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百年遅れの英雄譚  作者: すっとこどっこい
第三章 少年時代(吸血鬼討伐編)
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トルエンの後始末

 シフたちが町長を捕らえた後、しばらくは後始末に追われた。屋敷内の混乱に町長の代行、被害者の行方など、多岐にわたる。ほとんどケラシーヤとカルネ、ティナの三人が事務処理にあたり、シフは吸血鬼になってしまった被害者を発見しては、退治する日々を過ごした。

 しかしシフにとって一番厄介だったのは、カルネからの追求だった。

 シフ一人ではカルネの勢いに押されかねないため、ケラシーヤに助っ人を依頼する。シフとケラシーヤ、カルネにティナの四人で夕食を取る時間を利用して、質問が投げられた。部屋には四人しかおらず、他の人に会話を聞かれる心配はない。


「それで、どうして炎が効かないのかな? 特異体質じゃ成り立たないよ」

「えっとですね」

「時々、意味の解らない言葉を使っているけれど、それも関係するのかな。風の噂では、荒唐無稽な作り話をしていたとも聞いたけど」


 カルネの言葉に、ティナが少し居心地が悪そうに身じろぎする。シフはティナに目を向けず、カルネに返事をする。


「あー。よくご存じで。それが本当の話なんですよ。ケイもだけど、他の世界から転生してきたんですよ。持ってきたのは記憶ひとつなんで、証明の方法はないんですけどね」

「ほうほう。それは楽しい話だね。でもシフ君。それと炎の中で燃えないのは繋がっていないのだよ。ケラシーヤ様の魔力も凄まじいけど、転生とかは関係なく、エルフとしてあり得ない程ではないのだよ。まあ、エルフの癖にこんな胸なのは、何かがおかしいと常々思っていたけどね」

「癖にって、カルネ?」

「いや、失礼。つい本音が」


 シフがつい目線を三人の胸元に下げると、ティナは隠すように皿を引っ張る。

 カルネは気にした様子ではなかったが、わざとらしくため息をついた。


「私は見ての通り、絶壁だからねえ。頭が良くて顔も悪くないし、傭兵団の幹部なのに結婚できないのは、これが原因じゃないかと懸念しているよ」


 シフが突っ込むべきか迷っていると、先ほどの反撃かケラシーヤの口から嫌味が出てきた。


「カルネが結婚できないのは、どう考えても、その口の悪さだと思うわ。悪さというか、達者さというか。そもそもあなた、今までの私と一緒で、結婚なんかする気ないでしょう?」

「まあ、それはいいです。脱線しすぎましたね」


 カルネは不利を悟ったのか、話を戻すように手をぶんぶんと横に振る。


「話を戻すけど、それで転生先が竜で、そのおかげで百年くらい時差が出て、竜の特性を持っていると?」

「ええ。竜の部分は推測ですけど、間違ってないと思いますよ」


 シフの言葉に、カルネが考え込む。


「ふむ。転生ねえ。それができるだけの魔法が、その世界にあると。興味深いね」

「魔法っていうか……」


 シフが説明をしようと口を開いたが、ケラシーヤが手振りで止めてくる。


「魔法みたいなものだけどね。残念ながら、こちらでは使えないわ。魔道具っていうか、理論体系がまったく違うから」


 カルネはそうですか、とつぶやいてから、顔を上げる。にやりと人の悪そうな笑みを浮かべて、シフとケラシーヤの顔を見比べた。


「ではシフ君とケラシーヤ様は、前世でも恋人同士だったというわけですね」

「い、いや、そういうわけじゃないけど」


 シフが否定して、ケラシーヤも頷く。すると、カルネから突っ込みが入るより早く、ティナから声がかかった。


「じゃあ、お祖母さまは? 元々はシフの恋人だった?」


 シフは驚いてティナに振り向く。ティナの表情はなく、内心は窺えない。


「いや、仲は良かったけど、恋人とかそんなんじゃなかったぜ」

「……そう」


 ティナはつぶやき、話は終わったとばかりに立ち上がる。


「ケラシーヤ様、申し訳ないですが仕事が残っているので失礼しますね」

「え、ええ」


 有無を言わさない様子で部屋を出て行くティナ。

 三人で黙って見送ったが、シフはすぐに立ち上がる。


「ごめん、俺もちょっと」

「ん。行ってきて。泣かせないようにね」


 ケラシーヤに見送られ、シフはティナを追いかけて部屋を出た。

 割り当てられた部屋の扉を開けて入ろうとしてたティナに追いついて、シフが声をかける。


「ティナ!」

「何?」


 明らかに普段と違うティナの態度と声音に、シフがたじろぐ。


「えっと。どうかしたのかなって思って」

「別に。シフには関係ない」


 あからさまな拒絶に気圧されたが、シフは踏みとどまり会話を続ける。


「でも、機嫌が悪くなったの、さっきの話が理由だろ?」

「……入って。ちょっと二人で話をしたい」


 ティナに招かれて部屋に入る。町長の屋敷で寝泊まりしており、間取りはシフの部屋と違いはない。

 椅子は一つしかないため、ティナは寝台に腰掛ける。

 ティナは冷めたような目をしており、嫌々話をしているといった態度を隠そうとしない。


「いくつか言いたいことはあるんだけどね。絶対否定すると思うんだけど」

「聞いてみないと解らねえよ」


 ティナは少し躊躇していたが、深呼吸をした後、質問を口にした。


「シフが私に優しいのって、お祖母さまの代わり?」

「……そんなわけ、ねえよ」


 一瞬怒鳴りかけて思いとどまり、冷静な口調で否定する。


「うん。そう言うと思った」


 ティナは悲しそうな目をしたまま、小さく笑う。


「本部でね。転生の話を聞いた時は、気にしてなかったの。冗談半分だったし。でも、私と姉さんしか解らないはずの言葉を理解していたし、もしかしたら、ってね。今日の話で、決定的だった」

「うん」


 シフは相づちを打つのみで、まずはティナの話をすべて聞く姿勢に入っている。


「お祖母さまは若い頃、別の人を好きだったのよ、なんて言っていたし。ゼロさんのお祖父さまじゃないとすれば、後はシフしか残ってないのよ」


 意外と言っては失礼だが、シフが思っていた以上にティナは頭が良かったようだ。


「仮に、ティナのお祖母さんが昔の俺を好きだったとして、ティナには関係ないじゃん」

「『サクちゃんの代わりにティナでもいいか』とか思わなかった?」


 ぎょっとしたシフを見ながら、ティナはゆっくりと立ち上がる。


「お祖母さまから、少しは話を聞いていたから。前世の話じゃなくて、若い頃の話だと思っていたし、『サクちゃん』っていうのが本名と違うあだ名なんだって思っていたけど」


 そのままかけていた首飾りを取り、シフに突きつける。


「これ、返すね。出てって」

「待って。その前に、俺の話を聞いて欲しい」


 シフの言葉に、ティナは無言で首飾りを突きつけていた手を戻すが、寝台には座らず、立ったまま腕を組む。


「聞くだけ」

「それがティナの素?」

「何が?」

「その、つっけんどんな態度。違うよな?」

「……そうだと言ったら?」

「別に、それはそれでいいけど。普段と違う態度を続けるのも、疲れないかと思ってさ」

「聞きたいのはそれだけ?」


 落ち着くように手振りしながら、シフはティナと話を続ける。


「聞きたいのはそれだけ。言いたいのは別。俺は、サクちゃんとティナを同じには見てなかった。それだけは、解って欲しい。俺を嫌うのは仕方ないし、振られたら諦めるけど、それが原因なのは我慢できない」

「何よそれ」

「ティナはさ。サクちゃんと違って気配りもできるし。姉さん思いで、実は苦労性だしさ。俺が贈り物しても、わたわたして可愛いし。ポーラと一緒に討伐に出た時も、後輩を指導する先輩っていう役割が嬉しくて耳がぴこぴこ揺れていたのも微笑ましかった」


 ティナは先ほどまでの態度とは打って変わって、顔を真っ赤にして怒鳴りだした。


「そういうのは、言わなくていいの! じゃなくて。振られるとか、まるでシフが……その」


 手にした首飾りをぐっと握り締めながら、ティナが言葉を選ぶ。


「ああ、うん。ケイと仲良くしながら言うことじゃないかもしれないけど、ティナも好きだよ。俺さ、前世の記憶があって少し倫理観がずれているせいで、二人に告白して妻が二人っていうのは、本当はちょっとだけ抵抗あるんだけどさ。好きなのは事実だし、恋人がいない人に告白するのは悪いことじゃないって聞いたから」

「そりゃ、恋人がいたら駄目よ」

「うん。ティナ、恋人はいないよな?」

「いないよ。いないけどっ」


 シフは立ち上がると、うぅと唸るティナから首飾りを受け取り、あらためて鎖を広げる。


「本当に嫌なら、これは持って行くよ。でも、もし構わないなら、首にもう一回、かけてもいい?」

「さっきの話、本当?」

「どの話?」

「お祖母さまと、同一視はしていないって」

「うん。この首飾りと、生けとし生けるものに誓って」


 シフの宣言に、ティナが部屋に入って初めて本心からの笑みを浮かべる。


「何それ。神に誓うんじゃないの?」

「あー。うん。神にも誓う」


 ティナが黙って目を閉じて、少し首を下げる。

 シフは、ティナの首に手を回して、首飾りを着けた。そして、そのまま肩に手を置いて、軽く抱きしめる。

 ティナはしばらく固まっていたが、シフが背中をぽんぽんと叩くと、落ち着いたように力を少し抜いた。

 シフが離れても真っ赤なままのティナは、力が抜けたように寝台に座る。シフも椅子に座り直すと、落ち着かない様子で視線をしばらくさまよわせてから、ティナに目を向ける。


「別に、受けてもらえたからって、いきなり変なことはしないから。ティナが良いって言うまで待つよ」


 安心するようにシフが言い聞かせると、ティナは首を横に振る。


「シフに触られるの嫌じゃないから。さっきの態度は、その、無性に腹が立ったっていうか、私じゃなくても、例えば姉さんにゼロさんがいなければ、姉さんの方が良かったんじゃないかって思ったりして。その、ごめん」

「いいよ。思わせぶりな態度だけで、何も言わなかった俺が悪いし。誰でもいい中でのティナじゃなくて、ティナだから惚れたんだ」


 真っ赤になったティナに笑みを向けながら、シフは立ち上がる。


「今日はもう寝る方がいいね。疲れただろ」

「えっと。疲れたというよりは驚きの方が強いんだけど、今日いきなり、その、これからっていうのは心の準備がまだ……」


 しどろもどろになっているティナの様子に、シフは吹き出す。


「寝るって、そうじゃないよ。勘違いさせてごめん。俺も寝るから、部屋に戻るよ」


 最後に、とティナの承諾を得てから、シフは軽く口付けをして、部屋を出た。



 シフが部屋に戻ると灯りが点いていて、ケラシーヤとカルネが待ち構えていた。


「お疲れ様。で、どうだった?」


 質問してきたケラシーヤに、ティナが怒った理由や、その後のやりとりを説明する。


「そう。私もちょっと無神経だったわね。明日、謝っておくわ。でも上手くいって良かったわ。シフくん、おめでとう」

「えっと。うん。ありがと」


 ケラシーヤは安堵のため息をついてから、シフに祝福の言葉を贈る。

 カルネもにやにやと笑みを浮かべながらも、簡単な祝いを言ってくれた。


「それは良かった。せっかく仲が良かったのに、私の質問が破局を招くと、さすがに寝覚めが悪いからね。じゃあ、私は戻るよ。ごゆっくり」


 ひらひらと手を振りながらカルネが部屋を出る。

 残されたシフとケラシーヤは顔を見合わせたが、シフがケラシーヤに謝る。


「ごめん、今日は寝るよ。さすがにティナに告白した日にケイを抱くのは、ちょっとね」

「そうね。私も今日はご遠慮願いたいわね」


 意見の一致により、ケラシーヤも自室へと戻った。町長の討伐後、久々にシフとケラシーヤは別々に夜を過ごした。



 翌日、いつものように仕事を割り振るためにケラシーヤが予定を確認していると、カルネが手を上げて提案をした。


「ケラシーヤ様、そろそろ戻った方が良いのでは?」

「ええ、でもまだシンの場所も割らないでしょう」


 捕らえた町長を拷問してシンの場所を吐かせようとしていたが、一向に口を割らなかったため、考えがあると言ったカルネに、町長の処遇を一任していた。

 昨日の夜までは進展がなかったため、同じだろうとケラシーヤが言葉を返すと、カルネは自慢げに胸を張った。


「昨日の夜、ようやく話を聞き出せましたよ。ここに書きとめてありますが、シンの居場所は聖王の墳墓だそうです。予想外といえば予想外。盲点というか、してやられた感が強いですね」


 聖王の墳墓。聞き覚えがない単語に、シフが首を傾げる。ケラシーヤとティナは知っていたようなので、シフは説明を求めてカルネに目を向ける。


「初代国王の墓だよ。同じ場所に代々国王の墓が増えていくんだ。前王は、魔竜の炎で消し炭だから空だけどね。毎回、それなりの大きさの墓を作るから、増築に継ぐ増築で、広さも相当だし、半ば迷宮のようになっているらしいよ」


 カルネの説明に、ケラシーヤが付け足す。


「ただ、聖王の墳墓っていうくらいだから、邪気あるものには入れない仕組みだったんだけどね」

「吸血鬼の始祖というくらいですからね。少しくらいの聖気はものともしないのでしょう」


 カルネの言葉に頷き、戻る準備を整えようとするケラシーヤに、カルネが重ねて提案を口にする。


「後の処理は、私が引き受けますよ。三人で、先に戻ってください」

「そんなわけにはいかないわ」

「いや、吸血鬼はイビルアイを呼び出すでしょう。あれが出たら、私は戦力的に役に立たないですから。ここでの処理が終えたら追いかけるつもりですが、戻っても裏方にしかならないでしょう」


 シフもケラシーヤも否定の言葉が見つからず、黙り込む。

 困ったような様子を払拭するかのように、カルネが意地の悪い笑みを浮かべた。


「それに、今の三人と一緒に戻るのは、いくら私でもちょっとねえ。シフ君の邪魔はするつもりないよ」


 ぐうの音も出ないシフたちは、黙ってカルネの提案に乗った。

 翌日、カルネに後を任せて、シフたち三人は、いったんフランへと戻るためにトルエンの町を出発した。


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