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百年遅れの英雄譚  作者: すっとこどっこい
第三章 少年時代(吸血鬼討伐編)
35/49

町での調査

 トルエンの町は、人口およそ五千人ほどの町で、背の高い建物は極めて少ない。見張り台の他は、五階立てを越えるものはなさそうだ。フランとさほど違いのない、石造りの建物が並んでいる。

 シフが町並みを眺めていると、モースがシフたちに後で合流すると言い残して去って行った。


「宿の場所とか、確認しなくていいのかな」

「この町に慣れているらしいし、大丈夫でしょ」


 シフが疑問に思い首を傾げると、ケラシーヤがひらひらと手を振る。

 それもそうかと相槌を打ち、手頃な宿屋に入る。情報共有と防衛面を重視していく必要があるため、シフたちは四人一室の大部屋を取った。

 宿屋の親父が羨ましそうにしていたが、勘違いだと正すのも余計な手間なので、愛想笑いで誤魔化す。

 部屋に入り、荷物の整理を少ししていると、カルネとケラシーヤが相談を始めた。


「さてさて。モースは動くなって言っていたけど、どうするかな?」

「そうね、確かに表立って動くのは得策ではないし、私とティナちゃんは、動かない方が良いでしょうね。この町、ここまで人間が多くて異種族はあまり見なかったし」


 二人が言い合い、シフに目を向ける。


「えー。じゃあ、俺が一人でちょっと散策してくるよ」

「一人で? ほう。いざという時、一人では危険じゃないかな?」

「大丈夫ですよ。それを言うなら、モースさんが一人で動くのも危険ですよね」

「そりゃそうなんだが、彼に何かあったとしても、大勢に影響はないからね。シフ君が問題に巻き込まれて戻ってこなかったり吸血鬼の一員になった日には、もう冗談では済まされない問題だよ」


 カルネの言い分に、シフは反論を考える。


「でも、さっきの話ならケイとティナは駄目なんですよね?」

「エルフとワイルドキャットだからね。目立つと覚えられやすいよ」

「カルネさんも結構目立つと思いますけど、その髪の色」


 カルネは自らの長い髪を手に取り、ぼそりとつぶやいた。


「幻術でごまかせないかな」

「やめておく方がいいわね。問題ないと思うけど、見破るような相手だった場合、余計に警戒されるわ」


 ケラシーヤが止めて、カルネが頷く。ケラシーヤは続けてティナに質問をする。


「ティナちゃんは、この町に来るのは初めて?」

「はい、初めて来ました」

「そう。ならそれほど目立つ行動さえ取らなければ、問題ないかしら。シフくんとティナちゃんで、見てきてちょうだい」


 ケラシーヤの言葉にシフが素直に頷くと、カルネから苦情が入った。


「シフ君、私と一緒なら文句を言ったのに、ティナならすぐに了承するんだね。へえ。そう」


 カルネは言いながらも本気ではなく、からかっているだけのようだ。目が少し笑っている。


「そりゃ先輩であるカルネさんより、近い立場のティナの方が動きやすいですよ」

「ほうほう。先輩風を吹かせるようなのは相手にしたくないと。うん、よく解ったよ」

「そんなことは言ってません」

「はいはい、その辺で。カルネには相談もあるから、残ってくれると助かるわ。シフくんは深く考えず、ティナちゃんとデートしてきなさい」


 ケラシーヤの言葉に、ティナは意味が解らないと首を傾げる。


「ケイ、あくまで様子見で行くんだからさ。というかティナだって向こうの言葉をすべて解ってるわけじゃないんだから、意味が解らず困るだろ」


 ケラシーヤに自重するよう言いながら、シフは立ち上がってティナに声をかけた。


「ティナ、準備はいい?」

「う、うん。でもいいの?」


 ティナはカルネに目を向ける。カルネは言葉とは裏腹に気にした様子もなく、ひらひらと手を振る。


「いってらっしゃい。おみやげは甘いお菓子をよろしく。移動中は手に入らないからね。糖分が不足すると脳の働きが悪いんだよ」


 カルネの依頼に頷きながら、シフはティナを連れて部屋から出ようとする。


「あ、ちょっと待って」


 ケラシーヤがティナを呼んで、何やら耳うちしている。シフの耳でも聞き取れない程の、非常に小さな声量だ。


「え、でも……」

「いいから。よろしくね。いってらっしゃい」


 ケラシーヤは、うろたえているティナの背中を押して部屋から出す。

 扉が閉じてから、シフは歩きながらティナに質問をする。


「何を言われたの?」

「えっ! いや、気にしないで」


 ほんのりと頬を赤らめながら、ティナはぶんぶんと首を横に振る。シフは追求を早々に諦めて、周りへと意識を移す。

 大通りはそれなりに人が多く、ティナが目立つほどではない。だが、シフは誰かに見られている視線を感じた。ティナは気付いているのかどうか解らないが、シフが見る限りは普段通りの様子だ。


「人は多いけど、旅人が多いな」

「大きめの道が三本交わっている要所だからね。ここで交易して帰る商人も多いみたいよ」

「へえ。詳しいね」

「うん、幹部になるために色々と勉強したから」

「そうなんだ。幹部って、どうやったらなれるの?」

「私やシフみたいな討伐隊は、他の業務にも精通すること。政治部の仕事は別だけどね。あれだけは、幹部に昇格してから回されるの」


 シフはなるほどと相づちを打ち、得心がいったと頷いた。


「それで時々、受付をやってたんだね」

「うん。そうなの。姉さんがゼロさんのためにも早く幹部になりたいって。だから、私も自然と目指すようになっちゃった」


 照れたように笑いながら、ティナは付け足す。


「昔から姉さんの後ろをついて歩いていたから。でも、もう姉さんも結婚するだろうし、私も独り立ちできるのよっていうところを、見せたいのかも」

「ふうん。偉いね」


 自らを分析しているティナに返事をしつつ、シフは自身はどうだろうかと考える。

 今はケラシーヤの手伝いをしているが、暇になった時に何がやりたいのか、暇になるまでに考えておこうと決めておく。


「ともあれ、どうする? 町の様子を見るのが目的だからどこでもいいけど、見たいものでもある?」

「そうね、今は特にないんだけど……甘いものは買わないとね」

「面倒だけどな。でも、後にしよう。溶けるようなの買えないし」


 ため息混じりにシフが言うと、ティナはククッと笑いを漏らす。

 二人が大通りを歩いている途中で、シフは宿を出た時から感じていた背後からの視線を避けるために適当な店を選ぶ。


「ティナ、ここ入ろう」

「え、ここ?」


 躊躇するティナの腕を掴んで中に入ると、装飾品の店だった。しかも、結構な値段の。


「いらっしゃいませ」


 入るなり、店員が寄ってくる。周りを見ると、客それぞれに店員がついている。シフがこの世界にきてから、見かけなかった形式だ。間取りも広く、陳列台に硝子を張って、見やすく並んでいる。


「えっと。何を買うか決めてないから、適当に見せてもらうよ」

「はい。こちらのお嬢様に?」

「うん、そうだね」


 店員の質問にシフが頷くと、ティナが慌てた様子で袖を引っ張る。


「ちょっと、どうするのよ」

「まあいいから。適当に話を合わせて」


 軽く見て回り、魔法効果が宿っている品に目を向ける。


「この四個組の首飾りが良いな」

「どれ? あ、ほんとだ」


 シフが店員に目を向けると、心得たと展示台から取り出す。

 四色の宝石を中央に置き、宝石を目立たせるためだろう、いぶした銀で縁をかたどっている。


「黄色が風、赤色が火、青色が水、緑色が土属性の補助がかかっている逸品です。装飾品としては当然、傭兵の方にも自信を持っておすすめできますよ」


 どの色を合わせてみますか? と聞いてくる店員に、シフが黄色のものを指差す。

 出してもらった首飾りをティナに渡すと、ティナは店員に聞こえないようこっそりシフに告げてくる。


「ちょっと、こんな高いもの出させてどうするのよ。つけて合わないっていうのも失礼だし」

「大丈夫。ティナは黄色が似合うよ」

「よけいに大丈夫じゃないわよ。買えないって、こんなの」

「いいからいいから」


 無理に手渡し、つけさせる。服は少し地味ながら、派手な黄色の宝石が付いた首飾りはティナの勝気な顔付きにもよく似合っている。


「良いね、よく似合う」

「ええ、まるでお客様のために置いていたようですね」


 店員が相づちを打ちながら、鏡を用意する。

 ティナも綺麗な装飾をつけて悪い気はしないようで、嬉しそうに鏡を見ている。


「決まりかな」

「あの、この品は四個組なので、単品では……」

「大丈夫、残りも当てはあるから」


 シフと店員の会話を聞いていたティナが、シフの手を引っ張る。


「決まりってちょっと」

「それより、外の気配は気にならない?」

「外?」


 解らない様子で首を傾げたティナに、声を潜めて耳元でささやく。


「誰かにつけられていたみたいなんだ。それで、ちょっと時間を潰しても見張っているか、確認したかったんだ」

「……気付かなかった」


 ティナが悔しそうにしているのを横目に、話しながら外した首飾りを店員に渡して、支払いを済ませる。

 店員が首飾りを箱詰めするために奥に入った後、はっと気付いたティナがシフへと詰め寄った。


「シフ、いつの間に首飾りを外したの?」

「え? 話しかけて、意識を逸らせた隙に。こう、スッと」

「手癖悪い。それに、あんなもの私は買えないってば」

「ティナもしつこいね。俺が買うんだからさ。贈り物だよ」


 シフが言った途端、ティナは怒って睨みつける。


「私、シフにそんなのもらうような立場じゃないし、施しを受けるような立場でもないわ」

「えっと、単純に好意からなんだけど、気に障ったなら謝る。でも、ティナには色々とお世話になってるしさ。今回も無理言って付いてきてもらってるし、正直カルネさんとケイだけだと結構きつかったから、助かってるんだよ」


 シフの謝罪にティナは少し溜飲を下げて、深呼吸をする。


「過剰な反応してごめん。物で釣られると思われるのも不快だったから。男がそんな簡単に、恋人でもない人に高価な装飾品をあげたら駄目よ」

「そんなに高いかな? 安くはないけど、飛竜の討伐報酬や素材を売ったお金で、充分まかなえるんだけど」


 シフの言葉に、ティナは大きくため息をつくと首を横に振った。


「シフ、確実に金銭感覚が壊れてるわ」


 ティナが、飛竜は大物で通常は十人以上で討伐隊を組んで退治するものだと説明する。そのため報酬も大きく、素材も高価なのだという。

 シフは怒らせないように気を付けながら、ティナに自らの考えを伝える。


「金を貯めるのも大事だけどさ、ある程度は使わないと回らないじゃん。それに、ただの首飾りと違って、それぞれに防御の魔法が込められているなら、充分に価値があると思うぜ」

「シフが自分のお金をどう使おうが、私に口を挟む権利はないんだけど……」

「それに、誰にでもあげるってわけじゃないんだし。ケイ以外には、ティナとトリくらいだな」


 まだ何か気にしているティナだったが、シフの言葉に少し頬が赤くなる。手で顔をぱたぱたと煽いで、何やらぶつぶつと呟いてから、よしと頷いた。


「私にとっては大金だけど、シフにとっては大したことない。勘違いしてない、他意はない。うん、大丈夫」

「ティナ、どうしたの?」


 シフが挙動がおかしいティナを心配すると、ティナは笑顔で応じた。


「ううん。何でもない。じゃあ、首飾りはありがたくいただくわ。でも、今回だけ。恋人でもないのに、そんなの貰うわけにはいかないもの」

「ティナは真面目だね。そういうところも、良いところなんだろうけど」

「……それは、どうも」


 話しているうちに用意ができたようで、シフは個別に入った首飾りを受け取り、一つだけ箱に入っていない分をティナに手渡す。


「せっかくなんだし、着けておかない?」

「いいけど、何を考えてるの?」

「外のやつが金目当てなら、あっさり釣れるだろうし、別の目的なら距離は変わらないだろうからね。様子見したい」


 何も言わずに、ティナは首飾りを身につけた。二人は店を出て、大通りを歩く。


「うん。つけてる方が可愛い。似合ってるよ」

「シフ、私をからかって楽しい?」

「からかってないぜ。反応を見て楽しんでるけど、嘘は言ってない」


 黙り込んだティナの頭で、耳が左右に揺れている。顔も少し赤いので照れているのだろうと推測する。


「視線、あまり変わらないな。敵意が増えるわけでもないし。正しく観察だけされてる感じか」

「どうする、捕まえるの?」


 シフが話を変えると、ティナは渡りに船と乗ってきた。


「あまり目立ちたくないし、向こうが見てるだけなら、放置かな。把握しておいて、警戒すれば遅れは取らないさ」

「うん、解った。随分時間を使ったし、甘いもの買って帰ろう」

「ああ、忘れてた」



 甘味を買って宿に戻ったシフは、カルネにそのまま手渡す。

 カルネは受け取りながら、ちらりとティナに目を向ける。厳密には、首元に。


「うん、ありがたく頂戴するよ。ところでシフ君。ティナはまた、えらく可愛らしい首飾りをつけてるね」

「あー。そうですね」

「その手にあるのは、同等品?」

「ええまあ」


 シフが言いにくそうに受け答えをしていると、カルネはお見通しとばかりに考えを述べる。


「何個? 三個か。さしずめケラシーヤ様と、面倒を見ている子と、自分のかな」

「よくご存じで。トリの話をした覚えはないですけど」

「そうだったかな。有名になったら、色々と調べられるんだよ。そのトリちゃん、ケラシーヤ様と仲が良いし、凄く可愛いし、狙ってる奴も多いよ」


 シフにとって安易に聞き流せない話だったので、勢い込んで尋ねる。


「何それ、そこんとこ詳しく教えてください」

「顔付きが変わったねえ。あれは俺のだって?」

「いや、そうじゃないけど、変な虫がつくのを黙って見逃せるわけないですよ」


 トリに限っては独占欲などではなく、保護者としての責任に近い。しかしケラシーヤは違う考えのようで、しれっと茶々をいれてくる。


「トリちゃんは誰が声かけてもなびかないわよ。シフくん以外は」

「ケイ、話をややこしくしないで」

「あら何よ。嘘じゃないわよ。トリちゃんは本当に可愛いし、良いんじゃないの。まあ、まだまだお子様体型だけど」

「そんなこと言ってません。あ、これ。日頃の感謝を込めて」


 長引くと口ではなかなか勝てないので、シフは話を変えて手元の首飾りのうち、青い宝石のものを手渡した。


「ふふ。ありがとう」


 ケラシーヤは受け取った箱を開けて、首飾りを身につける。


「どうかしら」

「似合ってるよ。可愛いっていうより綺麗って感じかな」


 ケラシーヤの髪に合わせた赤い方が良いかとも思ったが、シフは青い方が映えると踏んだ。その考えは間違っていないようで、淡く光る青が、ケラシーヤの美貌を引き立てている。


「それはそれとして、誰かに見られていた件は?」

「忘れてた。えっとね……」


 それまで黙っていたティナが、一段落した時に合わせてつぶやく。

 意識から外れていたシフは、ケラシーヤとカルネに視線を感じたと伝え始めた。


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