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百年遅れの英雄譚  作者: すっとこどっこい
第二章 少年時代(魔竜討伐編)
19/49

出発までの日々 その1

 ケラシーヤと別れた後、買い物に出かけたシフは、剣を求めて武器屋を探す。

 予算は少ないので、立派な構えの店ではなくこじんまりとした店に入った。

 朝も早い時間だからか、シフの他に客の姿はない。


「親父、丈夫な剣ちょうだい」

「丈夫な剣? 予算は?」


 シフが財布の中身を伝えると、いくつか並べている見栄えの良い剣ではなく、奥から無骨な剣を持ってきた。


「そうだな、この辺か」

「これ? 見た目はともかく、相当良い出来だと思うんだけど」


 出された剣は素材が良いのか綺麗な焼きが入っていて、かなり頑丈そうだ。

 暗に予算に見合わないと伝えると、良い出来だという部分だけ受け取ったのか、照れたような顔になる。

 壮年の男が照れていても、可愛げも何もない。シフは気持ち悪そうに一歩下がった。


「こいつはな、俺の子が習作で作った鋼製の剣なんだ。ただの鉄より丈夫だが、お前さんの言う通り、見た目がな。普通は売り物にならんが、見た目や切れ味じゃなく丈夫さを優先する奴なら、買ってくれるかと思ったんだよ」


 安いには安いなりの理由があるらしい。とはいえ、武器としての出来は充分に見える。

 ついでに店の奥で、息を潜める気配もする。


「俺の予算で買えるなら問題ないよ。それ貰うわ」


 厳めしい顔付きの店主も子どもが絡むと単なる親ばかになるらしい。シフは苦笑を漏らして、購入を決める。

 それと同時に、奥で喜ぶ気配がある。きっと作った本人だろう。


「おう、毎度。砥石も付けとくから、今後もごひいきに」

「こちらこそ。何かあったらまた来るよ」


 本日の主要な目的が完了したシフは、店を出てから行き先に悩む。

 考えた末、明日から行う依頼の見当をつけようと思い、傭兵団の本部へ向かった。



 傭兵団の建物に入ると、中にはたくさんの人がいた。人だかりがいくつかあるので、有名な人がいるのかもしれない。

 シフはそちらには興味を示さず、いくつかある紙束から、至急ではなく近場で難易度が低いものを手に取る。

 ばさばさと紙をめくっていくと、気になる依頼が引っかかった。


「あ、これ楽そう」


 目に付いたのは学者が出している研究の手伝いだった。

 町の外で行う必要があるらしく、護衛を兼ねて雑用を行ってほしいという内容だ。

 それほど離れるわけではないので、危険な魔物も少ない。

 明日、あらためて依頼を受けるつもりで紙束を棚に戻すと、横から声がかかった。


「きみ、依頼受けないの?」


 振り向くと、高価そうな水晶の付いた杖を持った二十前後の女性が、不思議そうに首を傾げていた。

 あまり見ない薄めの青い髪を長く背中まで伸ばしており、美人とは違うが愛嬌のある顔立ちをしている。革の鎧を着込んで、白い外套を羽織っていて、青い髪と似合っている。

 ちらりと目を向けると、鎧の曲線は極めて緩やかで、主張が少ない身体付きだ。


「ええ、俺まだ団員証をもらってないので。明日もらうから、それから受けようかなって思ってます」

「そかそか。しかし地味な依頼を見てるね」


 棚に戻した依頼書の束を手に取って、流し見をしながらつぶやく。

 馬鹿にしたような言い方に、シフも苛立ちを抑えられずに言い返す。


「何か問題ありますか?」

「いや、そういうわけじゃないけど」


 流してから、ん? と女性が考え込む。


「ああ、ごめん。ちょっと嫌味っぽかったね。そういうつもりじゃなかったんだ。きみ、剣士?」

「見ての通りです」


 腰の剣を見ながら質問してきた女性に、ぶっきらぼうに告げる。


「怒らない、怒らない。きみの剣士としての実力は知らないけれど、進む道間違ってないかな。きみ、自分で魔力あるの解ってる?」


 解ってないならもったいない、と続ける女性に驚いたシフは、少し真面目に返答する。


「ええ、調べてもらったので、それなりの魔力があるって聞きました。でも、小さい頃から剣を振ってきたし、その方が慣れてるので、魔法は補助で使う程度の予定です」

「そっか。魔法使いになれば、稀代のとは言わないまでも、私くらいなら抜いていきそうだからね。まあ、後悔しないならそれでいいよ」


 周りがざわざわとしているので目を向けると、シフと女性が、凄く注目を集めていた。

 何事かと動揺するシフに、女性が名前を告げた。


「ああ、名乗ってなかった。私はカルネ。いつか機会があれば、ご一緒しましょう」

「あ、はい。よろしくお願いします。俺はシフ。まだ新米ですが、精進します」


 周りのざわめきが大きくなる。カルネが去った後、シフは周りに取り囲まれた。


「お前、カルネさんと知り合いなのか?」

「カルネさんに誘われるなんて、羨ましいわ」

「カルネさんの……」


 どうやら、相当な有名人だったらしい。魔力に釣られてシフに話しかけたようだが、有名人ならもう少し影響力を気にしてほしい。

 聞くとカルネは知識量が凄く、どんな魔物と戦っていても指揮が的確らしい。

 それを聞いて、ゲームでいうところのウィザードかとあたりを付けた。ウィザードは、指揮によって全体の能力向上や、攻撃にしろ補助にしろ範囲化や属性変換など、多彩さが売りだ。

 特化型で弱点があるより、実際の命をやり取りする傭兵稼業には向いている気がする。


「いきなり話しかけられて、俺も寝耳に水だから」


 追求をかわしつつ、目的は済んでいるので逃げるように建物から出る。

 追いかけてくるほど暇な人はいないようだ。精神的に疲れたシフは、昼を少し回ったくらいの時間だったが、宿に戻ってゆっくりと過ごした。

 夜は再びトリのところに顔を出して、一緒に晩ご飯を食べる。その時に魔竜退治は伏せて、また長めの旅に出るかもとだけ伝える。


「そっか。兄貴も稼がないといけないもんな。でも、出来るだけ早く帰ってきてくれよ」

「おう。さっさと終わらせて、すぐに戻ってくるよ」

「でも兄貴、行く先々で女作ったりすんなよ」

「ええ? そんなのしねえよ」


 どうだか、とトリは胡乱な目つきでシフを見る。ゼロでもあるまいし、シフはそれほど女好きの気配を出した覚えはない。

 妙な誤解は解いておく必要があると判断して、シフはトリに言い聞かせる。


「あのな。俺は別に女好きでもないし、そんな無責任な真似はしねえよ」

「解ってるけどさ。ケラシーヤの姉ちゃんも、初対面なのに一発で落としたじゃんか」


 あれは違うとシフは頭を抱える。違うのだが、説明ができないのがもどかしい。


「あれは特別。どう特別かはともかく」


 説明にもなっていない、苦しい言い訳を口にする。


「いや、別に責めてるわけじゃないし、兄貴くらい甲斐性があれば二人や三人養えるだろうし」

「そういう問題ではなく」

「ん? 他に何か問題があんの?」

「俺もそうだけどさ、自分が相手にとっての一番じゃなきゃ嫌じゃねえ?」


 シフの言葉に得心がいったと、トリが頷く。


「ああ、それは解る。でも兄貴からそんな言葉が出るとは思わなかったな」

「なんでだよ」

「兄貴にとって一番は誰?」

「そりゃ……別にいいだろ」


 シフの頭にケラシーヤが浮かんだが、トリに言うのは照れくさい。先ほどの流れを考えても、機嫌を損ねる可能性もある。


「そういう時は、嘘でもお前が一番だっていうもんだぜ。兄貴、やっぱり適当に女作んのは向いてねえな」


 くくっと笑いをこらえながら言い放ったトリに、シフはがっくりとうなだれる。


「別にいいよ、向いてなくて」


 無駄話に花を咲かせながら食事を済ませて、トリを送り届けてから宿に戻った。



 翌日、シフは朝一番で団員証をもらいに六歌仙の本部へと足を運んだ。二階に上がり受付に行くと、少し待つよう言われる。

 素直に座って待っていると、ヌグたち二人組にポーラも姿を現した。

 挨拶をかわして、それぞれ呼ばれて団員証を受け取る。

 木で作られた分厚い団員証には、受付番号と名前、年齢と性別など、最低限の情報が彫られている。年度ごとに更新で、年齢を彫り直すため少しずつ薄くなっていき、五年で新しい団員証を再発行するらしい。

 団員証を無くすと、小言と罰金がかかるので注意が必要とのことだった。


「あれ、シフさん番号が……」


 ポーラがちらりとシフの団員証を見て、驚きの声を上げる。

 ポーラとヌグたちの団員証は、六桁の数字で連番になっている。対してシフの団員証は一桁で「六」とだけ書かれていた。


「間違い? あれ?」

「いや、これでいい」


 昨日は変な注目を浴びて辟易としたが、団員証が「六」で注目を浴びるのは昨日とはまるで意味が違う。

 注目されようがどうなろうが、受け止める覚悟がシフにはある。


「でも六って。父さんに聞いたことあるわ。最初期の人たちが一から五で、次の人たちは七から始まったって。六は傭兵団の名前に使われているから飛ばしたんだろうって噂だったのに」


 ありえないと言うポーラ。

 理由を聞きたそうにしているのはポーラだけではなく、ヌグたち二人に受付の少女も聞き耳を立てていた。


「悪いけど、理由は言えない」

「あら、言ってもいいんじゃない?」


 シフが告げると、横やりが入った。


「ケイ?」

「え? ケラシーヤ様?」


 おはよう、と気軽に周りに挨拶をしながら、ケラシーヤはシフの元へとやってきた。


「シフくんおはよう。朝からお疲れ様」

「うん。おはよう。団員証の番号、ありがとう」

「ふふふ、当然。って言っても、本当は永久欠番だと思っていたんだけどね」


 シフとケラシーヤが軽口を叩いている間、周りは沈黙している。


「あの、ケラシーヤ様」


 一番早く立て直したのが、受付の少女だった。


「ん、何かしらティナちゃん」

「差し支えなければ、その理由っていうのを……」

「番号は私の個人的な贔屓って思ってもらっていいわ。元々、シフくんのために空けていた番号なのよ」

「……未来予知? そういうのを出来る人がいるって、どこかで聞いた覚えがあります」


 ヌグが緊張しながら口を挟む。ケラシーヤは笑いながら否定する。


「そういうのとはちょっと違うけれど、まあそんなものと思ってもらって結構よ」

「端的に言うと、生まれ変わりって奴なんだよ」


 ケラシーヤの言葉を受けて、シフが理由を伝えた。ヌグを含めて、全員が呆気に取られた顔になる。


「ケイ、信じてもらえてないみたいなんだけど」

「そりゃそうよ。あなた、いきなり雑誌の投稿欄に『ムー大陸の白の戦士ムスペルです。赤の戦士も一緒です。黄と青を探してます』とか書かれていて信じる?」

「例えが酷すぎる……」


 それぞれシフの言葉を信じたかどうかはともかく、シフとケラシーヤが仲良さそうに言葉をかわしているのを見て、思い思いに納得する。


「そういえば、ちゃんと紹介してなかったわね。この子はティナちゃん。ワイルドキャットの血を四分の一くらい引いてるの。耳ふわふわで気持ちいいわよ」


 言いながら、ケラシーヤが耳を触る。ひゃうっと可愛らしい悲鳴を上げるが、ティナは我慢している。ほらほらとケラシーヤは触るように促すが、シフは断固として拒否した。


「ケイ、その辺にしておいてやれよ。でもそっか。ゲームじゃないから、感覚があるんだな」


 サクヤが耳に感覚がないと言っていたのを思い出して、シフは懐かしさに目を細める。

 朝一番で顔を出すのを見越していたようで、話が済んだとばかりにケラシーヤはシフをからかうだけからかって、部屋に戻っていった。

 ケラシーヤの姿が完全に見えなくなってから、おずおずとポーラがシフへと話しかけてくる。


「えっと、シフさん。私たち、一緒に何か依頼を受けようかって話をしていたんですけど、シフさんはどうしますか?」

「あー、俺は楽そうなの一個やって、ちょっと別のを受けるつもり。っていうか、なんで敬語?」

「いや、シフさん試験の時も強かったですし、ケラシーヤ様と愛称で呼び合うほどですし」


 恐縮した様子のポーラにシフは困ったような笑顔を見せた。


「別に俺が偉いわけでも、何を成したわけでもないんだからさ。これまで通り、普通に接してよ」


 でも、と抵抗をしていたポーラの横から、ガドンが笑ってシフの肩を叩いた。


「そりゃそうだな。シフはシフ。まあちょっと強すぎるのだけが癪だが、それもそのうち追いついてやるさ」

「へへ。俺もまだまだ成長期ですから、今のうちに修練を積んで、もっと強くなりますよ」


 こういうところは年の功と言うのだろうか、ガドンの陽気な口調で、どことなく重苦しかった雰囲気が払拭された。

 そのまま四人で一階に下りて、それぞれ目星を付けた依頼を受ける。


「あれ、そんな依頼なんだ」

「うん。楽そうだし、学者の話って面白そう」


 拍子抜け、というポーラが手にした依頼は、魔物退治のものだった。


「三人とも強いから大丈夫だと思うけど、無理しないでね」

「おう。任せとけ」


 受付で依頼書と団員証を渡して、管理伝票を受け取った。

 初依頼なので合わせて説明を受ける。伝票が依頼主に対する証書になり、完了時に受領書にもなるとのことだった。


 なお、あくまで傭兵団なので雑務は少なく、魔物退治や護衛がほとんどだが、稀に常連の客は雑務を依頼してくることもあるらしい。そういう仕事は信頼のおける団員に、無理を言って割り振るのだそうだ。

 ある意味で、雑務を割り振られるほど傭兵団内での信頼を得ているという証になるので、割り振られた方も喜んで受けるのだと聞かされる。


「へえ、良くできてるね」

「そうだね。普通は、面倒な雑務は押し付け合いになるんだけどね。前のところもそうだったよ。それに、こうやって新人の時に言っておけば、割り振った時に喜んで受けるだろうしね」


 一緒に聞いていたヌグが感心したように補足する。

 建物を出たところで、ヌグたちと別れて、シフは依頼主である学者の家へと向かった。



「こんにちは。依頼を受けてきた六歌仙の者なんですが」


 学者の建物は大通りから少し離れた閑静な地区に立っており、周りと比べてもかなりの規模だ。

 出てきた侍女に伝えて、依頼主に取り次いでもらう。応接室に通されて少し待つと、家の主が姿を現した。


「ふん。君が依頼を受けたのか。残念だ。可愛い子だったら良かったのに」

「えっと。可愛い子じゃなくてすみません。シフといいます」

「ふん。シフ? ただのシフ? せめて貴族か何かなら対応に期待が持てようものだが、所詮は傭兵か」


 なんだこいつとシフは内心の苛立ちを抑えて、笑顔を浮かべる。


「それは大変失礼致しました、ゴーフェル卿。早速で恐縮ですが、研究で町の外に出るとの内容でしたが、具体的な目的地はございますか?」


 急に丁寧な口調で応対を始めたシフに目を白黒させながら、学者が偉そうに頷いた。


「う、うむ。近くにある湖まで行こうと思う。どうしても夜の作業が必要でな。極めて遺憾であるが、手っ取り早く動けるということで、傭兵に依頼することになった」

「承知致しました。それで、すぐに出発でよろしゅうございますか?」

「ふん。取り繕ったところで、所詮は傭兵か。すぐに出発など、出来るはずがなかろう」


 依頼書を確認すると、訪問日時は不問、即日対応とある。

 だが、それを指摘する前に、ゴーフェル卿が付け足した。


「用があるのは夜なのだから、三時間後くらいに出れば充分に間に合う。正門のところで落ち合おう。ふん。傭兵と一緒に町中を歩くなど、虫酸が走るわ」


 シフは、じゃあ頼むなよという言葉を飲み込む。


「かしこまりました。では三時間後に、正門で」


 ゴーフェル卿が去っていき、シフが屋敷を出る時、はじめに応対してくれた侍女が頭を下げてきた。


「あの、主の不遜な態度、大変失礼しました」

「いえ、とんでもない。お気遣いありがとうございます」


 恐縮しきりの侍女に笑顔で別れて、町中へと戻っていった。


「色々と話ができると思ったのに、くだらない依頼受けちゃったな」


 食料を買い込んだりと三時間ほど時間を潰して、シフは正門へと足を向けた。

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