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百年遅れの英雄譚  作者: すっとこどっこい
第三章 少年時代(吸血鬼討伐編)
36/49

町長の正体

 夜、シフはケラシーヤに声をかけられ、目を覚ました。


「シフくん、交代よ」

「ん……ああ。ケイ、おはよ」


 念のために、シフたちは野営の時と同様に、見張りを立てて警戒を続けている。

 シフが起き上がると、カルネが伸びをしてから、寝台に入る。


「起きたかい?じゃあ私は寝るよ。お二人さん、ごゆっくり」

「はいはい。カルネさん、お疲れ様です」

「シフ君はつれないねえ。寂しい独り身の私を慰めるために、添い寝してくれてもいいんだよ」


 カルネは寝台に寝転がったままシフに向けて手を縦に振り、自らの横をポンポンと叩く。


「遠慮します」

「そかそか。私の貧相な身体では駄目なのだね」

「そんな話じゃないですよね。いいからさっさと寝たらどうですか。最後の当番でもあるんですから」

「はいはい。すっかり慣れちゃって、お姉さんは悲しいよ」


 カルネは哀しそうに胸元をケラシーヤと見比べてがっかりしていたが、シフが突っぱねると何もなかったかのように、就寝の挨拶をかわして眠りにつく。

 そしてカルネから寝息が聞こえ始めた頃、ケラシーヤがひっそりとシフに話を持ちかけた。


「……シフくん、今日はティナちゃんと出かけて、どうだった?」

「どうって?」


 首を傾げたシフに、ケラシーヤは勘が鈍いと愚痴を言いながらも質問を重ねる。


「ティナちゃん、態度はさほど変わらなかったかしら?」

「ああ、その件ね。ちょっとだけ、意識してる感じだった。少しだけ押したけど受け流された。当たり前だけど、強引に迫ったりしてないよ」


 シフが言い訳じみた返事をすると、ケラシーヤは眠っているティナに目を向けて、小さく肩をすくめる。


「その心配はしてないわ。でも、意識してるのがシフくんにも解るくらいなら、時間の問題ね」

「ティナは可愛いと思うし、その、言っちゃえば好みなんだけどさ。気になってたけど、なぜケイはティナを推すの?」

「小さい頃から見ているけど、良い子なのよ。素直だし。でも男慣れしていないから、変なのに騙されないか心配だったの。それと気付いてなかったと思うけど、飲み会の時には結構気にしてシフくんを見てたわよ」


 ケラシーヤは語りながら、優しい目をティナに向けている。

 へえと相づちを打つシフに、ケラシーヤは自らの事情も加味する。


「前にも言ったけど、私がシフくんを独占すると、いつか叩かれかねないし。トリちゃんだけっていうのもね」

「だからトリは……」


 シフが反論を口に出そうとすると、顔の前で指を一本立てて、チッチッと横に振る。


「トリちゃんを舐めていると、今に痛い目を見るわよ。というかねえ。あなたがトリちゃんを嫁に出せるとは思えないわ。それこそ私が嫉妬するくらい大事にしすぎ」

「いや、そこまでじゃないだろ」

「自覚がない時点でもう。誠にお気の毒ですが、手遅れです」

「ひどい」


 否定するシフをあしらうケラシーヤ。交代までの時間、二人は細々とそんな話を続けた。



 翌日、昼過ぎになってようやくモースが宿に顔を出した。

 夕方まで待って連絡もなければ夜の町を散策すると決めて予定を立てていたが、モースが戻ってきたのを見てそれぞれ安堵のため息をつく。


「遅くなって悪かったな」

「それはいいけど、収穫はあったの?」


 ケラシーヤの質問に、モースは小さく頷く。ちらりと周りに目を向けて、声を潜めた。


「ここじゃちょっと。個室は取ってるか?」

「ええ。二階に取ってるからそちらで話しましょう」


 ケラシーヤを先頭に二階に上がる。部屋に入った後、モースは怪訝そうにしている。

 何か問題でもあるのか、とシフが聞くと、四人部屋を取っていることに驚いたようだ。


「交代で見張りを立てながらね。警戒しすぎかもしれないけれど、念のために」

「ああ、そう。びっくりした」

「それはともかく、どんな話?」


 シフは目を向けてきたモースに椅子を勧めて、話の先を促す。シフたち四人も、思い思いに椅子や寝台に腰掛ける。モースは頷くと、空いている椅子に座って話を始めた。


「俺の知り合いで、裏側の事情に詳しい奴から話を聞いてきた。町長もごひいきにしているらしくてな。町長の目線では、町の治安が良くなったと一概に安心できていないそうだ」

「浮浪者が減ったのに?」


 ティナが思わずといった風に疑問を口にする。話の腰を折ってしまったと恐縮するティナだったが、モースは同意するように頷いて、話を進める。


「浮浪者がいなくなった後、町の人間も時々消えているそうだ。六歌仙の傭兵が情報収集に来ているなら、情報を共有したいと言われた」


 町長と繋ぎを取って、問題なければ会って話がしたいとのことだ。

 シフは不審そうな顔になり、隣に座ったケラシーヤから肩を叩かれた。目線を向けると微笑みかけられ、意識して表情を整える。


「へえ、それはそれは。町長自ら教えていただけるとは。モース君、良い伝手を持っているね。ところで私たち六歌仙が来たっていうのは、君から言ったのかな? それとも、聞かれてから答えたのかな」

「ん? 俺から言ったと思うが。言っても良いって聞いていたからな」


 シフが表情を作っているうちに、カルネがさらりとモースを褒めつつ、疑問を口にする。


「そかそか。もちろん言って良いよ。参考までに、覚えている限りでいいけど、会話の内容を再現してくれるかな?」



 上手く聞き出しているカルネに会話を任せて、シフとケラシーヤ、ティナの三人は聞き役に徹する。

 しばらく二人で話が続いた後、カルネは満足したように切り上げた。


「ふむ、よく解ったよ。さて、ちょっと四人で相談したいんだけど……」

「そうか、じゃあ俺は少し飯でも食いに出るさ」

「悪いね。物分かりの良い子は嫌いじゃないよ」


 カルネはモースに席を外すよう促して、モースが立ち上がるとひらひらと手を振った。



「さてさて。敵か味方か解らない連中に私たちの情報が出回ったわけですが、どうしますかね?」

「様子を見て、敵なら粉砕かしら」


 モースが部屋から出て、階段を降りていったのを音で確認し終えてから、カルネが口を開く。間髪入れずにケラシーヤは物騒な意見を述べる。


「なんでケイが脳筋な発想なんだよ。味方か敵かの、見分け方が難しいんじゃねえか」

「あら失礼ね。毒か何かを盛ってくるなり、会話の誘導で情報を抜き出そうとするなり、何かあるでしょう。情報を得ようとしたモースから逆に情報を得た相手みたいにね」


 会話を聞いていても気付かなかった様子のティナが、驚いた顔になっている。


「モース、必要以上に話すよう誘導されていたよな。相手も情報を集めるのが仕事だろうから、お互いに出し抜きたいんだろうけどさ」

「そうだったの?」


 シフが説明するように話を続けると、ティナが首を傾げた。討伐や受付をしていても、騙し合いには馴染みがなかったようだ。


「うん。誘導尋問っていうんだけどね。後で説明しようか?」

「ううん、別にいい。ケラシーヤ様たちが把握しているなら、私は解らなくても問題ないもの」


 気負った風もなく、自然な態度でティナは断りを入れる。頭脳を使った駆け引きは苦手と割り切っているようだ。

 二人の会話を横目に見ながら、カルネは考えを口にする。


「動いているのがケラシーヤ様とは解らなくても、幹部が動いているのは把握されているでしょうね。交渉なんかは、私が主導でいいですか?」

「やってくれると、凄く助かるわ。カルネなら騙し合いで負けないでしょうし」

「立ち位置としても、私が三人を連れて様子見に来たといえば、粗雑には扱われないでしょうしね」


 カルネも時々試験官をしたり、大規模な作戦を展開する時は責任のある立場となる。魔法使いとしての知名度も高く、ケラシーヤの名前を出すよりは都合が良い。


「悪いわね、押しつけるようで」

「いえいえ、これも仕事ですから」


 ケラシーヤの謝罪に手を振って、カルネは笑顔を見せた。こういった態度を続けていれば苦手に思ったりはしないのだが、とシフは内心でため息をつく。

 その心情を知ってか知らずか、時折からかわれながら話し合いは続いた。



 そして二日後、シフたちは町長との面会を行った。

 闇に動く者がいるかもしれないとのことで、内密に打ち合わせるため、こっそりと町長の屋敷へと向かう。

 宿を出る前に、ケラシーヤは抵抗力を高める魔法を全員にかける。


「レジストポイズン、レジストパラライズ、レジストカース。あと何か、漏れてるのは無いかしら?」

「フィアーくらいじゃねえか?」

「ああ、そうだった。食べ物に混ざらないから忘れていたわ」


 毒、麻痺、呪いに加えて、恐怖への耐性を高める。ゲームの頃と違い、一括で抵抗力のみ高める魔法もあるが、一つずつきちんとかける方が効果が高い。戦闘中ならともかく、時間をかけられる以上は確実性を高めたいと考えて、ケラシーヤは順番に使っていく。



 徒歩で町長の屋敷へと向かい、門番に許可証を見せて通してもらう。入り口で出迎えた執事とモースが話をして、中へと招き入れられた。

 部屋数が二十を超えるような大きな屋敷で、来客が多くても対応できるようになっている。

 応接室に通されて、しばらく待つと、入り口で出迎えた執事の男が顔を出した。


「お待たせしました。主の準備が整いましたので、どうぞ」


 執事の言葉で座っていたシフたちは立ち上がり、部屋を出て執事の後ろを付いていく。二階へ上がり、廊下を歩く。

 少し進んだ先で、大きめの両開きになった扉を部屋の前に立っていた護衛が押し開いた。

 中には、ほっそりとした体型をした中年の男が立っていて、シフたちを出迎えた。


「ようこそ、我が町へ。私が町長です。六歌仙の方々、それも幹部の方にお越しいただけるとは……」

「動くな!」


 その姿を見た途端、シフが大声で警戒の声を上げる。周りを見ても、ケラシーヤたちの様子は変わらない。

 どうやら、町長と名乗った男の目に気付いているのは、シフだけのようだ。


「シフ君? どうした?」


 怪訝な顔で、カルネが疑問を口にする。

 それを無視して、シフは町長を見据えて質問を投げつけた。


「町長さんとやら。ひとつ、聞いても?」

「は、はあ。何か気に障ることでもありましたかな?」

「あなた、何故、目がそんなに赤いのです?」


 どうして他の三人が気付かないのかは不明だが、町長の目が赤く輝いているのがシフには一目瞭然だった。イビルに比べて、輝きが激しく紅が濃い。吸血鬼特有なのかもしれない。


「……何を……おっしゃっているのか」

「俺の目は特別でね。幻術か何か知らないけど、騙されねえよ。お前、吸血鬼だな?」


 シフが自分の目を指さしながら、町長の正体を断定する。

 町長は驚愕した様子で、ぽろりと考えが口から漏れた。


「馬鹿な。シン様の秘中の秘でもある『擬眼』を見破るなど……」

「シン様? 面白そうなお話を、聞かせてもらえそうね?」


 聞き逃さなかったケラシーヤが、目を細めてつぶやく。同時に魔法を唱え始めると、少し遅れてカルネも唱える。

 シフは剣を抜いて、町長に向けて走り出した。


「ちぃっ、出ろ!」


 町長が舌打ち混じりに手を鳴らすと、何もなかった空間に、大量のイビルアイが出現した。ざっと見ただけで、二十以上はいるだろうか。


「あらまあ。無効化されるわね、これは。カルネ、下がって。シフくん、ティナちゃん、任せるわ」

「これだけの数のイビルアイを、簡単に倒せると思うなよ」

「簡単とは言わねえけど、よっ」


 ケラシーヤが唱えていた魔法を変えて、土の精霊魔法で剣を作り出す。シフも同様に剣を作ると、抜き身で持っていた魔法の剣を鞘に納めて、ケラシーヤから投げられた剣を受け取り二本を構えた。


「ティナ、二人の護衛を頼む」

「解ったわ。気を付けて」


 数が多い上に魔法が無効化されるので、魔術師にとって天敵だ。ケラシーヤも弓を用意して、矢を撃つ準備をしている。

 シフは前回の討伐時に役に立てなかったが、今なら武器も用意しているので無様な結果にならないだろう。


「シフくん、町長を逃がさないように気を付けて」

「おう。向こうも逃げる気はないみたいだぜ」


 シフは言いながらイビルアイに攻撃を加える。手に持った日本刀を模した剣は、面白いようにイビルアイを切り裂いていく。イビルアイが触手で防御しようとしても、左手に持った剣で払いのけつつ、右手の剣で胴を狙う。力を込めるとほとんどが一撃で両断できるので、見る間に数が減っていった。


「貴様!」


 町長が爪を伸ばして、シフを薙ぐように斬りつけてきた。

 うわっと悲鳴を上げ、シフは町長の注意を引きながら立ち回る。

 ティナにも教えていたデュエリストの特技を使用しながら町長の攻撃を避けつつ、イビルアイの数を減らす。

 半分以上が減ったあたりで、ティナが防衛から攻撃に回り、ケラシーヤの矢と連携してさらに数を減らしていく。


「閣下!」


 そろそろイビルアイが全滅しようかという段になって、外からばらばらと赤い瞳の集団がやってきた。


「遅えよ、っと。これで終わり! ケイ!」


 最後の一人を倒して、シフがケラシーヤに声をかける。ケラシーヤは頷いて、ティナに近くに寄るよう指示しながら魔法を唱える。


「カルネさんも、ケイと同じ魔法を!」


 詠唱に入り指示ができないケラシーヤに代わって、シフがカルネに指示を出す。

 反論を言いかけたカルネに、シフは言葉を重ねる。


「俺は大丈夫だから、気にしないで!」

「本当だね?」


 頷いて、町長に向き合う。

 町長から電撃が飛んできて、シフを襲う。抵抗には失敗したようで若干の痛みとめまいがシフを襲うが、倒れるほどの痛みにはほど遠い。


「ケラシーヤ様!」


 ティナが近寄る吸血鬼をあしらっていたが、一人がケラシーヤに近付いた。

 上段から振り降ろされた剣を横に避けて、ケラシーヤは詠唱を続けたまま手の関節を取って投げ飛ばす。


「え」


 慌てて近付こうとしていたティナが呆気に取られたのとほぼ同時に、ケラシーヤがティナへと駆け寄った。


「カルネも続いて! 『エクスプロージョン』!」


 広範囲に効果がある、火炎魔法が発動する。近距離のティナとカルネを除いて、部屋にいた全員が効果を受けた。


「ケラシーヤ様、シフが!」

「もう一発、っと」


 慌てふためくティナを横目に、カルネが同じ魔法を重ねた。

 部屋の中が炎に巻かれて、絨毯は燃えて壁に掛かった絵画も燃え尽きる。

 

「ティナ、大丈夫だから」


 炎の中で、シフが安心させるように声をかけた。同時に、炎の魔法二発に耐えた町長の片手を剣で斬りつける。

 爪で防ごうとしたところに、シフが逆の手でも攻撃しながら『セカンド・ストローク』を重ねた。

 力はシフが上回っている上に、四連撃を受けた町長は爪では防げず、腕が斬り飛ばされた。

 呻きながらも噛み付いてきた町長をしゃがんで避け、シフは足も一本、斬り落とした。


「この世界の吸血鬼って、再生能力はないんだよな」

「君はどんな世界を知っているんだ?」


 シフのつぶやきに反応して、カルネがつぶやく。


「この場は勝負ありだね。しかしまあ、派手に燃えたね。氷結系の魔法で鎮火した方が良さそうだね」

「ちょっと待って。氷結は効くから、効果範囲を調整してください」


 シフは凍らされてはたまらないと声をかけながら、町長の拘束をし始めた。

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