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百年遅れの英雄譚  作者: すっとこどっこい
第三章 少年時代(吸血鬼討伐編)
33/49

旅の途中

 一緒に行動していた商人たちとは道が異なるため、途中で別れる。途中で襲われることもなく、順調に進んだ。

 馬に乗って移動しているが、長時間乗っていると身体中が痛くなってくる。そのため、途中で休憩を挟みながら進んでいく。

 そして数日後、シフたちは魔竜退治の時にも立ち寄った町へたどり着いた。


「支部長に挨拶してこよう。ついでに、何か情報を持っていないか聞いてみたらいいよな」

「そうね、長く支部長をやっている人だし、何か知ってるかもしれないわね」


 宿探しをティナとカルネに任せて、シフはケラシーヤと一緒に六歌仙の支部へと向かった。

 支部に入り、受付で名乗って支部長に会うための約束を取り付ける。すぐに案内されて、支部長の部屋へと入る。

 挨拶を軽く済ませて、さっそく本題へと入った。目的の町、トルエンについて質問をする。


「トルエンの町についてお伺いしたいのだけど、ご存じかしら?」

「ある程度は。支部もないですし、そこまで詳しくはありませんな」


 シフとケラシーヤは、支部長に事情を説明する。


「なるほど、孤児や浮浪者の減少ですか。それなら裏側から調べる方が早いでしょうな」

「裏側?」

「蛇の道は蛇ですな。シフ殿のような戦士には馴染みがないでしょうが、この町でも浮浪者のうち一割にも満たないにせよ盗賊組合の息がかかっておるのですよ」


 シフの疑問に、支部長が答える。

 盗賊組合。地球でも裏稼業は存在したし、ある種の抑えにもなっていたとシフは聞いた覚えがある。

 シフとしても、もし何らかの迷惑をかけられたなら全力で対処するだろうが、迷惑をかけられない限り気にするつもりはない。


「確かに馴染みはないですね」

「消えた浮浪者に組合の息がかかった者がいれば、組合が調べているだろうというわけね」

「そうですな。儂はあの町に伝手はありませんが、誰か詳しい者を同行させましょうか?」


 ケラシーヤが、視線でシフにどうするか聞いてくる。問題ないと判断して、シフは頷きを返す。


「それは助かるわ。ありがとう。どれくらいかかるかしら?」

「二、三日といったところですな」


 ケラシーヤが答えて、三日後にシフたちは再びここにくる約束をして、部屋を出た。

 シフたちが階下に行くと、カルネとティナが待っていた。


「や。遅かったね。宿は取ったよ」

「ありがとうございます。こちらも、直接ではないですけど収獲はありましたよ」


 シフの言葉に、カルネは目を細める。


「それは何より。じゃあ、宿に戻ってから、話を聞こうか」


 カルネに頷きを返して、シフたちは宿に行く。

 そして部屋に向かう時になって、カルネが顔中ににんまりと笑みを貼り付けた。隣ではティナが、凄く申し訳なさそうにしている。


「ケラシーヤ様。悪いのですけど、部屋が二人部屋しか空いてなくてですね。シフ君と同じ部屋でお願いできますか?」

「え? でも……」


 ケラシーヤが否定しかけたとろに、カルネが近付いて耳元で囁く。


「でも、ではなくですね。ケラシーヤ様、婚前交渉ありで付き合ってるんですよね? それで、今、都合が良いですよね?」


 見る間に赤くなったケラシーヤが、小さく首を縦に振る。


「決まりですね。……ティナも、あっちに混ざりたい?」

「いえ! そんなの全然思ってなくて!」

「そう? じゃあ、今日はお姉さんと同じ部屋で楽しもうか」


 カルネは慌てて首を横に振るティナをからかう。

 楽しむって何、とつぶやくティナに破顔して、カルネは先に部屋へと戻った。ティナも少し嫌そうにしながらも、後ろに続く。

 残されたシフは、まだ耳の先が赤くなっているケラシーヤに目を向ける。


「カルネさんの思惑通りっていうのが気になるけど、まあいいか」

「うう。恥ずかしい……」


 二人は荷物を置いて、一息つく。


「ケイ、都合が良いってのは」

「シフくん、目だけじゃなくて耳も良いのね。まあその、シフくんが思ってる通りよ」

「ん、解った。でも無理し過ぎない程度じゃないとな」

「……ええ、お手柔らかに」


 二人は話を終わらせると部屋を出て、ティナたちと合流する。食事をしながら三日ほど滞在すること、一人同行者が増えることを説明した。



 翌朝、部屋を出たシフが外に出ようと階段に向かうと、ちょうどティナと出くわした。


「あ、お、おはよう!」

「ティナ、おはよう。早いね」

「うん。ちょっと身体を動かしておこうかと思ってね」


 出会い頭では、何かを想像したのか赤い顔で挙動不審にしていたが、話しているうちに落ち着いてきた。

 二人で準備運動をした後、お互いに剣を持ち、軽く打ち合いを行う。試してみたい技があったため、シフはティナにお願いをした。


「ティナ、ちょっと構えてくれる? 上手くいったら二回続けて同じところに攻撃が行くと思うからさ、気を付けてな」

「うん? 何かよく解らないけど、いいよ」


 構えた剣を目標に、シフは力を弱めにして攻撃する。簡単に弾かれるのと同時に、シフの身体から黒い影が動き、同じ場所へと攻撃を繰り出した。

 攻撃自体は大した威力でもないので問題はなかったが、ティナは驚いて声を上げる。


「え、今の何?」

「へへ、最近、魔法に慣れてきたから出来ると思ったんだ」


 シフは嬉しそうな声で、ティナに説明をする。


「最近、魔法にも慣れてきたから、試してみた。魔力で分身を作る感じかな? 『セカンドストローク』っていう技で、この系統で一番難しい技のはず」

「そうなんだ、凄いね」

「ティナも動きの系統が俺と似てるし、覚えたら出来るかもしれねえな。もっと簡単なやつからだけど、試してみる?」


 シフに羨望の目を向けていたティナは、シフの言葉に驚いた顔に変わる。


「え、でもシフが習得した技でしょう? 教えてもらうなんて、そんな立場じゃないし」

「でもティナが強くなったら、今の依頼も楽になるよな?」


 シフが言うと、ティナが困ったような顔になっている。シフが首を傾げると、ティナは躊躇しながらも説明を始めた。


「シフは独学で強くなった? 私は親や祖母、その友人にも教えてもらったの。近しい人に教えたり、子どもや孫に教えるのはともかく、それほど親しくない人に教えるのは駄目よ」

「えっと。ティナとは仲良かったつもりだけど。もしかして、迷惑だった?」

「そうじゃなくて。私がシフに教えてもらった技術を悪用したり、売り物にしたらどう思う?」

「そんなことしないと思うけど、されたら嫌かな、確かに」

「でしょう? だから、軽々しく教えちゃいけないのよ」


 説明を終えたという風なティナに、シフはますます首をひねる。


「悪用されたり、売り物にされるの自体は、別に文句はないよ。相手を見極められなかったせいだし、技術そのものに問題ないし」

「でも、嫌って言ったじゃない」

「そうじゃなくて。ティナが、そんなことするのは嫌だって言ったんだよ」


 シフの言葉で、ティナが顔を赤くしながら否定する。


「私はそんなのしないわよ。例え話だけよ」

「しないなら、ティナに教えても問題ないよな」

「だから、そういう話じゃないんだってば」


 シフは、ティナが怒っている理由が解らず困惑する。


「解らねえな。何を怒ってんだ?」

「怒ってないわよ。シフって、ケラシーヤ様の恋人でしょう?」

「え? ああ、そうだけど、今関係ある?」

「あのね。誰かと良い仲で、他の女性に勘違いされるような行動は、慎むべきだわ」

「……ああ、やっと解った。でもそんなに間違いでもないけどな。誰でも教えたりする気はないし、他でもないティナだから教えるっていうのも、事実だし」


 シフの言葉で、ティナの顔がますます真っ赤になる。どうやら怒っていたのではなく、照れていたようだ。

 ティナは少し困ったような顔になってから、小さく告げた。


「ケラシーヤ様が許可してくれるなら、色々と教えて欲しいけど。でも、私がシフとそこまで仲良くしていたら、きっと気を悪くするわ」

「ケイはそんな狭量じゃねえよ。前にも……っと、それはいいや」


 ケラシーヤは、他に妻を娶って子どもを持つ方がいいとさえ言っていたくらいだ。

 シフはそこまで言いかけて、まるでティナに下心がある前提で技を教えるように思われるとまずいと思い、言いとどまる。ティナに嫌われたくはないが、技を教えるのは単純にティナの動きにも合っていると思ったからだ。


「じゃあケイに確認を取って、良ければ教えるよ」

「うん。ありがとう」



 シフは部屋に戻り、早々に確認する。


「あら。良いじゃないの。でもシフくんにしては、考えたわね」

「考えたって?」

「いきなり口説くんじゃなくて、少し上の立場から教えていって、心理的な抵抗を削っていく作戦でしょ?」

「いやいや? ケイ何を言ってんの?」


シフが引きつった顔になるのを見て、ケラシーヤが首を傾げる。


「あれ? わざわざ私に許可を取りにくるのに、本当に技を教えるだけ?」

「そうだよ。ティナに恩着せがましくなったら嫌だから、本当に気にしないでもらいたいんだけどな」

「ティナちゃんは、サクヤちゃんよりもゾイルの血を濃く受け継いだのかしらね。結構真面目ね」

「そうかもな……ケイ、俺は別に、サクちゃんの孫だから優遇してるつもりはねえよ」


 シフは一緒にイビルアイを退治しに行った時も、それ以外でも、元気が良くて誰とでも明るく話すティナ本人が好ましいと思っている。サクヤの孫だから優遇していると思われるのは心外だ。


「解ってるわよ。ごめん」

「いや。許さない」


 シフはおしおきと言いながら、寝台に腰掛けていたケラシーヤに抱きつく。


「こら、シフくん……もう。せっかくお風呂に入ったのに」

「んー。昼からティナにデュエリストの動きを教えるけど、午前中は暇だし、いいじゃん」

「駄目とは言ってないわよ」


 シフはケラシーヤと深い接吻を交わすと、ゆっくり衣服を剥ぎ取った。



 町で支店長の準備を待つ間、シフはティナに技を教えながら日々を過ごす。

 そして、約束の日に、シフとケラシーヤは支店長に会いに行った。


 支店長の部屋に入ると、中には支店長の他に一人の男が待っていた。

 背は高いがほっそりとしていて、力仕事は苦手そうだ。目立たない風貌に、野暮ったいとまではいかないが、地味な服を着ている。大通りですれ違っても、まったく気付けなそうなほど、特徴がない。


「お待たせしました。彼が?」

「ケラシーヤ様、ご足労ありがとうございます。ええ、彼はモース。腕利きの情報屋です」

「モースさん、はじめまして。トルエンまで、ご同行いただけるのね?」

「はじめまして、エルフの人。俺は別に六歌仙じゃないし、へいこらと頭を下げたりしないぜ」


 モースの言葉に支店長は慌てたようだが、ケラシーヤは支店長を手で制する。


「ええ。別に構わないわ。仕事で同行してもらうだけだし、必要以上に馴れ合うつもりもないし」


 若干冷たく当たるケラシーヤをおいて、シフも挨拶をする。


「俺はシフ。あと二人、同行者がいるから、後で紹介するよ」

「ああ、頼む」


 困った様子の支店長に礼を言い残して、シフたちは早々に部屋を出た。


「早速、今日から出発したいのだけど、大丈夫?」

「大丈夫、問題ない」



 シフたちはティナ、カルネと合流し、自己紹介をした後、すぐに町を出てトルエンへと向かった。

 途中、馬で移動しながら、カルネがモースに話しかける。


「モースだっけ。君は、戦いはできないんだね?」

「ああ、ただの情報屋だからな」

「ほうほう。私、研究のために色々と素材を集めてるんだけど、そういうのも取り扱っているのかな?」

「どうかな。扱ってるが、六歌仙の方が流通量は多いんじゃないか?」

「そか。残念。君は役立たずか」


 さらりと切り捨てたカルネの様子に、シフが呆れて口を挟む。


「カルネさん、もう少し言いようがあるでしょう。せめて何が欲しいか、言ってみるとか」

「そうだね、竜の鱗や、バジリスクの尻尾、あとはフギンの羽根。どうかな?」


 カルネが上げた素材を聞いて、モースが首を横に振る。


「あー。フギンの羽根なら、なんとか。他は無理だな」

「だろうね。でもフギンが行けるだけ、優秀かもね。この仕事が終わったら、買い付けに行くからよろしく」

「カルネさん、フギンって?」

「知らないかな? 烏のような魔物だよ。真っ黒なんだが、活動時間は夜明けの僅かな時だけで、なかなかに希少価値が高い」

「へえ。知らなかったです」


 シフは聞いたことのない魔物の生態に聞き入っていると、カルネはにやりと笑みを浮かべる。


「竜の鱗は、魔竜のが手に入るなら、問題なくなるんだけどね。魔竜のが」

「そうですか。大変ですね」

「そうなんだよ……駄目かな?」


 手を合わせてお願いしてくるが、シフは首を横に振る。


「悪いですが、こればっかりは。というか、魔竜の鱗なんて持ってませんよ」

「またまた。あれだけの巨体だったんだから、取り放題じゃないか」

「んー。俺はあまり関係ないから」

「そうなの?」


 驚いた顔で、カルネが聞いてくる。シフが頷くと、ため息をついた。


「残念。ケラシーヤ様とはよろしくやってるし、ティナにも色々と教えているのに、私にはつれないね。繊細な私の心はぼろぼろだよ」

「いやいや。カルネさんはそんなか弱い性格じゃないですよね」


 嫌がっているのを解って近づいてきたくらいだ、かなり図太いだろうとシフは思っている。

 カルネはやれやれと首を振ってシフから離れる。


「ティナ、シフ君にいじめられた私を慰めてちょうだい」

「え……ちょっとシフ」


 カルネはそのまま、ティナに近づいてちょっかいを出している。ティナが助けを求めるように目線で訴えてくるが、シフは手振りで謝りながら逃げる。


「もう、何を遊んでるのよ」

「別に遊んでるわけじゃないよ。襲いかかってくるような魔物なんかもいないし、歩みは順調じゃん」


 馬のおかげで、旅は順調に進んでいる。もう十日もしないうちに、目的の町に到着するだろう。


「トルエンに着いたら、しばらく離れるから。時間帯によるが、翌日には合流するから、それまで迂闊な行動はせずに大人しくしていてくれるか?」


 モースがケラシーヤと今後の打ち合わせをしているのを聞きながら、シフはティナを助ける機会をうかがった。

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