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百年遅れの英雄譚  作者: すっとこどっこい
第二章 少年時代(魔竜討伐編)
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ゴブリン討伐

 二日がかりで出来上がった柵は、急造にしてはしっかりした物になったと父親たちは満足そうだ。実際、魔法さえなければ十分な防御力はあるだろう。


「父さん、メイジが混ざっていたよね。魔法を撃たれたらどうするの?」

「簡単に言うと、撃たれた者は諦めて、残りの者でメイジを遠距離攻撃するしかないな。運が良ければ抵抗できるし、一発では死なないかもしれないからな」


 元から諦める戦術らしい。不意をつけばメイジ一匹くらい、何とかならないのか、とシフは疑問を口にする。


「打って出てメイジを退治したとして、そこから村まで逃げられる保証はない。ついでに、一人や二人で奇襲しても倒せないだろうから、何人かで行く必要がある。メイジ一匹の戦果で数人が死んだら、村を守りきれないからな」


 どことなく、たかがゴブリンと雑魚を相手にするような気分のシフだったが、村人としては死活問題なのだ。あらためて、ゴブリンだからといって甘く見ないように気を引き締める。



 そして柵が完成した翌日、見張りをしていた村人が警報の鐘を鳴らした。鳴った方向は森側で、シフたちが柵を作った場所だ。

 家で待機していたシフと父親は、慌ただしく家を出る。


「来たか。行くぞ、シフ」

「あんた、シフ、死ぬんじゃないよ」


 母親の言葉に、それぞれ頷く。母親は戦闘ではまったく役に立たないので、家から出ないよう父親に言われている。

 家を出て現地へと走りながら、父親はシフに言い聞かせた。


「解っていると思うが、今の目的は殲滅じゃなくて防衛だ。守ることだけを考えろ」

「大丈夫。解ってる」


 シフは短く返事をして、スリングを持つ手に力を入れる。これから魔物との殺し合いなのでが、気分が高揚して叫びたいくらいの心境だ。こんなに好戦的だったかと、内心で首を傾げながらも、萎縮してしまうよりよほど良いだろうと自己判断した。

 現地に着くと、すでに戦闘が始まっており、攻め手のゴブリン、守り手の人間ともに何人かが倒れている。


「加勢するぞ!」


 父親が叫び、走りながら弓で矢を飛ばす。見事に敵へと命中し、食らったゴブリンは何やら叫びながらもんどり打つ。

 寄せ手が多いと見て、父親は弓を捨てて槍を手にして、柵の隙間から攻撃を繰り返す。

 シフも負けじとスリングで石を飛ばしつつ近寄る。手元の小さなダガーでは致命傷を与えられる気がしないので、スリングでの援護のみだ。

 もっと役に立てないかと周りを見ると、ゴブリンメイジが魔法を唱えているのが目に入った。慌てて邪魔をするために石を飛ばしたが、ほぼ同時に魔法が完成して、村人の一人が炎に包まれて地面を転げ回る。使われた魔法は『フレイムシュート』というメイジの初級魔法だろう。


「くっ、この!」


 ヒュンヒュンと矢が飛ぶものの、ゴブリンメイジにはあまり当たらず、再び魔法を唱え出す。目線の先を追うと、村人の中では頭ひとつ抜けて活躍しているシフの父親を睨んでいる。

 今度こそ狙わせるわけにはいかないと、シフは狙いを定めて、ゴブリンメイジに石を飛ばした。


「ギッ!」


 狙い澄ましたシフの攻撃はゴブリンメイジの片目に命中し、集中を乱すのに成功したようだ。

 ゴブリンメイジの叫び声が、痛いと叫んでいるように聞こえて、シフは続けて投げようと石を取り出す。しかし、それよりも早く、ゴブリンメイジの魔法が完成し、シフに向かって杖先を伸ばした。どうやら根性のあるゴブリンメイジだったようで、詠唱を途切れさせずに続けていたらしい。


「うわっ」


 炎が飛んできて、シフは死を予感した。残念ながら、スリングでの攻撃と違い、『スペルドッジ』などの抵抗スキルは使えないのだ。


「シフ! くそっ!」


 父親が叫び、手を伸ばす。異様にゆっくりと時間が流れる中、シフが思ったのは、リラーとの再会ができない無念、ただひとつだった。

 ボゥン、と炎がシフに当たり、燃え上がる。シフはうわぁと叫びながら、無駄だと思いつつも地面を転げ回った。


「ん、あれ?」


 当たった瞬間は熱かったような気がしたものの、身体のどこからも炎が上がっておらず、火傷も何もない。

 偶然抵抗できたのだろうか、とシフは疑問を持ちつつ、今は詮索よりも退治が優先されると無事を伝える意味も込めて雄叫びを上げた。


「貴様、覚悟しろ!」


 雄叫びの後に叫んで石を投げ付ける。若干狙いが甘かったが、何故かゴブリンたちは竦んでおり、避けるのが一歩遅れた。

 そしてゴブリンメイジに石が当たると、先程までと比べて全然違う人が投げたかのようにこめかみへと当たり、ゴブリンメイジはぐったりと倒れこむ。


「え、えっと」


 死闘の最中ではあるが、味方も敵も、何が起きたのか、一瞬判断が止まる。そしてすぐに、ゴブリンメイジが倒れたのを認識したゴブリンたちは、散り散りに逃げていった。



「死んでる、な」


 逃げたゴブリンたちが戻ってこないかと警戒を緩めずにしながら、シフの父親はゴブリンメイジの様子を検分していた。


「偶然魔法が効果を発揮せず、偶然シフが叫んだと同時に敵が萎縮して、偶然シフのスリングが当たりどころよくゴブリンメイジを一撃、か……」


 いやいやそりゃないだろ、と聞いているシフですら思う。しかし、現実に起きたのは間違いない。特に叫んで萎縮させるのは、サクヤが取っていたベルセルクの『威圧』のようだ。もちろんシフはそんなやり方は知らないし、使った覚えもない。


「なあ、お前ら。悪いんだがゴブリンメイジを退治したのは、お前らの攻撃だったってことにしてくれないか? あと、シフは攻撃魔法なんか食らっちゃいない」


 シフの父親が言い、周りは怪訝な顔で父親を見る。シフも、おぼろげに想定しながら、父親の説明を待つ。


「偶然にしては重なりすぎだ。何かは解らんが、シフには不思議な力があるのかもしれん。だが、村にいれば、金にしようと人さらいが狙うか周りの子どもから怖がられて村で孤立するか、どうなるにしても、ろくな目には合わないだろう」


 周りが納得顏で頷いた。周りにいるのは普段から父親を慕っており、シフにも優しく接してくれる連中だ。父親はしゃがみ込んでシフと目線を合わせて説明を続ける。


「お前のおかげで村が救われた、ありがとう。誇らしいし、お前も自慢したいだろう。でもな、今さっき言った理由で、話すのは我慢してくれないか?」

「うん、解った」


 あまりにも即答だったためか、解ってない子に言い聞かせるような口調に変わる。


「これはな、大事なことなんだ。俺や母さんと一緒にいられなくなるかもしれない。周りから怖がられて、誰に話しかけても悲鳴をあげられる。そんなのは嫌だろう?」

「うん。解ってるよ。誰にも言わない。母さんにも、エレ姉さんにも」


 本当に解ったのかと不安そうにしていたが、あまり執拗に言って機嫌を損ねても面倒だとでも思ったのか、笑顔で手を出してきた。シフが首を傾げると、にやりと口角を持ち上げる。


「男の約束だ」

「うん!」


 一人前の扱いが嬉しくて、シフは笑って手を握る。父親はそのままシフを持ち上げて肩車をしながら、周りに先に戻ると声をかけて、家路についた。



 家に帰ると、不安そうにしていた母親が笑顔を浮かべた。


「おかえり。良かった、無事だったかい」

「うん! 父さん凄かったよ。切り込み隊長みたいにばっさばっさと敵を斬ってた」

「そうだろう。父さんは村で一番の使い手だからね」


 しばらく会話をするうちに、シフは疲れが溜まっていたのか、うとうととし始める。


「シフ、部屋で寝ろよ」


 父親がシフの腕を引いて部屋へと連れて行く。シフは素直に従って、部屋に戻って眠りについた。



 翌日、シフは父親と一緒に、ゴブリンの残党がいないか森の浅いところを見回りしていた。


「どこにもいないね」

「そうだな。まあ、ゴブリンの習性として、頭が死んだら群れが散り散りになるのはよくある話だよ。だから、あのメイジがやっつけたら逃げたって時点で、ほとんど心配ないんだよ」


 ゴブリンの習性は初めて聞く話で、興味を覚えたシフは細かく聞きながら森を歩いた。

 結局、数日間見回りを続けてもゴブリンの姿はなく、問題なく解決したようだ。衛兵を呼びに行った連中も戻ってきて、村は平常通りに戻った。



 シフはしばらく父親と一緒に狩りをしていたが、一年も経つ頃には一人での狩りを許可されて、色々とゲーム時代のスキルを試しながら狩りをしている。


「身体を使うのはだいたい使えるけど、それ以外が解んねえな」


 デュエリストのスキルもサムライのスキルも使えるのは多いが、デュエリストの命中や回避の補正を入れる『ミラージュステップ』や、サムライの魔法攻撃に強くなる『心頭滅却』や攻撃力を上げる『怒髪』などは使い方が解らないままだ。

 それでも狩りの獲物や、時々迷い込んでくる魔物相手に『グラウンドセイバー』や『ソニックインパクト』、『兜割り』などのスキルをたたき込む。初めのうちは疲労が溜まりやすかったものの、使っていくうちに疲労が減って、何発も撃てるようになっていく。

 転生前に聞いた説明では、魔法使い以外でも体内に魔力を持っていて、意識的もしくは無意識に魔法のようなものを発動しているらしい。それがスキルのように一撃の攻撃力が上がったりするものだそうだ。何発も撃てるようになったのは、おそらく魔力が上がったか、使い慣れてこつを掴んで消費量が減るかしたのだろう。



 さらに数年の間、時々襲ってくる魔物や山賊を村人と連携して撃退しつつ十五才になるまで鍛え続けて、いつしか父親を抜いて村で一番の使い手になっていた。


「シフくん、来年には村を出るんだね」

「あ、エレ姉さん。うん、父さんとの約束だからね」


 この世界では、新年になると同時に年齢が一つ増える。生まれた次の元旦が一才となるのだ。聞いた時は、生まれて翌日に一才になるのと、生まれてほぼ一年後に一才になるのでは全然違うと思ったのだが、少なくとも村人は細かいところは気にしていない。


「そっか。寂しくなるね。でも昔から村を出るって言ってなかったら、私も他の子も、放っておかなかったでしょうね」

「え? 何が?」

「見る間に強くなっていったし、幼い頃はかわいい感じだったけど、最近は顔つきもしっかりしてきたし。密かに人気高かったのよ」


 初めてそんな話を聞いたシフは、怪訝な顔をしながらエレイナをたしなめる。


「エレ姉さん、旦那に言いつけるよ」

「冗談よ、冗談。あ、人気が高いのは冗談じゃないわよ」


 肩をすくめるエレイナと軽口を叩くシフ。男と女、というよりは姉弟のようなやりとりをしながら狩ってきた獲物とエレイナが作った織物を交換する。

 村の中では、金銭もないわけではないが、どちらかというと物々交換が主な取引になっているのだ。

 シフは周辺の動物を狩りすぎないよう注意しつつも、暮らすのに困らない程度の獲物を毎日確保している。それに加えて森で木の実や果物を採ったり、泊まりがけになるが山の付近まで行ったときは鉄鉱石を掘って金に換えている。旅に出ても、少しの間は宿に泊まれるだけの蓄えはしてきている。


「そういえば、噂で聞いたんだけどね」

「ん?」


 エレイナが噂話を口にする。


「魔竜がまた、西の方で町を襲ったんだって」

「へえ。怖いね。どの町か知ってる?」

「ううん。そこまでは知らない。ただ、シフくんの行きたがっていたフランも西の方だから、もしかしたら慌ただしいかもね」


 そろそろ年の瀬も迫っており、あと一月もしないうちにシフは村を出る予定だ。フランへ行く途中に復興中の町があるなら、少しくらい手伝ってもいいな、と思いながら話を聞く。

 シフは挨拶を残して自宅へ戻る。父親は税の処理で町まで向かった村長の護衛で同行していて、そろそろ戻ってくる頃だ。もしかすると、エレイナ以上に情報を持ってるかもしれない。


「ただいま」

「父さん、お帰り。どうだった?」


 シフが母親と一緒にご飯を食べていると、父親が帰ってきた。


「おう。ちょっと中枢がやられて、税金については保留状態だ。基本的には今までのままで問題ないと思うが……」

「父さん、中枢がやられたって、どういうこと?」


 父親の話を遮って、シフが焦って質問をする。父親は半ば予想していたのだろう、怒らずに言葉を返す。


「うん、落ち着いて聞けよ。最近、魔竜がまた暴れたんだが、狙われた町はフラン。結構ひどい状態らしい」


 話を聞いて、立ち上がりかけたシフは、大きく深呼吸をしてから、父親を見据える。


「父さん、お願いがあるんだけど」

「ああ」

「約束より少し早いけど、行っていい?」


 父親は肩をすくめて、仕方ないと頷いた。


「一ヶ月くらいならそれほどの差はないしな。状況が状況だけに、人手はいくらあっても足りないだろう。シフなら手伝えることは何でもあるだろうし、行ってこい。ただし、一段落したらいったん戻れよ」

「うん、ありがとう」


 父親からの許可が出て、シフは食事を終えてさっそく準備に取りかかった。

 旅の道具を揃えて、父親に習って作った薬をいくつか持ち、スリングと長剣も手入れする。スリングは何度となく自身で作ってきて、身体に合わせて大きくしているため、かなりの威力で石を飛ばせるようになっている。長剣は鉄製で、切れ味は悪いが丈夫で折れにくい。


「シフ、今のお前なら滅多なことでは負けないと思うが、無茶はするなよ」

「大丈夫。死にに行くわけじゃないし、できないことはしないさ」


 特にケラシーヤと会うまでは、何があっても死ぬ気はない。

 そして翌日、エレイナや村長、仲の良かった友人に挨拶をして、シフは村を出てフランへと向かっていった。

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