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百年遅れの英雄譚  作者: すっとこどっこい
第五章 青年時代
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カルネ失踪

 情報を持ってきたミーアに礼を言い、家に上がってもらい詳細を聞く。

 とはいえ、ゼロの伝言を持ってきただけで、詳しい事情は聞いていないようだ。


「朝一番に、カルネさんが団長室の前で待っていたそうです。それで急に切り出されて、細かい事情を聞く暇もなく出て行ってしまったって」

「ふうん。でも、別にいいんじゃないの? カルネさんなら充分食べていけるだろうし」

「……シフくんとトリちゃんって、基本的に『食べて行けるかどうか』が判断基準よね。それはそれで間違ってないんだけど、欲がないっていうか」


 呆れた様子のケラシーヤに、シフは毅然と言い返す。


「失敬な。ちゃんと欲望には忠実だぞ」

「何それ」

「欲があるから、三人を妻にしたんだしな」

「ああ、うん。解ったからちょっと黙ってくれる? ミーアちゃん、わざわざありがとう。ゼロって今から会えるかしら」


 ミーアはケラシーヤのあしらうような態度に驚いて様子をうかがっていたが、シフがまったく気にしていないのを見て、話を続ける。

 お互いに軽口を言い合うのはいつものことだし、今さらこのくらいで距離感を間違って本気で喧嘩を始めたりはしない。時折大げんかもするが、ほとんどの場合でシフが敗北している。


「はい、大丈夫です。というより、もし差し支えなければ呼んできて欲しいと言われてますので」

「そう、ありがと。シフくん、一緒に来てくれる? 色々と込み入った事情も説明したいし」

「ふうん?」


 カルネとケラシーヤは、シフが思っていた以上に仲が良かったようだ。

 シフとしても、ケラシーヤの心配事は取り除いてあげたいので、手伝うことに異論はない。


「じゃあ、ちょっと行ってくる。悪いけど、ティナは子ども達の面倒をお願い。エル、ちゃんとティナの言うこと聞くんだぞ」


 ティナは落ち着いた様子で頷き、エルも元気よく返答する。他の子どもたちにも声をかけて、シフとケラシーヤは家を出た。ミーアもティナを手伝うために、少しの間は残ってくれるそうだ。

 二人で歩いていると、ケラシーヤは平静を装っているが内心では落ち込んでいるようで、シフが話を振っても、今ひとつ元気がないようだ。


「ケイ、カルネさんの事情によるけどさ。また六歌仙に戻ってきてくれないか、聞いてみたらいいんじゃねえか?」

「でも、いったん勝手に辞めるって出て行った子を、何事もなかったかのように元通りに戻すわけにもいかないわ」

「カルネさんって六歌仙でも人気あるじゃん。だから出戻りは大丈夫だと思うぜ。まあ、ふざけるような態度をしょっちゅう取るし、細かい問題を見つけては突いてくるし、俺としては思うところはたくさんあるけど」


 なにそれ、と笑いながら突っ込んでくるケラシーヤ。少しでも気が紛れればよいと思いながら、六歌仙に着くまで暗くなるような話題を避けつつ話を弾ませた。

 六歌仙に到着して、扉を開けると、すでにカルネの話は出回っているようで、ひそひそと声が聞こえてくる。

 シフもケラシーヤも、人並み外れて聴力が良いので、内緒話でも聞こえてしまうのだ。



 そういった一切を耳に入れつつも無視して、二人は団長室へと足を運んだ。

 中に入り、挨拶もそこそこに話を促す。


「じゃあゼロ、さっさと説明なさい。カルネはなんて?」


 六歌仙に着いてから耳に入った噂に腹を立てているのだろうが、それでゼロに当たるのはかわいそうだ。

 シフはケラシーヤをなだめようと、ぽんぽんと肩を叩く。


「ケイ、焦んなよ。噂話をしてる奴らだって、本気にしているわけじゃなさそうだしさ」

「そりゃそうよ。ゼロとの権力争いに負けたからだ、私が退いた後釜を狙っていただ、邪法に手を染めただ、駆け落ちだ、どれほど根も葉もない噂が飛び交ってるんだか」


 憤慨しているケラシーヤに、シフは聞いた時から気になっていた質問を投げる。


「邪法って、どんなのが当てはまるの?」

「国や人に害を為すものが大半なんだけど、単純な攻撃魔法なんかは除外されてるわね。んー、倫理的に危険なのが当てはまるかな」


 死体を操るとか町を一つ潰せる規模の魔法とか、と続ける。

 話を聞くと、シフにも危ないと思える内容がほとんどだ。そういう意味では、カルネが手を染めている可能性は低いだろう。


「結果として邪法扱いになるってことはねえの? 例えばケイの精霊魔法、組み合わせて凄い威力を出してるじゃん」

「ああ、あれはね、ちゃんと魔法使いの組合に伝えているし、使う相手は魔物に限るっていう契約も取り決めてるから大丈夫」

「ふうん。実は結構いい加減?」


 シフが思ったことをそのまま口に出すと、ケラシーヤは眉にしわを寄せて腕を組む。


「いい加減と言えばいい加減ね。私は何というか、長年の経験というか人脈というか、そういうものでごまかしている感じかしら。カルネはまだ若いから、目を付けられたら面倒でしょうね。あの子、問題を起こすと色々と突っ込まれる要素はあるのよ」


 ふうん、と解ったような気分で再び頷いたが、ゼロには聞こえないように、重ねて質問をする。


「でも地球と違って移動手段は乏しいし、連絡も取りにくいしさ。どこで何やってようがばれないんじゃねえの?」

「まあ、普通は。ほとんどが問題を起こしたから邪法扱いとか、後追いになってるわ。誰だって、自分の研究を広く開示なんてしたくないし」


 ケラシーヤにしてもカルネにしても、少なからず出したくない情報に突っ込まれる要素があるのだろう。

 横にずれていた話を戻して、あらためてゼロから話を聞く。


「以前にも顔を出さなかった時期がありますし、カルネが六歌仙に所属するより単独で動く方を選んだ以上、無理して連れ戻す意味はないと思ってます」

「ゼロさん、無理してじゃなくて、話をした結果カルネさんが戻りたいって言ったら、戻ってもいいもんなの?」


 シフの疑問に、ゼロはええまあと頷く。

 別に悪事を働いたわけでもないので、出戻り自体は構わないようだ。結婚をして危ない傭兵家業を辞めて、子どもが育ったら復帰する人もいるらしい。


「へえ……もしカルネさんも結婚するから辞めたんだったら、ちょっと面白いね」

「なに、シフくんは駆け落ち説を支持するの」

「いやそうじゃなくて。いつも冷めた風のカルネさんが大恋愛って、面白いじゃんか」

「そうだとしたら、私に相談がない時点でお説教よ。でも、そんなかわいい理由だと良いけど」


 これだけ急に辞めたのだ、十中八九面倒ごとだろうと全員が思いつつ、ケラシーヤがカルネの家への再訪問の判断を下して、この場は解散となった。



 六歌仙を出る前に、戻ってきて働いているミーアを見かけたので、二人は近付いて声をかける。そしてミーアに話しかけながら、その実は周りに言い聞かせるよう大きな声を出す。


「ミーアさん、ちょっと俺たちでカルネさんの家まで様子を見に行くよ。どんだけ事情が聞けるか解らないけど、また報告するから、変な噂を聞いても気にしないようにして」

「ええ、そうするわ。でも私はゼロから色々と聞いてるから大丈夫。それより、行くならトリちゃんも連れて行ってあげるの?」


 ふいに出てきたトリの名前に、シフとケラシーヤは顔を見合わせる。


「別に子どもに影響無さそうで、行きたがったら一緒に行ってもいいと思うけど、なんで?」

「トリちゃん、結構カルネさんを慕っていたから」

「へえ、それなりに仲が良いとは聞いていたけど、そこまでとは意外ね。……何か、家では言えない愚痴でもあったのかもね」


 前半は普通に、後半はシフだけに聞こえる音量でつぶやく。シフはどうだろうね、と小さく首をかしげて、ミーアに顔を向けた。


「うん、解りました。じゃあトリが行きたがったら連れて行くよ。色々ありがと」

「いえいえ。こちらもたくさんお世話になってるし。気を付けてね」


 ミーアとの話を終えて二人は外に出た。家に戻る道すがら、ケラシーヤは何やら考えているようで口数も少ない。

 こういう時のケラシーヤは放っておくに限ると、シフはケラシーヤの横顔を見ながら道を歩く。

 カルネが何を考えて辞めたのかも気になるが、それ以上に何も言わずに去ったせいでトリが落ち込まないかが心配だ。ただでさえ、ケラシーヤが落ち込んでいるのだ。


「ねえ、シフくん。相談したいんだけど」

「ん?」

「ちょっと耳を貸して」


 考えごとをしていたケラシーヤが、シフに目を向ける。シフはケラシーヤの肩を抱き寄せて、周りに聞こえないように配慮する。

 体重を預けた格好のまま、ケラシーヤは悩みを口にする。


「どうすればいいと思う? 本人が研究のために辞めたのなら、放っておくべきでしょうけど……」

「さあ、直接会って、話してみたらいいんじゃねえの? カルネさんだって、ケイに一言もないままで気にしてるかもしれねえし」

「そうね。厄介ごとに巻き込まれていなければ、本人が望むなら辞めちゃってもいいんだけどね」


 話していても埒があかない。

 シフは肩に回していた手を動かして、ケラシーヤの頭を軽く撫でた。


「まあ、悩んでもしょうがねえし。さっさと行こうぜ」

「そう……ね。うん、会ってみないと、何とも言えないわね」


 思い詰めたような顔から、ようやく前向きになった様子を見て、シフは安堵のため息を吐く。


「ごめん、心配させた?」

「おう。でもまあ、ケイは普段から悩むそぶりを見せないからな。たまには弱っていても、いいんじゃねえか」

「何よそれ」


 その後は元気に軽口を叩きながら、二人は家路についた。


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