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百年遅れの英雄譚  作者: すっとこどっこい
第四章 少年時代(平和な日々)
43/49

写真撮影

 シフは六歌仙の本部を出た後、早速ゴーフェル卿の屋敷へ向かい、出迎えた侍女にゴーフェル卿の依頼内容を伺う。


「以前から研究していた物を写すからくりが出来たとのことで、シフ様を撮りたいとのことです」

「何枚か撮ってもらって、余分に撮ったのを貰ったりできますか?」

「よろしいと思いますが、主を呼んで参りますので、しばらくお待ちくださいませ」


 侍女は応接室で飲み物の準備を用意してから、ゴーフェル卿を呼びに部屋を出る。

 しばらく待っていると、足音が二つ、近づいてきた。シフは立ち上がり、入ってくるのを出迎える。


「ああ、待たせたね。何人かで撮って、余分に欲しいのだったね。それは構わないよ。人数分用意しよう」


 ゴーフェル卿は部屋に入ると、挨拶もそこそこに本題を始める。後ろで侍女が「久しぶりのお客様なのですから、挨拶はきちんとしてくださいませ」とたしなめているが、本人はどこ吹く風だ。


「それで、いつ頃なら撮れそうだね? 明日か?」

「近々ちょっと旅に出るんですよ。だからその前に寄って、撮ってもらえますか?」

「ふむ、旅か。旅は良いぞ。歳を取ると、長時間の移動は辛いからな。若いうちに行くと良い」


 何やら年寄りのように話すが、ゴーフェル卿自身、それほど歳は取っていないだろう。


「ゴーフェル卿もまだまだお若いじゃないですか」

「そんな話はどうでも良いのだ。それよりも……」


 ゴーフェル卿は年齢の話よりも、カメラの仕組みについて、嬉しそうに解説を始めた。

 途中でシフがカメラという単語を口にすると、ゴーフェル卿は気に入ったようで、正式な名称として採用された。

 しばらく話をしていると、案内してくれた侍女が顔を出した。


「主、シフ様、そろそろ夜も更けてきましたが、夕食はどうなさいますか?」

「うむ。シフ君、せっかくだから食べて行くと良いぞ。何せ、君の提案で一気に前に進んだのだからな」

「いえ、何も言わず勝手に外食すると、妻に怒られますから」


 シフの言葉にゴーフェル卿が驚いた顔になる。伺いを立てた侍女は職業柄か、年若いシフが妻と口にしたにも関わらず、驚いた顔を一切出していない。


「……妻? 君は結婚していたのかね?」

「まだですけど、お腹に私の子どもがいるし、将来を誓い合った仲です」


 ふむ、とゴーフェル卿は考え込んだが、すぐに鷹揚に頷いた。


「無理強いする気はない。よかろう、今度はお主の妻とやらも連れてくるが良い」


 シフはゴーフェル卿や侍女に礼を言いつつ、屋敷を後にした。



 家に戻り、夕食の時にトリに許可が出たかどうか聞いてみる。


「トリ、仕事はどうだった?」

「休むのは嫌がられたけど、許可は出たよ」

「そう、良かった」


 安堵の声を出しながら、シフはちらりとケラシーヤに目を向ける。

 軽く首を横に振ったのを見て、トリへと目線を戻した。


「短くても二ヶ月くらいかかるからな。よく休みが出たもんだ」


 感心するようにつぶやくと、トリはにやりと笑みを浮かべる。


「まだ短いけどさ、これでも一応、まじめに働いてるんだぜ」

「そりゃ知ってるよ」

「うん。それでまあ、休みが欲しいって言ったら、はじめは俺が休んだら売り上げが落ちるから駄目だって言われた」


 トリの言葉に、シフは首を傾げる。トリは最近、厨房での雑務から接客までこなすが、いないからといって売り上げが上下するほど重要なものでもない。


「俺が看板娘なんだとさ。普段は外に食いに行く連中も、俺がいると本部の食堂を利用するって言われた」


 へへん、と偉そうにトリが胸を張る。シフは怪訝そうな顔に、不機嫌を追加する。


「何だそれ。ケイ、六歌仙の人に良からぬことを企むような奴はいないだろうね」

「いないと言い切れるわけじゃないけど、トリちゃんに手を出すような馬鹿はいないわよ」


 トリは嬉しそうな顔を隠そうともせず、シフに質問をする。


「兄貴、俺が人気だと心配か?」

「そりゃ心配だよ。交友関係を広げるのは良いけど、変な奴に絡まれたりするとさ」

「あら。そういうのは、他の従業員が排除してくれるわよ」


 ケラシーヤが、笑いながらシフの心配を払拭する。

 でもな、と僅かに顔をしかめて心配そうにしているシフに気を良くしたのか、トリが嬉しそうに続ける。


「駄目って言って辞めたら困るってさ。何度もは無理だぞって念押しされたけど、今回は良いってさ」

「そう。何にせよ、一緒に行けて良かった」


 トリの話が一段落ついてから、シフは写真の話を切り出す。


「ケイ、ゴーフェル卿って知ってる?」

「知ってるわよ。結構名のある伯爵家の、四男か五男だったかしら。前に挨拶もしたわね」

「あ、そんなに偉いんだ。彼がカメラの発明を頑張ってて、手伝ったのがきっかけで仲良くなったんだ。それで、試作版ができたから、試しに撮りたいんだってさ。だから、この四人で撮ってもらいたいんだけど、どうかな?」


 ティナとトリは何のことか解っていないようで、ケラシーヤに判断を任せている。

 ケラシーヤは少し考えながら、口を開く。


「そう……お腹が目立つ前に撮ってもらう方が良いわね。産まれた後に、また赤ちゃんと一緒に撮ってもらいたいけど、お礼とかどうすればいいかしらね」

「どうなんだろ。お金に困ってる様子はなかったけど」


 今後の話は、会って話をしないと進まない。二人はそう判断して、ティナとトリに、写真についての説明をはじめた。



 数日が経過して、旅に出る前日、シフたちは朝からゴーフェル卿の屋敷に訪れた。出迎えてくれた侍女に挨拶をして、応接室でゴーフェル卿を待つ。

 すぐにゴーフェル卿がやってきて、いつものように偉そうな態度で話し始める。


「よく来た。ふむ、彼女たち、三人が君の妻かね。子どもが出来たと言っていたが……」


 ゴーフェル卿は、三人の顔とお腹あたりを観察する。


「若いのにと言うべきか、若いからこそと言うべきか。いや、エルフか。ならば老いてなお、か?」


 ゴーフェルは独り言を言っているつもりのようだが、全員の耳に入っている。侍女はケラシーヤだと解っているのか、顔面蒼白になっている。

 シフもケラシーヤの機嫌が悪くならないように何か言おうとしたが、予想に反してケラシーヤが笑い出した。


「あら、私、若い方よ。エルフにしては」

「それは失礼。エルフを見るのは、ケラシーヤ殿に続いて二人目なものでな」

「ふふ、人の顔を全然覚えてないのね」


 何やら親しそうに話すケラシーヤに、シフは怪訝な顔で質問を投げる。


「ケイ、ゴーフェル卿と仲良いの?」

「いえ、それほどでも。前に一度、挨拶しただけよ。ただ、あまりに興味ない感じで挨拶されて、余計印象に残ってるのよ。こんな小さい頃だったから、研究者になるなんて思ってなかったけどね」


 こんなと言いながら、腰ほどの胸元より少し下を指し示す。ゴーフェル卿がケラシーヤの言葉に首を傾げると、ケラシーヤは優雅にお辞儀をした。


「挨拶がまだだったわね。お久しぶり。六歌仙所属のケラシーヤです」

「……ケラシーヤ殿は、結婚はされていないと思っていたが」

「シフくんから聞いてない? 結婚はまだ。ちょっとばたばたと忙しくって」

「シフ君とは、どういう経緯で?」


 あまりに直球の質問で、ケラシーヤは黙り込む。すると恐る恐るといった風に、侍女が手を上げて、ゴーフェル卿は頷いて発言を許可した。侍女はケラシーヤの様子も伺い、問題なさそうだと判断して話し始めた。


「差し出がましい発言で、失礼致します。主、もしやシフ様が以前に魔竜を討伐して、王女殿下のお披露目の場にいらっしゃったのもご存知ではありませんか? 見に行きましたよね?」

「うむ、行くには行った。お前が行くべきだというから仕方なく」

「主、その時に壇上は見ましたよね。ケラシーヤ様とシフ様のお顔はご確認なさってましたよね」

「見たが覚えてないな。人の顔を覚えるのは、苦手でな」


 ゴーフェル卿と侍女の言い合いで、ケラシーヤだけではなく、ティナやトリもくすくすと笑いを漏らす。

 ゴーフェル卿はため息をついて首を振り、あらためてシフたちに向き直る。


「ケラシーヤ殿、覚えていなくて申し訳ない。シフ君もな。だが私にとっては、誰が何をしようがどういった立場だろうが、あまり関係ないのだよ。シフ君が研究の役に立つ言葉をくれた、それが重要なのだ」


 ゴーフェル卿の言葉を受けて、ケラシーヤがこそこそと質問してくる。


「シフくん、何を言ったの?」

「んー。レンズがね。凸レンズと凹レンズ作ったらどうかって。それだけ」

「あらそう。これからカメラを見て、もっと良い意見が出せたら良いわね」


 話が一段落ついて、撮影のためにカメラが設置された部屋へ案内された。

 部屋には人よりも大きな機械が置かれていて、水が入った桶や使い道の解らない途切れた銅線などが配置されている。


「これはまた、凄いわね」


 思っていた以上に大仰な仕組みだったので、シフもケラシーヤの言葉に頷いて同意する。

 ゴーフェル卿はケラシーヤの言葉に気を良くしたようで、意気揚々とカメラの説明を始める。

 しばらく聞いていたが止まる気配がないため、ケラシーヤが手を上げて制する。


「お話はまた次の機会に。まずは撮ってみてもらえませんか?」

「ふむ、そうか。ならば、その壁沿いの枠の中に立ちたまえ」


 言われて目線を向けると、縄が釘で固定された枠組みがあった。四人が並ぶにはちょっと狭いくらいの空間だ。

 シフは念のために確認をする。


「ここの中くらいが、撮れる範囲なんですか?」

「うむ。四人が並べないようなら、二人ずつでも構わぬぞ。全部で十枚ほどだから、撮り損じは諦めてもらうしかないがね」

「いや、四人でお願いします」


 後ろにシフ、その斜め前あたりにティナとケラシーヤが並び、トリがシフの前に立つ。四角を作るような並び方で、枠内に納まった。


「ふむ、では始めるぞ」


 言うなり、ゴーフェル卿が魔法を使い出す。黙って見ていると、雷を出して銅線へと流した。

 部屋全体が眩しく光り、ティナとトリが小さく悲鳴を上げる。


「ごめん、気付いたのに言い忘れてた。これ、何度もやると目に悪そうだね」

「そうかもね。何枚かくらいなら問題ないでしょうけど……」


 四人は警戒しつつ、失敗した時のためにも何枚か撮ってもらう。撮影が終わり、ケラシーヤはゴーフェル卿へと提案をする。


「黒い布を覆って、光を前方だけに出す方がいいわね」


 ケラシーヤからいくつか改善案が出て、シフも思ったことを口にする。しばらく意見をかわしていると、侍女が部屋にやってきた。


「昼食の準備が整いましたので、こちらへどうぞ」

「ああ、うむ。ご苦労」


 誘われるままに昼食をいただき、写真が出来上がるのは半月以上かかるとのことで、戻ってきてから受け取りにくると話がついた。


「ゴーフェル卿、今日は色々とありがとうございました。また戻ってきたら、顔を出しますね」

「ふむ。今日の意見を精査して、改良を加えるのにも時間がかかるからな。また撮りにくるといい」


 ケラシーヤたちもそれぞれ挨拶をして、みんなで家路についた。



 家に到着して、少し休憩をした後、旅の準備をしていると、誰かが訪ねてきたようで、玄関の扉が叩かれた。


「誰だろ、姉さんかな」


 ティナが予測を立てながら扉を開けると、そこにはカルネが立っており、ティナに向けて手を小さく振る。


「やあ。久しぶりだね。今日戻ってきたんだけど、君たちが旅に出るとゼロ殿から聞いてね。取るものもとりあえず来たってわけさ。シフ君とケラシーヤ様はご在宅かな?」

「えっと。いらっしゃいますよ」

「というか、ここにいるの見えてるでしょう」


 たまたま近くを通っていたシフが文句を言うと、カルネは小さく肩をすくめる。


「だから、ケラシーヤ様の名前も出したんじゃないか。忙しいだろうけど、挨拶だけでもしておこうかと思ってね」

「解りました、呼んできますね」


 ティナが部屋まで呼びに行っている間にトリが顔を出した。


「あれ、カルネさん。戻っていたんですね。お帰りなさい」

「うん、ただいま。トリ君、ここは君たちの領域だからね。普段の言葉遣いでいいよ」

「いえ、そんなわけにはいきませんよ。おかけになってお待ちくださいね、飲み物を用意いたします」


 誰だあれ、と思いながら、シフが席へと案内する。程なくケラシーヤがやってきて、再会を喜び合う。


「お待たせしました」


 トリが五つ飲み物を持ってきて、それぞれの前に置いて、自らも末席に落ち着いた。各々お礼を言いつつ、よく冷えた飲み物に口をつける。


「さて。ゼロ殿に聞いたのですが、ケラシーヤ様は既に引退されたのですね。それで、女王陛下の即位式もすっぽかすと。いえ、他意はありませんが」

「それだけ言ってさらに他意があったら、たまったもんじゃないわ」

「そうですか? それはともかく、本題に入りますね。ちょっと離れた場所に研究所を持っているのですが、副団長にさせられたことですし、フランにも拠点を置こうかと思いまして。ケラシーヤ様の部屋を引き継ぐのですが、部屋の構造についてちょっと」


 ケラシーヤは冷めた様子で話を聞いていたが、カルネの言葉で忘れてたとつぶやいた。


「あー、そうね。じゃあ説明するから、ちょっと本部まで行きましょうか。シフくん、悪いけどちょっと出てくるわ」

「俺も行くよ。本部に着いたら、適当に時間潰すからさ」


 問題ないだろうが、何かあってからでは遅い。そう思ってシフは同行を申し出る。

 反対されるでもなく、三人で雑談をしながら本部へと向かった。



 しばらく経ってケラシーヤだけが部屋から出てきて、用事が済んだからと帰途につく。

 道すがら、シフとケラシーヤは明日からの旅について予定を話し合う。

 馬車はかなり良いものを用意しており、道中、ケラシーヤにできるだけ負担がかからないよう配慮している。

 一度も馬車に乗ったことのないトリが酔わないかどうか心配だが、もし酔いが酷いようならシフが馬に乗って、後ろに乗せればいい。

 片道で一ヶ月近くかかるのでみんな準備に余念がない。



 そして翌日、ミーアやカルネに見送られて、シフたち四人はフランを出てシフの生まれ育った村へと旅立った。


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