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百年遅れの英雄譚  作者: すっとこどっこい
第一章 VRMMO編
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チュートリアル

 真っ暗な部屋に入り、ライデンは照明を点けた。部屋はすぐに明るくなり、中心に置いてあるVRキットがライデンの目に入る。

 VRキットが光を反射させて輝いている様子は、まるで人生に光が差したかのような印象をもたらす。

 これまでゲーム以外で人間関係が上手く構築できていなかったライデンにとって、転生が賞品になっている新しいVRMMOへの挑戦は、非常に重要な試みだ。


 ライデンはさっそくヘッドセットを頭に被り、手足に端子を貼り付けていく。準備が整うと、普段より速まっている鼓動を抑えるために深呼吸しつつ、本体の電源を入れた。

 ブゥンと重低音が鳴り響き、およそ六畳間の半分を占める大きなVRキットが稼働する。


「ようこそ、バーチャルシステムへ。音声案内からバーチャルリアリティの世界へ切り替えます。準備はよろしいですか?」


 機械とは思えぬ柔らかくて張りのある、聞き取りやすい女性の声でアナウンスが流れる。ライデンは、武者震いで震えながら、はいと応じた。

 その瞬間、意識が身体と切り離され、バーチャル空間へと移行した。


 百年以上前に開発されたバーチャル空間は、医療、教育、犯罪者の更正と、様々な分野で役立てられている。

 ニュートリノと呼ばれる素粒子、その反粒子が観測され、ネットワークに利用されるようになり、ネットワークの世界に革命が起きた。

 それまではケーブルを介した光回線が最速の転送方式だったのが、壁や鉄はもちろん、地球の裏側にすら減速せず透過する、無線でのニュートリノによる転送へと切り替わった。

 これにより、全てのデータがそれまでの数百倍の速度で転送が可能となり、妄想だけで現実には考えられていなかった意識そのものをネットワーク空間に転送する方法が確立されたのだ。


 ニュートリノに代表される宇宙に存在する暗黒物質、いわゆるダークマターと呼ばれる観測できないとされていた物質も、今では七割以上が観測できている。

 それにより、一番大きな発見は、太陽を挟んで丸々逆側に、地球と同じ質量を持つ惑星が存在していたのが判明したことだろう。

 とはいえ通常では観測できず、存在していてもまったく意味のないため、異世界という扱いだった。

 今回のゲームで賞品になるということは、また一つ研究が進んだのだろう。

 ライデンにとっては、研究の状況など解らないので、賞品として提供され、実際に転生できるかどうかのみが重要だ。


 ライデンはバーチャル空間でポップアップされたウィンドウの操作を行い、ゲームを起動させた。

 バーチャルへのアクセスは連続稼働が十時間、たとえ十分でもバーチャル空間にアクセスすると、健康維持のために十四時間は休憩を挟まなくてはいけないのだ。

 その代わりに、ライデンも理屈は解っていないが、ログイン中は新陳代謝を抑える仕組みになっており、十時間ログインしても六十分の一、つまり十分しか経っていないと身体が認識するのだ。おかげでログイン中に食事や排泄の心配もなく、十時間ログインし続けられる。


「よし、始まるぞ」


 ログイン処理が完了し、ライデンはいつものようにバーチャル空間へと足を踏み入れた。



 空中に浮かぶポップアップウィンドウから新規ゲームのアナスタシーを選び、初期設定を確認する。

 いくつか目を引く事項がある。ひとつ、他のゲームと違い、性別や顔の造形の変更が出来ない点。ゲームとして楽しむと同時に、クリアを条件に賞品が出る点。それによるトラブルは個々の問題であり、ゲームメーカーは一切関与しない点など。


「性別は、まあ別にこれまで通りだから関係ないけど、見た目も変えられないのか。これ、遊びでやる奴は少ないんじゃねえか?」


 ライデンが思いを口にしながらも、初期設定を終わらせる。少しだけ髪型をいじってみたため、少し時間がかかってしまった。


 ゲームにログインすると、ゲームの情報が流れてくる。VRゲームにおける注意事項や事前に調べていたことが大半で、ライデンは聞き流して周りを見渡す。

 町の大通りに出現したようで、行き交う人々でごった返している。普段なら初めてのゲームという楽しさを存分に味わうのだが、今はそれほどの時間がない。

 レンガ造りの建物や馬二頭が引っ張る豪奢な馬車を横目に、ライデンは集合場所へと向かった。

 足元のレンガは丁寧にも馬車の轍に合わせて窪んでおり、馬車の通り道を示している。


「到着……と」


 ライデンが事前に決められていた待ち合わせ場所の噴水広場に到着すると、それなりに多くの人で賑わっていた。

 ライデンと同様、布製の簡素な服を着た男女は、同じような新規プレイヤーだろう。鎖かたびらを着込んだ見回り兵や、果物屋台を広げるおばさんなどはプレイヤーではなく、AIが操るNPCだ。


「ああ、君たちはなんて美しいんだ。そちらの少女がサクヤちゃんだね。そしてブラちゃんも、名前の通りの黒髪が映える澄んだ瞳をしているね。粗末な服を身にまとっていても、麗しさは加減を知らないようだ。ところで隣にいる美女はどちら様だい? もしかして僕の魅力にやられた子猫ちゃんかい? 参ったな、僕には重大な使命があるから、一人の子につきっきりでお話しするわけにはいかないんだよ」


 探すまでもなく、ライデンはゼロを発見した。近寄りたくはないが、サクヤとブラックがいるなら近寄らないわけにもいかない。


「あー、そちらブラック? ゼロは言わなくても解るからいい」


 軽薄そうなアバターだったゼロだが、見た目は変わっても何一つ印象が変わらない。ここまで軽薄が服を着て歩いている人間も珍しい。

 ゼロの言葉を流しながらひそひそと話をしていた三人の女性が、ライデンの言葉に振り返る。


「ライくん? やほー」

「こんちわ」


 一人はチャットでよく顔を合わせているサクヤで、いつもは長い黒髪を後ろに流しているが、今回は一まとめのポニーテールにしている。勝ち気なつり目ともよく似合っていて、活発的な印象を周りに与えていた。服装もピンクを基調とした明るいシャツに、太ももを半ばまで隠す青いパンツを履いている。そして見た目の印象そのままに、明るくライデンへと挨拶を返してきた。

 サクヤ以外の二人はひと目では誰か解らなかったが、ブラックはアバターから受ける印象とそれほど違っていなかった。こちらも黒い髪はサクヤと一緒だが、短めのボブカットで丸く可愛らしい顔付きをしている。服装も黒を基調に白いラインが数本、模様のように縦に入っているワンピースを着ている。

 前回のゲームでもそうだったが、全体の動きはあまり機敏ではないし無口なのだが、記憶力は良く、次の魔法を使うまでの待ち時間、いわゆるクールタイムの調整が異様に上手い。ライデンは時間の感覚が大雑把なので、体の中にメトロノームでも組み込まれているのかと真剣に考えたほどだった。


 しかし、最後の一人が誰かはまったく想像が付かない。目が覚めるような金髪によく似合う碧眼。ライデンが初めて見るような整った顔の美人で、物腰も非常に女らしい。その上、顔だけではなく身体も女性らしい体型をしていて、身体の線が出にくいローブをまとっているにも関わらず主張の激しい胸元に、つい目が行ってしまう。

 あまり見ると失礼だと思い、ライデンは女性から大きく目を逸らした。


「えーと、そちらの女性は? サクちゃんとブラックの知り合い?」

「うん、知り合いよ。というかライくんも知り合いなんだけどな。覚えてないって酷いよね」

「そうなのか。でも見た目変わるから、アバターで知り合いでも解らねえよ。メンバーの誰か?」


 攻略に参加しないギルドメンバーの中にも女性はいるので、その中の誰かなのだろうとライデンは推測する。


「まあ、間違ってないけど、ね」

「もうすぐ、ゾイルが来るから」


 来たら説明する、と言葉少なに女性が話す。名乗らない理由が解らずライデンが首をかしげていると、しばらく経って全員が揃った。


「よし、じゃあ早速だが自己紹介と行こうか」


 ゾイルが最後に集合場所にやってきて、早速自己紹介が始まる。ゾイルはグレーの髪をオールバックにしており、年齢も攻略に参加する六人の中で一番年上の二十六歳なのだそうだ。若干固すぎるところもあるが真面目な態度が顔にも表れていて、ラフな緑色のチュニックを着ているのに背広でも着込んでいるかのような錯覚を覚える。


 それはともかく揃ったメンバーを見渡しても、男女比が合わない。つまり、誰か女性が一人、これまで男性アバターでログインしていたのだろう。驚かせるのが目的だったのかもしれないが、ライデンはVRゲームで性別を変えている程度では驚かない自信があった。だが、しかし。


「私はリラー。元サブマス。あらためてよろしく」

「え……」


 先ほどサクヤやブラックと一緒にいた金髪の女性が声を発すると、周囲の空気が凍り付く。よりによって、一番厳ついドワーフの外見で、性格も一番男らしいと思っていたリラーが女だったのだ。それも、とびきりの金髪美女というおまけ付きで。


「はい、次はライデンくんよ」


 自己紹介が終わったリラーが、ライデンをうながす。周りを見ると、ゾイルとサクヤには驚いた様子がない。


「そうか、お前チャットしてたよな……」


 言えよ、とライデンが愚痴をこぼすと「口止めされていた」とサクヤが悪びれずにうそぶいた。

 そういえば、そんな話をしていたな、と思いながら、あらためてライデンは自己紹介を行った。


「元サブマスのライデン。今後ともよろしく」


 ゾイルも含めて挨拶が終わり、検証組と攻略組に分かれてチームを組む。検証組は七名いるため、少人数での検証は二組に分けて、六名での検証は一人が外れる形式を取る。


 攻略組の六名のうち、前に立つのは戦士系クラスを選択したライデンとサクヤ。後衛として火力を担うのが弓を使う物理系のゾイルと、攻撃魔法系のブラック。 リラーは補助を中心とした器用なクラスを選択して、ゼロが回復役を務める。

 ライデンは、戦士系でも火力重視のファイターではなく、命中と回避に重点を置いており、ダンジョン探索などにも利点があるスカウトを選択している。


「今日は残り九時間半ほど、レベル二十になるまで狩れるだけ狩り続けよう」


 初心者用の仕様で総合レベルが二十を超えるまで、死んだ時にペナルティなしで町への帰還を選択できる。このため、時間ロスはあるものの、初めは回復アイテムなどを持つ必要は薄い。

 ゾイルの言葉に五人が頷き、町の外へ移動して、狩りを開始し始めた。

 初めの町周辺だけあって、生息しているのは実在の動物や虫を大きくしたものがほとんどで、厄介そうなモンスターは出現しない。稀に鋭すぎる牙や角が生えた個体も出現する程度だ。

 初めの町は他にも複数存在していて、ログイン人数が多い割に、狩り場が混雑するほどでもない。


「ゆっくり楽しむだけのプレイをしてる奴の方が多いみたいだな、っと」

「ライくん、よそ見しないの。そりゃ発売前から転生ネタで盛り上がったけど、それ以上に出来の良さも際立っていたじゃない」


 狩り場を森に移行して若干強めの敵も狩り続けて五時間ほど、総合レベルが十になるかどうか、という状況でライデンが感想を漏らす。

 目の届く範囲にもモンスターを狩っている人はちらほら見えるもののライデンたちのパーティほど熱心に狩っている人には遭遇していない。


「そろそろ動くか。死に戻りを気にせず、行けるところまで行ってみよう。どう考えても無理な敵が出てくれば、その手前でレベル上げをするぞ」


 ゾイルの意見で、どんどん先へ進もうと決めた一行は、さっそく町を出て、道を進む。隣町をほぼ寄り道せず通過し、少し離れた湖まで足を運んだ。

 水辺だけあって、両生類などの水分の多いモンスターが出現する。


「まだ、勝てないほどじゃないわね」

「でも一発で結構ダメージ食らうな。ゼロ、回復あとどれくらい?」

「あと三回ってところだね。ライデンにかけるより、僕のサクヤちゃんのために置いておきたいんだよ。だからライデン、きみは攻撃を受けないように」

「ああ、気をつけよう」


 ゼロの言葉を半ば聞き流しつつ、敵を狩る。これまでMPを温存気味に戦ってきていたが、周りに戦っているプレイヤーがいないこともあり、敵の攻撃がライデンたちに集中している。

 気を抜くと一瞬でHPを大量に持っていかれるので、ライデンは回避に専念して、火力はサクヤやリラーたちに任せる。

 途中、少し後ろに敵が突っ込んでいたが、ゾイルがあしらって対処していた。後衛で防御力に若干の難があるとはいえ、メインクラスにファイターを選択しているので、一時的に前線に立つくらいは可能だ。


「マスター、あんた前に立っても充分やれそうだな」

「確かにやれないでもないが、俺は弓の方が使いやすいんだよ。一匹程度ならともかく、お前らと違って敵に囲まれたら無理だしな。それに、俺の本領は相手にメイジ系がいる時だからな」


 九時間以上が経過していたが、二回ほど死に戻りをしつつもライデンたちはレベル二十に到達した。

 レベル二十一以降はデスペナルティも重くなるので、他の攻略プレイヤーによる殺害、いわゆるPKにも注意が必要となる。


「さて、今日はこの辺までか。最後に町に戻って、レベルだけ割り振っておくか」


 町の中で宿を取り、上がったレベル分を割り振る作業に入る。

 このゲームでは、総合レベルを個々でクラスに割り振り、五レベルごとにスキルリストからスキルを選択する。スキルの数はクラスによって違っている。二つのレベル差が開きすぎるとスキルを覚えられないので、片方を二十にする意味は薄い。

 ライデンはサブクラスにデュエリストを選択しており、レベルが上がると相手の防御無視の無属性攻撃ができるようになる。

 ライデンは十五レベル分をデュエリストに割り振った。取得したスキルは一レベル分で『ペネトレイト』と『フェンシングバトル』。二レベル分で『パリィ』に『フェイント』。三レベル分で『カウンターアタック』と『グラウンドセイバー』を取得した。

 一レベルの二つが自動発動の効果で、クリティカル時に無属性になる『ペネトレイト』、刺突剣での命中率やダメージに補正が入る『フェンシングバトル』。

 二レベル分は相手の攻撃を武器で受け流す『パリィ』、それと逆に相手に攻撃を当てやすくなる『フェイント』。

 三レベル分の『カウンターアタック』は『パリィ』で受け流した後に行う攻撃に、命中率とダメージの補正が入る。『グラウンドセイバー』は、地上にいるモンスター限定だが、命中率が高く、転倒のバッドステータスを与えられる。当然、対人戦でも効果を発揮する。

 残った五レベル分をスカウトに割り振り『アクロバットムーブ』と『スリングシューター』を取得する。

 『アクロバットムーブ』はMP消費が代償で敵モンスターに移動阻害されなくなる。『スリングシューター』はスリングでの攻撃に補正が入るスキルだ。


「しかしこのゲーム、プレイヤースキルに頼る部分多いな」


 ライデンはレベルの分配が終わり、周りを見て同じく終わっていたリラーと話を始める。


「そうね。物理職は特に、実際に避けられるかどうか、当てられるかどうかはプレイヤー次第ね」

「補正があっても、相手の攻撃が先に赤い線で出るだけだし、先って言ってもほんの一秒にも満たない程度だしさ」

「私、そんなの見えたことないよ。でも、ライデンよりしっかり避けてるけどね」


 ケケケと笑いながら、サクヤが話に混ざってくる。


「うるせえ。俺はお前みたいな、生身で格闘できるような人間じゃないんだよ」

「格闘じゃなくて合気道。淑女のたしなみってやつよ」

「どんな淑女だ」

「うるさいわね。それで、どんなスキル取ったの?」


 それぞれ特技を確認しあい、次の目標を立てる。


「他のエリアにいるレベル上位者に気をつけつつ、当面はレベルアップをしていこう。あと、ログアウト後に検証組の情報を得たいから、チャットで集まれるか?」


 ゾイルの言葉に、ライデンを含め全員が頷く。確認が終わった頃には残り十分くらいになっており、短い時間だが、自由行動となる。


「誰か武具を見に行かねえか?」


 ライデンが声をかけると、ゾイルとサクヤが同行を希望する。他の三人は、武具を見てもしょうがないと不参加だ。


「じゃあ行こう。ああ、でもリラさんも一緒に行かない?」


 サクヤの言葉にリラーは一瞬躊躇するが、そうね、とうなずいて立ち上がる。そしてライデンたち四人は宿を出て行った。


「ああ、サクヤちゃんとリーちゃんも残って欲しかったがしょうがない。僕のブラちゃん、二人で愛を確かめ合おうじゃないか。ああ、しかしリーちゃんが女性だったとは。気付かせないで男同士の立場で親密になって、ふれ合いに慣れてから女性だと告白するなんてまったくリーちゃんは罪作りだな……」


 今出たばかりの部屋から、たわ言が聞こえてくる。


「マスター、あれ放っておいて大丈夫かな。ブラック、嫌がってない?」

「大丈夫だよ。ああ見えてゼロ君は相手の顔色を見るの得意だから。本気で嫌がったらそれ以上は踏み込まないよ」

「でも、ブラックも嫌がってそうだったけどな」

「そうでもないけどねー。それより急がないと、十時間経っちゃうわよ」

「でも、私は見てもしょうがないんだけどねえ」


 サクヤの言葉に首を傾げつつ、付き合いで引っ張り出されたリラーのため息を聞きながら、ライデンは急いで武具屋へと足を運んだ。



 VRから外に出て二時間ほど休憩や情報収集を行った後、指定の時間にチャットルームへログインする。

 こちらはVRではなく、動画をそれぞれのコンピュータでやりとりするだけだ。

 十三人という大人数のため、発言者は手を上げてそれ以外は黙るという手法で行っている。


「早速だが、まずは外部の情報からだな。調べた限り、レベル二十に到達、もしくは超えたのは十組に満たない」

「なるほど、じゃあ五連戦くらいに耐えられるようにすれば、襲ってくる奴もほとんどいなくなるわね」

「サクちゃん、俺たち以外がすべて組まない限りは、五連戦も必要ないって。それに、初めに襲ってくる奴らを返り討ちにしたらデスペナルティ受けるし、利点が少ないと思わせたら問題ないさ」


 サクヤが好戦的な笑みを浮かべているのをライデンがたしなめる。ライデンよりよほど好戦的だ。


「でも、連戦に対処しておくのは有効だね。さすがは僕のサクヤちゃんだよ。でもあまり殴ると、麗しい拳にたこが出来ても困ってしまうね。ああ、でもたこが出来たとしても僕のサクヤちゃんの手は綺麗だよ」

「無駄な話はその辺で。それで、私たちが取っていないクラスはどんな感じ?」


 リラーがゼロの会話を中断させて、検証組に確認を取る。検証組はそれぞれに説明を行った。


「攻撃特化がファイター、探索もできて命中率が高い代わりに、威力自体は低いスカウト。攻撃魔法の使い手メイジに、回復役のプリースト。これらメインクラスの四つは、レベル百での転職後は異種族で代用できるらしい。異種族については、どれが得意かはいまいち解らん」

「まず、サクヤの取っているファイター・グラップラーは、同系統がないからそのままでいいと思う。異種族でグラップラー向けなのがあれば、それにすればいい。それと、マークフォースは移動速度、命中率や回避率アップの『ダブルストライク』が一番合っているのも間違いないな」


 マークフォース、略称MFは一人につき一つ得られる、常に効果が発動している特殊能力だ。ファイター系統は攻撃力二倍の『ヒーローブレイド』が一番向いているが、グラップラーには、素手だと『ヒーローブレイド』が上乗せされるスキルがある。『ヒーローブレイド』が重ね掛けされると相手の防御修正が半分になるという特徴はあるものの、命中率などが上がる『ダブルストライク』の方が安定しやすいだろう。


「ライデンはまあ、スカウト系でデュエリストだから、三つ目のクラスはサムライあたりが相性良さそうだな。デュエリストもサムライも、一対一に特化している代わりに、命中率や回避率がかなり高い。慣れたらユニークボスの攻撃でも回避できるようになると思うぜ」

「それでギルマス、じゃなかったゾイルなんだが、どうせ遠距離で射るなら、ベルセルクあたりで基礎攻撃力を高めるのが良さそうだ。防御力を犠牲にするが、どうせ接近戦は視野にいれないだろう」

「そうだな、ボス相手でも、遠距離主体で戦うだろう」


 それぞれ、反論もなく検証組の意見に従う。しかしたった一日で、色々と調べ回るのは大変だっただろう。ライデンがねぎらうと、検証組のリーダーが肩をすくめた。


「大したことないさ。今日はまだファイター、スカウト系しか調べてねえからな。明日はメイジ系の検証を進めるさ」

「ああ、頼む」


 明日以降の作業や目標を確認しあった後、チャットを終える。そしてライデンは、明日のために眠りについた。

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