トルエンの闇(幕間)
「今で何人ほどになった?」
「百人を超えたくらいかと」
我の問いに、我が眷属の一人が答える。たったの百人では、この町の包囲にすら、まったく足りない。早くもっと増やさないと、シン様の元に集うのが遅れてしまう。
「二百を超えたら行動に移す。今晩からは、我も出よう」
「御大自ら動かれるのは、少々危険ではありませんか?」
我を案じながらも、同格の者が増えるのが気に入らないのだろう。我の眷属だけに、考えはよく解る。
我が自ら咬んだ相手は、十人足らず。奴らは充分に吸血鬼と名乗らせても問題ないが、それ以外は劣化型とでも呼ぶべき、思考能力も足らない連中だ。
「我が咬むと決まったわけではない。元々の肉体に、それなりの格がなければな」
「左様でございますか。では……」
気を付けるべき点を確認する。出来る限り問題を起こさず闇に沈み、いざ事を起こす時は素早く確実に達成させる。余計な邪魔が入らないようにするための、一番良い方法だ。
気の長い計画だが、シン様直々に我が賜った計画である。不満があろうはずがない。
ある日、我は眷属から面白い情報を聞いた。
「他から我々を探りに?」
「はっ。生意気にも、浮浪者の減少という情報を頼りに調べに来たようで」
「不可解よな。それだけで、吸血鬼と絞る理由が解らぬ。もしやして、どこかで我が同胞が失敗をしたのかもしれぬ」
シン様に直接咬んでいただいたのは、我を含めて僅か三人。残り二人も我と同格の力はあるが、シン様と違い万能とまではいかない。
人間にも異常個体とでも言うべき存在が時々発生するらしい。我は相対した経験はないものの、シン様は以前に対峙した覚えがあるそうだ。
その時は、その人間は滅ぼしたが、シン様以外の眷属がすべて滅ぼされ、結果としてゲオルギオスに封印されるきっかけとなったらしい。
シン様と違い、我は不完全である。不完全であると肝に銘じて、決して驕らずにシン様へ仕える。それが大事なのだ。
「それで、どんな組織が探りに来たのだ?」
「六歌仙の幹部自ら、と言っておりました。人数までは解りませんが、尾行させておりますので、すぐに情報は入ってくるでしょう。しかし閣下のお言葉が真実だとすれば……」
「うむ、もしかすると我と同格以上の使い手がいるかもしれぬな。油断したところを突かれたのかもしれぬが、警戒して損はないだろう。それに、六歌仙の幹部を操れるようになれば、国を一気に弱体化できるであろう。さすればシン様の野望も、一気に近付くというものよ」
平伏する我が眷属にさらなる情報収集を指示しながら、我は六歌仙の奴らを騙す策を考え始めた。




