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百年遅れの英雄譚  作者: すっとこどっこい
第二章 少年時代(魔竜討伐編)
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精霊魔法の習得

 シフたちは昼過ぎ頃にフランに戻ってきて、本部で討伐の報告をした。

 一番活躍したのがティナなので、ティナの取り分を多くすれば良いとシフは思ったのだが、当の本人が拒否をする。


「ティナ、本当に三等分でいいの?」

「当然。組んで仕事をしていると、運や相性で誰が活躍するかなんて様々よ。いちいち気にしてたら、誰もが自分の活躍できる依頼しか選ばなくなっちゃうじゃないの。今回は臨時だけど、正式に組んでる人たちもそうしてるわ」


 ティナは説明できるのが嬉しいようで、楽しそうにしている。

 反対に、ポーラは役に立てなかったと落ち込んでいるようだ。


「ポーラ、また一緒に行こうぜ。俺も、何も出来なかったのは悔しいし」

「シフさんも? でも、シフさんは囮で役に立ってたじゃない」


 シフは小さく肩をすくめて、首を横に振る。


「いや、何もしてないようなもんだよ。次までに何か考えるよ」


 シフたちは報酬を受け取り、別れの挨拶をかわす。


「じゃあ、またね。私は基本的に一人か姉さんと一緒だから、何かあったら誘ってね」

「うん。俺も暇な時っていうか、ケイと一緒じゃないなら一人の時が多いと思う」


 ティナに続けて、シフも自らの状況を告げる。ポーラも悩んで俯いていた顔を上げて、お礼を言った。


「本当に、今回は足を引っ張っちゃってごめんなさい。助けてくれてありがとう。私はしばらく、ガドンさんたちと一緒に動くと思う」

「そう、慣れた人と一緒の方がいいかもね」


 そして二人と別れたシフは上の階に行き、ケラシーヤに会えるか確認をする。忙しければ夕方以降でも構わないと付け加える。

 しばらく待つと、部屋からケラシーヤが出てきた。


「お帰りなさい。ちょうど良かった。相談があったのよ」

「ただいま。俺も相談したいのがあるんだ。急ぎじゃないから、そっちから聞くよ」


 シフは部屋に入り、ケラシーヤと軽く抱き合った。触れる程度の口づけをしてから、シフは椅子に座る。ケラシーヤも機嫌が良さそうにシフの横に座った。


「相談って言うより決定事項に近いんだけどね」


 準備が整いつつあるので、魔竜の討伐成功と王女の生存を発表するのだという。


「へえ。いつ頃?」

「二週間以内には行うと思うわ。だから、長く町を離れるのは控えて欲しいの」

「うん、解った」

「もう一つ。私と一緒に、魔竜討伐した一員って紹介するからよろしくね」


 頷くシフに、少しためらいつつ、ケラシーヤがどうするか聞いてくる。


「その時にね、あの、シフくんと私が良い仲だっていうのは、言ってしまって良いかしら?」


 ケラシーヤの質問にシフが首を傾げる。シフには、ケラシーヤが何を気にしているのか解らない。


「言っても良いというか、言うとまずいことでもあるの?」

「妬まれたり嫌がらせをされるくらい、シフくんならどうってことないでしょう? それより問題は、王国の偉いさんが狙うだろうなって」

「偉いさんって、六歌仙の団長じゃないの?」

「団長は、助言役。ちゃんとした宰相も王女のそばに付いているわ」


 へえ、と聞き流していると、ケラシーヤは爆弾を投下する。


「今は、他国から継承権の低い王族を招いて女王になった後に王婿として呼び寄せるつもりなの。シフくんの場合、生まれが貴族でもないから大丈夫とは思うけど、もしかしたら王婿になってある程度の爵位はもらえるかもしれないわ」


 嫌そうな顔になるシフに、ケラシーヤが苦笑する。


「嫌そうね」

「そりゃ、面倒ごとしか無さそうじゃんか。それに、そんな簡単に女王の相手が決まるかよ」

「シフくん。あなたが思っている以上に、強さというのは重要なのよ。特に一度滅びかけた状況で、何が襲ってきても撃退してくれる王婿となれば、反対できる人はいないわ」

「ふうん。それで?」

「王家みたいな代々続く家柄ってわけでもなんでもないけど、私もそれなりの立場だから。私を差し置いてシフくんを女王に差し出そうとする人もいないわ。だからシフくんが王家に入りたいなら、今回は発表せずに様子見でもいいのよ」

「その場合、ケイはどうなるのさ?」

「波風を立てるのは本意じゃないからね。裏でこっそり付き合う程度?」

「却下。本末転倒どころの話じゃねえよ。馬鹿かお前。寝言は寝て言え」


 思わずシフから暴言が出ると、ケラシーヤもむっと顔をしかめる。


「何よ。今後の可能性を示唆しただけじゃない」

「そんな可能性はいらねえよ」

「でも王女は可愛いわよ。シフくんとそれほど年齢も変わらないし」


 ケラシーヤが何を言いたいのか解らず、シフは頭を抱える。


「何、お前、俺が邪魔になったの? 厄介払いでもしたいの?」

「そんなこと、言ってないじゃない」

「言ってるようなもんだろ。ティナと一緒に冒険に出ろだの、王女と結婚したらどうかだの」

「だって。シフくんが何考えてるか解らないもん」


 拗ねたようなケラシーヤの言葉に、シフは首を傾げる。


「私が何かやっても、何もしなくても、態度があまり変わらないし」


 シフが詳しく話を聞くと、いつか飽きて捨てられてもいいように予防線を張っているようだった。


「ケイ、怒るよ」

「もう怒ってるじゃない」


 ケラシーヤの愚痴に舌打ちを返す。


「俺はケイ一筋だよ。先のことがどうなるかなんて解らないけど、ケイを嫌いになったりはしないよ」

「でもそれ根拠ないわよね。ティナちゃんともっと仲良くなったらどうなるか解らないし。私を邪魔に思うようになるかもしれないわよ。権力には心底興味がないってのは解ったけどね」

「嫌いになんか、ならねえよ。百年以上も思ってくれてた子を、邪険に扱うわけねえだろ」

「じゃあ、その。私と。あの。うー」


 ケラシーヤは赤くなりながら言葉を探っている。以前も似たような態度だったし、放っておいても可愛くて面白いのだが、と思いながらシフは立ち上がって、ケラシーヤの前に跪いた。


「ケイ。ケラシーヤ。結婚しよう。ケイの言う通り、立場上何がどうなるかは解らないけど、俺は永遠に君を愛するよ」

「……うん」


 シフが顔を上げると、ケラシーヤは目に涙を溜めて見つめてくる。

 うわ、と呟いて、手元の布でケラシーヤの顔を拭う。


「シフくんの馬鹿」

「なんだそれ」

「後悔しないのね」

「しねえよ」


 晴れやかな顔で笑うケラシーヤを見て、シフは安堵のため息をつく。


「それで、シフくんの相談って何?」

「ああ。忘れてた。今回の依頼で、イビルアイと戦ったんだけどさ……」


 シフはケラシーヤに、魔法の武器が効かなかったこと、鈍器と化した剣ではほとんど効果がなかったこと、細かな作業が苦手なことを伝える。


「あら。ふふふ」

「何笑ってんだよ」

「ごめんなさい。何だか、魔竜退治した後にくる相談にしては、あまりにこう、初心者っぽかったから」


 クスクスと笑いを納めず、ケラシーヤは案をいくつか出す。


「武器をたくさん持つっていうのは嫌なの?」

「んー。手入れ大変だし、邪魔になるし。出来れば避けたい」

「メイジの魔法でクリエイトウェポンってのがあるけど、あれも魔法の武器扱いだったと思うし」


 しばらく考えていたケラシーヤは、シフに確認を取る。


「シフくん、精霊って見える?」

「ケイが魔法を使う時のあれだろ。見えてるよ」

「ふうん。じゃあ素質あるのね。精霊魔法、いってみる?」


 ケラシーヤの言葉に、シフが首を傾げる。精霊魔法を覚えても、武器の解決になるとは思えない。


「シフくん、剣を鞘から出して」


 言われて、シフは剣を抜く。ケラシーヤは土の精霊を召喚して、魔法を唱えた。


「えーと。『プロセッシング』」


 ケラシーヤが発動させると、剣が新しい鉄で覆われていき、二回りは大きい大剣になった。

 刃は鋭く、切れ味も良さそうだ。


「作った後の武器には魔法がかかってないから、物理限定の敵にも効くし、鈍器無効でも問題ないわ。さらに魔法を重ねるとすれば、炎と水の精霊を呼んで、と」


 言いながら同時に精霊を呼び出し、剣を熱してから水で冷やす。


「焼き入れしたら、丈夫になるし、切れ味も上がるの。叩かなくても土の精霊が調整してくれるから便利よ」

「……これを、俺にやれと?」

「最後の工程は別として、土の精霊だけなら簡単よ。魔法の名前は適当でいいわ。精霊に『これをやってほしい』って思いながら言えば、読み取ってくれるわ」


 ケラシーヤの言葉を聞きながら、シフは手元の剣に目を向ける。


「うん。解った。それで、これどうすんの?」

「土の精霊に頼んで、回収してもらうの」


 何やらケラシーヤが言って、剣は元通りになる。


「うわ。戻った」

「戻らなきゃ鞘に納められないじゃないの。魔法しか効かないような相手には使えないから、気を付けてね」


 シフはケラシーヤの言葉に頷いて、元に戻った剣を納める。

 自宅に戻ってから土の精霊と契約すると言われて、シフは買い物に出かけた。ケラシーヤから、いくつかの消耗品を買っておくよう指示される。

 特別な素材は少なく、すぐに買い集められたので、シフは早々に家に戻ってゆっくりと身体を休めた。



 眠りについていたシフは、身体を揺すられて目を開ける。


「おはよう。よく寝てたわね」

「お帰り。ごめん、気付かなかった」


 いいのよ、と言いながら食堂に向かう。

 トリも食器を並べていて、夕飯の準備をしている。ちらりとシフに目を向けて、顔をほころばせた。


「兄貴、お帰り」

「おう。ただいま。ちゃんと働いてたか?」

「当たり前だろ。働いてるし、ちゃんと貯金もしてるんだぜ」


 へへんと自慢げに胸を張るトリに、偉いと言って頭を撫でる。

 トリは撫でているシフの手を掴んで払い除ける。


「子ども扱いすんじゃねえよ」

「子どもじゃん」

「もう十三だし」

「だから、子どもじゃんか」


 年を明けて一つ増えているが、トリの成人まであと一年半以上ある。

 ケラシーヤに小言をもらってシフも食事の準備を手伝う。


「じゃあ、いただきましょうか」


 食事をしながら、雑談に華を咲かせる。

 その途中、トリはにやりと笑い、シフとケラシーヤをからかう。


「兄貴たち、いつ結婚するんだ?」


 シフが噴き出しかけて、辛うじて堪える。ちらりとケラシーヤを見ると、気まずそうに目を逸らされた。

 シフが目を覚ます前に、話をしていたらしい。


「トリちゃん、ごめんね。シフくん取っちゃって」

「んー? あー。しょうがねえよ」


 シフは意味が解らなかったが、二人には通じるものがあったらしい。


「取ったってケイ、俺は物じゃねえぞ」

「物じゃないけど、獲物だったもの」

「ケイ? 今、何とおっしゃいました?」

「いえ、別に」


 そんな会話をしながら食事が進み、終わり次第、精霊魔法の習得準備に入った。



「精霊っていうのは、生き物と現象の中間くらいと思ってたらいいわ。土の精霊って便宜上言っているけど、厳密には鉱石というか、そういった何もかも扱う存在よ。水の精霊って言いながら氷になったり、風の精霊って言いながら大気を操るのと似たものね」


 質問は? というケラシーヤに、シフは首を振る。


「ん。それで、土の精霊で鉄を作って、剣に上乗せするの。どんな形状かは、想像力が重要よ。精霊って呼び出した人の意識を読み取るから」


 やってみようかと、ケラシーヤの指示に沿って触媒を使って土の精霊を呼び出す。

 すんなりと現れた精霊と、契約を結ぶ。ケラシーヤによれば、契約すると魔力を常に与えることになるそうだ。


「言ってみれば、契約を増やすごとにMPの最大値が下がるって思ったらいいのかしらね。契約で減る分は、自らの意志では使えないから」

「ふうん。それで、どうやって魔法を使うの?」

「魔法の言葉は、精霊魔法だと何でも良いの。契約した精霊に、意志が伝わればいいから。私は前世で母国語だった英語を使ってるわ」

「なるほどねえ。じゃあ、俺もそうするかな」


 シフは少し考えて、創造を試す。


「『刀剣生成、大兼光』……おぉ」


 シフの言葉で、持っていた剣が、日本刀の見た目に変わる。


「オオカネミツ?」

「ああ、うん。俺の好きな武将が使っていた刀。本来はもっと大きいんだけど、俺の場合二刀流だからね。ちなみに大兼光は江戸時代に打ち直されて……」

「うん。もういい」


 語り出したシフを、手を挙げて止める。シフは一瞬だけ不満そうな顔になったが、目的を思い出して気を取り直す。


「斬れ味、試してみたいでしょう」


 ケラシーヤは言いながら、金属の塊を別の部屋から持ってくる。


「鋼の塊。これを斬れるくらいの強度と斬れ味を作れたら、合格ね」


 言われて、シフは試しに斬りかかる。刀が鋼に触れた瞬間、耳障りな甲高い金属音が鳴り響き、刀にひびが入った。


「うわ、全然駄目だ」

「魔法の解除は、精霊に命じたらすぐだから」


 言われる通りにいったん解除して、再び作り出そうとする。


「ああ、忘れてたわ。鉄を作ると思うんじゃなくて、何でも斬れる最高の刀という物体を作ると思ってやってみて。もっと言うと、鍛冶の手順を知っていたら、より強固に作れるんだけど」

「そうなんだ。じゃあ……『刀剣生成、大兼光』」


 先ほどよりも時間をかけて創造し、再び試す。

 今度は先ほどと違い、澄んだ金属音を鳴らして、鋼が真っ二つに斬れる。


「うわ。凄い。シフくんって刀の作り方なんか知ってたの?」


 ケラシーヤの言葉に、シフが恥ずかしそうに頭をかく。


「いや、ちょっと一時期、鍛冶が出来るVRってのにはまってさ。誰が美しい刀を作れるか競ったんだよ。俺なんか、たたら製法で鋼を作ってさ……」

「ああうん。もういい」


 再び、ケラシーヤはシフが語るのを止めて、刀を手に取る。


「綺麗ね。この刀の色が違う波打っているところも、なんか可愛い」

「可愛いって……小湾に瓦の目交じりで……って言っても解らんよな」

「うん。解らないわ。良い出来ね。まだ結構時間がかかってるから、もっと早く作れるようになれば、炎と水の精霊も呼んで、強く鍛えてもいいかもね」

「それは楽しそうだね。うん、もうちょっと本物に近づけてみる」


 シフは、転生してからこっち、ケラシーヤと再会した時と同じくらい嬉しい気分で、手元の刀を見つめる。


「うわぁ。シフくんの目が、こんなに楽しそうなの初めてかも。初めて覚えた嫉妬が刀って……」

「あ、ごめん。ケイと会った時も、初めて抱いた時もさ、当然凄く興奮したし、この上なく幸せだけどさ。なんていうか、絶対に自分のものにならない武器を手にした嬉しさっていうのかな。そういうの」

「うん。いいよ。いいのよ。存分に眺めて楽しんでちょうだい。私、明日も早いから寝るわね」

「そう? どうしよ、ケイが嫌じゃなければ、一緒に寝ない?」


 暗に抱きたいとシフが伝えてみると、ケラシーヤは薄く笑みを浮かべる。


「トリちゃんが同じ家で寝ているんだから、抑えめにお願いするわ」

「あ、うん。努力する」


 そして二人で寝室に戻っていった。



 翌日ケラシーヤが目を覚ました後、横にシフがいるのを目にして、ぼそりとつぶやいた。


「刀に負けなくて良かったわ……」

「んー、何かいった?」

「いえ別に」

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