヤが敵の攻撃に備えると同時に、後ろから大量の光が洞窟内を照らした。一瞬で光は消えたが、ミノタウロスに致命傷を与えたようだ。


「えっと。出番なし?」


 光ったのはゼロが使った『ホーリーライト』で、アンデッドやイビルに分類されるモンスターにダメージを与えるプリーストの魔法だ。

 つまらなそうにしているサクヤを全員で慰めて、先を促した。



 途中、雑魚が何度か襲いかかってくるが、遠距離攻撃を主体に狩っていく。数が少ない場合はライデンとサクヤが慎重に立ち回り、MPなどのリソースが減らないように調整も行う。

 そして一時間ほど探索を続けると、奥にある大きな扉が目に入った。


「おぉ、あの扉はボスっぽいな」

「いい加減ね。スカウトなんだから、罠がないかちゃんと調べてよ」

「解ってるよ」


 ぼそりと呟いてリラーに怒られたライデンは扉を調べる。罠や鍵がかかっていないと判断して、全員に声をかけた。


「さて、回復も大丈夫か?」


 MPポーションも利用して、全快とはいかないまでも充分に回復している。押し開きの扉をライデンが左側、サクヤが右側を押して開けた。

 中には雑魚に比べて一回り以上大きいミノタウロスが、部屋の奥にある玉座に座っている。周りには数匹のミノタウロスが護衛のように付き従っている。

 護衛も通路を徘徊していた者とは違い、鎧を着込んでいる者、軽装だが盾を持っている者、魔術師の杖を持っているメイジらしき者までいる。

 部屋も広く、放置していると後衛が襲われて面倒なことになりそうだ。


「よく来たな」

「うわ、しゃべった」

「貴様ら人間が何人来ようが、この迷宮は儂のものじゃ。早々に出て行け」


 所有権を主張しつつ、玉座からゆっくりと立ち上がる。

 いわゆるイベントシーンというもので、会話中はプレイヤーの身体は動かない。相手が襲ってくるわけではないので気にしなければいいのだが、特にサクヤはイベント中に自由が利かないのを嫌がっている。


「早く終われ、すぐ終われ。終わり次第叩き潰してやる」


 ライデンが話を聞いていると、隣でぶつぶつと呟く声が聞こえる。ちょっと隣の人が怖いんですけど、と思っていると、身体が動くようになった。

 隣に意識を向けているうちに後半を見逃したようだ。


「来るぞ! まず数を減らす、ミノスの抑えを頼む!」


 どうやら律儀に名乗っていたらしい。抑えるだけならサクヤよりもライデンの方が適任だ。

 周りに攻撃魔法を打ち込んでいる間に、ライデンはミノスと向かい合った。


「ほう、儂の前に立ちふさがるとは、良い度胸じゃ」


 何やら話しかけてくるが、ライデンは無視して攻撃を行う。どう見ても防御力が高そうなので、命中率は下がるが防御力無視の『ペネトレイト』を発動させて攻撃をしていく。 時々弾かれつつも、鎧の隙間を縫ってダメージを通す。


「儂の身体に攻撃を通すとは、大したものだ。全力を持って叩き潰してくれよう」


 大仰に宣言して、何やら腕のあたりが光り始める。後ろにいたメイジが攻撃力上昇のスキルを使ったらしい。

 目の前に集中していて周りを見たり声を出す余裕がないライデンは、時々敵の攻撃魔法や味方の回復をもらいながら、ミノスの相手を続ける。そのうちに魔法が飛んでこなくなり、サクヤもミノスに攻撃を仕掛け始めた。


「お待たせ! 後はこいつだけよ!」

「おー、遅かったな。ちょっと疲れた」


 ミノスの意識がサクヤにも向かって、ようやくライデンに愚痴をこぼす余裕が生まれる。思ったより長かったと文句を言うと、サクヤも負けじと言い返す。


「メイジもネームドモンスターだったもん。護衛が二体も付いていて、かなり面倒だった」

「そうなの?」

「なんかね、パシパエだかなんだか。リラさんがミノスと言えばパシパエが出てきてもおかしくないとか言ってたけど」

「神話から名前を取ってるんだな」


 話しながらも、ライデンはミノスの足を狙って攻撃し、バッドステータスのよろめきを入れる。僅かな時間ではあるが、体勢を崩して直後の攻撃を当てやすくするものだ。麻痺や転倒と違い、樹木などの根が生えているようなモンスターや四つ足で構えるモンスター以外は、ほぼ全てに効果がある。

 そしてよろめいた隙に、リラーから『サラマンダーの槍』がミノスに突き刺さる。さらにブラックからも手持ちで最強のスキル『スペルブレイド』が飛び、ミノスのHPが半分を切った。


「貴様ら、許さぬぞ!」

「元々殺す気じゃん」


 ミノスが叫び、サクヤが茶化す。ライデンはサクヤに突っ込みを入れる。


「聞いてないと思うぞ」

「もう、敵に集中してよ」


 理不尽だと思いながらも、正論ではあるのでライデンはミノスの動きに警戒する。

 ミノスは斧を大きく後ろに引き、溜めを作っている。攻撃の隙ではあるが、どうにも危険な気配が漂うので、サクヤを残して後ろに下がる。


「悪い、任せる」

「オッケー、任された」


 メインクラスがスカウトであるライデンはダメージ軽減のスキルは少なく、HPの最大値自体も少ないため、一撃の威力が高く避けにくい攻撃は苦手である。

 溜めの隙があるなら、距離を取らない理由はない。もっとも、普通は下がっても追いかけてくるので、サクヤが代わりに受けてくれる時限定だ。サクヤなら防御力が低めとはいえファイターなので、ダメージ軽減ができるスキルの『鉄壁防御』やグラップラーのスキル『オーラガード』を持っており、今のHPも最大値に近く、一撃で死ぬ恐れは少ない。


「よし、来い」


 スキルを発動しつつ、ミノスの攻撃を受ける。ミノスの攻撃は、構えの姿勢から斧を振ったモーションが視認できず、気が付けばサクヤが吹っ飛んでいる。


「サクちゃん!」


 慌ててライデンがミノスとサクヤの間に入り、あらためて攻撃を受け持つ。

 見ると、サクヤのHPは八割ほどが減っており、スキルがなければ即死だっただろう。


「これはきついわ。攻撃自体も目で追うのがやっとだし」


 サクヤはすぐに戦線に戻れず、ゼロから何度か回復魔法が入るまで待つ。

 その間、ライデンはよろめきを与えて攻撃魔法が通りやすくしつつ、ダメージを食らわないよう気を配りつつ戦った。


「パターン入ったかな?」


 後ろから矢を撃ちながら、ゾイルが呟く。

 ライデンとサクヤが攻撃を避けながら時々敵のHPを削る。そして後衛の三人が、防御を全く気にせず全力で攻撃を繰り返す。ゼロも『ホーリーライト』でダメージを与えられるが、MPの消費をしないように、温存している。

 そうしているうちに、またミノスが大きく構えを取る。同じ攻撃であればサクヤが耐えられると思い、ライデンが下がろうとしたところに、ゾイルが大きな声で指示を出した。


「ミノスのHPは一割を切ってる! 発動前に殺すぞ!」


 削れるかどうか微妙なところだったが、ライデンは前に出て『ペネトレイト』を発動してダメージを積み重ねる。サクヤもMP効率が悪いと言いつつスキル『スマッシュ』を発動させて殴りつける。

 さらに、後衛からも攻撃が飛び、HPがほぼ0に近付くも、削りきれない。そして溜めが終わったとほぼ同時に、ゼロの『ホーリーライト』が発動して、ミノスのHPを削りきった。


「うわ、危なかった」

「一応、ダメージを計算して削れる状態だったから声をかけたんだよ」


 ゾイルはしれっとした顔でライデンの独り言に反応する。


「マスターの計算は速いよな。っつーかHPバーで計算とかどうやってんの?」

「バー全体の長さと、各種攻撃の減り方から、相手の防御力を算出する。あとは一番与えるダメージが小さな人を最小公倍数にして、相手のHPを推定するだけだ」

「なるほど、解らん」


 ライデンがさじを投げて、ゾイルは困ったように笑いながら捕捉をする。


「半分を切った時と、一割を切った時は、ダメージに変化がおきないかチェックしているから、滅多なことでは失敗しない」


 ゾイルの言葉を聞きながら、リラーが質問を投げる。


「あれ、でも今回、ミノスに『ホーリーライト』なんか使ってなかったわよね?」

「うむ。計算してみたら、ミノスの防御力自体が高くなっているが、雑魚の数値がそのまま比率を変えただけだったようでな。雑魚に使っている時のダメージから判断した。というより『ホーリーライト』を外してミリ残りになるはずだったから、ダメージさえ通れば勝てるかと思ったのだ」

「なるほどね。ああ、でも疲れたわ」

「さっさと抜けて、新しい町に行こう」


 倒れているモンスターシンボルが消えていき、代わりにドロップアイテムが表示される。ライデンたちは部屋中を歩き回りながら拾い集めた。

 どう見ても使えない大斧、役に立たなそうな鎧などに混ざって、良質の杖が落ちている。


「パシパエの杖? へえ。町での鑑定が楽しみ」


 討伐の時に確定で落とすのか条件付きで落とすのか、それともランダムなのか不明だが、ボスのドロップで落とす杖だ。少なくともこれまでの店売りよりは効果が高いだろう。

 あらかた拾い終わった後、奥にある扉を開けて先に進んだ。

 そして洞窟を抜けると、大草原が広がっていた。

 レンジャーであるゾイルが持っているスキル『狩人の目』には、命中率を高める他に、視界が広くなるという効果もある。障害物が多い場所だと効果は低いが、こういった広々としたエリアでは非常に有用で、遠出のたびに重宝している。


「あっちに町が見える」


 ゾイルの案内に従って、ライデンたちは新しい町に向けて出発した。

 途中、何度かモンスターが襲ってきて相手をするが、明らかに強くなっているようで、ライデンやサクヤも途中何度か攻撃を食らい、数が多い時にはゾイルも前に立って戦線を支える。

 そろそろMPの残量も危険な頃、ようやく町に到着した。


「今回は危なかったわね。せっかくPK合戦に勝って大きく差を付けているのに、ここで死に戻ったら何をしているのか解らないところだったわ」


 町に入るなり、リラーがため息を吐きつつ呟いた。町は10メートルはある大きな壁に囲まれており、中に入るとこれまであまり見なかった五階建てくらいの建物も存在している。

 そして煉瓦造りの建物だけではなく、鉄壁や石壁も多数使われており、落とし戸ではなくガラス窓もちらほらと見かける。


「結構発達しているわね。城塞都市かな?」


 どちらかと言えば無口なブラックが、嬉しそうな声を上げる。毎度新しい町に着くとそわそわと周りを見渡しているが、これまではほとんど煉瓦造りだったり遊牧民風だったりと、文化レベルが低めに設定されていたので、少し発達しているのが嬉しいのだろう。


「さて、今日はあと三時間ほどか。雑用は俺がやっておくから、今日はそれぞれ自由に行動していいぞ」


 ゾイルがブラックの様子に目を細めながら提案する。


「じゃあ、私が杖の鑑定に行ってくるわ」


 リラーが雑用の一つである杖の鑑定を受け持ち、どこかに向かって歩き出した。ゾイルも一人で人混みに消えていき、ブラックは申し訳なさそうにしながらも、ゼロと一緒に町並みを見ながら歩いて行った。


「忠犬だな」

「あれだけ解りやすいのも少ないわね」


 普段から周りの女の子を口説きつつ、ゼロは常にブラックを気遣っている。メンバー全員が解っているが、ブラックが一向に気付かないため、生暖かく見守っている。


「あら、実はもう二人ほど、解りやすいんだけどね」


 ライデンとサクヤが話していると、リラーがにやにやと笑いながら呟く。ライデンとサクヤが驚いて振り返った。


「ビックリした。リラさん鑑定に行ったんじゃないの?」

「あら、偶然会話が耳に入ってね。解りにくい人もいるけど、何事も人それぞれよね」


 リラーは意味の解らないことを言いながら、手を振って今度こそ鑑定してくれる店に向かっていった。


「神出鬼没というか、町中じゃスキル発動しないからな」

「生身なら気配で解るのに。VRじゃ全然解らないもん」

「気配で解るってのは凄すぎない?」

「そうでもないわ。例えば、向き合ってなくても誰かにじっと睨まれたらなんとなく解るでしょう? それがもう少しだけ過敏になった感じ」


 解るような解らないような。そんな雑談をしながら、ライデンはサクヤと一緒に買い物を楽しんだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ