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百年遅れの英雄譚  作者: すっとこどっこい
第三章 少年時代(吸血鬼討伐編)
32/49

出発

 翌日の朝、シフはケラシーヤと一緒に合流場所の正門前へと向かった。

 予定の時間より早く着いたためか、カルネとティナの姿はない。早い時間帯だが、馬車が十台以上連なった大きな隊商は早々に出発していき、便乗するように小さな荷馬車も後を追いかけている。


「ケイ、今回も前に飛竜討伐に寄った町までは、街道沿いなんだよな?」

「そうね、寄り道するつもりはないけど」

「どこかの隊商と一緒の方が楽じゃない?」

「そうかもね。都合良く動けそうなら、一緒に行ってもいいわね」


 シフとケラシーヤが話していると、すぐにカルネがやってきた。挨拶をかわしているうちに、ティナも到着する。


「すみません、遅くなりました!」

「あら、まだ時間になっていないから、問題ないわよ」


 一番最後になったのを気にしてか、敬礼でもしそうな勢いでティナが直立で謝っている。

 ケラシーヤはぱたぱたと手を振って、気にする必要はないと告げた。シフは当然、カルネも気にした様子を見せずに、出発をどうするかとケラシーヤに尋ねた。


「ケラシーヤ様、どうしますか? 他の旅人に合わせますか?」

「そうね、今回は時間もだけど、知能のある魔物が人間に紛れている可能性もあるから、目立つ行動はしない方が良いわね。ああ、それと私は他の人がいる間はリラー、シフくんはライデンって名乗るようにしましょう。名前を言ったら、覚えている人もいるでしょうから」


 カルネは頷いて、いくつかの商人に声をかけ始めた。

 しばらく待っていると、カルネが三人ほど連れて、笑顔で戻ってくる。


「リラーさん、ティナ、ライデン君。こちらの三組の方とご一緒することになったから」


 カルネは商人を連れてきて、それぞれ紹介を済ませる。不自然さを出さずに名前を切り替えているのを見て、シフは内心で感心しながら自ら名乗った。


「はじめまして。ライデンです」

「いやあ、傭兵の方とご一緒できるとは運が良い。それも天下に名高い六歌仙の方々ときてる。これは旅の安全は確保されたも同然ですな!」


 シフは笑顔で握手に応じて、三人の特徴を覚える。短足、痩身、中途半端な禿げ頭。

 ケラシーヤとティナもそれぞれ挨拶をして、早々に出発する。

 移動が始まって、シフたち四人は、最後尾を歩き出す。個々の商人が雇った護衛もいるため、シフたちが率先して警護をする必要はない。とはいえ襲われるとまずいので、シフも必要になったら動くつもりだ。

 シフはケラシーヤに向かって、小さな声でつぶやく。


「あのおっさん、随分と不吉なこと言ってたな」

「不吉って?」

「運が良いだの、安全だの。あれ、死亡フラグだよな」


 こっそり話していたつもりだったが、近くにいたティナとカルネが吹き出した。

 シフがティナたちの方を見ると、ティナが笑いながら謝った。


「ごめん、聞こえちゃってて。シ……ライデン、そういうの言っちゃうと本当に起きかねないよ」

「そうだね。ライデン君、発言はもう少し気を付けた方がいいよ」


 二人に言われて、シフは首を傾げる。


「えっと。ただの軽口だと思うんだけど……」

「それは解ってるよ。ライデン君は知らないかな? 言えば実際に起きてしまうという言い伝え」

「あー。聞いた覚えはあります」


 こちらの世界でもあるんだとシフが感心していると、カルネが一つの提案を持ちかけてきた。


「そかそか。じゃあ、気を付けた方がいい。ところで、ライデン君。私への丁寧な口調は勘弁してくれないかな。リラーさんには普通に話していて私に丁寧な口調なのは、居心地が悪いね」


 カルネに言われて、シフはどうしようかと考える。

 カルネの見透かしたような試しているような目を気にしないよう注意しつつ、シフが口を開く。


「カルネさんは年上ですし、立場も上ですから。リラーは精神的な距離が近いから」

「……つまり、私みたいなおばさんはどうでもいいと。そかそか。うん、よく解った」


 カルネが両手を少し上げて、肩をすくめる。シフは少し焦ったように否定する。


「いやいや、そんなこと言ってませんよ」

「ほう。でも同じ年上のティナには普通に話してるよね」


 どういえば良いのかと悩みつつ、シフは助けを求めてケラシーヤやティナを見る。

 ケラシーヤは完全に面白がっていて、手助けする気はなさそうだ。ティナはおろおろとしていて、口を挟めそうにない。


「えっと。そもそも、カルネさんって何歳なんですか?」

「女性に年齢を聞くとは失礼な。まあ、ライデン君の倍は生きてないよ」


 カルネの言葉から、二十代後半らしいとシフは推測する。


「充分に若いですよ」

「へえ。ライデン君は結構範囲が広いのかな? まあ、私は君の強さには興味あるけど、リラーさんと取り合う気はないからね。安心してくれていいよ」


 言いながら、カルネはちらりとケラシーヤに目を向ける。

 そして目線を胸元まで下げて、諦めたように首を振った。


「大きければ良いとは思わないけど、無いよりある方がいいんだろうね。特にライデン君みたいな若い男なら」

「今、そんな話はしてませんでしたよね」

「そうだったかな。まあ確かに、それはどうでもいいよ。気になっていたんだけど、ひとついいかな?」


 カルネは雑談ついでと、シフに質問を行う。


「ライデン君、時々リラーさんと不思議な会話しているけど、あれは何?」

「あれは、生まれる前から……っと、何でもないです」


 シフは言いかけて自重する。ちらりとケラシーヤに助けを求めて目を向ける。ケラシーヤは頷いて、二人の会話に口を挟んだ。


「それはまあ、秘密ね。私とライデンくんの、二人だけのね」


 カルネは二人の様子を見て、口元に笑みを浮かべる。


「お熱いことで。ああ、だらだら怠けてばかりじゃ申し訳ないね。ちょっとは護衛任務を手伝ってくるよ」


 ひらひらと手を振り、カルネは列の前に向かっていく。

 ティナが付いていくと言ったが、後ろで何か無いか、備えておいて欲しいと言い残していった。



 少し経って完全に声が届かない位置にカルネが移動してから、シフは困ったようにケラシーヤへと告げる。


「やっぱり俺、あの人ちょっと苦手かな」

「カルネのこと? 確かに、ちょっと何を考えているか解らないところもあるけど、悪い子じゃないと思うわよ」


 シフの言葉にケラシーヤが忍び笑いをもらしていると、ティナが首を傾げる。


「シフ、カルネさんがそんなに苦手なの?」

「んー、なんて言うんだろう、俺の考えてることも何もかも見透かしているような目が気になっちゃってさ。それと、今はライデンだよ」

「ごめん。つい。ライデンね、ライデン。それで、カルネさんの話なんだけどね。色々と他人の世話というか、フォローもしてるし、良い人だよ。何か魔道具を作ってるらしく、特定の素材を集めたりしてるみたいだから、人脈を広げたりしたいって聞いたよ」


 ティナの話はケラシーヤも知らなかったらしく、シフと一緒に相づちを打っている。


「魔道具? それは知らなかったわ。何を作ってるのか、聞いてみよう」

「立ち入りすぎじゃねえ?」

「無理に聞かないわよ」

「リラーが聞いたら、答えなきゃいけなくなるんじゃねえの?」

「あら、そんなことないわ。別に強制するわけじゃないし、大丈夫よ」


 話をしながら歩き続けて、夜になってケラシーヤはカルネへと質問を投げた。


「え、魔道具ですか? 秘密ってほどじゃないですけどね、確かに。リラーさんもライデン君も、精霊を召喚できますよね。私には召喚はできないんですよ。それで、魔道具で精霊じゃないにしても、物の召喚ってできないかなと思いまして」

「へえ、面白そうね。何か手伝えそうかしら?」

「趣味でやっているだけなので、気にしないでください。ちょっとずつ進めるのも楽しみなんですよ」


 ケラシーヤは細かくは聞かず、別の話に変えた。



 それからの道中、野宿では護衛に混ざって四人も交代で見張りを行い、宿場町では基本的にシフが一人部屋、女性三人が同じ部屋となる。

 ティナはケラシーヤと同じ部屋なんて無理だと反対したが、ケラシーヤとカルネが気にしていないため、結局は根負けして同室となった。

 食事が終わり、ケラシーヤとカルネが席を外した食堂で、ティナがシフの向かいに座ったまま机に突っ伏した。


「うう、私、今日は緊張して寝られないかも」

「そこまで? リラーは別に暴君ってわけじゃねえだろ?」


 シフの言葉に、ティナは目を見開いて反論する。


「当然よ! ケラシーヤ様くらい優しい人、他に知らないよ! あれだけの地位にいるのに気取ってないし、お仕事で極稀に絡む程度だけど、すっごく仕事しやすいし! 私が間違っても怒らないで落ち着かせてくれたし!」


 ティナは立て板に水を流すようにケラシーヤを褒めちぎる。

 シフは慌てたように声を抑えるよう言い聞かす。


「ちょっとティナ、抑えて!」

「あっ、ごめん」


 幸い近くの席にも内容は伝わらなかったようで、シフとティナは安堵の息を吐く。


「当然、リラーはいい奴だよ。面倒見が良いのも間違いないな。でも、あれで案外ずぼらなところもあるんだぜ」

「ちょっと、ライデン」

「時々、トリと一緒にからかってくるしさ。それにトリと一緒になって遊んでる時もあるし。あれは、トリのお守りをしてるっていうより、自分が楽しみたいだけだな」

「ちょっと」

「それに実は人を騙すのも上手いし。ティナには解らないけど、それこそ昔、リラーって名乗ってた時の、本当のことを知った衝撃は忘れられねえよ。あの時、きっと内心で大笑いしてたんじゃねえかな」

「……」


 話しているうちに色々と思い出してシフが懐かしんでいると、ティナがシフから、より正確にはシフの後ろに立つ人物から、目を背けた。


「ライデンくん」


 シフは後ろから声をかけられて、びっくりして振り返ると、笑顔のケラシーヤが立っていた。



「え、あれ。何で? 気配しなかった」

「私だって、こっそり近付くくらい出来るわよ。それより、言いたい放題ね?」

「えっと。そんなことないと、思う。嘘じゃないし」

「あらそう。私ってそんなにずぼらで子どもっぽい? それに、あの時笑ってたと思ってたんだ。へえ。そんな風に見えたんだ」

「いやその。リラーさん。ちょっと話を聞いてくれませんか」

「ええ、聞くわよ。どうぞ」


 しどろもどろにシフが言い訳を口にするが、ケラシーヤの顔は貼り付けたような笑顔のまま変わらない。


「だからさ、ティナが緊張するって言うから、和ませるために……」

「ライデンくん、ティナちゃんと仲が良いのね。良いことだわ。ええ、良いことだわ」

「ちょっと、私のせいにしないでよ、っていうか巻き込まないで」

「別に巻き込んでるわけじゃなくてさ」


 言い訳をするほど、泥沼に入っていくようだとシフは嘆息する。


「まあまあ、リラーさん、その辺で勘弁してあげた方がいいんじゃないですか」


 シフが何と言うか迷っていると、予想外の援護がカルネから入った。


「目的の町が、どうして目星を付けたかって話、まだしてなかったよね?」


 カルネは面白そうににやついた顔だったが、シフは頷く。


「……カルネに免じて、今日はこの辺で勘弁してあげるわ」

「それはどうも」


 ケラシーヤの許しに、シフは疲れを隠さずに言葉を返す。

 ケラシーヤだけでも大変なのに、一夫多妻で妻を何人も持っても苦労しかしないんじゃないだろうかなどと内心で考えつつも、シフは気持ちを切り替えてカルネの言葉を待つ。

 ティナも聞いていなかったようで、耳を興味深そうに動かしている。


「これから行く町は、行方不明者が多いんだ。それも、いなくなっても不都合のない、孤児や浮浪者を中心にね。フランではケラシーヤ様の尽力もあって浮浪者が少ないけど、他はどうしてもね」

「そういえば、フランではあまり見かけなかったな」

「裏の勢力が絡んでいる場合もあるから、完全になくしたりはしないし出来ないの」


 シフのつぶやきに、ケラシーヤが補足する。


「そもそも、行方不明者が多いっていうより、孤児や浮浪者がいないっていうのが発端でね。調べると、どうやら消えてるらしい。全然関係ないかもしれないけど、調査してみる価値はあるわ」


 なるほどとシフとティナが頷き、この場はお開きとなった。

 緊張したままのティナと笑顔のケラシーヤが、話をしながら部屋に向かう。

 シフはその後ろで、小声でカルネに礼を言った。


「カルネさん、助かりました。ありがとうございます」

「役に立った? そか、それは良かった」


 カルネは悪そうな笑みを浮かべる。


「貸し、ひとつね」


 カルネに借りを作るくらいなら、ケラシーヤになじられる方がましだった。シフはそんなことを考えながら、肩を落として部屋に戻った。

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