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百年遅れの英雄譚  作者: すっとこどっこい
第二章 少年時代(魔竜討伐編)
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魔力測定

 昼食後、シフはケラシーヤに連れられて二階にある実験室へ入る。

 ケラシーヤ曰く、色々と調べるのに使うらしい。部屋の壁が全て白い石で覆われていて、荷物も棚も置かれていないため遠近感もおかしくなりそうだ。


「ここで?」

「ええ。その辺に座って」


 その辺と地面を指して言いながら、ケラシーヤは持ってきた粉を撒いて、シフを中心に魔方陣を書いていく。

 円と直線、数字。何やら意味があるのは間違いないが、何をしているのかシフにはさっぱりと解らない。黙ってみているのも暇だが、話しかけて良いのかも解らない。

 しばらく待っていると、粉を撒くのをやめて顔を上げた。


「できたわ」

「ケイ、これ何?」

「見ての通りの魔方陣。解りやすく言うと、これからの検査で魔力が外に漏れないようにするものね」

「漏れちゃまずいの?」

「もう、さっき言ったじゃないの。もし私と同等かそれ以上の魔力だったら? 大変なことになるわよ。普通は気付かないけれど魔力に敏感な者なら可能性はあるもの」


 言いながら、ケラシーヤも陣の中心に足を運ぶ。

 微妙に狭いため、あぐらをかいたシフの足に、正座をしたケラシーヤの足が当たる。ほとんど密着しているような状態だ。


「なあ、こんな近づかなきゃ駄目なのか?」


 さすがに照れくさくて、シフが苦言を口にするも、ケラシーヤは平気な顔で頷く。


「これ以上魔方陣が大きいと、制御が大変なのよ。私に触れられるの嫌?」

「や、そういうわけじゃないけど」

「なら、しばらく我慢なさいな」


 ケラシーヤに手を上げるように指示されて、ケラシーヤはシフの指を絡めるように両手とも握り込んだ。足も接触するほど近く、客観的には抱き合っているようにも見える。ケラシーヤの端正な顔が目の前にあって、少し視線を下げると、豊かな胸も目に入る。

 シフが視線を外そうとするよりも早く、すぐにケラシーヤの手が温かくなっていく。戸惑って手を離そうとするシフに、ケラシーヤから注意が入る。


「こら、離そうとしないの。解りやすく言うと、温度差が魔力差ね。今の状態だとシフくん、私の百分の一もないから、並の人間ってところね。何か魔力を込める訓練とか、これまでしてこなかったの?」

「ああ、教えてくれる人もいなかったし、全然してねえ」


 ケラシーヤはいったん魔力を込めるのを止めたのか、手が正常な温度に戻る。


「そう。なら、簡単な魔法を覚えてみましょうか。目を閉じて、深呼吸して」


 ケラシーヤに言われて目を閉じて、深呼吸を始める。何度か深呼吸していくと、続いての指示が入る。


「はい、じゃあ真っ暗闇の中に、太陽の光を想像して……」


 太陽。あまり直接見たりはしないが、存在感は桁違いだ。そういえば地球でもこの世界でも太陽光に違いは感じられない。物理法則が違うと言われているが、どうなっているのだろうか。


「余分な思考は排除して。光っているところだけを想像しなさい」


 なぜか、シフのくだらない考えが読まれた。あらためて暗闇の中に太陽光を想像する。


「はい、間違わないように復唱して、『マジック・キャンドル』」


 シフは言われた言葉を復唱する。魔法専門の言語らしく、復唱したものの言葉の意味は解っていない。

 だが、ぽっと明かりが灯ったような感触がある。目を開けるとシフとケラシーヤの間に、しっかりと小さな光が浮かんでいた。太陽よりも目に優しく、見ていても痛くない。


「おお、魔法だ。成功した」

「それが一番簡単で、勉強にも使われる明かりの魔法ね。ん、じゃあもう一度、魔力を調べてみましょうか」


 組んだままの手に力を込めて、再び温かくなる。しかし今度はシフの手も温かくなっているようで、先ほどより少しだけだが常温に近い気がする。


「んー。こんなものか。子竜って、魔力低いのかしらね」

「全然解んねえよ。結局、俺の魔力はどんなもんだよ?」

「まあまあ、ね。私の十分の一もないくらい。まあ、それでも並の魔法使い以上はあるんじゃないかしら。そこまで警戒するほどじゃなかったわね」


 声を立てて笑うケラシーヤに、シフは乱暴に手を離す。


「俺は前に立って戦いたいから、魔力は低くてもいいけどよ。でもケイ、あんた百年前のリラーだった頃と随分印象が変わったな」


 会ってから妙に絡んでくるし密着してくるし、手を握るような接触なんて前はバーチャルですら誰ともしていなかったはずだ。


「百年あって、色々と経験してきましたから。シフくんは、実質十五才までの七、八年くらいよね。そりゃ経験値も違うわ」

「経験値ねぇ」


 シフは自分が知らないケラシーヤの百年が面白くないのか、それとも他の何かが気になるのかよく解らないが、ともかくケラシーヤの変化は好ましくない。

 とはいえ、本人には間違いないし、直接文句を言うつもりはない。


「まあいいか。そんで、魔力は普通ってことだろ。じゃあ俺はやっぱり近距離戦でやっていくよ」

「そうね、それがいいわね。隠し技とはいえ、少しやったら中級くらいはすぐにいけると思うけど、どうせなら戦士の技と都合が良い系統がいいわね」

「剣士と都合が良いっていうと?」

「例えば自分の身体能力を高めたり、相手の動きに制限を加えたりね。普通は魔力が少なすぎて、戦士が使っても相手の制限なんてかけられるものじゃないけれど、シフくんが戦士相手に使うなら充分に効果を発揮するんじゃないかしら」


 ケラシーヤの説明に、シフは納得して頷く。正直なところ、攻撃魔法で相手を倒す暇で、剣で斬る方が早い。剣が効かないような魔物が出た時は、相方がいるならそちらに任せれば良い。


「ああ、そういう意味ね。解ったよ」

「精霊も戦士とは相性が良いんだけどね。ある程度勝手に動いてくれるし、詠唱は極めて短いし」

「精霊魔法って、魔力だけの問題?」

「精霊と契約も必要ね。属性ごとに契約で、餌は魔力だけど勝手に取っていくから、普段は何も意識する必要はないわ。楽なものよ。与える魔力が大きければ大きいほど、無茶にも応じてくれるし上位精霊も相手してくれるわ」


 シフは軽く使えたら充分なので、そこまで大きな話にするつもりはない。魔法の話は切り上げて、今後の話に変える。


「ケイというか、六歌仙の奴らと冒険できないんだよな。俺、何しようかな」

「あら。私と一緒に仕事してくれるんじゃないの?」


 ケラシーヤが少し拗ねたような声を出した。見た目に合わず、シフは少し笑ってしまう。


「そりゃ一緒に仕事したいけど、ケイって傭兵団の最上位だろう?」

「団長じゃないから、ちょっと違うけどね。それはともかく、ちゃんと入団試験を受けてちょうだい。受かったら、大抜擢してあげるから」

「いいのか、それ。職権乱用じゃねえ?」

「いいのよ。乱用していいくらいには、実績を積んでるから。それに転生者を大抜擢するのは初めてでもないし。ああ、転生ってのは秘密でね。もし誰かに何か言われたら、なぜか波長が合うとでも言っておいて」


 解ったと言いつつ、ケラシーヤが片付けるのを手伝う。部屋に散らした粉を掃いて集めて回収し、残った僅かな残骸はケラシーヤが燃やして消してしまった。


「数日は適当にやってちょうだい。入団試験、頑張って」

「あいよ。あ、ケイ。受かった後はよろしく」

「受かるのが決まったような物言いね。一応、試験は公正に行うのよ」

「解ってるけど、ただの入団試験だろ? 落ちる気がしねえよ」


 シフが自信満々に言うと、ケラシーヤもそれはそうかと頷く。


「そんなに離れられないけれど、一緒に色々と依頼を受けていきましょう。シフくんが慣れてきたら遠出してもいいし」

「おう。俺が前衛で、ケイが後衛か。数が多いとどうしようもないけど、相手の数が少なければ二人で充分だしな」

「多いなら多いで、全体魔法なり壁を作るなり、対処するわよ」


 それくらいできなければ、六歌仙の頂点に立っていられないらしい。それからしばらく、未来の話に花を咲かせた。



「長くなったけど、じゃあまた、受かった後に」

「ええ。気をつけて。私も色々と準備しておくわ」


 最後にあらためて手をたたき合って、シフはケラシーヤと別れた。

 そしてシフは傭兵団の建物を出て、先にトリが戻っているはずの宿屋へと足を向ける。


「ただいま、っと」

「おう兄貴、おかえり」


 すでにトリは戻っており、寝台に寝転んで顔をしかめながら何やら読んでいた。


「何だそれ」


 シフがちらりと見れば、どうやら子ども向けの絵本らしい。絵が大きく載せられてあり、一枚に僅かな文字が書かれている程度だ。


「読めんのか?」

「読めないけど、話は知ってる。だから場面ごとに、こういった内容だろってのは解る」


 横からシフが覗いていると、トリがむくりと起き上がった。


「兄貴」

「なんだ、あらたまって?」

「しばらく、この町で生活するんだよな?」


 トリの質問に頷くと、勢い込んで話し出す。


「傭兵団でさ。住み込みでいいって言われたんだ。宿なんかに泊まってりゃ、金がいくらあっても足りねえしよ。それは願ったりなんだが、どうしても住み込みで働いたら、勝手に出て行くわけにはいかねえ」

「そりゃそうだ。そんな礼儀知らずな行動は駄目だぞ」

「解ってるよ。それで、それでだ。兄貴はいつまで、この町で過ごすつもりなんだ?」

「んー? 目的地がここだからなあ。ケイに会って、思いの外簡単に意思疎通もできたから良かったけどな。考えてないけど、しばらくは住むぜ」


 トリは座ったまま、ぎゅっとシフの服を掴む。


「あのさ。もしまた旅に出るんならさ、その前に教えろよ。もしここで働き始めてるから大丈夫だって勝手に思って、置いて行ったりなんかしたら、絶対に許さないからな」


 言葉こそ乱暴でわがままだが、顔付きはまるで、親に見放された幼子のようだ。安心させるために頭を撫でて、シフは思いを口にする。


「少なくとも、数年は拠点にするさ。数年もしたら、お前も一人前になるだろうな。そうなったら、一緒に傭兵団の仕事してもいいかもな。まあ、雑用で入って仕事を斡旋してもらうよう、あらためて登録するってなると、色々と大変かもしれんが」


 シフの提案で、目に見えてトリの機嫌が良くなる。


「おう。へへへ、そうか。兄貴の横で一緒に戦うってのも楽しそうだな」

「俺の横に並ぶのは簡単じゃないぜ」

「解ってるよ。でも、目指すのは勝手だろ」


 どうやらトリにも身近な目標ができたようだ。目標を持って六歌仙で働いていくなら、間違った方向には進まないだろう。シフも旅をしていて感じたのだが、トリの性根は悪いものではないのだ。

 シフはどことなく感じていた肩の荷が下りたように思えた。負担だったわけではないが、人の命を預かって旅をするのは気を使う。ましてや、相手はまだ未成年の子どもなのだ。


「無理はしないようにな。特に戦うなんて、できるだけ避ける方がいいんだ。中途半端に強くなったら慢心しやすいし、死んだら終わりなんだからな」

「解ってるよ。それにまずは下働きだからな。水汲みでも雑用でも何でもやるさ」

「ならいいんだ。まあ、頑張れよ」



 そして夜が明けて、トリの初出勤の日となった。

 トリが行くのに合わせて、シフも付き添いで傭兵団の建物に向かう。


「何で兄貴も来るんだ?」

「いや、なんとなくな」

「過保護だな」


 トリにはシフが心配しているのがお見通しのようで、肩をすくめられる。でも付いてくるなとは言われないし、反抗期ではないようだ。

 そしてトリは言われた通り裏の通用口に行き、名前を告げると話が通っていたようで、中に入れられた。シフが外で様子を窺っていると、挨拶と仕事の内容について、説明が始まった。


「大丈夫そうだな」

「そのようですね」

「うわっ?」


 安心して独り言をつぶやくと、横から男の声が聞こえた。シフが驚いて振り向くと、ゼロが向かってきている。中の様子に意識を向けていて他がおろそかになってしまったので、向かってきているゼロに気付かなかったのだ。


「おはようございます、シフ殿。下働きの子も、働いている人に説明は済んでいるので問題ありませんよ」

「おはようございます、ゼロさん」


 シフは呼ぶ際の敬称に困ったが、まだ未加入だし相手の地位も解らないし、無難な呼び方でごまかす。ゼロは一切気にした風もなく、朝食の誘いをしてくる。


「まだでしたら、朝食はいかがです? おごりますよ」

「や、おごってもらう理由もないし。またの機会に」

「そうおっしゃらず。理由なら、ケラシーヤ様の機嫌を良くしたというので充分です」

「機嫌? なんか悪かったんですか?」


 ケラシーヤは会ってからずっと機嫌が良さそうだ。少し怒らせたりもしたが、おおむね問題ないと言えるだろう。宿で初めて会った時から様子が変わったようには見えない。


「そのあたりの事情説明も踏まえて。どうですかね?」


 そう言われては気になって断れないというのが、ゼロには解っているのだろう。

 策士め、とシフは内心で恨みながら、ゼロの後ろについて食堂へ向かった。



「定食二個。飲み物付きで」


 任せると言ったシフは、ゼロが注文するのを見ながら考える。ケラシーヤの機嫌が悪かったというのは、シフが名乗ったために偽物だと思ったからだろう。本物だったから機嫌が良くなったとはいえ、そもそもの元凶である以上、おごってもらう謂われはない。


「さて。では、来るまでに説明してしまいましょうかね」

「あ、はい」


 シフが口を開きかけたところに、都合良く言葉を被せてくる。何故だろう、シフには話術で勝てる気がしない。


「シフ殿に会ってからあんな調子ですが、私の祖父母、いわゆる六歌仙の初期団員ですな。彼らがいなくなってから、ケラシーヤ様はずっとふさぎ込んでおられたのですよ」

「ずっと? でも魔竜の話とか」

「常に冷静と言えば聞こえはよいですが、無口で基本的に周りに無関心という他に言いようがありません。一日中、何もせずにぼうっとしている日もあれば、ふらっと数日いなくなっては、また戻ってくる。そんな場合もありました。そういう時、決まってげっそりと痩せているので、自らの体調にも無頓着だったのでしょうな」


 今の様子と全然違うというか、それはむしろ病人のようだ。


「いざ魔竜に襲われた時は確かに守ってくださいました。この町に政治の拠点を移すにしても、あの方がいらっしゃらなかったら立ちゆかなかったでしょう。それでも、あの方の笑顔は、それこそ祖父母が生きていた時以来かもしれません」

「祖父母……」


 百年経ってからの転生だからか、シフはケラシーヤ以外の繋がりを深く考えていなかった。

 しかし目の前のゼロと名乗る男は、ライデンの友人であるゼロとブラックを祖父母に持つのだ。あらためて、この世界に全員が転生していて、シフ自身が百年遅れたのだという実感と、その間に死んでいった仲間を偲ぶ。


「今の様子からは想像しにくいけど、ケイは無気力だったと。でも町の様子を自慢そうに話していたし、空に浮かぶ金属を開発中だとかなんとか言ってたぞ」


 シフが何気なく口にすると、ゼロが大きなため息をついた。


「それ、誰彼構わず言っていい内容じゃないんですけどね。ちなみに新技術の開発は傭兵団は関係なく、国の事業なんです。難航していたところに魔竜の襲撃で、もう十年ほど前に進んでいない状況ですよ」


 十年止まっているのを、今も作っているというのは、長生きしすぎかもしれない。


「長生きしすぎて、時間間隔がおかしくなってんのかね」

「否定しませんが言い方に気をつけてください」

「あ、ごめんなさい。それでケイの様子は解りました」


 シフの言葉に、ゼロが固まる。シフが首を傾げていると、食事が運ばれてきた。

 出されたパンは、途中の町や保存食で食べていた固いそれとは違い、白くてもちもちとしており、非常に柔らかい。寒い時期だからか、野菜を煮込んだスープと一緒に並ぶ。一人につき一回、スープのおかわりをしてもいいらしい。

 食事を置いて給仕が下がり、さらに少し経ってから、ようやくゼロが話を再開させる。


「ケイ、というのはケラシーヤ様のことですか?」

「はい。名前が呼びにくいだろうから、ケイって呼べって。略称みたいなもんだって言ってた」

「略称……確かにそう言えばそうでしょうが。シフ殿、その様子では、エルフの風習も何もご存じではない?」


 食べながら聞いていたシフは意味が解らず、首を先ほどとは逆側に再び倒す。


「確かに、エルフは呼びにくさとはまったく関係なく、略称を使って呼び合います。ただし、それは非常に親しい間柄のみです。親子や夫婦といった、それはもう非常に」

「あー、つまり俺は……」


 どこまでも計算ずくのケラシーヤに、いいように振り回されているようだ。

 どう説明したものかとシフは内心で頭を抱えたが、ある程度は言ってしまうしかないだろうと判断する。


「ケラシーヤとは半ば家族というか、運命共同体に近いものでしたから」

「そこが解らないのですよ。お会いしたの、先日が初めてでしたよね?」

「ええ、まあ。そこは深く触れないでもらえると助かります」


 言葉を濁すと、ゼロは解ったような解らないような、複雑な表情を作る。


「稀に看板の文字が読める方を優遇する時があるのですが、つまりシフ殿は優遇の度合いが大きいのですね」

「そういえば、以前に偽物がどうのってケイが言ってたのは何か知ってますか?」

「私が生まれる少し前らしいので、詳しく存じませんね」


 看板を読めても、つまり転生者でも子竜を殺して国に被害をもたらす例もある。相応の報いは受けたようだが、考えるとよく彼らが所属していた六歌仙に責任が回らなかったものだ。

 機会があればケラシーヤに聞いてみようと決める。


「話がずれましたが、そんなわけでケラシーヤ様にやる気があるのは非常に好ましいのですよ。もしかすると何かシフ殿にご依頼なさるかもしれませんが、できるだけご配慮くださいますか?」


 ケラシーヤの機嫌が悪くならないようにだろうが、もしかするとシフを監視下に置きたいのかもしれない。ああ見えて色々と策略が得意だったゼロの孫なのだ。腹黒くてもおかしくはない。


「言われるまでもないです。俺がこの町に来たのは、ケイに会うためだし。これからは一緒に行動できたら、それが一番です」

「それが聞ければ安心です。お時間を取らせてしまい、失礼しました。では入団試験、楽しみにしていますよ」


 食事後にも会話を続けていたので、食後の飲み物が運ばれてくる。雑談をしながら話を続けて、先に終わったゼロが席を立った。

 引き止める気は一切ないので、挨拶をかわして別れた。シフはまだ飲み物が残っているし、急いでやることもない。空席を待つほどに混んでいれば急ぐが、今はそれほどでもないようだ。


 シフはゆっくりと、ゼロに聞いた話から考えを整理する。間違いでなければ、ケラシーヤはシフを憎からず思っているのかもしれない。

 しかしケラシーヤの言葉ではないが、百年は長い。そもそも、年の差を考えると子どもどころか孫でも足りない。六歌仙で一緒に転生した初期の仲間として、暇だった時間が楽しくなると思われているだけかもしれない。

 好意を持たれていると思い込んで勘違いで怒らせてしまい、二度と近付けなくなると、シフとしても非常に困るのだ。

 単に好きなだけであれば諦めて次へ向かえるが、シフにとってケラシーヤは単なる恋愛対象とはまったく重さが違う。嫌われると向かう次がない。


「焦ることないよな。嫌われてないのは間違いないし、もう少し六歌仙の内情が解ってからでも問題ないだろ」


 誰にともなく言い訳を口にしつつ、店を出る。


 シフはそれから店の場所や町の様子を見物しながら日を過ごして、入団試験の朝を迎えた。


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