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百年遅れの英雄譚  作者: すっとこどっこい
第二章 少年時代(魔竜討伐編)
27/49

ティナの実力

 宴会の翌日、朝早くからシフはケラシーヤやトリと一緒に家を出た。

 ティナと待ち合わせをしている時間は昼からだが、午前中に武器を買う予定だ。


「お金がいるなら、貸すわよ」

「いや、飛竜討伐の報酬がもらえるから、それで充分だよ」


 ケラシーヤの申し出を断り、シフは六歌仙の本部へと向かう。

 トリは裏口から厨房へと入り、ケラシーヤは上階にある自身の執務室へと足を向けた。それぞれ挨拶をして別れて、シフは依頼完了後の報酬受領の窓口へと向かった。


「あれ、シフさん?」


 声をかけられてそちらに目を向けると、ポーラの姿がある。

 シフが笑顔で応対すると、ポーラも嬉しそうに近付いてくる。


「ポーラ、久しぶり。元気そうだね」

「うん。それなりにね。依頼を見に来たの?」

「討伐の報酬をもらいに来たんだ」


 そのまま、二人で歩きながら雑談をする。何を倒したのか聞かれてシフが飛竜と答えると、ポーラは呆れたような顔になる。


「それ、一人で倒したの?」

「手伝ってもらったよ。魔法で足止めとかしてもらった」

「もしかして、カルネさんに?」


 聞き覚えのない名前に、シフは首を傾ける。


「いや、違う。それ誰?」

「誰って……シフさんが話しかけられたって聞いたけど。魔法使いの、六歌仙でも有数の稼ぎ頭よ」


 そこまで言われて、前に絡まれたと思い出す。


「ああ、いたね。忘れてた。違うよ」

「忘れるとか、あり得ない……」

「だって、関わりないもん」


 窓口で用紙を渡して、報酬を受け取った。

 これから依頼を探すというポーラに、シフが質問をする。


「ポーラは今もヌグさんたちと一緒にやってるの?」

「うん。予定が合わない時は大人数が受けられる護衛業務や、雑用を受けてるの」


 今日も、予定が合わないから一人だという。


「知り合いと一緒に何か受けるつもりなんだけどさ。もし、知り合いが良いっていったら、一緒に受ける?」


 シフの提案で、ポーラが嬉しそうな顔をする。


「いいの?」

「駄目だったら誘わないよ。でも、一緒に行動する奴が嫌がったら次の機会になるけど」

「それでいいよ。シフさんが一緒だと安心出来るから嬉しい」

「じゃあ昼頃に、ここで集合でいい?」


 問題ないというポーラと約束をして、シフは六歌仙の本部から出る。


 昼までにまだ時間はあるので、今のうちと武器屋へと向かう。

 武器屋のある通りまで歩いていくと、武器屋のあたりを伺っている人が何人かいた。


「どうかしましたか?」

「あん? ああ、いつもの親子げんかだよ。あんた客?」


 シフが問いかけると、周りの野次馬が答えてくれる。シフが頷くと、助かったとばかりに押し出された。


「客が入ったらけんかが終わるから、早く行ってやってよ」

「ちょっと、厄介ごとを押しつけようとしてるんじゃないだろうな」


 相手は初対面で年上だが、シフの語調が少し荒くなる。野次馬は大丈夫と言いながら背中を押すので、ため息をついてシフは武器屋へと足を動かす。

 中から言い争いが聞こえてくるので、シフはそっと扉を開けた。


「だから、まだまだ客に出せる状態じゃないと言っとるんだ」

「何よ! 父さんのとそんなに変わらないじゃないの!」


 キイ、と音を立てた扉に、親父とその娘らしい少女の口論が止まる。

 二人が振り向いてシフを見ると、親父はむすっとした顔のまま、少女は笑顔に切り替わって話しかけてきた。


「いらっしゃい。騒がしくて悪いな。おう、グラッセ、奥に行ってろ」

「うるさい店でごめんなさい。ゆっくり見ていってくださいね」


 グラッセと呼ばれた少女が奥に行こうとして、シフの腰元を見て立ち止まる。


「あ、それ」

「これ? 前にここで買った。きみが作った奴かな」


 前に買った時に奥で喜んでいた気配があったのは、この少女だろう。顔付きにそれほど特徴はないが、僅かな火傷が、顔や手にある。火傷を隠す様子はなく、堂々としている。職業柄避けようがないと割り切っているのだろう。


「そう。使ってくれてありがと。あたしのお客さん第一号ですね」

「グラッセ、いいから裏に行ってろ。お客さんの迷惑にならぁ」


 二人で話していると、親父から喝が飛ぶ。

 グラッセは肩をすくめて、裏に行った。親父はシフに向き直って、あらためて質問をする。


「騒がしくて悪かったな。兄ちゃん、久しぶりだな」

「覚えてんの?」

「まあな。そいつ買ってくれたしな。そんで、今日は何の用事だ?」

「剣を買おうかと思って」

「……そいつは、駄目だったか?」


 親父に言われて、シフは言い方がまずかったと気付く。奥の方で息を飲む気配もある。


「いや、そうじゃなくてさ。俺は本来、二刀流なんだよ。金がなくて前は一本だったけど、金を作ったからさ、二本目を買いにきたんだ」


 親父の顔が、ほっとしたように緩む。きつく言い合っていても、親ばかは相変わらずらしい。

 シフは、頑丈さはかなりのものだと褒めて、似たような剣を欲しいと頼む。前回と違い豊富に資金があるので、親父は何本か長さや特長の違う剣をいくつか出してきた。


「こいつが、兄ちゃんの予算で一番良いものだ。特別製の金属に魔法をかけていて、切れ味も良いし耐久性も高い。問題はかなり重いから、長さの割に両手持ちしないと厳しいくらいだ」


 親父の提示した剣は、通常は片手で持つ程度の長さだ。シフが手に持ってみると、確かに他の剣に比べて重い。それでもシフの手には問題なく、片手で振り回しても支障はないだろう。


「重さは問題ない。魔法って、親父がかけたの?」

「そんなわけないだろう。知り合いにかけてもらったんだよ」


 魔法がかかった剣の場合、研ぐ時にも魔法がかかった砥石が必要だそうだ。それも合わせて購入して、飛竜の討伐報酬がほとんど消えてしまった。


「兄ちゃん、えらい羽振りが良いな。何か大物でも討伐したのか?」

「うん、飛竜を狩ったら、結構稼げた」


 シフの言葉に、親父は目を見張る。親父は、あらためてシフが元々持っていた剣に目を向けた。


「その剣、飛竜には通じなかっただろう?」

「飛竜討伐は、別の武器を借りたんだ。ただ、その武器も痛んだのと、持ち主に返したからさ。あらためて自分で用意したいと思ってさ」

「そうか。名のある武器じゃないが、かなりの出来映えだ。しっかり使ってやってくれ」


 親父は重々しく手渡してきた。シフは軽く受け取って、雑談気味に先ほどの喧嘩について質問をする。


「親父、さっきは何の喧嘩だったんだ?」

「お前さんには関係ないんだがな。まあ、いいか。俺の子がな。基本は出来たから装飾も学びたいって言ってんだよ。だが、俺から見たらまだまだ基本すら出来ちゃいねえ。十本に一本、たまたまそれなりのが出来る程度だ。兄ちゃんに売ったそれも、偶然の出来映えだからな」


 親ばかだが、仕事に手は抜かないようだ。当然だが、だからこそシフは安心して武器を買いに来ているのだ。


「まあ、確かにこいつは無骨な感じだからなあ」

「そいつぁ値段相応だから勘弁しろ。装飾なんざなくても、洗練された剣ってのは良い印象になるんだ。今度はもっと、まともに作らせるさ」


 期待してるよと声を残して、シフは武器屋を出る。

 そして昼頃まで時間を潰して、待ち合わせ場所である六歌仙の本部へと足を運んだ。



 シフが本部に到着すると、すでにティナとポーラは中にいた。

 シフはポーラ手招きしながら、ティナに声をかける。


「ティナさん、お待たせ。急で悪いんだけど、もう一人同行してもいいかな?」

「別に構わないよ。その子?」

「良かった、ありがとう。ポーラっていうんだ。こちらはティナ」

「試験の後に会ったわね。よろしく」

「あ、団員証をもらう時、受付にいた方ですね。よろしくお願いします」


 シフはそれぞれ紹介する。二人は挨拶をかわして、得意武器について確認をする。


「ポーラさん、あなたも前衛よね。それなら私は、後衛で弓でも撃つ方が良いかしら」

「そっか。ティナさん後ろからもいけるんだったね」


 ゾイルの持っていた弓の腕を引き継いでいるなら、相当な腕前だろう。


「俺も後ろからスリングで石を飛ばすくらいできるから、臨機応変にいけそうだね」

「ええ。ただ、誰も回復手段はないから、油断しないようにしましょう」


 話しながら、討伐の依頼を調べる。いくつか候補が挙がるものの、これという決め手に欠ける。


「これはどうでしょう」


 ポーラが、一枚の依頼書を抜き出した。

 そこにはイビルアイの討伐依頼と書かれている。


「イビルアイ?」


 シフが首を傾げると、二人は知っていたようで、教えてくれた。


「なるほど、悪くないかもね。シフさん、こいつには攻撃魔法が効かないのよ」

「効かないって、どんな魔法でも?」

「ええ。詳しい理屈は解っていないんだけどね。厳密にはイビルアイの個体差もあるけど、目を開いている間、魔法が中和されるみたいで、魔法が一切発動しないのよ」

「遠くなら大丈夫ですが、それで届かせようとすると魔力をたくさん消耗して、まともに傷を負わせられないんです」


 元々魔法があまり使えず、物理攻撃一辺倒な三人には確かに合っている。


「いいんじゃないか」

「そうね、小さな個体みたいだし、良いんじゃないかしら」


 大きな目玉が空中に浮かんでいるらしい。大きくなると色々な種類の怪光線を飛ばしてくるが、小さいと種類が少なく、触手も少ないそうだ。

 早速依頼を受けると、ケラシーヤやトリに伝言を残して、討伐へと向かった。



 数日離れた場所だったので道中は長く、話をしながら歩を進める。

 ティナは物怖じせず話をしているが、ポーラは少し緊張気味に時々口を挟む程度だ。


「三人だと、夜の見張りが楽だね」

「そう? 結構きついと思うけど」


 シフの言葉に、ティナが首を傾げる。


「つい最近、二人で旅していたから。それに比べたらね」

「ああ、魔竜討伐の時のね」


 え、と声を漏らしてポーラの足が止まる。

 ティナはポーラが唖然とした顔をしているのを見て、自らの口を押さえた。


「あ、まだ内緒だった?」

「いや、いいんだけどね。別に口止めしてなかったし」


 どうせすぐに解るのだから、気にする必要はない。ただ、旅の最中にポーラが萎縮してしまっては大変だ。


「ちょっと事情があって、ケイと一緒に魔竜を討伐してきたんだ。と言っても、俺の役割は前で壁するだけで、ほとんどケイが活躍したんだけどね」

「そうなんだ」


 ポーラがぼそりとつぶやいて、歩きながら考え込んでいる。


「私、ついてきて良かったんでしょうか」


 下手なことを言えば引き返してしまいそうだと思ってシフが返答に困っていると、ティナが気にするでもなく言い放つ。


「良いに決まってるわ。強くなってからお返しすればいいのよ。シフさんが異常なだけで、普通は熟練の傭兵にお世話になりながら学んでいくのよ」


 私もそうだったと追加するティナに、シフが一言。


「異常は酷いんじゃない?」

「飛竜の討伐くらいなら凄いで済むけど、魔竜は話が違う」

「そんなこと言われても」

「シフさんって変わってるわね。強さは異常なのに、態度は偉そうじゃないというか、至って普通っていうか」


 ティナは、首を傾げたシフを見て笑いを堪えながら、ポーラに話しかける。


「だからポーラさんも、ランドールさんの娘だって気負わずに、年上の傭兵に頼ったらいいのよ」

「ティナさん、ご存じだったんですか?」


 ポーラは驚いてティナを見つめる。


「ランドールさんは有名だから。娘さんが、あの日に傭兵団に入るって興奮してたし、女の子はポーラさんだけだったし」

「そうですか。あ、名前、ポーラでいいです」

「私もティナでいいわよ。それでポーラ、あなたがこの依頼を提案したんだから、しっかり最後まで責任を持ちなさい」


 ポーラは悩んだ様子だったが、責任という言葉に強く頷いた。


「ティナ、ちゃんと先輩だね」

「何それ。そんなに頼りなさそう?」


 シフの言葉に、ティナは馬鹿にされたと思ったのか、眉をひそめる。

 解りやすいティナの態度に、シフは小さく謝った。


「何となく、ティナは勢いよく物事にあたって、考えるのが苦手な気がしてただけ」

「失礼ね。色々と考えてるわよ」


 雑談をしながら親睦を深めるうちに、シフとティナも敬称を付けずに呼ぶようになった。しかし、ポーラはシフさんと呼び続けている。


「ポーラ、気にしなくて呼び捨てでいいんだけど」

「でも、もうシフさんって言い慣れたし、その方が言いやすいので」

「そう? ならいいけど」


 呼びやすいように呼んでもらえたらいい、とシフは引き下がる。

 ティナは二人の様子を見ながら、小さくつぶやいた。


「んー。微妙な感じか」

「ティナ、何か言った?」

「何でもない。よく聞こえたね。耳も良いんだ?」


 シフが聞き直すと、ティナは驚いた顔になる。

 昔から耳が良かったと言えば、ティナは笑いながら勝負を挑んできた。


「私も猫だからか、耳は良いのよ。今度、どっちが上か勝負しましょうか」

「ティナって負けず嫌い? 勝負はいいけど、恨みっこなしだよ」


 そんな会話を弾ませながら、目的地へと向かう。

 目的地への途中に目立った町はなく、数日野宿を繰り返して、目的の洞窟へと到着した。


「ここ?」


 自然に出来た洞窟の前で、ティナがポーラに聞いている。ポーラは地図の位置を確認して頷く。

 シフはヌグやケラシーヤに教えてもらって簡単な魔法を使えるようになっているので、魔法の灯りを剣の先に灯す。


「念のため、たいまつも用意しておいて」


 魔法だけだと、効果が消失する場所があれば真っ暗になってしまう。シフはある程度夜目も利くが、他の二人はそうもいかないだろう。

 ティナがたいまつを用意して、自ら手に持つ。


「さあ、行きましょう」


 ティナの言葉で、シフを先頭にゆっくりと歩を進める。

 シフは自然の洞窟としておかしな点がないかを調べながら歩く。


「シフさん、洞窟の探索も慣れてますね」

「昔、ちょっとね」


 シフはゲームの時を思い出しながらポーラに答えると、ティナが首を傾げる。


「昔? シフ、六歌仙に入る前も何かやってたの?」

「まあ、そんなところ」


 あまり雑談を続けるわけにもいかないためか、納得できない様子ながらも、ティナは追求せずに流してくれた。

 途中、吸血こうもりや毒のある蛇、スライムのような粘液状の魔物が襲ってくるが、三人とも危なげなく退治していく。


「ポーラ、自信なさそうだったけど、充分に強いじゃないの」

「ティナほどじゃないですよ。今はまだ未熟だけど、剣の腕は父に仕込まれたので一番がんばれる分野なの」


 ティナの言葉通り、ポーラの立ち回りは力が足りない分を補って余りあるものだった。思えば、動きが少し鈍っていたとはいえ、オーガ相手に一人で堪えていたのだ。

 そしてそれ以上に、ティナの実力が高い。


「ティナ、この暗さで弓がそれだけ精密っていうのは凄いね」

「まあねー。万能型とでも言ってちょうだい」

「確かにティナは万能ね。シフさんも遠距離でもスリングの威力凄いし。私も弓は使うけど、最低限の技術しか学んでないわ」


 二人の会話を聞きながら周りに意識を向けていたシフは、進行方向に浮かぶ丸い塊を見つけた。


「なあ。あれってイビルアイ?」


 シフの言葉に、二人が目をこらす。しかし、遠いせいか解らないようだ。イビルアイ自体も後ろを向いており、シフたちに気付いていない。

 三人は灯りを消して、ゆっくりと近付く。


「俺が先行するから、ポーラは怪光線に気を付けながら付いてきて。ティナは初めは後ろから弓での援護をよろしく」


 シフの言葉に二人が頷いたのを確認してから、シフが走り出す。

 走る音で気が付いたのか、イビルアイがシフへと向き直る。身体全体が目玉の化け物で、非常に醜悪な見た目をしている。

 シフは伸ばしてくる触手を斬り払いながら、目玉を斬りつけた。

 予想と違い、金属質の音を立てて剣がはじかれる。


「あれ?」


 首を傾げたシフに、ティナから注意が飛ぶ。


「シフ! その武器、魔法がかかってない? だとすれば、それも無効化されるから、別の武器で攻撃して!」


 厄介な相手だとシフは顔をしかめる。元々持っていた剣で斬りつけるが、そもそも切れ味が悪いので、目玉がへこみはするものの、斬った感触はない。


「俺の武器だと、相性が悪いかも。時間をかければ倒せるけど。俺が囮をやるから、ポーラに任せていい?」

「ええ、じゃあ試してみる」


 シフの言葉で、ポーラがイビルアイへと斬りかかる。襲いかかる触手をシフが斬ってポーラが食らわないよう注意をする。

 イビルアイはポーラの攻撃でようやく目玉が切れて、体液を薄く滲ませた。それと同時に、ティナからの矢が飛んで、イビルアイの目玉、ちょうど切れた場所に刺さる。

 イビルアイは金切り声を上げつつ目から何かの怪光線を飛ばしてきた。ポーラが避けられそうにないと見て取ったシフは、ポーラを突き飛ばして自らも横に飛ぶ。

 小さく悲鳴を上げるポーラに目を向けると、怪光線は避けたが、そのまま触手に巻き付かれてしまったようだ。

 シフは舌打ちを漏らしつつ、ポーラに巻かれた触手を斬るために近付く。


「くぅっ……んっ」


 ポーラは触手に振り回されていて、シフは触手だけを斬るのに手間取って解放が難しい状態だ。

 シフはゲームの頃に比べて格段に力が上がった反面、微調整が難しく、ポーラごと斬ってしまわないよう注意しなければならない。


「くそ、本体を潰す方が早いか?」


 ポーラは肩口から胸元を手ごと巻き付かれていて、腹部や足も自由が利かない状態になっている。かなり苦しそうに喘いでおり、あまり猶予はなさそうだ。


「シフ、攻守交代。本体の牽制しておいて」


 ティナが駆けつけてきて、ポーラの身体に巻き付かれた触手を手から伸ばした爪で斬りつける。自らに飛んできた触手をしゃがんだり横に身体をずらして避けて、危なげなく立ち回りながら、ポーラに巻かれた触手をすべて取り除いた。


「大丈夫?」


 荒く息を吐くポーラが頷いたのを見て、ティナはイビルアイへと向き直る。

 その間、シフは手にした剣を叩きつけるが、あまり効果は出ていない。イビルアイは刃物に弱いが、鈍器には強いようだ。シフの剣は、形状こそ剣だが、実質鈍器に近い。


「変に弾力があるせいで、俺の攻撃があまり意味ないな。くそ、槍でも持ってくるんだった」


 ぼやきながら攻撃を続けていると、ティナも戦線に加わった。

 シフほどではないが、ティナの身のこなしは素晴らしく、触手は当然、怪光線も危なげなく避ける。そして爪で何度も目玉を斬り続けて、やがてイビルアイは地に伏せた。


「ようやく退治か。丈夫だったな、こいつ」

「そうね。うわ、べとべと。気持ち悪い」


 ティナの言葉にシフが目を向けると、ティナはイビルアイの体液が付いた腕を振ったり、爪を壁で砥いだりし始めた。

 シフは息が整ってきたポーラに声をかける。


「ポーラ、大丈夫?」

「うん。ありがとう。シフさんもだけど、ティナも凄いわね。結局、足手まといになってしまって、ごめんなさい」


 がっかりと落ち込んでいるポーラに、ティナは荷物から布巾を出しながら軽い様子で言った。


「そんな細かいこと気にしないの。帰ろうとしたのを、私が無理矢理連れてきたようなものだから。思ったよりも大きい個体だったしね。最近、情報との違いが気になるわね」


 ティナの言葉に、シフは眉をひそめる。ゲオルギオスが聖竜から魔竜になった影響が出ているのかもしれない。

 魔竜と会話をしたとは言えないので、シフは適当に相槌を打つ。


「帰ったら、少し内勤の人に聞いてみるわ。他から苦情が出てるかもしれないし。命に関わるし、適当に済ませられる内容じゃないし」

「うん、お願いするね。じゃあ、さっさと帰ろう」


 シフは今回はあまり役に立たなかった魔法のかかった剣で、イビルアイの解体を行う。死ぬと魔法への抵抗も消えて、サクサクと切り刻める。

 作業を終えて洞窟を出る。


「ちょっと離れているけど、川があったわよね。手、洗いたいから、寄り道していい?」


 拭いても取れないと言って爪を出したままにしているティナの要望にシフもポーラも反論はない。

 三人は足取り軽く、ティナが先頭で帰路についた。

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